清少納言
(無名草子)


 清少納言の人物評である。まず、先生に清少納言はやりすぎだ、晩年の没落は自業自得だと言わんばかりの厳しい論調である。
 中宮定子の父である道隆の全盛期に仕えていた時に、自分の才能をひけらかしていたことは『枕草子』に書かれているので再述する必要はないとキッパリ切り捨てる。書く気もなかったのだろう。
 ここから批判の火蓋が切られる。まず、歌の才能について。三十六歌仙の一人である清原元輔を父に持ちながらも、才能がなかったと書く。その証拠に『後拾遺和歌集』に採録されている歌の数が極端に少ないことを指摘する。自分でも父の顔に泥を塗ってはいけないと自粛したのではないか、これは類推と言うか邪推と言うか。
 その『枕草子』は清少納言の意図が見え見えである。記述の中には「をかし」「あはれ」「いみじ」「めでたし」など素晴らしいことのオンパレードであるが、それは中宮定子の全盛期のことで、読んでいて「身の毛も立つ」ほどおぞましい。しかしながら、道隆が死んで息子が左遷されて家勢が衰えたことは、一言も書いていない。それは定子に対する見事な心遣いであると痛烈に皮肉る。そんな清少納言自身の晩年だが、しっかりした縁者もなく、乳母に付いて田舎へ落ちのびた。本当かどうか分からないが、着ている粗末な着物を干乾ししようとして、「昔の貴族の直衣が忘れられない」と独りごちていた。可哀相に、さぞかし昔が恋しいのだろうと結んでいる。
 たしかに、清少納言は生意気な女で、好かれる性格ではないにしても、『無名草子』の清少納言評はあまりである。ここまで書かれると、かえって清少納言が可哀相になる。


1.【指】学習プリントを配布し、宿題にする。
2.【検】学習プリントとノートを点検する。
3.【確】漢字の読みを確認する。
皇太后宮  思し召す  後拾遺  請ふ  書き記す  内大臣  乳母  具す  襖  直衣  外
4.【指】教師が範読する。
5.【読】読点で交代してペアリーディングさせる。
6.【説】清少納言に対する人物評である。

7.「すべて、あまりになりぬる人の、そのままにて侍るためし、ありがたきわざにこそあめれ。
 1)【語】「すべて」「ありがたし」の意味。
  ・すべて=1)全部。2)総体的に見て。総じて。3)まったく(下に打消表現)。
  ・ありがたし=1)めったにない。2)できそうもない。3)尊く優れている。
 2)【法】敬語を考える。
  ・侍る=丁寧。作者→読者。
 3)【法】「こそ」の結びは。
  ・あめれ。「ある(ラ変体)−めれ(推定已)」の略。
 4)【訳】
  ・総じて、あまりにも度を過ぎてしまった人が、そのままの状態でございますことは、滅多にないことのようです。
 5)【説】清少納言が、何に対してどのように度を越していたのか、どうなったのかを問題提起している。
                     
8.檜垣の子、清少納言は、一条院の位の御時、中の関白、世をしらせ給ひける初め、皇太后宮の時めかせ給ふ盛りに候ひ給ひて、人より優なる者と思し召されたりけるほどのことどもは、枕草子といふものに、自ら書き表して侍れば、細かに申すに及ばず。
1)【語】「しる」「時めく」の意味。
 ・しる=1)わかる。2)治める。3)領有する。
・時めく=1)時流に乗って栄える。2)寵愛を受ける。
2)【法】敬語を考える。
 ・しら+せ+給ひ=二重尊敬。作者→道隆。
 ・時めか+せ+給ひ=二重尊敬。作者→定子。
・候ひ+給ひ=謙譲。作者→定子+尊敬。作者→清少納言。
・思し召さ=尊敬。作者→定子。
・侍ら=丁寧。作者→読者。
・申す=謙譲。作者→清少納言。
3)【法】「思し召され」の意味は。
 ・尊敬。
4)【訳】
・檜垣の子である清少納言は、一条天皇の御代に、中の関白の道隆が、世の中をお治めになった初めの頃、皇太后宮の定子が時流に乗って栄えていらっしゃった全盛期に、(清少納言が定子に)お仕えなさっていて、(定子が)人より優れた者であると

9.歌詠みの方こそ、元輔が女にて、さばかりなりけるほどよりは、優れざりけるとかやと思ゆる。後拾遺などにも、むげに少なく入りて侍るめり。自らも思ひ知りて、申し請ひて、さやうのことには、交じり侍らざりけるにや。さらでは、いといみじかりけるものにこそあめれ。
1)【説】元輔について
 ・梨壺の五人の一人。三十六歌仙の一人。
2)【法】敬語を考える。
 ・侍る=丁寧。作者→読者。
 ・申し=謙譲。作者→定子。(中宮定子に申し出ている)
3)【法】「に」の識別。
 ・女にて=断定。
 ・むげに=形容動詞の語尾。
 ・後拾遺などにも=格助詞。
 ・さやうのことには=格助詞。
 ・交じり侍らざりけるにや=断定。
 ・いといみじけるものにこそ=断定。
4)【法】係り結びは。
 ・方こそ(強意)→×ける(流れている理由は分からない)
 ・とか(疑問)や→思ゆる
 ・けるにや(疑問)→(「あらむ」が省略)
 ・ものにこそ(強意)→めれ
5)【訳】
・歌詠みに関しては、元輔の娘であって、それほどであったわりには、優れていなかったと思われる。『後拾遺和歌集』などにも、たいへん少なく入っているようです。自分でも思い知って、願い出て、そのようなことには交じらなかったのでしょうか。そうでなくては、たいへん少ないように思われます。
6)【L2】「さばかり」の指示内容は。
 ・元輔の娘である
 ・父が歌の名手であるわりには。
7)【L2】何を「思ひ知り」てか。
 ・自分に歌の才能が乏しいこと。
8)【L2】「さやうのこと」の指示内容は。
 ・歌を詠むこと。
9)【L3】「交じり侍らざりする」の理由は。
 ・下手な歌を詠んで父の評判を落としたくないから。
10)【L2】何が「いといみじかりける」のか。
 ・『後拾遺和歌集』への入集が少ないこと。
11)【L3】「さらでは」の指示内容は。
 ・自ら『後拾遺和歌集』への入集を辞退すること。

10.その枕草子こそ、心のほど見えて、いとをかしう侍れ。さばかりをかしくも、あはれにも、いみじくも、めでたくもあることども、残らず書き記したる中に、宮のめでたく盛りに、時めかせ給ひしことばかりを、身の毛も立つばかり書き出でて、
1)【法】敬語を考える。
 ・給ひ=作者→定子。
2)【法】係り結びは。
 ・枕草子こそ(強意)→侍れ
3)【語】「身の毛も立つ」の意味は。
 ・恐ろしい様子。
4)【訳】
 ・枕草子は、(作者の)心の様子が見えて、たいへん面白い。これほど、興味深く、情趣深く、素晴らしく、立派であることを、残らず書き記した中に、中宮定子が全盛期で、帝の寵愛を受けていらっしゃることばかりを、身の毛も立つほど恐ろしく書き出して、
5)【L2】枕草子の「心のほど」は。
 ・身の毛も立つほど、おぞましい。

11.関白殿失せさせ給ひ、内大臣流され給ひなどせしほどの衰へをば、かけても言ひ出でぬほどの、いみじき心ばせなりけむ人の、はかばかしきよすがなどもなかりけるにや、乳母の子なりける者に具して、遥かなる田舎にまかりて住みけるに、
1)【説】内大臣について。
 ・藤原伊周。道隆の長子で定子の兄。(隆家の兄)
2)【法】敬語を考える。
 ・失せさせ給ひ=尊敬。作者→関白殿。
 ・流され給ひ=尊敬。作者→内大臣。
 ・まかり=謙譲。作者→?
3)【法】「なり」の識別。
 ・心ばせなり=断定。
 ・子なり=断定。
 ・遥かなる=形容動詞の語尾。
4)【法】係り結びは。
 ・にや(疑問)=(「あらむ」が省略)
5)【語】語句の意味は。
 ・かけても=少しも。
 ・心ばせ=心遣い。
 ・はかばかし=しっかりした。
 ・よすが=縁者。
 ・具す=付いていく。
6)【訳】
 ・関白殿がお亡くなりになって、内大臣が流されなさるなどした時の衰えを、少しも言い出さないほどの、素晴らしい心遣いであった人が、しっかりした縁者もなかったのだろうか、乳母の子である人に付いて、遥か遠くの田舎へ下って住んでいたが、
7)【L1】「いみじき心ばせなりけむ人」とは。
 ・清少納言。
8)【L1】誰に対する「心ばせ」か。
 ・定子。

12.襖などいふもの干しに、外に出づとて、『昔の直衣姿こそ忘られね。』と独りごちけるを、見侍りければ、あやしの衣着て、つづりといふもの帽子にして侍りけるこそ、いとあはれなれ。まことに、いかに昔恋しかりけむ。」
1)【説】「襖」「直衣」について
 ・襖=庶民の普段着。
 ・直衣=貴族の普段着。
2)【法】「忘られね」のれ用法は。
 ・可能。(下に打消語がある)
3)【法】係り結びは。
 ・こそ→あはれなれ。
4)【訳】
 ・襖という庶民の普段着を干すために、外へ出ようとして「昔の直衣が忘れることができない」と独り言を言ったのを、見ましたので、見すぼらしい着物を着て、布切れをつづり合わせた粗末な帽子をかぶっていましたことは、とても可哀相だった。本当に、どれほど昔が恋しかったでしょう。
5)【L1】作者の晩年の清少納言に対する評価は。
 ・あはれ。



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清少納言  学習プリント

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学習の準備
1.本文をノートに3行ずつ空けて写しなさい。
2.単語に分けなさい。
3.次の語の読み方を書きなさい。
皇太后宮  思し召す  後拾遺  請ふ  書き記す  内大臣  乳母  具す  襖  直衣  外
3.次の語句の意味を古語辞典で調べ、ノートに書きなさい。
すべて ありがたし しる さばかり むげ さらでは 時めく かけても 心ばせ はかばかし よすが 具す あやし
4.本文の左に現代語訳を書きなさい。

学習のポイント
1.この文章の主題を理解する。
2.『枕草子』における清少納言の自分に関する評価を理解する。
2.清少納言の和歌に対する態度とその理由を理解する。
3.『枕草子』に対する作者の評価を理解する。
4.清少納言の『枕草子』における中宮定子の没落後の記述について理解する。
5.清少納言の晩年について理解する。
6.主語を確認する。
7.敬語の種類、主体、対象について考える。
8.助動詞「る・らる」「す・さす」の意味を考える。
9.係り結びについて考える。