他者の声 実在の声

野矢茂樹


 かつて「他我問題」「外界問題」があり、今はない。「他我」とは、「他人の自我」、他人の持っている自我である。
 「外界」はさらにみょうちきりんである。机の上にコーヒーカップがあることは外界である。胃の中に入ったコーヒーも外界である。味の感覚は内界である。つまり、「心の内と外」である。他人のまなざしによってわかるのは外界、他人にわからないのが内界である。「心の内」とは「意識」である。他人にはわからない、自分だけが感じ取れることである。
 それなら、外界はどこにあるのか? 机の上のコーヒーカップも自分の意識が見ているものである。そう考えると、すべてが私の意識に表れた姿だということになる。
 「私は意識の内に閉じ込められる」。意識しているものは内界のものであり、意識していないものは存在しない。私が意識している内界のものしか存在せず、外界は存在しなくなる。すべてが「私の内なる意識」であるから、「他人の内なる意識」は見えず、姿を消す。同じ物を見ていても、私と他人の意識は別物なので、自分にはそう見えるが、他人にもそう見えているかどうかは分からない。私は私の意識の内に自閉しているのである。そして、私の意識の外にある「外界」や「他我」は消え去るのである。
 しかし、「外界」や「他我」が存在しないとは言えないと思いながらも、すべては私の意識の世界であるという問題が、「他我問題」「外界問題」だったのである。
 こうして哲学の洞窟に入る。トンネルなら出口はあるが、洞窟には出口はない。これらの問題は、解決しそうで正解がない。自分の意識に閉じこもりながら、外界と他我を復活させることは不可能である。入ってきた入口から出て行くしかない。外界とはどこにあるかという問いに帰ることである。
 そこは、明るい開けた、もといた所である。世界があり、意識を持った私がいて、意識を持った他人がいる。そして、すべては私の意識であるとまでは言わない時点である。その時点からもう一度「意識」についてとらえ直すのである。突き詰めれば袋小路に入る。突き詰めずに、しっかりとまじめにとらえ直すことである。
 こうして一旦清算したと思っていたところに、全く別の形で新しい、「他者性の問題」「実在性の問題」が現れた。
 今度は、「意識の内と外」でなく、「言語の内と外」である。我々は言語を用いて語るので、「言語の外」とは「語り得ぬ」ものである。語り得ぬものなど存在しない、すべては語り得る。つまり、「言語の外」を拒否することである。しかし、これではあまりに単純すぎるので、語り得るもの、語り得ぬものが両方とも存在すると考える。しかし、これも単純である。
 日常のコミュニケーションは、一つの共有された言語のもとで行われているように見える。しかし、一つの共有されたというのは幻想である。実際は、言語の内と外を行き来しているのである。人間には人間の数だけ言語がある。すべての人が違う言語を用いてコミュニケーションをとっている。だから、私は私の言語の外に向けて話しかけ、私の言語の外からの声を聞いているのである。
 私の話している日本語は、周囲の大人から学んだものであり、周囲の大人たちと一致することを目指された基本的には公共的な、外部に開かれた言語である。ところが、その人の用いる言語の意味は、その人の経験に影響される。言語の共有と人生経験の個人ごとの多様化は両立しない。人生の分だけ言語がある。言語は公共のものとして生まれ、個人のものとして発散していく。例えば、「愛」という言葉の意味は、経験してきた愛の形の数だけある。「コーヒーカップ」においても同じである。
 とすれば、私の言葉と他者の言葉はズレている。他者はコミュニケーションにおいて私と異なる意味の発信源になる。それが「意味の他者性」である。他者は、「意識」における「他我」ではなく、「意味の他者性」である。私の言語でないから理解しきれない、しかし、公共性の名残があるので、理解を拒むわけにはいかない。理解してごらんと誘惑してくる。それが「意味の他者」である。私ではないが全くの他人でもない。
 同じ誘惑の声を実在にも聴く。自分の感覚を言葉で表現し尽くすことはできない。しかし、それらは語り得ぬものではなく、語り出すことを誘惑する。語り得ることによって「実在」する。
 今は理解できない、語り出せないものを、理解し、語り出すために、自分自身の経験に基づく手持ちの言葉を変え、私自身を変えていく。つまり、他者の経験していることを自分も経験し、共有していくことによって、それらに出会うことができる。それが、人それぞれではあるが、少なくとも私にとっての「他者性の問題」「実在性の問題」である。


導入
 
1.学習プリントを配布し、漢字と語句の意味を宿題にする。
2.学習プリントの漢字と語句の意味を確認する。
 30 他我 外界 対 収まる 31 苦味 32 洞窟 33 堅気 36 鎮座 声高 
 他我問題=表面的には体験できない他の自我を、いかに認識できるかという哲学上の問題。
 外界問題=意識の外の世界は、我々のいしきと独立して存在しているか否か、という哲学的問題。
 みょうちきりん=普通と違って変であること。奇妙。
 自閉=現実または外界から遠ざかり、対人交渉を極力避け、願望や苦悩を抱いたまま、自己の内界に閉じ込もる状態。
 袋小路=物事が行きづまって先に進めない状態。
 堅気=物事が行きづまって先に進めない状態。
 清算=相互の貸し借りを計算して、きまりをつけること。
 鎮座=人や物がどっしりと場所を占めていることを、多少揶揄(やゆ)の気持ちを込めていう語。
3.小段落に番号を付ける。1〜16。

前半
 
1.1を音読する。
2.「他我問題」「外界問題」の存在について考える。【提言】
 1)辞書的な意味を確認する。【説明】
  ・他我問題=表面的には体験できない他の自我を、いかに認識できるかという哲学上の問題。
  ・外界問題=意識の外の世界は、我々の意識と独立して存在しているか否か、という哲学的問題。
 2)「あえて〜たい」「無理を承知で〜たい」に筆者の強い意志である。【説明】
 3)「過去形で語りたい」で「かつて〜あった」、「現在形で語りたい」で「今はない」と表現している。【説明】
 4)ここで、疑問に挙がってくることは何か。【開いた発問】
  ・なぜ、「他我問題」「外界問題」がなくなったのか。
 5)「他我問題」「外界問題」とは、「他我」や「外界」について何か厄介な解決すべき事柄である。【説明】
 
3.「他我」とは何か。【提言】
 1)「他我」とは何か。【閉じた発問】
  ・『自我』と対になる
  ・他人なりの自我
  ・他人の自我
 2)接続詞「つまり」に注意する。【説明】
 3)「自我」とは何かを考える。【開いた発問】
  ・知覚・思考・意志・行為などの自己同一的な主体として、他者や外界から区別して意識される自分
  ・いつでもどこでも変わらない自分らしさ。
 4)対になる「他我」の意味を考える。【開いた発問】
  ・その人らしさ。
 5)なぜ「他我」が哲学問題になるのか。【閉じた発問】
  ・「私の視点」が入るから。
 6)なぜ、私の視点が入れば哲学問題になるのかを考える。【提言】
 
4.「外界」とは何か。【提言】
 1)「外界」はもっと「みょうちきりんな言葉」である。【説明】
 2)「なんだそれ」という砕けた言い方に注意する。【説明】
 3)「外界」とは何か。【閉じた発問】
  ・「外の世界」
 4)「外の世界」の反対語は。【閉じた発問】
  ・「内の世界」
  ・「内界」
 
5.「外界」「内界」とは何かを生徒同士で考える。【提言】
 1)2〜4を読んで、隣の人に説明できるように、自分で内容をまとめてノートに書く。文章でもいいし、図でもいい。【指示】
 2)隣の人と2人組になる。【指示】
 3)ジャンケンして勝った人が、自分のまとめたことを1分間で話す。【指示】
 4)交代してする。【指示】
 4)互いに1分間意見を交換する。【指示】
 5)何人か指名して発表させる。【指示】
 
6.「内界」はどこにあるのか。【提言】
 1)机の上のコーヒーカップは外界か内界か。【閉じた発問】
  ・「外界」
 2)体に収まったコーヒーは外界か内界か。【閉じた発問】
  ・身体の中だが、「外界」
 3)コーヒーの苦味は外界か内界か。【閉じた発問】
  ・内界」
 4)なぜ、「内側」なのか。【閉じた発問】
  ・他人には分からない
 5)なぜ、机の上にあるコーヒーカップや体に収まったコーヒーは外界と言えるのか。
  【閉じた発問】
  ・他人にも分かるから
 6)ということは、外界と内界の区別に必要なものは何か。【閉じた発問】
  ・他人のまなざし
 6)なぜ、他人のまなざしが必要となるのか。【開いた発問】
  ・外界と内界の違いは、他人に分かるか分からないかである。
  ・だから、他人が必要である。
 7)内界と外界、「内と外」の基準は。【閉じた発問】
  ・「身体(皮膚)の内と外」ではない。
  ・「心の内と外」
 8)「心の内」とは何か。【閉じた発問】
  ・意識。
 9)意識とは何か。【閉じた発問】
  ・味、疲れ、頭痛、寒さ。
  ・私だけが感じ取れること。
 10)ここまでの論理を確認する。【説明】
  ・外界と内界は対である。
  ・外界                 ・内界
   ・他人にも分かる(私にも分かる)   ・他人には分からない。(私には分かる)
   ・私の心の外              ・私の心の内
   ・私の意識の外            ・私の意識の内
   ・私が意識していない         ・私が意識している
 11)一言で言い換えると。【開いた発問】
   ・外界=客観
   ・内界=主観
 12)接続語の使い方に注意する。【説明】
  ・接続詞一覧を配布して、説明し、1〜4に出てくる接続詞について考える。
 
7.5〜7を音読する。
8.「外界」はどこにあるのか。【提言】
 1)生徒同士で考えさせる。【指示】
 2)逆接の「しかし」で視点が変わる。【説明】
 3)「そうだとすると」の「そう」の指示内容は。【閉じた発問】
  ・「それ(意識)は他人からは分からない。私だけが感じ取れること」
 4)「コーヒーカップがある」というのは外界である。【説明】
 5)逆接の「でも」で否定する。【説明】
 6)言い換えると「私がコーヒーカップを見ている」になる。【説明】
 7)「見ている」とはどういうことか。【閉じた発問】
  ・意識している。
  ・私がコーヒーカップを意識している。
  ・内界の表現になる。
 8)この考え方を進めて、外界表現を内界表現にする。【説明】
  ・(風が吹く)「風を感じる」
  ・(山並みがある)「山並みが見えている」
  ・(物音がする)「物音が聞こえる」
  ・全部私が意識したことである。
 9)ということは、外界と思っていたものも、すべてが私の意識に現れた姿である。
  つまり、すべてのものが内界になる。【説明】
 7)「そんなもの(私が意識していないこと)は意識していないのである」とはどういうことか。【開いた発問】
  ・意識していないということ自体を意識していない。
  ・意識していないということは私にとって存在していないことだから、存在しないことは意識できないことは当たり前である。
  ・意識していないことは意識によって認識できない。
 8)「私は意識の内に閉じ込められる」とは。【開いた発問】
  ・「閉じ込められる」は、無理に狭い所に居させられると言う意味である。
  ・意識していないものが多くあるはずであるにもかかわらず、意識しているものしか存在しない。
  ・そんな狭い世界の中にいることを強制される。
 9)「外界が姿を消す」とはどういうことか。【開いた発問】
  ・外界とは、内界の反対。
  ・内界とは、私が意識している世界。意識の内。
  ・外界とは、私が意識していない世界。意識の外。
  ・私が意識したものだけが存在し、意識していないものは存在しない。
  ・だから、外界は存在しない。
 10)UFOは存在するか。【開いた発問】
  ・見た人には存在する。
  ・見たことのない人には存在しない。
 11)「『他人の内なる意識』も姿を消す」について
  1)『他人の内なる意識』の言い換えは。【閉じた発問】
   ・他我
  2)なぜ他我も姿を消すのか。【開いた発問】 
   ・私の意識は心の内であり、他人には私の意識が見えない(意識できない)。
   ・逆に、私にも他人の意識が分からない。
   ・私に分からない(意識しない)ものは存在しないことになる。
 12)「同じものを見ていたとしても、私と他人の意識は別物で、私はただ私の意識の内にいるしかない」とはどういうことか。【開いた発問】
  ・同じものであっても、その人の意識がどのようにとらえるかは違うので、見えているものは別々である。
 13)どんな例があるか。【開いた発問】
  ・円筒の見え方、群盲象を撫でる。
  ・ある小説を読んだ感想が違う。
  ・美人と思う人のタイプも違う。デブ専。
  ・西村先生を見ても、人によって違う。事件を起こした時に、なんて証言されるか。
 
9.なぜ、「他我」や「外界」が「問題」になるのか。【提言】
 1)逆接の「しかし」が納得のいかないことを示している。【説明】
 2)「それはどうしてもあれである」は変な言い方であるが、「それ」「あれ」の指示内容は。【閉じた発問】
  ・それ=外界と他我が完全に消え去ると言い切ること。
  ・あれ=具体的なものを指示していない。
      問題である。そのまま認められない。言い過ぎ。
 3)「他我問題」「外界問題」とは何か。【閉じた発問】
  ・指示語の連鎖を追う。
  1)「それが」の指示内容は。【閉じた発問】
   ・そんな人の抱え込んだ問題。
  2)「そんな人」の指示内容は。【閉じた発問】
   ・健全にそう思うと同時に、すべては私の意識の世界だということに強い共感を示す人。
  3)「そう思う」の指示内容は。【閉じた発問】
   ・外界や他我などないのだといって済ますわけにはいかない。
  4)まとめるて表現すると。【閉じた発問】
   ・外界や他我などないと言い切れないと思うと同時に、すべては私の意識の世界だと思う人が抱え込んだ問題。
 4)他我問題、外界問題とは何かをまとめる。【開いた発問】
  1)外界(他我)と内界(自我)は対である。
  2)内界(自我)は、意識の内である。
  3)ならば、外界(他我)は、意識の外である。
  4)しかし、意識の外を意識することは不可能である。
  5)つまり、すべては内界(自我)の世界である。
  6)だから、外界(他我)は存在しない。
  7)しかし、外界(他我)の存在は否定できない。
  8)つまり、5)と同時に7)であると思っていることが問題である。
 
10.8〜9を音読する。
11.哲学の洞窟とは。【提言】
 1)「哲学の長いトンネル」とは何か。【閉じた発問】
  ・「他我問題」「外界問題」
 2)トンネルと洞窟の違いは。【開いた発問】
  ・トンネルは、出口がある。
  ・洞窟は、出口がない。
 3)哲学の洞窟の様子は。【閉じた発問】
  ・見通しが悪く曲がっている。=解決の見通しが悪い。
  ・いくつもの枝道を持っている。=いろいろな考え方ができる。
  ・向こうに抜けられるように人に期待させる。
 4)どんな行動を取るか。【開いた発問】
  ・出口がありそうなので、一生懸命そちらに行こうとするが、徒労に終わる。
  ・疲れ果てて倒れる。
 5)どうすれば出られるか。【閉じた発問】
  ・入口から出て行く。
 6)そこはどこか。【閉じた発問】
  ・もといた所。
 7)もといた所とはどこか。【閉じた発問】
  ・「世界があり、意識を持った私と意識を持った他人たちがいる」
  ・「『すべては私の意識だ』と言わなくてもよいような形で『意識』という概念をとらえ直す」
 8)自分の言葉で表現する。【開いた発問】
  ・世界、私、他者がいる。
  ・私も他者も意識を持っている。
  ・すべては私の意識と考えない。
 9)この評論で言えばどの地点か。【開いた発問】
  ・「じゃ、外界はどこにあるんだ」と考える前の段階。
  ・4段落が終わった所。
 10)4段落までの内容を確認する。【説明】
  ・自我があって他我がある。
  ・外界があって内界がある。
  ・内界とは、意識していることである。
  ・外界とは、意識していないことである。
  ・私が意識していないものも存在する。
 11)なぜ「すべては私の意識だ」と言わないでもよいような形で「意識」をとらえ直すことが困難な道なのか。【開いた発問】
  ・私が意識できないものについて考えなければならないから。
 
12.4段落以前と5段落以降の違いは何だったのか。【提言】
 1)4段落以前の「外界」と「内界」を分ける基準は何だったか。【閉じた発問】
  ・他人のまなざし。
  ・外界=他人に分かる。
   内界=他人に分からない。
  ・この段階では、外界は存在していた。【説明】
 2)5段落以降の基準は。【閉じた発問】
  ・私の意識。
  ・内界=私が意識している。
   外界=私が意識していない。
      私が意識しないものは存在しない。
  ・この段階で、外界がなくなる。
 3)基準が、他人のまなざしから、私の視点に変わっている。【説明】
 4)「心の内」と「意識」はイコールか。【開いた発問】
  ・心の内にあるが、意識していないものである「無意識」はどうなるのか。
 5)「内と外」という二項対立の考え方は正しいのか。【開いた発問】
  ・簡単に割り切れないものがある。
  ・むしろ、その方が多い。
 
13.1の「過去形」「現在形」の意味は。【提言】
 1)「他我問題」「外界問題」は洞窟なので、いくら考えても解決はしないので考えるのをやめたので、過去形である。【説明】
 2)ということは、今は問題として考えなくなったので「今はない」と現在形である。

後半
 
1.10〜11を音読する。
2.新しい他我問題、外界問題とは何か。【提言】
 1)「ところが」という逆接の接続詞で、反対の展開を予告している。【説明】
 2)別の形の新しい問題とは何か。【閉じた発問】
  ・他者性の問題
  ・実在性の問題
 3)「他者」と「他者性」の違いは。【開いた発問】
  ・他者そのものだけでなく、他者に関するさまざまな性質を含む。
  ・他に、「○○」と「○○性」と言う言葉を出して考える。
  ・「〜のようなもの」
 5)今度の基準は何か。【閉じた発問】
  ・言語の内と外。
 6)「意識の内と外」で混乱したのに、また「内と外」はいう区分の仕方をしている。
  【説明】
 7)「意識の内と外」を確認する。【閉じた発問】
  ・意識の内=意識しているもの。
  ・意識の外=意識していないもの。
 8)「言語の内」「言語の外」とは何か。【閉じた発問】
  ・語り得るもの。自分の言葉で語ることができるもの。
  ・語り得ぬもの。自分の言葉で語ることができないもの。
 9)「語り得ぬ」とはどういうことか。【開いた発問】
  ・客観的にその存在を意識しているが、自分の言葉で表現できない。
  ・意識の内にあるが、言語の外にある。
 10)ここで取る可能性のある2つの単純な態度とは。【閉じた発問】
  1)すべては語り得る。語り得ぬものは存在しない。
  2)語り得るものと、語り得ぬものは共存。
 11)外界問題では、それぞれ何に当るか。【閉じた発問】
  1)洞窟。
  2)もといた所。
 12)なぜ単純になるのか。【開いた発問】
  ・外界問題と同じく、「内と外」の2項対立で考えている。
 
3.「愛」という言葉の意味をノートに書かせ、発表させる。
 ・多様な答えが出てくることによって、個人的な意味が付加されていることを確認する。
4.12〜14を音読する。
5.日常のコミュニケーションはどのように行われているか。【提言】
 1)日常のコミュニケーションはどのように行われているか。【閉じた発問】
  ・言語の内と外を行き来している。
 2)「言語の内と外を行き来している」とは。【閉じた発問】
  ・私の言語の外に向けて話し掛け、私の言語の外からの声を聞いている。
 3)それはどういうことか。【開いた発問】
  ・私と他者が同じ言語を共有しているなら、同じ言葉を使えば同じ意味として通じる。
  ・私が同じ言語の意味の内で他者に話し掛け、同じ言葉の意味の内で他者の声を聞いている。
  ・しかし、私の言語と他者の言語とは違う。
  ・私は私の言語と違う言語を持った他者に話し掛け、私の言語と違う他者の言語を聞いている。
  ・極端に言えば、ある人は日本語で、ある人は英語で、ある人は中国語で話しているようなものである。
 3)現実にそう感じるか。【開いた発問】
  ・感じない。
  ・同じ国の言葉を使う同士は、コミュニケーションが成立しているように感じる。
 4)こんなことが起こっているのか。【提言】
 
6.2種類の言葉について【提言】
 1)今、私が話している言葉をどのように獲得したか。【閉じた発問】
  ・周囲の大人たちから学んだ。
 2)その特徴は。【閉じた発問】
  ・公共的な。
  ・外に開かれた。
 3)この言語を「一般言語」と呼ぶことにする。【説明】
  ・情報の伝達には不可欠である。
  ・指示をしたり約束をする時に、言葉の意味が違っていれば成立しない。
 4)逆接の「ところが」で、言葉の違う一面を提示する。【説明】
 5)どういうことが起こるのか。【閉じた発問】
  ・ある人の用いる言語の意味は、その人の人生経験に影響される。
  ・個人の人生経験によって言葉の意味が違ってくる。
 6)この言語を「個人言語」と呼ぶことにする。【説明】
 7)「言語は公共的な生まれを持ちつつも、個人のもとに発散していく」とは。【開いた発問】
  ・言語の公共的なものとして獲得するが、その後の人生経験によって個人的な意味がつけ加わってくる。
 8)「愛」を例を確認する。【説明】
 9)「言語の内と外」の「言語」とはどちらの言語か。【閉じた発問】
  ・個人言語。
 
7.意味の他者性とは何か。【提言】
 1)私の個人言語と他者の個人言語では、同じ言葉でも意味のズレが生じる。【説明】
 2)「意識の他者性」とは何だったか。【閉じた発問】
  ・その人なりの意識を持っている他者。
  ・他我。
 3)「意味の他者性」とは。【開いた発問】
  ・その人なりの言葉の意味を持っている他者。
  ・その人なりの個人言語を持っている他者。
 4)なぜ、理解しきれないのか。【開いた発問】
  ・個人言語が違うから。
 5)なぜ、全く理解を拒むわけでもないのか。【開いた発問】
  ・一般言語を共有しているから。
  ・一般言語の範囲で、理解することもできるから。
 6)するとどうなるのか。【閉じた発問】
  ・「理解してごらん」と誘惑してくる。
 
8.15〜16を音読する。
9.「実在性」の問題とは何か。【提言】
 1)「同じような誘惑の声」とは何か。【閉じた発問】
  ・「さぁ、理解してごらんという声」と同じ、「さぁ、語り出してごらん」。
 2)「他者性」は私の言語と他者の言語が違うという「言語の内と外」の問題であったが、「実在性」も「言語の内と外」の問題である。【説明】
 3)「実在」の辞書的な意味は、実際に客観的に存在することである。【説明】
 4)コーヒーの味わいや山登りの様子は実在のものであるが、言葉で表現し尽くせない。【説明】
 5)他にどんなものがあるか。【開いた発問】
  ・言葉で言い表せない感動や感覚。
  ・難しい問題など、何となくわかっているが、うまく言い表せない。
  ・悩みはあるが、その正体が分からず、もやもやしている。
   ・それをカウンセリングで言語化することによって、言語の内に入ってくる。
   ・悩みの正体が少しでも明らかになれば、もやもや状態は少し解消される。
 6)「実在性」の在りかはどこにあるか。【閉じた発問】
  ・言葉で表現し尽くせないものが、語り出してごらんと誘惑している所。
  ・自分の中にあるもので、存在を実感してはいるが、今は自分の言葉で語ることができない。
 7)語り出すにはどうすればいいか。【閉じた発問】
  ・私自身の手持ちの言葉を変え、私自身を変える。
 8)そのためにはどうしたらいいか。【開いた発問】
  ・語り得ぬものを語るには、個人言語を増やす。
  ・個人言語は、人生体験に影響されるから、人生体験を増やす。
  ・人生体験を増やせば、私自身が変わる。
 9)実在性の問題とは何か。【開いた発問】
  ・自分で実感しているが、自分の言葉で表現しきれない存在の問題。
  ・言語を通して、私と実在を結びつけていく。



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他者の声 実在の声 学習プリント           点検日  月  日
                  組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 30 他我 外界 対 収まる 31 苦味 32 洞窟 33 堅気 36 鎮座 声高 
2.語句の意味を調べなさい。

他我問題  
外界問題  
みょうちきりん  
自閉  
袋小路  
堅気  
清算  
鎮座  


学習のポイント
1.「他我問題」「外界問題」とは何かを理解する。
2.それらの問題が過去形で語られ、現在形で「今はない」と表現できる理由を理解する。
3.外界とは何か、内界とは何かを理解する。
4.「意識」の働きを理解する。
5.「他我問題」と「外界問題」の関係と、その矛盾の解決法を理解する。
6.「他者性の問題」「実在性の問題」とは何かを理解する。
7.「言語の外」とは何かを理解する。
8.コミュニケーションにおける言語の性質と働きを理解する。
9.「意味の他者性」とは何かを理解する。
10.「他者性の問題」「実在性の問題」を解決する方法を理解する。
11.指示語の指示内容を確認する。
12.接続語の働きを確認する。