破壊者ウルトラマン09


大江健三郎


教材観
 この評論は1974年に「状況へ」の中で発表された。

第一段落
 子どものための作品は、子どもの意識が受けるべきものを大人の意識が作る。そこには単純な構造の複雑な課題が込められている。単純な構造とは、大人の想像力が作ることである。複雑な課題とは、大人の想像力は子どもの想像力の否定の上に成り立っていることである。単に、オタクのような大人の作ったのでは作品にならない。そこには大人の意図がある。
 だから、子どものための作品には現代という時代が見えてくる。現代とは、大人の想像力が子どもの想像力に一つの世界を提示し、子どもの想像力がそれを受け入れねばならない時代なのである。
 一九七〇年代、子どもの文化を支配していたのが怪獣映画である。
 怪獣映画も大人の想像力が作ったものである。想像力はイメージであり、曖昧な部分が残している。だから、すべての領域を意識によってコントロールすることはできない。
 大人は子どもが望むからと思って怪獣映画を作り、子どもは大人が与えるからと思って怪獣映画を見ていた。それは、怪獣映画が想像力に関わっているからである。
 曖昧な意味づけで怪獣映画を造る大人、それに熱狂する子ども、それで繁栄する企業という現実だけが残る。果たして、怪獣映画が、子どもに与えたメッセージはなんだったのか。

第二段落
 まず、怪獣を問題にする。怪獣を造った大人の想像力はどういうものか、怪獣を受け入れる子どもの想像力はどういうものか。怪獣は、様々な経緯があるにしても、根本の所は自然の生命である。
 怪獣の出現は恐ろしいものであり、その恐怖は核兵器の悲惨への恐怖と重なる。核兵器の恐怖の前では、日本人は無力である。同様に、怪獣の恐怖の前では日本人は無力である。ただ、怪獣映画では、最後にウルトラマンが登場して怪獣を退治してくれる。しかし、現実では、核兵器の恐怖を解消してくれる存在はない。それは、怪獣が暴れ回るだけで、三〇分間ウルトラマンが現れることのない映画と同じである。暗然と滅亡を待つ無力な人間。
 とすれば、核兵器だけしか存在しないのに、そのことに気づきながら、ウルトラマンの存在を前提とした怪獣を造り出す大人の想像力は、暗く悲惨である。子どもの想像力は、核兵器の恐怖について教育を受けていないので、その暗さや悲惨さは意識できていない。

第三段落
 次に、ウルトラマンを問題にする。怪獣は、動物的限界を超えた体力をそなえているのに、実在の動物を思わせる所を残している。しかし、ウルトラマンは、人間の形はしているが、動物臭さのない、科学の精として想定されている。
 そこで、ウルトラマンに問題が生じる。科学には、威力と悲惨さを併せ持っている。そして、核兵器もウルトラマンも科学である以上、科学の二面性を兼ね備えているはずである。
 にもかかわらず、ウルトラマンは科学の威力だけを顕示し、科学の悲惨とは無関係な存在として描かれている。科学の威力を引き立てるために、人間の無力が誇示される。自分の生活を踏みにじられた人民の無力、人間的な努力の限界である準科学的集団や自衛隊の無力という怪獣映画の一般式である。その後、満を持してウルトラマンが登場する。
 人間の側でも、ウルトラマンと関係を築くのが優等生の子どもと人格高潔な科学者である。一方、怪獣につながるのが気ちがい科学者である。人格高潔であろうと気ちがいであろうと、科学者である以上、科学の威力と悲惨さに責任がある。まして、人格高潔な科学者も怪獣の前では無力である。
 このようにして、ウルトラマンは、科学の威力として、地球を滅亡から救い、人類に未来を与えるという、全面的な正義として、大人が造り出したものである。子どもの想像力は、ウルトラマンに科学の悲惨さに向けて発展していかない。

第四段落
 こうした怪獣やウルトラマンの問題もあるが、筆者が怪獣映画に興味を持った動機は、単純な視覚的動機である。それは、怪獣とウルトラマンの格闘で都市が破壊されることである。ウルトラマンも都市破壊の当事者である。その面で、科学の悲惨さは表現されている。
 都市破壊のシーンを見ながら、作者の強迫観念になったのは、大破壊の後の都市がどのように再建されるかという思いである。筆者は広島・長崎の原爆後の人間と都市の復興に深い感銘を受けていた。ウルトラマンが退治するにせよ、怪獣によって破壊された都市と、原爆後の都市を重ね合わせて見ていた。
 ところが、破壊のシーンの後はウルトラマンの勝利と帰還、コマーシャル。次の週は、再建された都市へ新種の怪獣が攻め入る。そして、破壊のシーンの後はウルトラマンの勝利と帰還、コマーシャル。都市を再建するシーンはない。そのようなことをしていれば、ウルトラマンの活躍の場がなくなり、科学の威力を示せないからである。
 そこにあるのは、十分意識によってコントロールされた、場面転換の論理という方法論である。論理的なつながりの上で自己否定を迫る場面が起きると、責任を回避して、突然場面を転換するのである。自己否定を契機によりよいものを求めるのがリアリズムという方法論である。もし、リアリズムによる怪獣映画があるとすれば、それは、科学の悪である悲惨さを担うウルトラマンを描き出すはずである。怪獣映画は、こうした場面展開の論理を駆使しながら、ウルトラマン的超科学スターを聖化し続けているのである。

指導観
 第一段落は、ボトムアップで、子どものための作品の単純な構造と複雑な課題の二重性から想像力に注目し、一九七〇年代を席巻した怪獣映画を焦点を当て、怪獣映画の真のメッセージは何かという問題を確認する。
 第二段落も、ボトムアップで、怪獣映画と現実の対比をし、ウルトラマンは存在しないのに、核兵器に当たる怪獣を次々に造り出す大人の想像力の暗さ・悲惨さと、核兵器の恐怖に対する教育を受けていない子どもの想像力を考える。
 第三段落は、トップダウンで、先に科学の精としてのウルトラマンの抱える矛盾を指摘させ、二項対立によってその矛盾を証明していく。
 第四段落は、トップダウンで、ウルトラマンを聖化する方法論としての場面転換の論理を指摘させ、その内容を説明させる。さらに、第三段落の矛盾を解消する方法を考えさせ、それが困難な理由について考える。最後に、怪獣映画に興味を持ち始めたノーベル賞作家の根底にある思いに迫る。


導入

1.テキストを配布する。
2.学習プリントを配布し、読みと意味を確認する。
 幻的 感慨 凝視 玩具 尋問 照応 基底 安堵 対峙 均衡 蓄え 鯨 哺乳類 示威 不当 高潔 格好 営為 金輪際 歓呼 担い込む 一蹴
 呼び水=ある事柄をひきおこす、きっかけ。
 安堵=気がかりなことが除かれ、安心すること。
 カタルシス=無意識の層に抑圧されている心のしこりを外部に表出させることで症状を消失させること。
 対峙=対立する者どうしが、にらみ合ったままじっと動かずにいること。
 アクチュアリティ=現実。事実。
 格好=ふさわしいこと。似つかわしいこと。
 オブセッション=妄想。固定観念。強迫観念。
 金輪際=絶対に。断じて。
 一蹴=簡単に相手を負かすこと。


第一段落(1〜5)

1.【指】1〜5をペアリーディングさせる。
2.子どものための作品について
 1)【L1】この評論の問題提起は。(1)
  ・子どものための作品が、大人によってどのように造られるか。
 2)【L1】そこには何が込められているか。(1)
  ・単純な構造の複雑な課題
 3)【L1】「単純な構造」とは何か。(1)
  ・子どもの想像力を解放する作品は、自立している大人の想像力によって造り出さなければならない。
  【説】「自立した大人」であって、大人と子どもの境界が明確でない「子ども大人」「大人子ども」、つまりオタクではない。
 4)【L1】「複雑な課題」とは何か。(1)
  ・大人になることは、子どもであることの否定の上に立っている。
  ・大人が子どもに仮装してみることでは何も解決しない。
 5)【L1】そこから起こる疑問は何か。(1)
  ・子どもの想像力は、大人の想像力とつながっているのか。
 6)【L1】「この二重性」とは何か。(2)
  ・単純な構造の複雑な課題
 7)【L1】子どものための作品から見えてくる現代とはどんな時代か。(2)
  ・現代とは、大人の想像力が、子どもの想像力に、世界を提示したいと願う時代。
  ・現代とは、子どもの想像力が、大人の想像力から提示された世界を、受け入れねばならぬ時代。

3.怪獣映画について
 1)【L4】小学生の頃見たテレビ番組とその理由を、隣の人と1分間ずつ話す。
 2)【L1】一九七〇年代にわが国の子どもたちの文化を支配していた「造られた世界」とは何か。(3)
  ・怪獣映画。
 3)【L4】ウルトラマンシリーズは。
・ウルトラQ、ウルトラセブン、ウルトラマン、ウルトラファイト、ウルトラマンA、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオ、帰ってきたウルトラマン、ザ☆ウルトラマン、ウルトラマン80 、ウルトラマンティガ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンガイア、ウルトラマンコスモス、ウルトラマンネクサス、ウルトラマンマックス、ウルトラマンメビウス
4)【L1】なぜ大人は怪獣映画を造ったのかという問いに対する答えは。(4)
  ・子どもたちが望むから
 5)【L1】なぜ子どもが怪獣映画に夢中だったのかという問いに対する答えは。(4)
  ・十分な答えは得られない。
 6)【L1】なぜこのようなことが起るのか。(4)
  ・想像力にかかわっているから。
 7)【L2】想像力の欠点は。
  ・造られた世界のすべての領域を意識によってコントロールし尽くせない。
 8)【L1】ここで生じる新たな問題提起は何か。(5)
  ・怪獣映画の真のメッセージとは何か。
4.ここまでの内容を要約して、隣の人に1分間で説明する。


第二段落(6〜8)

1.【指】ペアリーディングさせる。
2.怪獣について
 1)【L1】怪獣映画の何に焦点を当てているか。(6)
  ・怪獣。
 2)【L1】この段落での問題提起は。(6)
  ・怪獣を造る大人の想像力はどういうものなのだろうか。
  ・怪獣を迎える子どもたちの想像力はどのようなものだろうか。
 3)【L4】知っている怪獣を挙げさせる。
  ・怪獣図鑑で見せる。
 4)【L1】怪獣の根本は何か。(6)
  ・自然的な生命である。
 5)【L1】それがどのような過程を経て怪獣になるのか。(6)
  ・核爆発の放射能
   火山の爆発のエネルギー
   他の惑星の特殊な環境
   気ちがい科学者の科学的処置。
 6)【説】具体的な怪獣の生成について
  ・古代怪獣の生き残り(ゴモラ・レッドキング・バニラ・アボラス)
  ・突然変異(ゲスラ・ケロニア)
  ・宇宙人(バルタン星人・ダダ・メフィラス星人)

3.怪獣映画と現実について
 1)【L1】怪獣の恐怖は何と重なるか。(7)
  ・核兵器の悲惨への恐れ。
 2)【L1】核兵器と怪獣の照応する共通点は。(7)
  ・まともな人間規模の力によって対抗することが絶対に不可能である。
  ・人間は無力である。
 3)【L3】怪獣映画と現実の相違点は。(7)
  ・怪獣の恐怖は、ウルトラマンが解消する。
  ・核兵器の恐怖を解消するものは存在しない。
 4)【L1】三十分番組の終わりまでウルトラマンが現れない映画を見ればどんな気持ちがするか。(7)
  ・怪獣による破壊がいつまでも続き、人間は無力感に陥る。

6.怪獣映画と想像力について
 1)【L1】とすれば、怪獣を造った大人の想像力はどのようなものか。
  ・暗く悲惨なもの。
 2)【L3】なぜ、暗く悲惨なのか。
  ・現実には、核兵器に対抗するウルトラマンが存在しないことを知りながら、現実の核兵器の恐怖に対応する怪獣を造ったから。
 3)【L3】それがわかっていながら、なぜ大人は怪獣を造り出すのか。
  ・想像力に関わっているから。
  ・想像力は最後まで突き詰めて考えない。
  ・なんとかなると楽観している。
 4)【L2】なぜ子どもはそれに気づかないのか。
  ・核兵器の脅威について教育を受けていないから。
 5)【L4】現実に、核兵器を恐怖から解放するものは何か。


第三段落(9〜13)

1.【指】チームリーディングさせる。
2.ウルトラマンについて
 1)【L1】怪獣とウルトラマンの外見の違いは何か。
  ・怪獣=動物の限界を越えた体力をしている。
      実在の動物を思わせる所を残している。
  ・ウルトラマン=人間の形をしている。
          哺乳類くささがない。
          科学のにおいをたてている。
  【説】怪獣は、人間離れした体力を持っているが、哺乳類の形を残している。
     ウルトラマンは、人間の形をしているが、哺乳類らしくない。
 2)【説】ウルトラマンファミリーについて説明する。
  1)ウルトラの星は、地球のように美しく生物も人間と同じであった。しかし、太陽が 爆発しウルトラ星は死と暗黒に包まれた。
  2)そこでウルトラの星の科学者が人工太陽プラズマスパークをつくり出した。プラズマから放出されるデファレーター線が人々を超人にした。
  3)そんな時、宇宙征服を企む宇宙人が怪獣軍団を率いてウルトラの星を攻撃してきた。 若き日のウルトラの父も戦い「ウルトラベル」の奇跡パワーで撃退する。
  4)そして戦いで負傷したウルトラの父は介抱してくれた銀十字軍の女性団員と結婚した。ウルトラの戦士たちは自分たちの力を宇宙平和に役立てるために宇宙警備隊を組織する。
  5)ウルトラの兄弟は、ゾフィ、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラ マン、ウルトラマンA、ウルトラマンレオ、アストラ、ウルトラマン80等であるが、実の兄弟ではない。ウルトラマンタロウはウルトラの父は母の実の子でセブンとは 従兄弟になる。
 3)【説】ウルトラマンの誕生秘話について説明する。
  1)最初は、人類が危機に陥った時にどこからともなく現れては人類のために戦う「正義の怪獣」として設定されていた。デザインは、人間風の手足がついた翼手竜のような姿で、タイトルは、『科学特捜隊ベムラー』であった。テレビ版ゴジラ。
  2)その後、宇宙人をヒーローとした番組に変更された。自分の星がX星人の侵略によって滅んだために、地球に止まって人類の平和のために働くという宇宙難民として設定され、『レッドマン』と命名された。
  3)最終的に宇宙人が普段は人間の姿をしており、人類の危機に当たって宇宙人に変身するという設定になった。そのため、人類を守る動機が必要になった。怪獣なら所詮「獣」であるから動機は曖昧なママでよかったし、人間なら地球を守るという単純な正義感でよかった。そこで、『ウルトラマン』ではベムラーを護送する途中ハヤタ隊員の飛行機と衝突して死亡させ、罪悪感から地球に止まって人類を守ること になった。しかし、異星人を死なせたことにそんな責任を感じる必要もなく、自分 の命を与えるのも飛躍しているし、「光の国」で生き返らせればよい。

5.科学の二面性について
 1)【L3】ウルトラマンが科学の精として想定されているから生じる問題は何か。
  (1011)
  ・科学には科学の威力と科学の悲惨さの二面性があるのに、ウルトラマンは科学の威力しか表わしていないこと。(五十字)
  1)【L1】ウルトラマンはどんなものとして想定されているか。(10)
   ・科学の精
  2)【L1】科学の精、核兵器の二面性とは何か。(10)
   ・科学の威力
   ・科学の悲惨さ
  3)【L1】ウルトラマンは科学のどちら面を表しているか。(11)
   ・科学の威力を示威だけ。
   ・科学の悲惨さとは無関係。

6.怪獣映画の一般式について
 1)【L3】怪獣映画の一般式とは何か。(11)
  1)一般市民が自分の生活圏を踏みにじられて嘆きつつ怪獣を見上げる
  2)準科学的集団が怪獣と戦い敗れる
  3)ウルトラマンの登場
 2)【L3】この一般式にはどんな意味があるか。(11)
  1)人間の無力感
  2)人間による努力の限界
  3)ウルトラマンの科学の威力と正義
 3)【説】科学特別捜査隊の存在意義について説明する。
  ・第三七話のジェロニモンに対して、イデ隊員が「ウルトラマンがいれば科特隊なんかいらないんじゃないか」と悩みを打ち明ける。ハヤタは科特隊の数少ない実績(アントラーはムラマツ隊長の投げた青い石で、ドドンゴは目をイデとアラシのスパイダーで、ケムラーはイデのマッドバスーカで、ザラガスはイデのQXガンとウルトラマンのスペシューム光線で、ゼットンはペンシル爆弾で)を持ち出して「持ちつ持たれつだよ」とフォローにならないフォローをする。

7.怪獣やウルトラマンと科学者の関係について
 1)【L1】人間の側と怪獣の側に味方するのは誰か。(12)
  ・ウルトラマン=人格高潔な科学者+優等生の子ども
  ・怪獣=気ちがい科学者+悪人集団
 2)【L3】この関係から生じる問題は何か。(12)
  ・同じ科学者なのに、人格高潔な科学者は正義、気ちがい科学者は悪と分けられている。
  ・人格高潔な科学者も、科学の悲惨さの責任があるし、しかも無力である。
 3)【説】ウルトラマンに出てくる子どもの悪事について説明する。
 ・ホシノ少年は、ネロンガを一人でやっつけようと前に仁王立ちになったり、ケムラーに対してアラシ隊員のスパイダーショットを黙って失敬したり、年上のイデ隊員 をタチの悪い冗談でからかったり、怪獣を挑発して窮地に陥ったり、フジ隊員のビ ートルに隠れていて操縦までしてしまう。
 ・ムシバ君は、自分が書いた落書きが怪獣になったガバドンの出現に大喜びし「暴れろ、暴れろ」とたきつけるという危険な思想をもった確信犯である。

8.怪獣映画の真のメッセージについて
 1)【L2】怪獣映画の真のメッセージとは何か。(13)
  ・正義としての科学の威力を印象づける。
  ・科学の威力が地球を救い、人類に未来を与える。
 2)【説】ウルトラマンの悪事を説明する。
・初期は一対一で怪獣と対決していたが、シリーズ後期には「我々ウルトラの戦士は共に戦う」という合言葉を振りかざして集団リンチかイジメのように、よってたかって怪獣をなぶりものにしている。
・メフィラス星人は、地球人の人格を認め地球人の合意が得られない限り武力的侵略には訴えず、ウルトラマン以上の実力がありながら無益な戦闘を放棄した。
 ・最初は、怪獣は文明社会を脅かす大自然の象徴であり、ウルトラマンは文明社会の秩序を維持する正義の味方として設定された。「大自然と人間の力の試し合い」
 ・しかし、愛の象徴のウルトラマンが怪獣を殺すことに矛盾が生じ、怪獣・宇宙人と地球人の仲裁役として設定された。
 ・『ウルトラマンセブン』では敵を異星人に限定し、異星人を征服的先進国人、地球人を後進国人と見なして、ウルトラマンの戦いが正当化された。
 ・しかし、ウルトラマンセブンは異星人である以上、地球人と異星人の間に立って悩まざるを得なくなった。宇宙人からは「裏切り者」として罵られ、地球人にもなりきれない。


第四段落(14〜18)

1.【指】チームリーディングさせる。
2.都市の破壊と再建について 
1)【L1】作者の単純な視覚的動機とは番組のどういう光景か。(14)
 ・怪獣とウルトラマンたちとの格闘によって、都市が破壊される。
2)【L1】東京でよく破壊されるのはどこか。(15)
 ・東京湾近郊の建物、東京タワー。
3)【L4】東京で怪獣が絶対に破壊しない場所はどこか。
 ・皇居。
 4)【説】ウルトラマンも都市破壊の当事者であった。
    【注】タイトルもここからきている。
5)【L1】都市破壊が繰り返される光景を見ながら、作者のオブセッションになったのは、どんなもの思いか。(16)
 ・大規模な破壊のあと、都市を再建することがいかに困難でやっかいな大仕事であろうかというもの思い。
6)【L2】作者が都市の再建が気になった理由は。
 ・広島や長崎の原爆後の人間の営為に感銘したから。
  【注】原爆問題は作者のライフワークでもある。「広島ノート」などの著書。
7)【説】再建費用と期間について説明する。
 ・ペスターが破壊した京浜工業地帯の場合
  タンクローリー一台、タンカー一隻、オイルタンク約四〇基、付属設備など、現在価値として六八〇〇億円の損害、経済の波及効果として三兆円、復旧までに三  年かかる。
 ・ゴモラの破壊した大阪の場合
  大坂城三五〇億円、大阪市街七〇億円、造成地四〇億円、防衛兵器二〇〇億円、合計六六〇億円、波及効果は一五〇億円。関西人の受ける精神的ダメージはタイガースが優勝するより数段大きい。
8)【L4】ウルトラマンは都市破壊の責任をとれるか。
  ・「行為」とは「人間の自発的に意思の表現としての身体の動作または静止」である。しかし、ウルトラマンは人間でないから行為は成立しない。
  ・ウルトラマンを外国人に準じて考えれば、刑事責任を問える。
   そうすれば人間以上の知能を持つ宇宙人も刑事責任を問える。
   しかし、彼らを法廷に立たせることは不可能である。
  ・ウルトラマンに変身すれば地域住民に危害を加える危険性を自覚しているハヤタ隊員とウルトラマンは同一人格と見なせば、刑事責任を問える。
   しかし、1)地球人の生命に対する現在の危機を避けるための、
       2)やむをえない行為であり、
       3)その行為から生じる害は避けようとした害の程度を越えない。
   だから、刑法上緊急避難に該当し、違法性はない。
   また、責任能力においても個人の能力を越えており、国の賠償責任を追及するべきである。

3.場面転換の論理について
1)【L1】破壊の次の9段階のシーンは。(17)
 1)ウルトラマンの勝利
 2)宇宙への帰還
 3)コマーシャル
 4)再建された東京
 5)新種の怪獣が攻め入ってくる
 6)破壊のきわみの都市
 7)ウルトラマンの勝利
 8)宇宙への帰還
 9)歓呼して送る民衆
2)【L3】本来ならどの段階に、どんなシーンが入らなければならないか。
3)【L3】なぜ、破壊された都市を映さないのか。
  ・破壊する都市がなければ、怪獣の恐怖と、勝利するウルトラマンを描けないから。
4)【L1】怪獣映画を造る大人が意識的にコントロールする方法論は何か。(18)
 ・場面展開の論理
5)【L2】場面展開の論理とは何か。(18)
 ・持続的に論理を展開してゆくと、都合悪い、単純に整理しがたい現実が現れた時に、  場面を展開する論理。
6)【L3】想像力と場面展開の論理の違いは。(18)
 ・想像力は、意識によってコントロールできない。
 ・場面転換の論理は、十分に意識によってコントロールされている。
7)【L1】場面展開の論理」と反対の方法論は。(18)
 ・リアリズム
8)【L1】リアリズムとはどんな方法か。(18)
 ・自己否定を契機にして、より大きな自分をつくりかえしめる方法。
9)【L1】リアリズムによる怪獣映画は何を描き出すか。(18)
 ・科学の悪、科学の人間的悲惨をも担い込んでいるウルトラマン。
10)【L1】なんのために場面展開の論理を使うのか。
 ・ウルトラマン的超科学スターに聖化し続けるため。
11)【説】怪獣番組のリアリズムについて説明する。
 ・『ウルトラマン』では、科学特捜隊がウルトラマン抜きでゼットンを倒すことによって「甘え」を否定しようとした。ゾフィーは「地球の平和は人間の手でつかみとることに価値がある。いつまでも地球にいてはいけない」とウルトラマンを説得する。隊長のムラマツも「地球の平和は我々科学特捜隊の手で守り抜いていこう」と呟く。
 ・『ウルトラマンセブン』では、モロボシダンが脈拍三六〇、血圧四〇〇、熱が九〇度近くあったが無理をしてゴース星人の怪獣パンドンと戦い、過労死する。ウルトラ警備隊のソガ隊員は「ダンを殺したのは俺たち地球人だ。奴は傷ついた体で人類のために戦ってくれたのだ。ダンを殺したのは俺たちなんだ」と呟く。「甘え」をきっぱりと否定し、ナショナリズムの立場に移った。
12)【L4】なぜ、リアリズムによる怪獣映画が造らないのか。
 ・視聴率が得られないから。
 ・スポンサーが付かないから。
 ・子どもへのメッセージよりも、経済的効果を優先する。



コメント

ホーム






















破壊者ウルトラマン 
学習プリント
            点検日  月  日
                  組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 幻的 感慨 凝視 玩具 尋問 照応 基底 安堵 対峙 均衡 蓄え 鯨 哺乳類 示威 不当 高潔 格好 営為 金輪際 歓呼 担い込む 一蹴
2.語句の意味を調べなさい。
 呼び水
 安堵
 カタルシス
 対峙
 アクチュアリティ
 格好
 オブセッション
 金輪際
 一蹴
学習のポイント
1.単純な構造の複雑な課題とは何かを理解する。
2.怪獣映画を造る大人の想像力を理解する。
3.怪獣映画を見る子どもの想像力を理解する。
4.怪獣が造られた意味を理解する。
5.ウルトラマンの抱えている矛盾を理解する。
6.科学の二つの側面を理解する。
7.筆者が怪獣映画にひかれた単純な視覚的動機とは何かを理解する。
8.場面転換の論理とは何かを理解する。