嶋岡晨の『詩のたのしさ』を元に、詩とは何かについて考える。


1.プリントを配布する。

2.ものの見方について1)2)
 1)ものの見方・理解の仕方は二種類あることを説明する。
  ・客観的、叙事(事実や事件を、ありのままに述べ記すこと)的、散文的。
  ・主観的、叙情(自分の感情を述べ表すこと)的、詩的。
 2)1)の文章は、どちらに当たり、どのように描写しているか。
  ・前者。
  ・ものを外側から冷静に描写している。
 3)2)「回復期」は、どちらに当たり、どのように描写しているか。
  ・後者。
  ・倒れた雁来紅を「血を喀いた人」のようだと感じた作者の主観。

3.ものの感じ方について
 1)自分の感じたことを述べれば詩になるのかを考えることを提示する。
 2)3)「バラが咲いた」の感性は。
  ・感動の一般的な共通性。
  ・鮮烈な発見や驚きがない。
  ・感動が概念化されて感じることの深まりがない。
  ・感傷的。
 3)4)「碑名」の主旨と感性や思想は。
  ・死の眠りと生の眠りが、生がたちまち死に変化する、そういう恐るべき矛盾こそが   人間の生の喜びである。
  ・思想的な深まりがある。
 4)5)「薔薇VI」の主旨は。
  ・薔薇を人間の良心や心や美しさの象徴として、それらを奪ってしまった文明社会を   批判している。
 5)詩の感じ方とは何か。
  ・誰もが感傷的に感じたり考えたりすることではなく、詩人独特の深い感性や思想が   ある。

4.想像力について
 1)詩人特有の感性や思想とは何かを考えることを提示する。
 2)6)「皿」の想像力は。
  ・一枚の空っぽの皿に、果物や、愛すべき女性、思想まで見てしまう。
  ・幻想ではなく、見えないものを見る意志。
 3)7)「一つのメルヘン」の想像力は。
  ・何もなかった石だけの河原に、蝶、水が想像される。
 4)詩の想像力は。
  ・現実にはあり得ない世界を楽しませてくれる。

5.比喩について
 1)想像力の一つである比喩について考える事を提示する。
 2)8)の比喩を説明する。
  ・言い古された陳腐な比喩。
  ・驚きを呼ばないどころか、俗悪な不快感をもたらす。
 3)9)の比喩を説明する。
  ・突飛であるが、対象を的確にとらえていないので実感を伴わない。
 4)10)「土」の比喩は。
  ・蟻が蝶を運ぶ姿をヨットに譬えている。
  ・発見や驚き、気づかない感性を目覚めさせてくれる。
 5)11)「耳」の比喩は。
  ・耳の形を貝殻に見立てている。
  ・見なれたものに全く別のものを見る。
 6)詩の比喩とは何か。
  ・作者独特の感性による発見や驚き。

6.擬態語・擬音語について
 1)聴覚的な比喩である擬態語や擬音語について考えることを提示する。
 2)12)「遺伝」の擬音語は。
  ・犬は、ワンワンと吠えたり、ワォーンと遠吠えする。
  ・悲しく暗い遠吠えが、作者にはこのように聞き取れた。
 3)13)の詩の題と擬声語は。
  ・誕生祭。
  ・蛙は、ゲロゲロと鳴く。
  ・誕生を祝って生命力にあふれた合唱は、このように聞こえた。
 4)詩の擬態語や擬声語の特徴は。
  ・敏感な心が聞き取ったものを、素直に感じたままに表現した。
  ・聴覚的な驚きと、実感に近いことに喜びを感じる。

7.リズムについて
 1)韻文の特徴の一つであるリズムについて考えることを提示する。
 2)14)「小諸」のリズムは。
  ・五七の規則的な音数で構成されている。
  ・短歌や俳句から受け継がれた、日本人の体質に合ったリズム。
 3)15)「原体剣舞連」のリズムは。
  ・村人の原始的な群舞を表現する。
  ・力強く、重く流れる音数の反復。
  ・7音の繰り返しが力強く重いリズムを生む。
   6音や5音が、踊り手の軽妙な剣さばきの切れ味を表現する。
   522音は、踊り手が一気に駆け寄ってくるスピード感がある。
  ・濁音や母音が男性的な逞しさを表現している。
 4)16)「永訣の朝」のリズムは。
  ・死んでいく妹への深い悲しみ。
  ・7音の多用が、重い悲しみを表現している。
  ・一行14音の多用によるリズムの固定が、悲しみに耐える抑制感を表現している。
  ・息の長い単調さが、切なさやもどかしさを表現している。
 5)詩人のリズム感とは。
  ・音数の効果や音の効果を計算したのではなく、感性がリズムになった。

8.文字について
 1)視覚的な問題について考えることを提示する。
 2)17)「富士山」の文字から受けるイメージは。
  ・感じが多用されている。
  ・ダイナミックな迫力を感じさせて、男性的なイメージを描き出す。
 3)18)の題の続きと文字から受けるイメージは。
  ・ひらがなが多用されている。
  ・女性的で優しくなよやかなイメージ。
  ・「裸体」
 4)19)「雨ニモマケズ」の文字から受けるイメージは。
  ・カタカナが多用されている。
  ・引き締まって清潔なイメージで、ストイックな倫理観を表現している。
 5)文字が詩にもたらす効果は。
  ・絵画的要素として、詩人の個性や思想によって決定される。

9.実験について
 1)以上詩とは何かについて考えてきたが、それらの要素から新たな実験がなされた。
 2)20)の題と効果は。
  ・「白い少女」が6列10行と4列、合計64個並んでいる。
  ・白い体操服を着て運動場に整列した女子生徒。
  ・少女のような白い花の群れ。
  ・「ALBUM」。
  ・文字の絵画的な要素の実験。
  ・最初は驚くが、時間が経つと形骸化して、奥深い人間的感動がない。
 3)21)「一九九一年集」のイメージは。
  ・視覚的な実験。
  ・皿が何十枚と積み上げられた食堂の調理場を連想させる。
  ・単調な生活の倦怠感から発する狂気とユーモアが感じられる。
 4)22)の題とイメージは。
  ・聴覚的、視覚的な実験。
  ・「る」が26個並んでいる。
  ・草野心平は蛙の詩人として知られている。
  ・蛙の卵が田んぼの水に浮かんでいる。
  ・「る」という音が何かを秘めてこもっている。
  ・「春殖」。
 5)23)の題とイメージは。
  ・視覚的な実験。
  ・黒い丸が紙面のしたの方に一定の大きさで書かれている。
  ・地面の中で丸くなっている様子。
  ・「冬眠」。

10.詩と短歌について
 1)短歌と詩の違いは。
  ・短歌は、三十一文字で完結している。
   新しい背広で旅をしたかったが、今年もできなかったという思いを述べている。
  ・詩は短歌より長いので、語同士が互いに反映しあい、一つの情感として表れる。
   新しい背広で行きたかった場所はフランスで、遠くて行けなかったので、その代わ   りに国内を旅行したときの様子を述べている。

11.詩と俳句について
 1)情景を説明する。
  ・鮟鱇は鉤に引っかけられて、切り売りされる。それは残酷非常な眺めである。
  ・俳句は、十七文字の中に季語を入れるので、余計な言葉が削られ、イメージが煮詰   められるので、言外に暗示する。
   表現の単純化によって、解釈が広がり、主題の把握が困難になることもある。
   一句一句の完結性がもたらす型の拘束が強い。
  ・詩は、型の拘束を嫌い、主題を明確にする。
   鮟鱇の生の悲惨さに、現代社会の残酷性を重ねている。



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詩とは何か

A ものの見方
1)楕円形の葉と赤と黄色の斑紋をもつ雁来紅が、庭先に三本、植えられていて、一本は倒れている。
2)庭さきに
 血を喀いた人のように
 雁来紅が殪れている     (村野四郎「恢復期」)

B ものの感じ方
3)バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが
 さびしかった僕の庭に バラが咲いた
 たった一つ咲いたバラ 小さなバラで
 さびしかった僕の庭が 明るくなった
 バラよ バラよ 小さなバラ
 そのままでそこに咲いてておくれ     (浜口庫之助「バラ咲いた」)
4)薔薇 おお 純粋な矛盾 よろこびよ
 このようにおびただしい瞼の奥で なにびとの眠りでもないという     (リルケ「碑銘」)
5)うちつづく人類の暗澹たる時代。
 薔薇は凌辱されつくしたのだ。
 もぎとられ、ふみにじられて、
 人生から掃いてすてられたのだ     (金子光晴「薔薇VI」)

C 想像力
6)しろい一枚の皿を 見てゐることはかなしいことだ
 そこに季節の果物が 燈火のやうにもりあがり
 あたたかいよい女性の肉があふれ
 まずしいみずいろの わたしの思想がみち……
 ああ 一枚の
 からの皿を じつとながめてゐることは
 まことにかなしいことだ      (田中冬二「皿」)
7)さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
 淡い、それでゐてくつきりとした
 影を落としてゐるのでした。/
 やがてその蝶が見えなくなると、いつのまにか、
 今迄流れてもゐなかった川床に、水は
 さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……     (中原中也「一つのメルヘン」)

D 比喩
8)あなたの瞳は、星のようだ
 あなたは、花のように美しい
9)あなたの瞳は、頭蓋骨のようだ
 あなたは、刑務所のように美しい
10)蟻が
 蝶の羽をひいて行く
 ああ
 ヨットのようだ     (三好達治「土」)
11)私の耳は貝のから
 海の響きをなつかしむ    (ジョン・コクトー「耳」)

E 擬音語・擬態語
12)お聴き! しずかにして
 道路の向ふで吠えてゐる
 あれは犬の遠吠えだよ。
   のをあある とおあある やわあ     (萩原朔太郎「遺伝」)
13)ぎゃろわっぎゃわろっぎゃわろろろろりっ
 ぎゃろわっぎゃわろっぎゃわろろろろりっ
 ぎゃろわっぎゃわろっぎゃわろろろろりっ     (草野心平「     」)

F リズム
14)小諸なる古城のほとり
 雲白く遊子悲しむ
 緑なす蘩蔞は萌えず
 若草も藉くによしなし
 しろがねの衾の岡辺
 日に溶けて淡雪流る     (島崎藤村「小諸なる古城のほとり」)
15)夜風とどろきひのきはみだれ
 月に射そそぐ銀の矢並
 打つも果てるも火花のいのち
 太刀の軋りの消えぬひま
  dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah     (宮沢賢治「原体剣舞連」)
16)ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
 あぁあのとざされた病室の
 くらいびやぶやかやのなかに
 やさしくあをじろく燃えてゐる
 わたくしのけなげないもうとよ     (宮沢賢治「永訣の朝」)

G 文字
17)炎炎烈烈。
 むらさき色の夏の富士。
 聖六華。
 兆億億の雪きしみ鳴る冬の富士。     (草野心平「富士山」)
18)鏡のおもて
 魚のように ゆらゆらと うごめくしろいもの、
 まるいもの、ふといもの、ぬらぬらするもの、べつたりとすひつきさうなもの
 夜の花びらのやうに なよなよと およぐもの、さては、うすあかいけもののやうに、
 のっぺりとしてわらひかけるもの。     (大手拓次「鏡にうつる    」)
19)雨ニモマケズ
 風ニモマケズ
 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
 丈夫ナカラダヲモチ
 慾ハナク
 決シテ瞋ラズ
 イツモシヅカニワラツテヰル     (宮沢賢治「雨ニモマケズ」)
 
H 実験
20)白い少女 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女
 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女
 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女
 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女
 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女 白い少女     (春山行夫「      」)
21)皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿
  倦怠
   額に蚯蚓這ふ情熱
 白米色のエプロンで
  皿を拭くな       (高橋新吉「一九九一年集」)
22)るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる     (草野心平「    」)
23)                       ●           (草野心平「    」)

I 詩と短歌
24)あたらしき背広など着て
 旅をせむ
 しかく今年も思ひ過ぎたる     (石川啄木「一握の砂」)
25)ふらんすへ行きたしと思へども
 ふらんすはあまりに遠し
 せめては新しき背広きて
 きままなる旅にいでてみむ。
 汽車が山道をゆくとき
 みづいろの窓によりかかりて
 われひとりうれしきことをおもはむ
 五月の朝のしののめ
 うら若草のもえいづる心まかせに。     (萩原朔太郎「旅上」」)

J 詩と俳句
26)鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる    (加藤楸邨)
27)顎を むざんに引っかけられ
 逆さに吊り下げられた
 うすい膜の中の
 くったりした死
 これは いかなるもののなれの果だ/見なれない手が寄ってきて
 切りさいなみ 削りとり
 だんだん希薄になっていく この実在
 しまいには うす膜も切りさられ
 もう鮟鱇はどこにも無い
 惨劇は終わっている/なんにも残らない廂から
 まだ ぶら下がっているのは
 大きく曲がった鉄の鉤だけだ     (村野四郎「さんさんたる鮟鱇」)