生物多様性の恩恵
鷲谷いずみ
第一段落
1)近年、遺伝情報を解読する技術が進んだ。2)その中で、全生物の共通の祖先というべきルカの存在も浮かび上がってきた。3)4)ルカは自己複製によって子孫を残してきた。5)しかし、複製は完璧ではなく,突然変異によって環境に適応した子孫が生まれることもあった。6)このように、生物は、自己複製、突然変異、適応進化、偶然の作用によって多様性へと発展した。7)ルカは単細胞でゲノム情報もわずかだが、子孫は多細胞で複雑な作りの子孫が多く存在する。8)現存の生物の多様性は、膨大な情報量を蓄積している。
第二段落
9)この多様化には、自然淘汰の果たした役割は大きい。10)特定の環境のもとで生存、繁殖するのに都合がよい形質を持った個体だけが生き残る自然淘汰によって、環境に適応する戦略を獲得してきた。11)地球の生物が直面してきた問題を解決してきた系統だけが、現在まで生き残っている。12)つまり、「生物の知恵」という適応戦略は、莫大な価値と潜在的な利用の可能性を秘めている。
第三段落
13)ヒトは生物から学び、模倣してきた。14)それは、考古学的遺物が物語っている。15)その生物の適応戦略を人間が技術に応用したのが、バイオミミクトリーである。16)草に置く露から水をはじきやすい傘、17)群れて飛ぶ鳥から車の自動運転、18)フクロウからパンタグラフの騒音防止、19)ゴボウの実から面ファスナー、20)シロアリの塚からエネルギーを投入しない空調に応用されている。22)生物は、芸術の源泉になってきた。
第四段落
22)しかし、生物の絶滅は貴重な情報を永久に失わせてしまう。24)短期的な経済的利益と引き換えに、多様性と蓄積された情報を失うことは愚かなことである。25)今こそ生物多様性の保全のために、生物の情報を読み取る感性と知性が必要である。26)日本には、生物の適応戦略を読み解く人材が不足している。27)野生生物と日常的に接する生活環境と自然史や生態に関する学習を重視すべきである。
まとめると、生物は、自動複製や突然変異によって生じた個体を、自然淘汰によって環境に適応する戦略として獲得して、生存を維持し多様化してきた。そうした生物の知恵を人間は産業技術として利用してきた。しかし、生物の絶滅によって貴重な情報を消失しつつある。自然と触れ合う生活環境を取り戻し自然史を学習することが必要である。
よくある環境論である。内容を把握のはあまり難しくない。論理展開は、遺伝情報の解読技術の発達から、ルカの発見、生物の多様性の原因を考察し、自然淘汰に絞り、生物の生存戦略にたどり着く。それを人間が応用している例を示す。しかし、生物が絶滅する危機に瀕していることから、その保全の必要性を訴える。
授業展開
1.段落番号1〜27を付ける。
2.全文を黙読する。
3.各段落ごとに、
1)協同学習プリントを配布する。
2)チームに別れる。
3)チームで、漢字の書き取りと対義語を考える。音読する。
4)チームで、問題を解答する。
5)答えを板書する。
6)解説しながら、板書する。
7)要約文を書く。
第一段落(1〜6)
1.次のカタカナを漢字に直せ。
1)遺伝情報のカイドク( ) 2)ヒヤク( )的に発達する
3)ケイトウ( )的な関係 4)共通のソセン( )
5)カンペキ( ) 6)トツゼンヘンイ( )
7)テキオウ( )する
2.次の語の対義語を答えよ。
1)分析(総合 ) 2)進化(退化 ) 3)偶然(必然 )
3.次の設問に答えよ。
21)【L1】遺伝子解読技術の発達によって発見されたものは。
・ルカ
2)【L1】ルカはどんな存在か。
・地球の全生物の祖先
33)【L1】ルカはどんな能力を持っているか。
・自己複製能
44)【L1】その能力によって何をしてきたか。
・子孫を残し続けてきた。
55)【L1】複製以外に何によって子孫が生まれたか。
・突然変異
【説】突然変異の説明をする。
・親と異なるゲノムを持つ、環境に適応した子孫を生む。
66)【L1】自己複製や突然変異などによって何に発展したか。
・生物多様性
4.次の設問に答えよ。【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
1)【L1】生物の起源は、三十億年前にさかのぼる。(四十億年)
2)【L1】人類を初め地球上のすべての生物は、ルカに始まった。●
3)【L1】ルカは、多細胞生物であるが、自己を複製して子孫を残し続けてきた。
(単細胞)
4)【L1】人間は現存生物の3つのグループの内、古細菌に属する。(真核生物)
5)【L1】複製機能は、祖先と異なる遺伝子を持ち、環境に適応した子孫を生んだ。
(突然変異)
6)【L1】こうした突然変異や適応進化などの偶然の作用と複製によって、生物は多様化した。●
7)【L1】「しかし」(2213)は、複製機能と突然変異を対比している。●
8)【L2】第一段落のキーワードを2つ。【突然変異・生物多様性】
5.第一段落を、「生物は」を主語にして、40字程度で要約せよ。
・生物は、自己複製、突然変異、適応進化、偶然の作用の繰り返しで、多様化へと発展した。(41字)
第一段落
ルカ=全生物の祖先
遺伝子情報を複製→子孫を残す。
+
突然変異→親の遺伝子とは異なる、環境に適応した子孫を生む
↓
生物多様性
第二段落(7〜12)
1.次のカタカナを漢字に直せ。
1)膨大なチクセキ( ) 2)自然トウタ( )
3)セイタイ( )学を学ぶ 4)生物のハンショク( )
5)戦略をカクトク( )する 6)シコウサクゴ( )
7)センザイ( )的な利用
2.次の語の対義語を答えよ。
1)単純(複雑 ) 2)潜在(顕在 )
3.次の設問に答えよ。
71)【L1】ルカから進化した生物はどれぐらい存在しているか。
・数百万〜数千万種
82)【L1】生物の多様性は何を意味するか。
・膨大な情報量の蓄積
93)【L1】多様化の中で最も大きな役割を果たしたものは何か。
・自然淘汰
【説】自然淘汰の説明をする。
・突然変異で親と異なる性質を持った子孫が生まれる。
・その中で、環境に好都合な形質を持った子孫が生き残る。
104)【L1】自然淘汰の例として何が挙げられているか。
・チョウのストロー状の口吻→花の蜜を吸う
5)【L1】自然淘汰を通して何を獲得したか。
・適応戦略
116)【L1】こうした四十億年の試行錯誤によって、何を体現したか。
・解決法
127)【L1】「生物の知恵」は何を秘めているか。
・人間にとって、莫大な価値と潜在的な利用の可能性
4.次の設問に答えよ。【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
1)【L1】百数十万種もの生物の多様性は、膨大な情報を蓄積してきた。
(数百万種もしくは数千万種)
2)【L1】この多様化の主な原因は、突然変異である。(自然淘汰)
3)【L1】特定の環境にもとで、有利な形質の生物が生き残り、不利な形質の生物は滅びることが、弱肉強食である。(自然淘汰)
4)【L1】チョウの蜜を吸うのに適したストロー状の口吻は、自然淘汰の有利な形態の例である。●
5)【L1】「戦略」とは、自然淘汰を通じて獲得した環境や目的に合致した形質で、人間にとって利用価値の高いものである。●
6)【L1】「しかし」(2307)は、単細胞のルカと多細胞の子孫を対比している。●
7)【L2】「戦略」と同じ意味で使われている語句を2つ。【解決法・生活の知恵】
8)【L1】第二段落のキーワードを2つ。【自然淘汰・戦略】
5.第二段落を、「自然淘汰」「適応戦略」を使って、45字程度で要約せよ。
・生物が自然淘汰を通じて獲得した適応戦略は、莫大な価値と潜在的な利用の可能性を秘めている。(44字)
第二段落
生物多様性=膨大な情報量の蓄積
突然変異
+
自然淘汰=環境に適応した形質たけが生き残る
(例)チョウのストロー状の口吻→花の蜜を吸う
‖
適応戦略=解決法=生物の知恵
↓
人間にとって莫大な価値と潜在的な可能性
第三段落(13〜22)
1.次のカタカナを漢字に直せ。
1)生物をモホウ( )する 2)趣やセイコウ( )さ
3)ショウチョウ( )化 4)考古学的イブツ( )
5)シュリョウ( )対象 6)動物のショサ( )
7)ネイロ( )
2.次の語の対義語を答えよ。
1)模倣(創造 ) 2)分散(集中 )
3.次の設問に答えよ。
131)【L1】ヒトはどうすることによって生物から多くのことを学んできたか。
・模倣
142)【L1】ヒトが生物の美しさや精巧さを芸術面で残したものは何か。
・考古学的遺物
153)【L1】ヒトが生物の適応戦略を産業技術分野で応用したものは何か。
・バイオミミクリー
164)【L1】草に置く露から何を開発したか。
・水をはじきやすい傘
175)【L1】群れて飛ぶ鳥は何に応用されるか。
・車の自動運転
186)【L1】フクロウの飛び方は何に役立っているか。
・騒音防止のパンタグラフ
197)【L1】ゴボウの実をヒントに何が開発されたか。
・面ファスナー
208)【L1】シロアリの塚の構造は何を実現しているか。
・エネルギーを投入しない空調
21229)【L1】生物はヒトに何を与えたか。
・有用な戦略のヒント
・芸術の源泉
4.次の設問に答えよ。【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
1)【L1】ヒトが自然淘汰で獲得した知能戦略は、創造である。(模倣)
2)【L1】生物が作り出した美しさを模倣したものが、洞窟画や彫刻や舞踏などの考古学的遺物である。●
3)【L1】生物の適応戦略を産業技術に応用したものを、バイオレンスミミズトリーと言う。
(バイオミミクリー)
4)【L1】蓮やサトイモの葉の表面の突起構造を模倣して吸水性の強い雨具を開発した。
(撥水性)
5)【L1】鳥の群れが衝突せずに飛ぶ技術は、車の自動運転に応用されている。●
6)【L1】羽根のくし状の細い毛によって音も立てずに飛ぶフクロウの技術は、新幹線のパンタグラフの発熱防止に貢献している。(騒音防止)
7)【L1】ゴボウの実のカギ状のトゲが動物の毛を引っかけて移動する知恵が、面ファスナーのヒントになった。●
8)【L1】クロアリの塚の構造は、アフリカで自然の冷房装置として利用されている。
(クロアリ)
9)【L1】次の生物の適応戦略を人間が模倣して開発したものを、後の語群から選べ。
1)トンボの羽根【ウ 】 2)やもり【カ 】 3)イルカの尾びれ【エ 】
4)イルカの声【ア 】 5)カワセミ(くちばしの長い鳥)【イ 】
6)ハスの葉【オ 】
ア.魚群探知器 イ.500系新幹線の先頭 ウ.ヘリコプター
エ.洗濯機の部品 オ.撥水塗料 カ.粘着テープ
5.第三段落を、「ヒトは」を主語にして、「模倣」「戦略のヒント」「芸術の源泉」を 使って、50字程度で要約せよ。
・ヒトは、生物を模倣して、考古学的遺物やバイオミミクリーなど、戦略のヒントや芸 術の源泉を学んできた。(49字)
第三段落
生物から学ぶ=模倣する
(例)考古学的遺物(芸術)
│ バイオミミクリー(知恵・技術)
│ (例)草におく露→水をはじきやすい傘
│ 群れて飛ぶ鳥→車の児童運転
│ フクロウの羽根→騒音防止のパンタグラフ
│ ゴボウの実→面ファスナー
↓ シロアリの塚→エネルギーを投入しない空調
ヒトに有用な戦略のヒント
芸術の源泉
第四段落(23〜27)
1.次のカタカナを漢字に直せ。
1)生物のゼツメツ( ) 2)情報のカイメイ( )
3)情報のホウコ( ) 4)教育カテイ( )
5)読み解くガンリキ( )
2.次の語の対義語を答えよ。
1)必然(偶然 ) 2)感性(知性 ) 3)具体的(抽象的 )
3.次の設問に答えよ。
231)【L1】人間は生物から恩恵を受けてきた。だが、ここで起きている問題は何か。
・生物の絶滅。
2)【L1】生物の絶滅によって、何が永久に失われるのか。
・生命の知恵、生命の技、生命の作品。
【説】生命の作品とは芸術である。
243)【L1】「生命の知恵」と対照的なものは何か。
・文化財や文化遺産
4)【L3】文化遺産と生物の知恵の違いは。
・文化遺産=人間が作ったもの。歴史が短い。意識的な保存。
・生物の知恵=自然が作ったもの。歴史が長い。絶滅。
5)【L3】生物多様性を生んだ「必然」と「偶然」とは。
・必然=自然淘汰。
・偶然=突然変異。
6)【L1】人類は何と引き換えに「生命の知恵」を失うのか。
・短期的な経済的利益
7)【L4】短期的な経済的利益の例は。
・森林伐採、乱獲、遺伝子組み替え、化石燃料の発掘。
258)【L1】生物の持つ情報を後世に残すために何が必要か。
・生物多様性の保全
9)【L1】そのためには何が欠かせないか。
・生物の情報を読み解く感性と知性。
2610)【L1】日本では何が減少したり軽視されたりしたか。
・自然とふれあう機会
・自然史
11)【L1】そのため、どんな人材が少ないのか。
・適応戦略を読み解く眼力を備えた人材
2712)【L1】そうして人材を育成するには、何を重視しなければならないか。
・自然とふれあう生活環境
・自然史や生態の学習
4.次の設問に答えよ。【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
1)【L1】生物の絶滅は、一年間に約四万種と推測されている。●
2)【L1】文化財や文化遺産は、人間の保存の努力や歴史の長さという点で、生物が蓄積した情報と類似的である。(対照的)
3)【L1】生物多様性を生み出した「必然と偶然」(2712)とあるが、必然とは突然変異、偶然とは自然淘汰を指している。(自然淘汰、突然変異)
4)【L1】自然を喪失させる愚かな短期的経済利益とは、森林伐採や乱獲や化石燃料の過剰な消費などである。●
5)【L1】「それ」(2804)は、「生物多様性の保存」を指示している。(情報の宝庫)6)【L1】生物の情報の宝庫を残すには、生物の戦略を読み解く設備と金を持った人材が不
可欠である。(感性と知性)
7)【L1】生物多様性の保存に必要なものは、自然環境の回復と自然史の学習である。●
8)【L2】第四段落のキーワードを2つ。【生物の絶滅・生物多様性の保全】
5..第四段落を、「生物の絶滅」「生物多様性の保全」を使って,55字程度で要約せよ。
・生物の絶滅による情報の喪失を防ぐために、情報を読み取る知性と感性を育成して、 生物多様性の保全が必要である。(53字)
第四段落
生物の絶滅=多様性と膨大な情報の喪失
↑
短期的な経済的利益
↓
生物多様性の保全が必要
↓
適応戦略を読み解く感性と知性を備えた人材の育成
自然とふれあう生活環境
自然史や生態の学習
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