教材観
 短歌は五七五七七、俳句は五七五である。どちらも短詩である。しかし、十四字の差は大きい。短歌は三十一文字の中にかなりの心情や情景をストレートに読み込める。俳句は十四字分を省略する。その分、鑑賞する時に言葉を補わなければならない。
 短歌の鑑賞は言葉を通して作者の心情や見ている情景を追体験していく。詩よりさらに選ばれた表現なので一つ一つの言葉を大切にしなければならない。しかし、詩よりも構造が単純なので、意味がわからないということはない。その変わり、言葉の情感を大切にしなければならない。
生徒観・指導観
 人間の心情や情景をストレートに表現したものに歌謡曲やニューミュージックがある。生徒はこれらと深く関わっているが、短歌や俳句と接する機会は少ない。短歌は五七五七七、俳句は五七五であるということも知らないかもしれない。まず、形式的なことから入り、一般的な鑑賞の仕方を説明する。一つ一つの短歌を鑑賞していたのでは時間もかかるし単調にもなる。何首にか絞る必要があるが、それは生徒の人気投票による。上位の短歌から鑑賞していく。その際、ポイントを生徒に質問しながら、鑑賞の仕方がわかるように説明する。


1.短歌の鑑賞の仕方を説明する。
 1)大意
 2)心情や情景
 3)感動の中心
 4)技巧(区切れ、字余り、倒置法、体言止め)


その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな  与謝野晶子

 1)語句の意味。
  ・櫛にながるる=櫛で髪をといている様子。
  ・黒髪=若い女性の美しさの象徴。
  ・おごり=得意になり人に誇ること。
  ・春=青春。
 2)歌意をとる。
  ・その子は二十才である。櫛に流れる黒髪は誇らしい青春を象徴していて非常に美し   い。
 3)修辞は。
  ・初句切れ。
  ・体言止め。
  4)「その子」とは誰か。
  ・作者自身。
  ・作者は実際は二十三才である。
  ・自己賛美、自己陶酔の歌である。
  5)感動の中心は。
  ・うつくしきかな。
  ・詠嘆の終助詞が使ってある。
 6)自分の女性としての美しさを明治にあってエロチックに表現した歌として、「B
  やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」を紹介する。
  ・「道を説く」とは、道徳ばかりうるさく言って人間的に固い様子。
  ・「君」は、夫になった与謝野鉄幹であるという説もある。
  ・「乳房おさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き」


たはむれに母を背負ひて  石川啄木
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず


 1)啄木特有の分かち書きについて説明する。
 2)語句の意味。
  1)「たはむれ」の意味は。
   ・ふざけて
   ・遊びで
  2)「そのあまり」の意味は。
   ・程度が甚だしい。
   ・予想を越えている様子。
  3)「三歩」の程度。
   ・実際に三歩ではなく、少ない様子。
   ・二歩までは歩けたが、三歩目は歩けなかった。という解釈も面白い。
  4)「あゆまず」と「あゆめず」の違いは。
   ・「あゆめず」は歩もうとするができない。
   ・「あゆまず」は自分の意志で歩めない。
 3)歌意をとる。
  ・ふざけて母を背負って歩いてみると、あまりに軽いので、自然と涙が出てきて、   ほとんど歩けなかった。
 4)なぜ、三歩も歩かなかったのか。
  ・あまりに軽いので、悲しくなって、これ以上歩こうとしなくなった。
  1)なぜ軽いのか。
   ・苦労をかけたせいでやせ衰えてしまった。
  2)作者の気持ちは。
   ・母に申し訳ないと思っている。
 5)「そのあまり」の効果は。
  ・ふざけて母を背負ったここと、意外なほど軽かったことの差の大きさを表現して   いる。
 6)感動の中心は。
  ・軽きに泣きて


友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ

 1)歌意をとる。
  ・友だちがみんな自分より偉く見える日だ。花を買って来て妻と親しむ。
 2)句切れは。
  ・三句切れ。
 3)「友がみな」の表現の効果は。
  ・一人か二人に負けたにもかかわらず、みんなに負けたような気になる。
 4)作者の気持は。
  ・劣等感。
  ・裏には、非常に強い自信がある。
 5)「妻と親しむ」気持は。
  ・家庭で慰め合っている。
  ・社会からの逃避。
 6)なぜ、「花」なのか。
  ・美しいもの。非現実的なもの。
 7)感動の中心は。
  ・見ゆる日よ


白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ  若山牧水

 1)語句の意味は。
  1)白鳥の種類は。
   ・鴎
  2)「かなし」の意味は。
   a)「悲しい」ならば孤独。
   b)「いとおしい」ならば純粋さへの賛美。
  3)ずや
   c)(推量の語を伴って)打消しの疑問の意を表す。…ないで…だろうか。
   d)(文末に用いて)反語の意を表す。…ないだろうか。
  4)「かなしからずや」の解釈は。
   a)+c)孤独で寂しくないのだろうか。
      白鳥の心情を推測。
   b)+d)純粋でいとおしくないだろうか、いやいとおしい。
      白鳥を見ている作者の心情。
  5)「ただよふ」の意味は。
   ・空中などに浮かんで揺れ動く。一つ所にとどまらずゆらゆら動いている。
   ・「飛ぶ」ではなく、頼りなく、さまよっている。
   a)+c)さまよっているので、孤独である。
   b)+d)孤高を保ち、悠然と舞っている。
  4)ただよふ
 2)歌意をとる。
  ・白鳥は寂しくないのだろうか。空の青にも海の青にも染まらずに、孤独にゆらゆら   と空をさまよっている。
  ・白鳥はいとおしくないだろうか、いやいとおしい。空の青にも海の青にもそまらず   に悠然と空を舞っている。
 3)句切れは。
  ・二句切れ。
  4)色彩について。
  ・空と海の青と、白鳥の白の対比が美しい。
  ・「空」の「青」は澄んだ青、「海」の「あを」は深い青、藍。
 5)「白鳥」は何を象徴しているのか。
  ・孤独な作者。
  ・周囲に流されず孤高を保っている作者。でも、内面に寂しさがある。
 6)感動の中心は。
  ・かなしからずや。


みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ  島木赤彦

 1)語句の意味を考える。
  1)なほ
   ・まだ。いっそう。加えて。あたかも。
  2)影
   ・姿。
  3)うつろふ
   ・映る=姿・形・影などが、反射や投影によって、他の物の上に現れる。
   ・移る=移動する。
 2)歌意をとる。
  ・湖の氷は溶けたがまだ寒い。三日月の姿が波に映って移っている。
 3)氷が解ける効果は。
  ・より寒くなる。
  ・なほ=いっそう。
 4)三日月のイメージは。
  ・鋭さ、厳しさを表現。寒さを強調。
 5)湖の様子は。
  ・寒い水面に、三日月が映って、より寒さを強調している。
  ・張りつめた透き通った厳しさを表現している。
 6)感動の中心は。
  ・なほ寒し


のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり  斎藤茂吉

 1)語句の意味は。
  ・玄鳥=燕。
  ・足乳根=「母」の枕詞。
  ・死にたまふ=お亡くなりになる。母への尊敬語。
  ・屋梁=棟を支えるために水平にわたした木材。
 2)歌意を取る。
  ・のどの赤い燕が二羽梁に止まっていて、母はお亡くなりになった。
 3)玄鳥二羽の意味は。
  ・のどの赤さが生命を象徴している。
  ・釈迦が死ぬ時に、動物に見守られたのと重ねている。
 4)尊敬語を使った意味は。
  ・母を尊敬している。感謝している。
 5)感動の中心は。
  ・死にたまふなり。


昼ながら幽かに光る蛍一つ孟宗の藪を出でて消えたり  北原白秋

 1)語句の意味は。
  ・孟宗=竹の種類。
 2)歌意をとる。
  ・昼ではあるが、微かに光る蛍が孟宗の竹藪から出てきて消えていった。
 3)句切れは。
  ・句切れなし。
 4)光のコントラストについて。
  ・昼=明るさ
  ・藪=暗さ
  ・蛍=一瞬の輝き
 5)「出でて消えけり」の感じは。
  ・はかない、悲しい、寂しい。
  ・生命を象徴。
  6)感動の中心は。
  ・出でて消えけり



俳句の鑑賞の仕方を説明する。
 @大意をとる。
 A季語を見つけ、季節を考える。
 B切れ字に注目し、句の中心を考える。
 C省略部分を補って、情景や心情を再現する。


いくたびも雪の深さを尋ねけり  正岡子規

●何度も雪の深さを尋ねた。
 ○雪(冬)
 ○けり(詠嘆)
 1)「いくたびも」尋ねている理由は。
  ・自分では見られないから人に聞いている。
  @自分では見られない理由は。
   ・病気で寝ているから。
   ・作者の病状は、1月にはわずかに歩行できたが、2月には腰が腫れて身動きでき    ない状態になった。
 2)「雪の深さ」を尋ねた理由は。
  ・雪景色が見たいから。
  @雪を見たい理由は。
   ・子どもの頃に外で雪遊びをしたことを思い出している。
 3)作者の気持ちは。
  ・子どもの頃は雪が降ると外で雪遊びをしたのに、今は起きて見ることもできない、もどかしさ。


山国の蝶を荒しと思はずや  高浜虚子

 ●山国の蝶を荒々しいと思いませんか。
 ○蝶(春)
 1)「山国」とはどこか。
  ・山に囲まれた所。
  ・実際は、虚子の住んでいる信州小諸。
 2)「蝶」のイメージは。
  @ここでの様子は。
   ・荒々しい。
  A普通のイメージは。
   ・女性的で優雅。
  B違うのは何か。
   ・飛び方。
 3)誰に問いかけているのか。
  ・一緒に蝶を見ている人。
  @作者らは何をしているのか。
   ・散歩。
  Aその人はなぜ作者といるのか。
   ・作者を訪ねてきた客。
  Bその人はどこから来たのか。
   ・都会。
   ・都会の蝶と山国の蝶の違いを問いかけている。
 4)どういう状況で読まれた俳句か。
  ・あいさつ。
 5)最初は「山国の蝶は」と詠まれていたが、違いは。
  ・「は」は、蝶を強調しすぎている。「を」は焦点が絞られる。


冬蜂の死にどころなく歩きけり  村上鬼城

 ●冬に蜂が死に場所を探して歩いている。
 ○冬蜂(ふゆ)
 ○けり(詠嘆)
 1)冬の蜂を説明する。
  @この蜂は雄か雌か。
   ・雄。
  ・受精した雌蜂は越冬するが、雄蜂は冬に死に絶える。
 2)「歩きけり」の様子は。
  ・飛ぶ力も尽きてよたよたと地面を移動している。
 3)作者の主観が反映されている句は。
  ・「死にどころなく」
  @実際は。
   ・蜂が死にどころを探して移動しているのではない。
   ・ただ飛べないから地面を移動しているに過ぎない。。
  Aどんな気持ちを表現したのか。
   ・やりきれない、みじめな、あわれな感じ。
  B何に対して感じているのか。
   ・蜂だけでなく自分自身に対して。
   ・自己憐憫。
   ・作者は若い頃から耳が悪く、司法官への道を断念し、多くの子女を抱えて窮乏生    活をしていた。
   ・この時、五十歳であった。
   ・人間社会にも似たものが多くある。
 4)村上鬼城の句の特徴を説明する。
  ・小動物などに憐憫の感情移入をしてとらえ、それに自己を投影させる。


滝落ちて群青世界とどろけり  水原秋桜子

 ●滝の水が滝壺に落ちて、その音が群青色の世界をとどろかしている。
 ○滝(夏)
 ○り(詠嘆)。とどろけ(四已)り(存続止)
 1)滝はどこの滝か。
  ・熊野の那智の滝。
 2)滝の水が落ちる様子は。
  ・力強く,豪快。
 3)「群青世界」とは。
  @群青色は。
   ・濃い青色。
  A何を指しているのか。
   ・山杉の色と、滝壺の水の色。
   ・滝を取り巻くあたり一体。
  B表現の効果は。
   ・色彩感豊かで力強く簡潔な表現。
  B作者の造語である。
 4)何をとどろかしているのか。
  ・群青世界一帯と作者の魂。
  ・自己と風景を一体化している。


万緑の中や吾子の歯生え初むる  中村草田男

 ●一面の緑の草木の中に私の子どもの歯が生え始めた。
 ○万緑(夏)
 1)「万緑」のイメージは。
  ・見渡すかぎりの初夏の新緑。
  ・みずみずしい生命感。
  ・力強く張りがある。
  ・中村がこの句で季語にした。
 2)対比されているものは。
  ・「万緑」と「吾子の歯」。
  ・緑と白。
  ・大と小。
  ・遠と近。
  ・漢語と和語。
 3)共通点は。
  ・生命力。
 4)この技法の名称は。
  ・二物衝撃。


木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ  加藤楸邨

 ●木の葉が散り続けて止まらない。急ぐなよ、急ぐんじゃないぞ。
 ○木の葉(冬)
 ○8・4・5の破調。
 1)「木の葉ふりやまず」の様子は。
  ・空間的であると同時に時間的でもある。
  ・本格的な冬の到来。
 2)「いそぐなんそぐなよ」がひらがな表記されている効果は。
  ・散り急ぎながら、ためらっている。
 3)外面と内面の対比は。
  ・木の葉が散り止まないという外面描写。
  ・急ぐなという内面的描写。
 4)何に対して急ぐなと言っているのか。
  ・木の葉と自分自身。
  ・病気である自分に言い聞かせている。


つきぬけて天上の紺曼珠沙華  山口誓子

 ●突き抜けるような青空に真っ赤な花をつけた曼珠沙華がすっくと立っている。
  真っ赤な曼珠沙華が青空を突き抜けるような勢いですっくと立っている。
 ○曼珠沙華(秋)
 1)「天上の紺」とは。
  ・晴れ上がった秋の青空。
 2)「曼珠沙華」の特徴は。
  ・葉のない三十pぐらいの緑の茎の頂きに真っ赤な花を輪状に咲かせている。
 3)対比されているものは。
  ・紺と紅。
  ・二物衝撃。
 4)「つきぬけて」の係り受けは。
  ・「空」にかかって、空が突きぬけるように晴れ渡っている。
  ・倒置的に「曼珠沙華」にかかって、曼珠沙華が空に突きぬけるように立っている。
 5)音の効果は。
  ・「天」「紺」「曼」が撥音で、緊張した感じを表現している。



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