児のそら寝 16


インストラクショナル・デザイン
I 準備段階(誰に、何を、どこまで教えるか)
 1.学び手分析
 中学でも少しは古文を勉強してきている。選抜試験にも古文が出題され、歴史的仮名遣いや内容把握の問題を解答している。I類なので、あまりできていないことは予想される。したがって、一度学習したことはあるが、ほとんど習得していないことを前提にする。ただ、年度当初なので、学習に対する意欲はなくはないと考えられる。
 2.目標分析
 これから古文を読解する上で、どんな事柄が必要になるかを、文章を読解しながら把握できることを目標とする。
 1)言葉の単位を把握し、古文になれる。
 2)話の概略を把握する。
 3)歴史的仮名遣いについて、発見的理解をする。
 4)古語について、多くは古今同義語であるが、古文特有の語、古今異義語について理解する。
 5)辞書がひけるようにする。特に用言の場合、基本形に直すことを理解する。
 6)文の構成、特に主語について把握する。
 7)助動詞や敬語の働きと意味について簡単に理解する。
 8)古文常識を理解する。
 3.課題分析
 1)中学校で学習したことを引き出し確認する。不十分な事項については、整理して  理解する。
 2)時間制限をした作業を通じて、ゲーム感覚で古文にふれる。
 3)細かな解釈をする前に、概略を把握する感覚を体験させる。
 4)文中から事例を摘出しながら、法則を発見する。
 5)実際に古語辞書を引きながら、古語辞典を使う際の留意点を理解する。
 6)本文の文脈を追いながら訳に必要な要素を理解する。
 7)付属語の持つ細かなニュアンス重要性を理解する。
 8)古文独特の世界観を理解し、古文に対する興味を持たせる。
 4.成功基準
 1)基本的な事項をアンケート形式で発問し、挙手させ、指名質問する。
 2)ノートを机間巡視して確認する。
 3)講義や作業しながら、ペアで確認作業をさせる。
 4)小テストをして理解度を確認する。
 5)定期試験で、基本的な事柄、応用的な事柄を問う。
II 開発段階(何を使って、どのように教え、どのように評価するのか)
 1)目標行動を、興味を喚起しながら、論理的に習得できるように、順序を考える。
 2)実際の作業を多く取り入れる。その際、時間制限をして、ゲーム性を持たせなが  ら、集中して学習する習慣を身につける。
 3)板書事項を予定し、ノートしやすいようにする。
 4)ノートを効率的に取るために、枠などを必要なものはプリントとして与える。
 5)技能の必要な事項は、何度も書いて練習する。
III 実施段階
 ・授業をする。
IV 改善段階
 ・成果を測定、評価する。
 ・教材や指導法を改善する。


1.本文をノートに書写することを宿題にする。
 1)【説】ノートを作り方を説明する。
  ・ページの上3分の2に本文、下3分の1に板書事項などを書く。
  ・本文の横は左右2行ずつ、4行空け、右に文法事項、左に訳と訂正訳を書く。
  ・読める字で、できるだけ速く。
 2)宿題の点検をする。2.古文学習のポイント
 1)繰り返し音読する。
  ・歴史的仮仮名遣いに注意する。
 2)全体をおおづかみする。
  ・時、場所、登場人物、出来事。
 3)わからない単語を調べる。
  ・古今同義語(現代語と同じ意味の古語)
  ・古今異義語(現代語と違う意味の古語)
  ・古文特有語(現代語にない古語)
 4)古典文法を考える
  ・古典文法(文語文法)
  ・現代日本語文法(口語文法)
   ・動詞などの活用(9種類)
   ・助動詞の意味(28個)
   ・敬語
 5)現代語訳をする。
  ・省略されている主語や目的語を補う。
  ・省略されている助詞を補う。
 6)古典常識を考える。
 7)内容を読解する。
3.歴史的仮名遣いを確認する。
 1)「僕は勉強をするために学校へ行く。」の発音と表記の違いを考える。
  ・は→ワ、を→オ、へ→エ
 2)歴史的仮名遣いとは何か。
  ・平安時代中期の発音に基づいた仮名の表記。
  ・時代によって発音が変わったが、仮名の表記は変わらなかった。
 3)「今は昔〜聞きけり」までを音読し、歴史的仮名遣いを○で囲ませる。
  ・5つある。
  ・今は→今ワ、よひ→よイ、かひもちひ→かイもちイ、せむ→せン
  ・は→ワ、ひ→イ、む→ン
 4)「さりとて〜ひしめき合ひたり」を同様にする。
  ・5つある。
  ・む→ン、ひ→イ
 5)「この児〜寝たるほどに」の音読を聞き、ペアで14個探す。
  ・む→ン、ゐ→イ、は→ワ、へ→エ、ふ→ウ、ゑ→エ
 6)「や、な〜限りなし」から9個探す。
  ・を→オ、ひ→イ、ふ→ウ
 7)歴史的仮名遣いの法則を考える。教科書二二八ページ。
  1)ハ行「は、ひ、ふ、へ、ほ」→ワ行「ワ、イ、ウ、エ、オ」と読む。
  2)ワ行「ゐ、ゑ、を」→「イ・エ・オ」と読む。
  3)助動詞「む」→「ン」と読む。
  4)「くわ、ぐわ」→「カ、ガ」と読む。
  5)母音が重なる→長音で読む。
   ・笑ふ(わらう)→ワロー
 8)「ひえ、ひしめき、ひしひし」はどうか。
  ・語頭のハ行は、ハ行で読む。
  ・1)は語中か語尾。
 9)全員で音読する。
4.概要を把握する。
 1)時間
  ・今は昔、宵
 2)場所
  ・比叡の山
 3)登場人物
  ・児、僧
 4)出来事
  ・かいもちひを作る。
 5)ノートの本文の左に、古語に対応するように訳を写させる。


5.「今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、よひのつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり。
 1)単語に区切る。
 2)単語について
  ★古語辞典のサイトを登録する。
  1)「比叡の山」を説明する。
   ・延暦寺。
   ・山=延暦寺、川=加茂川、祭=葵祭、寺=三井寺、花=桜
   ・古典常識。
  2)「児」を説明する。
   ・寺院で召し使われていた少年。貴族や武士の子弟。
   ・身分が高い。
   ・古典常識。
  3)「よひ」の時間帯を説明する。
   ・暁→あけぼの→昼→夕べ→よひ→夜
   ・古典常識。
  4)「つれづれ」を辞書で引く。
   1)退屈であること。2)もの思いに沈むこと。3)つくづく。
   ・古文特有語。
  5)「かひもちひ」を辞書で引く。
   ・ぼた餅。
   ・古文特有語。
 3)助詞の省略を補う。
  1)僧たち(が)、宵のつれづれに
  2)かひもちひ(を)せむ
  3)この児(は)、心寄せに
 4)助動詞
  1)3つの「けり」の意味。
   ・過去の助動詞。
   ・「けり、ける」は形は違うが同じ助動詞で、過去の意味を表す。活用がある。
 5)会話文を確認する。
  ・「いざ、かひもちひせむ」
 6)内容を読解する。
  1)【L2】児は何を期待していたのか。
   ・ぼた餅を食べられること。
6.
さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、片方に寄りて、寝たるよしにて、出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめき合ひ たり。
 1)単語に区切る。
  ・生徒にさせる。
 2)単語について
  1)「わろかり」を辞書で調べる。
   ・「わろし」で調べる。
   1)よくない。2)見栄えがしない。3)下手だ。4)貧しい。
   ・あし→わろし→よろし→よし
 3)助動詞について
  1)「寝ざらむ」の意味。
   ・寝ない
   ・打消の助動詞
 4)主語の省略を補う。
  ★文脈を追いながら主語を補う。
  ・(僧たちが)し出さむを
  ・(児が)待ちて
  ・(かいもちひが)出で来る
  ・(児が)待ちける
  ・(僧たちが)すでにし出だしたる
 5)心中語を抜き出す。
  ・(さりとて、し出さむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむ)と
  ・終わりの前に「と」がある。
 6)内容を読解する。
  2)【L1】なぜ、寝たふりをしたのか。
   ・出来上がるのを待って寝ないのもよくないと思ったから。
  3)【L3】なぜ、出来上がるのを待って寝ないことがよくないのか。
   ・食い意地が張っているように思われるのは、みっともないと思ったから。
   ・児は貴族の子供であり、プライドが高い。

7.「
この児、さだめておどろかさむずらむと待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらは む。おどろかせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待 ちけるかともぞ思ふとて、いまひとこゑ呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、
 1)単語に分ける。
 2)単語について
  1)「おどろかさ」を辞書で引く。
   ・「おどろかす」で調べる。
   1)気づかせる。2)びっくりさせる。3)起こす。
   ・古今異義語。
  2)「おどろか」を辞書で引く。
   ・「おどろく」で調べる。
   1)はっと気がつく。2)びっくりする。3)目を覚ます。
   ・古今異義語。
   ・「おどろかす」は他動詞、「おどろく」は自動詞。
  3)「念じ」を辞書で引く。
   ・「念ず」で調べる。
   1)心の中で祈る。2)がまんする。
   ・古今異義語。
 3)敬語について
  1)「〜たまへ」
   ・尊敬語。
   ・お〜になる。
   ・児は貴族の子供なので、身分が高いから敬語を使う。
 4)主語の確認
  ・この児(が)、〜待ちゐたるに
  ・僧の、〜言ふを
  ・(児は)うれしとは思へども
 5)会話文と心中語を抜き出す。
  ・(さだめておどろかさむずらむ)と
  ・「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ」
  ・(うれし)と
  ・(ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふ)とて
  ・(いまひとこえ呼ばれていらへむ)と
 6)内容を読解する。
  4)【L2】児は僧に起こされてどう思ったか。
   ・うれしい
   ・すぐに起きると待っていたかと思われる。
   ・もう一度呼ばれて返事をしよう。
  5)【L3】なぜ、待っていると思われるといけないのか。
   ・貴族の子どもで,プライドが高い。
7.「や、な起こしたてまつりそ。をさなき人は寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしけ れば、あな、わびしと思ひて、今一度起こせかしと思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ 食ひに食ふ音のしければ、ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、 僧たち、笑ふこと限りなし。
 1)単語に分ける。
 2)単語について
  1)「な」を辞書で引く。
   ・副詞。
   ・(「な〜そ」の形で)してくれるな。禁止。
  2)「わびし」を辞書で引く。
   1)つらい。2)がっかりする。3)こまったことだ。4)貧しい。5)さびしい。
   ・「さびし」との違い。
  3)「ずちなく」を辞書で引く。
   ・「ずちなし」で調べる。
   ・どうしようもない。
 3)文法について。
  1)「たまひ」
 4)主語の確認
  ・(僧が)→と言ふ声のしければ
  ・(児は)→思ひ寝に聞けば
  ・食ふ音の→しければ
  ・(児は)→いらへたりければ
  ・僧たち(は)→笑ふこと限りなし
 5)会話文と心中語を抜き出す。
  ・「や、なおこしたてまつりそ。をさなき人は寝入りたまひにけり」
  ・(あな、わびし)と
  ・(今一度起こせかし)と
  ・「えい」(児)
 6)内容を読解する。
  6)【L1】僧が起こすなといった時の児の気持ちは。
   ・つらい。
   ・もう一度起こしてほしい。
  7)【L3】「わびし」と反対の気持ちを表す語は。
   ・うれし
  8)【L2】「えい」と返事したのはなぜか。
   ・ぼた餅を食べたいから。
  9)【L3】「えい」は何に対する返事か。
   ・「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ」
  10)【L4】僧たちはどんな気持ちで笑ったのか。
   Q僧たちは児が寝たふりをしていたことを知っていたか。
    ・笑うのは予想していたから。
    ・知らなかったら驚くはず。
   Qなぜ、僧たちは、ひしひしと音を立てて食べたのか。
    ・児への当てつけ?
   Qどの段階でそら寝に気づいていたか。
    ・「えい」と返事を聞いた時点。
    ・「な起こしたてまつりそ」と言った時点。
    ・「おどろかせたまへ」と言った時点から。
    ・さらに「いざ、かひもちひせむ」と言った時点から。
   Q「おどろかせたまへ」と「おどろかせたまへ」と言ったのは同じ僧か。
   Q僧たちは児に対してどのような心情を持っていたか。
    ・普段から生意気な児をからかいたかった。
    ・身分は高くても幼い児が微笑ましい。


 7)内容をまとめる
  (僧)「ぼた餅を,作ろう」
  (児)期待して聞いていた。
      ・ぼた餅を食べられること。1)
       ↓↑
     寝たふりをする。
      ・出来上がるのを待って寝ないのもよくない。2)
       ↑
      ・貴族の子どもで、プライドが高い。3)
  (僧)「起きてください」
  (児)うれしい。4)
       ↓↑  
     一度で起きると待っていたと思われる。4)
     もう一度呼ばれたら起きよう。4)
     我慢して寝たふりを続ける。4)            
       ↑
      ・貴族の子どもで,プライドが高い。5)
  (僧)「起こすな」             
  (児)つらい。6) 
     もう一度起こしてほしい。     
  (僧)ひしひしと食べる音だけがする。  
  (児)「はい」と返事をする。
     ぼた餅を食べたいから。8)
  (僧)大笑いした。
      ・からかって面白がっている。10)

 8)漫画を見せる。