春夜宴桃李園序

李 白


 万物や光陰は旅人のごとく絶えず変化している。芭蕉は自分が旅人であることと重ねて典拠とした。李白は絶えず変化する万物や時間の中に生きる人生も夢のようにはかないものととらえた。それならば、喜びを感じる時間も少ない。だから、昔の人が昼間だけでなく夜も灯を点して楽しもうとしたのはもっともで、ましてや、暖かな春、詩文の才能のある人々ならなおさら夜を惜しんで楽しむべきである。長命、魔よけの象徴である桃の花が咲き乱れる庭園で、兄弟たちが宴会を開いて楽しんでいる。年下の俊才達は謝恵連のような優れた詩文を書くが、わたしの詩文はその従兄弟の謝霊運にも及ばない。宴たけなわであるが、もしよい作品ができなければ、金谷の故事にならって4杯の酒を飲ませよう。


春夜宴桃李園序  学習プリント

点検  月  日
学習の準備
1.次の漢字の読み方を書け。

逆旅  光陰  過客  而シテ  若シ  幾何  況ンヤ  慚ヅ  未ダ

転タ  雅懐  如シ  
2.左右2行ずつ空けて原文を写しなさい。
3.原文の右に書き下し文を書きなさい。特に、次の部分に注意しなさい。
 1)而 浮 生 若 夢、為 歓 幾 何。
 2)況 陽 春 召 我 以 煙 景、大 塊 仮 我 以 文 章。
 3)幽 賞 未 已、高 談 転 清。
 4)不 有 佳 作、何 伸 雅 懐。
4.原文の左に現代語訳を書きなさい。

学習のポイント
1.スケールの大きな書き出しを理解する。
2.芭蕉の「奥の細道」と比較する。
3.春のイメージを代表する言葉を理解する。
4.古人の風流と桃李園の春夜の風流を比較する。
5.群季の俊秀と吾人の才能を比較する。
6.桃李園の宴会の様子を理解する。
7.清らかなイメージの言葉を理解する。
8.桃李園の宴会に参会している人々の生き方を理解する。
9.典拠のある表現を理解する。
10.四六駢儷体について、四字句六字句、対句を理解する。
11.比況の句法を理解する。
12.疑問の句法を理解する。
13.抑揚の句法を理解する。
14.反語の句法を理解する。
15.仮定の句法を理解する。

1.【指】学習プリントを配布し、書写、書き下し、訳を宿題にする。
2.【指】宿題の点検をする。
3.【L1】芭蕉の「奥の細道」の冒頭を言わせる。
 ・月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。
 ・この文章の冒頭と重なることを確認する。
 ・芭蕉はこの文章をもとに、「奥の細道」を書いた。
4.【説】四六駢儷体について説明する。
 ・「四六」というのは、句の文字数が4字、6字になっていること。
 ・「駢」は二頭立ての馬、「儷」は偶数を表す。二つ揃って並ぶものであるから、「対  句」を指す。

5.夫 天 地 者 万 物 之 逆 旅、光 陰 者 百 代 之 過 客。而 浮 生 若 夢、為 歓 幾 何。
 1)【語】語句の意味を説明する。
  ・夫レ=そもそも。発語の辞。
  ・逆旅(ゲキリョ)=宿屋。
  ・光陰=月日。光陰矢の如し。
  ・百代=永遠。
  ・過客=旅人。
  ・而シテ=そして。順接。
  ・浮生=はかない人生。
  ★若(ゴト)シ〜=比況の句法。〜のようだ。
  ★幾何(イクバク)ゾ=疑問の句法。数量を問う。どれぐらいだろうか。
 2)【訳】
  ・そもそも、天地は万物の宿屋であり、月日は永遠の旅人である。そして、はかない人生は夢のようで、楽しみを成すことはどれぐらいだろうか。
 3)【L2】対句は。
  ・天 地 者 万 物 之 逆 旅=空間
  ・光 陰 者 百 代 之 過 客=時間
 4)【L2】字数は。
  ・8(天 地 者 万 物 之 逆 旅)、8(光 陰 者 百 代 之 過 客)
  ・4(浮 生 若 夢)4、4(為 歓 幾 何)
 5)【説】スケールの大きな書き出しである。

6.古 人 秉 燭 夜 遊、良 有 以 也。況 陽 春 召 我 以 煙 景、大 塊 仮 我 以 文 章。
 1)【語】
  ・古人=昔の人。
  ・燭=あかり。ロウソク。
  ・以(ユエ)=理由。
  ★A況ンヤBヲヤ=抑揚の句法。初めに軽く抑えて言い、次に強く揚げて言う。Aでさえ〜だから、ましてBならなおさらだ。
  ・煙景=霞たなびく景色。霞を煙に例えた。
  ・大塊=造物主。
  ・仮=貸し与える。
  ・文章=詩文を作る才能。
 2)【訳】
  ・昔の人は明かりを手に持って夜遊んだ。本当に理由があることだ。まして、暖かな春が霞たなびく春の景色が私を招き、造物主が詩文の才能を貸しあたえるのだから、   夜遊ぶのはなおさらだ。
 3)【L2】対句は。
  ・陽 春 召 我 以 煙 景
  ・大 塊 仮 我 以 文 章
 4)【L2】字数は。
  ・6(古 人 秉 燭 夜 遊)、4(良 有 以 也)
 5)【L2】なぜ、古人は夜遊ぶのか。
  ・人生は短く、楽しみをする時間が限られているから。
 6)【L2】なぜ、なおさらなのか。
  ・季節もよく、才能もあるから、詩文を作って遊びたくなるから。

7.会 桃 李 之 芳 園、序 天 倫 之 楽 事。
 1)【語】
  ・桃=長命の象徴、魔除けになる。日本の桜のように、中国を代表する花。
  ・李=巴旦杏。プラム。
  ・芳園=薫り高く桃の咲く庭園。
  ・序=ほどよく行う。
  ・天倫=兄弟たち。天の定めた順序ある間柄。
 2)【訳】
  ・桃李の花が薫り高く咲く庭園で、兄弟たちが楽しい宴を滞りなく行う。
 3)【L2】対句は。
  ・会 桃 李 之 芳 園
  ・序 天 倫 之 楽 事
 4)【L2】字数は。
  ・6(会 桃 李 之 芳 園)、6(序 天 倫 之 楽 事)

8.群 季 俊 秀、皆 為 恵 連。吾 人 詠 歌、独 慚 康 楽。
 1)【語】
  ・群季=諸弟。年下の者。
  ・俊秀=秀才たち。詩文の才能のあるもの。千人に優れているのを「俊」、万人に優れているのを「秀」。
  ・恵連=南朝の詩人。謝霊運の族弟。一族の中で年下の者。
  ・愧ヅ=恥ずかしい。
  ・康楽=謝霊運。
 2)【訳】
  ・年下の秀才たちは、謝恵連のような優れた詩文を作るが、私だけは謝霊運に対して恥ずかしい。
 3)【L2】対句は。
  ・群 季 俊 秀、皆 為 恵 連。
  ・吾 人 詠 歌、独 慚 康 楽。
 4)【L2】何と何を対比させているか。
  ・群季(従弟)と李白(従兄)
  ・謝恵連(従弟)と謝霊運(従兄)
 5)【L2】字数は。
  ・4(群 季 俊 秀)、4(吾 人 詠 歌)
  ・4(皆 為 恵 連)、4(独 慚 康 楽)
 6【L2】何が言いたいのか。
  ・自分の詩文の才能のなさ。
  ・しかし、李白は超一流の詩人であり、謙遜である。

9.幽 賞 未 已、高 談 転 清。
 1)【語】
  ・幽賞=心静かに風景を愛でること。
  ★未〜=再読文字。
  ・高談=高尚な話。
  ・転(ウタ)タ=いよいよ。ますます。
 2)【訳】
  ・心静かに風景を愛でることがまだ終わらず、高尚な話はますます清らかに弾む。

10.開 瓊 筵 以 坐 華、飛 羽 觴 而 酔 月。
 1)【語】
  ・瓊筵=立派な宴席。
  ・飛=杯を回す。やりとりする。
  ・羽觴=雀が羽を広げた形の杯。翼を付けた杯。
 2)【訳】
  ・立派な宴席を開いて、花の下に座り、雀が羽を広げた形の杯を盛んにやりとりして、月を眺めて酔う。
 3)【L2】対句は。
  ・開 瓊 筵 以 坐 華
  ・飛 羽 觴 而 酔 月
 4)【L2】字数は。
  ・6(開 瓊 筵 以 坐 華)、6(飛 羽 觴 而 酔 月)

11.不 有 佳 作、何 伸 雅 懐。如 詩 不 成、罰 依 金 谷 酒 数。
 1)【語】
  ・佳作=優れた作品
  ★何ゾ〜ン=反語の句法。どうして〜だろうか、いや〜ない。
  ・雅懐=風雅な気持ち。
  ★如シ〜バ=仮定の句法。もし〜ならば。
  ・金谷の酒数=金谷園で宴会を開いた時、詩ができない者に罰として三杯の酒を飲ませた故事。
 2)【訳】
  ・優れた詩文ができなければ、どうして風雅な気持ちを述べることができようか、いやできない。もし、優れた詩文ができなければ、罰は金谷園の故事にならって、三   杯の酒を飲ませよう。
 3)【L2】字数は。
  ・4(不 有 佳 作)、4(何 伸 雅 懐)
  ・4(如 詩 不 成)、6(罰 依 金 谷 酒 数)
 4)【L2】酒を三杯飲むことが罰になるか。
  ・これも余興である。



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