破壊者ウルトラマン
 
大江健三郎


教材観
Q1 子どものための文学・映画・劇は、大人によってどのように造られるのか?
 子どものための作品には、単純な構造の複雑な課題がこめられている。なぜなら、子どもの目や意識が受け取るべきものを、大人の目や意識が造り出すからである。「単純な構造」とは、子どものための作品は大人の想像力がつくり出すことである。「複雑な課題」とは、大人になることは子どもの否定に立っていることである。子どもの想像力と大人の想像力は同一地平にはない。つまり、作品を造るのは、大人とも子どもとも言えない「幻的人格」であり、いかがわしさを感じる。
Q2 子どものための作品から見えてくる現代とは?
 単純な構造の複雑な問題という二重構造によって、子どものための作品から現代という時代が鋭く見えてくる。現代は、大人の想像力が子どもの想像力にある世界を提示し、子どもの想像力がそれを受け入れる時代である。
Q3 怪獣映画を、なぜ大人は造り、子どもは夢中なのか?
 現在、大人が子どものために造った作品の代表は怪獣映画である。それが想像力によって作られている以上、すべてが、あるいはその根本すら大人の意識によってコントロールされ尽くしているとは言えない。子どもも怪獣映画を見る理由をしっかり説明できない。なぜなら、想像力とはあいまいなものであるから。こうして、本質的な意味づけがあいまいなまま、大人が怪獣映画を造り、子どもがそれを見、スポンサーする産業が繁栄する。
Q4 怪獣映画を造る大人の、それを見る子どもの想像力はどういうものか?
 怪獣は、自然的な生命である。核爆発の放射能や火山の爆発のエネルギーや他の惑星の特殊な環境や気ちがい科学者の科学的処置が、怪獣を造り出した。しかし、生命そのものが発明されたのではない。
 核爆発の放射能を考える場合、核兵器の恐怖やそれに絶対に対抗できない無力感から怪獣映画が造られたとも言える。事実、怪獣に匹敵する核兵器は存在するのに、それに対抗するウルトラマンは存在しない。とすれば、怪獣映画を造った大人の想像力の基底にある暗さや悲惨さは見過ごすことができない。子どもも、正当な核兵器の脅威に対する教育を受けていたら、怪獣である核兵器は存在するのにウルトラマンは存在しないという現実を認めざるを得ない。大人も子どもも、深い所で強い現実感を持ちながら、本質的なことには気づいていないのであろう。
Q5 ウルトラマンの問題とは?
 怪獣が自然の生命で実在の動物の面影を残しているのに対して、ウルトラマンは人間の形をしてはいるが、哺乳類臭さがなく科学の精として想定されている。科学者によって造られたロボットや改造人間や科学工場のような惑星からの使者であることもある。
 同じ科学の精である核兵器は、大破壊力において科学の威力と、人間にもたらす科学の悲惨の二つの側面がある。また、科学としての医学は、科学の悲惨さと闘う力を持っていない。
 同じ科学の精であるウルトラマンは、科学の威力を示すだけで科学の悲惨さとは無関係な存在として描かれている。一般市民が生活圏を踏みにじられる→準科学集団が怪獣と闘う→失敗して無力感に陥るという一般式の後、ウルトラマンが登場する。そして、ウルトラマンの側には人格高潔な科学者が、怪獣の側には気違い科学者がつく。科学が人間に悲惨も悪の部分を持っている限り、人格高潔な科学者にも連帯責任はあるはずである。彼らもウルトラマンにただ感謝するだけである。
 子どもがウルトラマンから受ける第一印象は、正義としての科学の威力である。ウルトラマンの背後にある科学の悲惨を想像する子どもはいない。
Q6 作者が怪獣映画に関心をひかれた単純な視覚的動機とは何か?
 怪獣のみならず怪獣と戦うウルトラマンも都市破壊の当事者である。都市の大破壊の後、都市の再建をどうするのか。しかし、子どもはその問題には無関心である。大人も都市の再建の様子を描かず、次週再建された都市が現れる。
 これは、怪獣映画を造ったあいまいな想像力ではなく、意識によってコントロールされた場面展開の論理という方法論である。持続的に論理をつなげてゆくと自己否定を迫る局面に出会った場合に、突然場面を転換するのである。リアリズムは自己否定を契機により大きく成長する方法であった。リアリズムによる怪獣映画があるとすれば、科学の悪を担い込んだウルトラマンや都市の再建の様子を描き出すべきである。しかし、現実の怪獣映画は、場面転換の論理でウルトラマンを、科学を聖化し続けている。


導入
1.ウルトラマン・アンケートをする。
2.テキストを配布する。
3.学習プリントを配布し、読みと意味を確認する。
 幻的 感慨 凝視 玩具 尋問 照応 基底 安堵 対峙 均衡 蓄え 鯨 哺乳類 示威 不当 高潔 格好 営為 金輪際 歓呼 担い込む 一蹴
 呼び水=ある事柄をひきおこす、きっかけ。
 安堵=気がかりなことが除かれ、安心すること。
 カタルシス=無意識の層に抑圧されている心のしこりを外部に表出させることで症状を消失させること。
 対峙=対立する者どうしが、にらみ合ったままじっと動かずにいること。
 アクチュアリティ=現実。事実。
 格好=ふさわしいこと。似つかわしいこと。
 オブセッション=妄想。固定観念。強迫観念。
 金輪際=絶対に。断じて。
 一蹴=簡単に相手を負かすこと。


第一段 1〜5
1.1)〜9)の指示内容を考えさせ、解答する。【抜粋】
 1)子どものための文学・映画・劇
 2)単純な構造の、複雑な課題
 3)子どもの想像力を解放する作品は、自立している大人の想像力によって作り出さねばならないこと。(「こと」を付ける)
 4)子どものために作られた作品
 5)大人の想像力から子どもに提示された世界(語順と助詞を変える)
 6)現在わが国の子どもたちの文化を最も高度に支配している「造られた世界」
 7)戦後の子どもたちの文化の領域
 8)わが国の子どもたちがテレビの怪獣映画を見まもって過ごす時間の総量
 9)君はなぜ怪獣映画に夢中なのか? と問うて、十分な答えが返って来るとは思えないこと(「こと」を付ける)
2.接続詞の種類と単語を示し、a〜eに接続語を入れる。
 1)逆接=反対の内容を導く。しかし
 2)比較=前後の内容を比較する。むしろ
 3)限定=条件や例外を示す。ただし
 4)並列=前後の内容を対等に並べる。また
 5)選択=前後の内容を対等に並べ、そのいずれかを選んでもよいことを示す。または
 6)換言=前後が同内容であることを示す。すなわち
 7)例示=具体例や比喩で説明する。たとえば
 8)順接=前の内容を受けてそのまま後へつなぐ。そして
 9)結果=結果や結論を導く。だから
 10)添加=新たな内容を付け加える。しかも
 11)仮定=困難な条件や当然の状況を仮定する。たとえ
 12)転換=話題を変える。ところで
 13)理由=前に述べた内容について、理由や根拠を示す。なぜなら
 ab しかし。単純な原則と複雑な課題が反対である。
 c  また。大人が子どもであることの否定と子どもになることで解決しないことを対等に並べている。
 d  しかも。怪獣映画を見る子どもたちがまれでないことに、卒業しないことが付け加えられている。
 e  しかし。大人は子どもが見るから怪獣映画を作ると言うが、子どもは見る理由を答えられない。
3.1〜3を音読する。
4.「子どものための文学・映画・劇」について
 1)具体的にどんなものがあるか。【発展】
  ・絵本、童話、ポケモン、動物物映画、マンガ、ゲーム。
 2)それらは大人によってどのように造られるか【発展】
  ・さまざまな答えを出させる。
 3)「単純な構造」「複雑な課題」とは何か。【抜粋】
  ・単純な構造
   ・子どもの想像力を解放する作品は、大人の想像力によって造り出さなければならない。
  ・複雑な課題
   ・大人になることは、子どもであることの否定の上に立っている。
   ・大人が子どもに仮装してみることでは何も解決しない。
 4)そんな矛盾を含んだ存在を何と呼んでいるか。【抜粋】
  ・子ども大人。大人子ども。幻的人格。
 5)「この二重性」とは何か。【抜粋】
  ・単純な構造と複雑な課題
 6)子どものための作品から見えてくる現代とは。【抜粋】
  ・大人の想像力が、子どもの想像力に、世界を提示したいと願う時代。
  ・子どもの想像力が、大人の想像力から提示された世界を、受け入れねばならぬ時代。
 7)何が問題なのか。【発展】
  ・テレビの影響の強さ。
  ・幼児にテレビやビデオを見せる弊害を考える。
  ・犯罪に結びつくことも多い。
  ・バトルロワイヤル。

5.3〜5を音読する。
6.小学生の頃見たテレビ番組とその理由を、隣の人と1分間ずつ話す。【発展】
7.怪獣映画について
 1)怪獣番組を見ていたか、その理由を問う。【発展】
 2)当時わが国の子どもたちの文化を支配している「造られた世界」とは。【抜粋】
  ・怪獣映画。
 3)大人が怪獣映画を造る理由は。【抜粋】
  ・子どもたちが望むから
 4)それでは、子どもが怪獣映画を望む理由は。【抜粋】
  ・十分な答えは得られない。
 5)つまり、どういうことになるのか。【深化】
  ・答えになっていない。
  ・互いに責任を押しつけ合っている。
 6)なぜこのようなことが起るのか。【深化】
  ・想像力にかかわっているから。
 ・想像力はすべての領域を意識によってコントロールし尽くせない。
 7)怪獣映画の真のメッセージとは何か問題を提示しておく。【説明】
8.ここまでの内容を要約して、隣の人に1分間で説明する。


第二段 6〜8
1.10)〜15)の指示内容を考えさせ、解答する。【抜粋】
 10)大人の想像力
 11)巨大核兵器。(代入すると重複しているようになる)
 12)怪獣映画
 13)人間の、想像力の基底にある暗さ・悲惨さ
 14)核兵器
 15)造られた世界
2.fgに接続語を入れる。
 f 逆接。しかし。怪獣映画は怪獣だけではないが、怪獣に焦点を当てる。
 g 逆接。しかし。怪獣を作り出したが、生命そのものまで発明していない。

3.6〜8を音読する。
4.怪獣について
 1)知っている怪獣を挙げる。【発展】
  ・怪獣図鑑で説明する。
 2)怪獣を考える問題点は。【抜粋】
  ・怪獣を造る大人の想像力はどういうものなのだろうか。
  ・怪獣を迎える子どもたちの想像力はどのようなものだろうか。
 3)怪獣が生まれる過程は。【抜粋】 
  ・根本は、自然的な生命である。
  ・核爆発の放射能
   火山の爆発のエネルギー
   他の惑星の特殊な環境
   気ちがい科学者の科学的処置。
  ・怪獣になる。
 4)具体的な怪獣の生成について説明する。【説明】
  ・古代怪獣の生き残り(ゴモラ・レッドキング・バニラ・アボラス)
  ・突然変異(ゲスラ・ケロニア)
  ・宇宙人(バルタン星人・ダダ・メフィラス星人)

5.怪獣映画と現実について
 1)大人の想像力はなぜ怪獣を造ったのか。【抜粋】
  ・核兵器の悲惨への恐れから、怪獣を思いついた。
 2)核兵器と怪獣の共通点は。【抜粋】
  ・まともな人間規模の力によって対抗することが絶対に不可能である。
 3)怪獣映画と現実の違いは。【深化】
現実    怪獣映画
核兵器   怪獣
 ×
ウルトラマン
  ・怪獣映画にはウルトラマンが救ってくれるが、現実にはウルトラマンは存在しない。
 4)三十分番組の終わりまでウルトラマンが現れない映画を見ればどんな気持ちがするか。【発展】
  ・怪獣による破壊がいつまでも続き、人間は無力感に陥る。

6.怪獣映画と想像力について
 1)怪獣を造った大人の想像力はどのようなものか。【抜粋】
  ・暗く悲惨なもの。
 2)なぜ、暗く悲惨なのか。【深化】
  ・現実には、核兵器に対抗するウルトラマンが存在しないことを知りながら、現実の核兵器の恐怖に対応する怪獣を造ったから。
 3)それがわかっていながら、なぜ大人は怪獣を造り出すのか。【深化】
  ・想像力に関わっているから。
  ・想像力は最後まで突き詰めて考えない。
  ・なんとかなると楽観している。
 4)なぜ子どもはそれに気づかないのか。【深化】
  ・核兵器の脅威について教育を受けていないから。
 5)現実に、核兵器を恐怖から解放するものは何か。【発展】
第三段 9〜13

1.16)〜24)の指示内容を考えさせ、解答する。【抜粋】
 16)アンドロメダ星雲からやってきた使節
 17)宇宙的故郷
 18)ウルトラマン・ミラーマンたちこそは、ありとある科学の精とでもいうべき巨人たちとして想定されていること
 19)科学の精、核兵器には二つの側面がある。〜もちえていないこと
 20)科学の精、核兵器には二つの側面がある。〜もちえていないこと
 21)核兵器
 22)特別任務を帯びた準科学的集団が、しばしば自衛隊の機動力とともに、怪獣と戦うこと
 23)気ちがい科学者
 24)超人間科学スターたるウルトラマンたちに人間の側で連なっている善良、高潔な科学者の方にもまた連帯責任があるということ。
2.h〜nに接続語を入れる。
 h 逆接。ところが。怪獣が自然の生命であるのに対して、ウルトラマンは哺乳類くささがない。
 i 仮定。たとえ。「〜ても」が呼応している。
 j 比較。むしろ。怪獣と比べている。
 k 換言。すなわち。生じる問題を要約している。
 l 順接。そして。科学の精が人間的悲惨を表し、科学としての医学は人間的悲惨と戦う力をもっていない。
 m 逆接。しかし。治安出動には十分であるが、怪獣に対して無力。
 n 順接。そして。科学者の割り振りを順当な順番で紹介している。

3.9〜13を音読する。
4.ウルトラマンについて
 1)怪獣とウルトラマンの外見の違いは。【抜粋】
  ・怪獣=動物の限界を越えた体力をしている。
      実在の動物を思わせる所を残している。
  ・ウルトラマン=人間の形をしている。
          哺乳類くささがない。
          科学のにおいをたてている。
 2)ウルトラマンファミリーについて説明する。【説明】
  1)ウルトラの星は、地球のように美しく生物も人間と同じであった。しかし、太陽が爆発しウルトラ星は死と暗黒に包まれた。
  2)そこでウルトラの星の科学者が人工太陽プラズマスパークをつくり出した。プラズマから放出されるデファレーター線が人々を超人にした。
  3)そんな時、宇宙征服を企む宇宙人が怪獣軍団を率いてウルトラの星を攻撃してきた。若き日のウルトラの父も戦い「ウルトラベル」の奇跡パワーで撃退する。
  4)そして戦いで負傷したウルトラの父は介抱してくれた銀十字軍の女性団員と結婚した。ウルトラの戦士たちは自分たちの力を宇宙平和に役立てるために宇宙警備隊を組織する。
  5)ウルトラの兄弟は、ゾフィ、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンA、ウルトラマンレオ、アストラ、ウルトラマン80等であるが、実の兄弟ではない。ウルトラマンタロウはウルトラの父は母の実の子でセブンとは従兄弟になる。
 3)ウルトラマンの誕生秘話について説明する。
  1)最初は、人類が危機に陥った時にどこからともなく現れては人類のために戦う「正義の怪獣」として設定されていた。デザインは、人間風の手足がついた翼手竜のような姿で、タイトルは、『科学特捜隊ベムラー』であった。テレビ版ゴジラ。
  2)その後、宇宙人をヒーローとした番組に変更された。自分の星がX星人の侵略によって滅んだために、地球に止まって人類の平和のために働くという宇宙難民として設定され、『レッドマン』と命名された。
  3)最終的に宇宙人が普段は人間の姿をしており、人類の危機に当たって宇宙人に変身するという設定になった。そのため、人類を守る動機が必要になった。怪獣なら所詮「獣」であるから動機は曖昧なママでよかったし、人間なら地球を守るという単純な正義感でよかった。そこで、『ウルトラマン』ではベムラーを護送する途中ハヤタ隊員の飛行機と衝突して死亡させ、罪悪感から地球に止まって人類を守ることになった。しかし、異星人を死なせたことにそんな責任を感じる必要もなく、自分の命を与えるのも飛躍しているし、「光の国」で生き返らせればよい。

5.科学の二面性について
 1)ウルトラマンはどんなものとして想定されているか。【抜粋】
  ・科学の精
 2)そこで生じる問題について考え、60字以内でまとめる。【深化】
  ・ウルトラマンは、科学の精として想定されているが、科学の二つの側面の、威力を表しているだけで、悲惨さを表していないこと。(五九字)
 3)科学の精、核兵器の二面性とは何か。【抜粋】
  ・科学の威力
  ・科学の悲惨さ
 4)ウルトラマンは科学のどの面を表しているか。【抜粋】
  ・科学の威力を示威だけ。
  ・科学の悲惨さとは無関係。
 5)そこで生じる問題とは何か。【深化】
  ・ウルトラマンは科学の精として想定されている。
  ・そして、科学の精には、必ず威力と悲惨さの二面性がある。
  ・しかし、ウルトラマンは科学の威力しか表していない。

6.怪獣映画の一般式について
 1)怪獣映画の一般式と、その表しているものは何か。【抜粋】
  1)一般市民が自分の生活圏を踏みにじられて嘆きつつ怪獣を見上げる
  2)準科学的集団が怪獣と戦い敗れる
  3)ウルトラマンの登場
 2)この一般式によって何を強調しているのか。
  ・人間の無力感
  ・人間による努力の限界
  ・ウルトラマンの科学の威力と正義
 3) 科学特別捜査隊の存在意義について説明する。【説明】
・第三七話のジェロニモンに対して、イデ隊員が「ウルトラマンがいれば科特隊なんかいらないんじゃないか」と悩みを打ち明ける。ハヤタは科特隊の数少ない実績(アントラーはムラマツ隊長の投げた青い石で、ドドンゴは目をイデとアラシのスパイダーで、ケムラーはイデのマッドバスーカで、ザラガスはイデのQXガンとウルトラマンのスペシューム光線で、ゼットンはペンシル爆弾で)を持ち出して「持ちつ持たれつだよ」とフォローにならないフォローをする。

7.怪獣やウルトラマンと科学者の関係について
 1)それぞれにどんな人間が関係するか。。
  ・ウルトラマン+人格高潔な科学者+優等生の子ども
  ・怪獣+気ちがい科学者+悪人集団
 2)これによって何を強調しているのか。【深化】
  ・ウルトラマンや人格高潔な科学者や優等生の子どもが使う科学は正しい。
 3)しかし、人格に関係なく、科学者である以上、二面性を持っていることを確認する。【説明】
  ・しかも、人格高潔な科学者も、無力である。
 4)ウルトラマンに出てくる子どもの悪事について説明する。【説明】
 ・ホシノ少年は、ネロンガを一人でやっつけようと前に仁王立ちになったり、ケムラーに対してアラシ隊員のスパイダーショットを黙って失敬したり、年上のイデ隊員をタチの悪い冗談でからかったり、怪獣を挑発して窮地に陥ったり、フジ隊員のビートルに隠れていて操縦までしてしまう。
 ・ムシバ君は、自分が書いた落書きが怪獣になったガバドンの出現に大喜びし「暴れろ、暴れろ」とたきつけるという危険な思想をもった確信犯である。

15.怪獣映画の真のメッセージについて
 1)真のメッセージとは何か。【深化】
  ・科学は正義である。
 2)ウルトラマンは正義の味方と言えるか考える。
  ・初期は一対一で怪獣と対決していたが、シリーズ後期には「我々ウルトラの戦士は共に戦う」という合言葉を振りかざして集団リンチかイジメのように、よってたか って怪獣をなぶりものにしている。
  ・メフィラス星人は、地球人の人格を認め地球人の合意が得られない限り武力的侵略には訴えず、ウルトラマン以上の実力がありながら無益な戦闘を放棄した。
 3)ウルトラマンと怪獣の関係について考える。
 ・最初は、怪獣は文明社会を脅かす大自然の象徴であり、ウルトラマンは文明社会の秩序を維持する正義の味方として設定された。「大自然と人間の力の試し合い」
 ・しかし、愛の象徴のウルトラマンが怪獣を殺すことに矛盾が生じ、怪獣・宇宙人と地球人の仲裁役として設定された。
 ・『ウルトラマンセブン』では敵を異星人に限定し、異星人を征服的先進国人、地球人を後進国人と見なして、ウルトラマンの戦いが正当化された。
 ・しかし、ウルトラマンセブンは異星人である以上、地球人と異星人の間に立って悩 まざるを得なくなった。宇宙人からは「裏切り者」として罵られ、地球人にもなり きれない。
4)なぜ、そこまでして科学の正義を伝えたかったのか。【発展】


第四段 14〜18
1.25)〜27)の指示内容を考えさせ、解答する。【抜粋】
 25)広島・長崎
 26)破壊された都市の再建をどうすればいいのかということ
 27)怪獣映画
2.o〜rに接続語を入れる。
 o 逆接 しかし。幼児も心を痛めているのではないかと思ったが、気にかけていなかった。
 p 順接 そして。怪獣がどろどろに溶けて、ウルトラマンが宇宙に帰る。
 q 順接 そして。怪獣の襲撃があって、都市が破壊される。
 r 逆接 しかし。リアリズムによる怪獣映画を期待するが、ウルトラマンを聖化し続ける。
3.14〜18を音読する。
4.都市の破壊と再建について 
 1)作者の視覚的動機とは何か。【深化】
  ・大規模な破壊のあと、どのように再建するのか。
 2)破壊される場所について
  1)東京でよく破壊されるのは何か。【抜粋】
   ・東京湾近郊の建物、東京タワー
  2)東京で絶対に破壊しない場所はどこか。【発展】
   ・皇居
 3)ウルトラマンも都市破壊の当事者であったことを確認する。【説明】
    ・タイトルもここからきている。
 4)作者が都市の再建が気になった理由は。
   ・広島や長崎の原爆後の人間の営為に感銘したから。
   ★原爆問題は作者のライフワークでもある。「広島ノート」などの著書。
 5)再建費用と期間について説明する。【説明】
  ・ペスターが破壊した京浜工業地帯の場合
   タンクローリー一台、タンカー一隻、オイルタンク約四〇基、付属設備など、現在価値として六八〇〇億円の損害、経済の波及効果として三兆円、復旧までに三  年かかる。
  ・ゴモラの破壊した大阪の場合
   大坂城三五〇億円、大阪市街七〇億円、造成地四〇億円、防衛兵器二〇〇億円、合計六六〇億円、波及効果は一五〇億円。関西人の受ける精神的ダメージはタイガースが優勝するより数段大きい。
 6)ウルトラマンの破壊についての責任を説明する。【説明】
  ・「行為」とは「人間の自発的に意思の表現としての身体の動作または静止」であるので、ウルトラマンは人間でないから行為は成立しない。
  ・しかし、ウルトラマンは外国人に準じて考えれば刑事責任が問われる。そうすれば人間以上の知能を持つ宇宙人も刑事責任が問われる。
  ・しかし、彼らを法廷に立たせることは不可能である。
  ・そこでウルトラマンに変身すれば地域住民に危害を加える危険性を自覚しているハヤタ隊員とウルトラマンは同一人格と見なされる。
  ・しかし、1)地球人の生命に対する現在の危機を避けるための、2)やむをえない行為であり、3)その行為から生じる害は避けようとした害の程度を越えないので、刑法上緊急避難に該当し違法性はない。
  ・また、責任能力においても個人の能力を越えており、国の賠償責任を追及するべきである。

5.場面転換の論理について
 1).怪獣映画のパターンをまとめる。【説明】
  1)怪獣の出現。
  2)都市の破壊。
  3)ウルトラマンの勝利。
  4)ウルトラマンの帰還。
  5)歓呼して送る民衆。
   ・家の壊された不満を訴える声はない。
  6)コマーシャル
 2)本来なら、次週はどんな場面から始まらなければならないか。【発展】
  ・破壊された東京。
  ・しかし、実際は再建された東京が現れ、1)〜6)を繰り返す。
 3)なぜ、破壊された都市を映さないのか。【深化】
  ・怪獣の恐怖と、それに勝利するウルトラマンを描けないから。
 4)大人が怪獣映画を造るのに使っている方法論について。
  1)それは何か。【抜粋】
   ・場面展開の論理
  2)「場面展開の論理」とは何か。【深化】
   ・持続的に論理を展開してゆき、論理的に都合悪い、単純に整理しがたい現実に直面した場合、場面を展開する論理。
 4)想像力との違いは。
  ・想像力は、意識によってコントロールできない。
  ・場面転換の論理は、十分に意識によってコントロールされている。
 5)「場面展開の論理」と反対の方法論は。【抜粋】
  ・リアリズム
  ・自己否定を契機にして、より大きな自分をつくりかえしめる方法。
 6)リアリズムによる怪獣映画とはどんなものか。【深化】
  ・科学の悪、科学の人間的悲惨をも担い込んでいるウルトラマンを描き出す。
 7)なぜ、場面展開の論理を使うのか。【発展】
  ・ウルトラマンを超科学スターに聖化し続けるため。
  ・科学は正義であると思わせ続けるため。
 8)怪獣番組のリアリズムについて説明する。【説明】
  ・『ウルトラマン』では、科学特捜隊がウルトラマン抜きでゼットンを倒すことによって「甘え」を否定しようとした。ゾフィーは「地球の平和は人間の手でつかみとることに価値がある。いつまでも地球にいてはいけない」とウルトラマンを説得する。隊長のムラマツも「地球の平和は我々科学特捜隊の手で守り抜いていこう」と呟く。
  ・『ウルトラマンセブン』では、モロボシダンが脈拍三六〇、血圧四〇〇、熱が九〇度近くあったが無理をしてゴース星人の怪獣パンドンと戦い、過労死する。ウルトラ警備隊のソガ隊員は「ダンを殺したのは俺たち地球人だ。奴は傷ついた体で人類のために戦ってくれたのだ。ダンを殺したのは俺たちなんだ」と呟く。「甘え」をきっぱりと否定し、ナショナリズムの立場に移った。
 9)なぜ、リアリズムによる怪獣映画が造らないのか。【発展】
  ・視聴率が得られないから。
  ・スポンサーが付かないから。
  ・子どもへのメッセージよりも、経済的効果を優先する。



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学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 幻的 感慨 凝視 玩具 尋問 照応 基底 安堵 対峙 均衡 蓄え 鯨 哺乳類
示威 不当 高潔 格好 営為 金輪際 歓呼 担い込む 一蹴
2.語句の意味を調べなさい。
 呼び水 安堵 カタルシス 対峙 アクチュアリティ 格好 オブセッション 金輪際一蹴


学習のポイント
1.単純な構造の複雑な課題とは何かを理解する。
2.怪獣映画を造る大人の想像力を理解する。
3.怪獣映画を見る子どもの想像力を理解する。
4.怪獣が造られた意味を理解する。
5.ウルトラマンの抱えている矛盾を理解する。
6.科学の二つの側面を理解する。
7.筆者が怪獣映画にひかれた単純な視覚的動機とは何かを理解する。
8.場面転換の論理とは何かを理解する。