李徴は非常に優秀だった。当時超難関であった管理登用試験に合格し、役人になった。今で言うなら、東大法学部に現役合格して、国家公務員になったようなものだ。将来は高級官僚のポストが約束されている。今の入試は学力だけの試験だか、当時の試験は学科だけでなく詩も作らなければならないので、単に暗記力だけに秀でた人物ではない。芸術家としての才能も要求される。

 しかし、李徴の性格は最悪だった。過剰なほどの自信家で人づきあいも悪かった。年功序列、いくら才能があってもそれに見合った仕事や出世ができない公務員に我慢できずに退職する。そんなことは先刻十分承知のはずであるが、今と同じで単なるエリートコースを進みたかっただけで、その仕事の内容まで考えずに職業選択をしたのであろう。役人になってみて初めて現実に直面したのだ。そこで、李徴は考えた。実力で勝負できる詩人になろう。これも、会社勤めを嫌ってミュージシャンになろうとする若者と同じである。かくして、李徴はフリーターになった。しかし、世の中そう甘いものではない。そうそう簡単にはメジャーになれない。生活の貯えも底を突いてきた。自分の才能を疑い始めた。それに、こんな男のどこがよかったのか、ただエリートという肩書に惹かれたのか、妻と子どもまであった。彼らを養わなければならない。このあたりの家長としての責任感はあったのだ。でも、それも自分の才能のなさを認めたくない言い訳の一部に使われていたきらいもある。

 そして、再度役人になる。しかし、かつて秀才と言われた男でも、一度リタイアした者に良い職が与えられるはずがない。以前は馬鹿にしていたにしても年上の上司である。しかし、数年のブランクの間に、かつての同期の凡才が上司になったり、年下の上司の命令を聞かなくてはならない。これは、プライドの高い李徴にはきつい。生活はますます荒れ、性格もますますひどくなっていく。こんな状況も承知の上の再就職であったのではないか。ここに至っても、李徴の現実感のなさ、甘さはぬぐい去れない。だいたい、この男は働くということの意味をわかっていない。自分あった仕事があるはずというフリーター根性丸出しである。そして一年後、出張先で焼け酒でも飲んで憂さを晴らして寝てしまったのか、夜中突然目を覚まして大声でわめきながら外飛び出したまま行方不明になってしまった。

 翌年、偶然旧友の袁惨に出会う。彼は温厚な性格で、現役時代の李徴の唯一の友である。おそらく、酒を飲んでは不平不満ばかり言う李徴の愚痴を辛抱強く聞いてくれたのだろう。彼はコツコツ努力してきたので、いまや監察御史という官吏を取り締まる役人になっていた。この役職の位置はわからない。姑息に上司の機嫌を取りながら出世する役人が多い中、彼は誠実に仕事をこなしてこの地位についていたのだろう。駅吏の忠告を無視して早朝出発したのも生真面目な性格からだろう。まぁ、そうしなければ李徴と遭遇できなかったのだから、小説とはいえ一つの運命の導きだったのだろう。突然、草むらから虎が飛び出してきたら、駅吏から人食い虎が出ると聞いていたにしても、もっと慌てるはずである。そして、部下に命じて退治するはずである。しかし、袁惨は冷静に李徴の声を聞き分ける。「恐懼の内にも」とあるが、その虎が李徴であるなんて咄嗟に判断できるものだろうか。その虎が李徴だなんて考えつくものだろうか。どう考えても不自然であるが、小説だから仕方ないのだろう。

 李徴の方は人間に戻って袁惨を認めるのはわかる。懐かしい気持ちは強いだろうが、プライドの高い李徴はかつての友に自分の惨めな姿を見せたくない。袁惨は外見など気にしない男だろうが、当の本人の李徴はそうはいかない。結局、自分の姿を見せずに、草むらの中から語ることになる。奇異というより哀れな図である。

 李徴のモノローグが始まる。発狂した夜のことが語られる。誰かの声に導かれて外に出る。声の正体はわからない。運命を司る神の声かもしれない。それは神の悪戯なのか、罰なのか、救いなのか。声を追って走っていく内に自分の体の異変に気づく。そして、谷川に映った虎になった自分の姿をみて、最初は信じられなかった。当然である。誰が虎になった自分を直ぐに受けいれられるであろうか。次に夢だと思った。夢の中でこれは夢だと思う夢を僕も見たことがある。現実と似ていてどこか違う所がある。しかし、夢ではないと現実を認めなければならなくなった時、初めて恐怖を感じる。どんな事でも起こりうるのだと恐れた。直ぐに理由を考える。科学的な理由は見当たらない。運命としか言いようのないものだとあきらめた時、浮かんでくる考えは、理由もわからず押しつけられたものを受け取って、理由もわからずに生きていくのが生き物の定めであるという不条理を不条理として受けいれる諦観である。残された道は、死ぬことである。しかし、目の前を兎が走るのを見ると心身ともに虎になってしまう。人間として自分の意志で死ぬことすら許されないのだ。人間と虎が同居する中途半端な状態よりも、いっそ虎になりきってしまった方が後悔や反省して苦しまなくていい分、幸せかもしれない。しかし、それは我慢できない。どんな惨めな思いをしても、人間でいるわずかな自分を失いたくない。李徴は人間であることに何を望んでいるのだろうか。

 袁惨に託した一つ目の願いは、詩の伝録である。李徴という人間がかつてこの世に存在したという証拠を残しておきたかったのである。この気持ちはわかる。たいしたことをしなくても、誰かの心に自分という存在を残したいという願いは僕にもある。ホームページづくりがそれである。李徴は若くして人間として生きることを断念せざるをえなくなったが、普通の人間も老年期になると、自分の人生を振り返り、足跡を残したくなるものである。しかし、この気持ちは高校生にはわからないだろう。

 袁惨はその詩を聞き、確かに素晴らしいが第一流の作品になるのには微妙な点で欠けていることに気づく。それは、大雑把にいえば、人間性であり、家族への愛であり、自分の才能に対する不安かもしれない。そして、李徴は今の心境を即興の詩で述べる。「自分は病気によって虎になった。かつて袁惨とは名声を分け合ったが、今では自分は落ちぶれて虎になってしまったが、袁惨は出世をしている。そんな自分を哀れんで月に向かって吼えることしかできない」と。

 次に、虎になった理由について考え、語り始める。今まで人間と対話することがなかったので正面からこの疑問に向き合うことはなかったのだろう。かつての袁惨との関係が蘇ってくる。自分は自分から人との交わりを避け、人から尊大だと思われた。勿論、かつて郷党の奇才といわれた自分に自尊心がなかったわけではない。しかし、それは羞恥心に近いもので、いわば「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」と名付けられるものである。詩によって有名になろうという自尊心はあったが、師に就いたり詩友と交わって自分の才能のなさが暴露するかもしれないという臆病さはあった。反面、才能もない奴らと共にやってられるかという尊大さもあった。自分に才能がないのではないかという思いから苦しんで修行してそれが露顕しないようにし、また、自分の才能を信じているので凡人と交わろうとしない。こうした相矛盾する自分の内面の猛獣を飼い太らせ、外見までそれにふさわしい虎になってしまった。その結果、自分を損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけてしまった。つまり、自分はいつまでもモラトリアムで、人生の決断ができなったのだ。わずかな才能でも専一に磨けば詩家になれたかもしれず、きっぱりあきらめてしまえれば役人として出世できたかもしれない。なまじっか才能があるために、努力を怠ったのだ。こんな人間は山ほどいる。イチローのように才能があり努力もするから一流になれるのだ。

 最後に、袁惨に託した二つ目の願いは、妻子のことである。自分は死んだことしておいてほしい。そうすれば、家族も諦めがつくだろうし、新たな出発もできるだろうから。頼み終わってから、はたと気がつく。本来なら、自分の詩業より妻子のことを先に頼むはずなのに、こんな男だから虎になったのだと自嘲する。そして、ようやく李徴は羞恥心を捨てる。自分の最も恥ずかしい姿を袁惨に見せることを決意する。同時に、人間であることに決別を決意する。

 主題は、李徴が虎になった理由である。家族への愛の欠如もあるだろうが、やはり「尊大な羞恥心」「臆病な自尊心」である。詩人としての才能を自負しながらも、信じきれず、切磋琢磨して才能を磨くことをしなかったことである。こうした煩悶は、生徒の心にもあるはずである。

 また、働くとは何かという問いも投げかけてくれる。いろいろな可能性の中から一つに決めなければならない時に決断できるのかという問題である。単にエリートコースを歩いているだけで、本当の幸せを手に入れることができるのか。

 また、「人間存在の不条理」という哲学的な問題についても考えてみたい。


導入      板書


1.「三匹の動物」ゲームをする。

 1)ノートに、思い浮かぶ順に3種類の動物を書き、それぞれについて3つずつその特徴を書かせる。

 2)何人かに発表させる。

 3)解答をする。

  1番目は、自分がこうなりたいと思う人物像。

  2番目が、人からどう見られているか。

  3番目が、本当の自分。

2.自分の性格から見て、一番近い動物と、その理由を書かせ、何人かに発表させる。

3.教師がゆっくり範読する。

4.感想を聞く。

5.場面構成について説明する。

 1)はじめ〜誰もなかった。 【虎になる前の李徴】
 2)翌年、監察〜次のように語った。 【袁慘との出会い】
 3)今から一年〜頼んでおきたいことがある。 【虎になった李徴の心境】
 4)袁慘はじめ〜(漢詩)。 【詩の伝録】
 5)時に、残月〜ためばかりではない。 【虎になった理由】
 6)ようやく〜おわり。 【袁慘との別れ】
 
6.「学習プリント第一段」を配布して、宿題にする。

第一段     板書
 

1.生徒と音読する。2.語句の意味を説明する。

3.役人になった李徴の性格について

 1)まとめる。

 2)官吏登用試験について説明する。

 3)役人になった理由を考える。

4.退官した理由をまとめる。

 ★役人でははいくら自分が優秀でも報われないが、詩人なら自分の実力次第で報われる  から。

5.退官後の生活をまとめる。

6.復官した理由について

 1)まとめる。

 2)「半ば」絶望したとは、言い換えると。

7.復官後の様子について

 1)まとめる。

 2)自尊心が傷つく体験は過去にもあったことを考える。

8.旅先で発狂し行方不明になったことを確認する。

9.「あなたは上司とうまく付き合えるタイプか」チャートをする。

10.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

11.あらすじを二〇〇字以内でまとめ、感想を書かせ。


第二段     板書

0.「学習プリント 第二段」を配布し、宿題にする。

1.生徒と音読する。

2.語句を解説する。

3.出会いの不自然さを確認する。

4.李徴と袁傪の関係をまとめる。

 ★生徒の友人との性格について考えさせる。似たようなもの同士が友達になることは多 いが、全く性格の違う友達がいれば、互いにないものを求めあい衝突しないことになり、この二人の場合と同じになる。

5.李徴が袁傪に姿を見せなかったことについて

 1)理由は。

 2)ここに表れている李徴の性格は。

 3)相反する気持ちは。

6.袁傪の気持ちは。

7.袁傪が、虎になった李徴が隠れている草むらに向かって語っているという構図を確認 する。

8.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

9.あらすじを六〇字以内でまとめ、感想を書かせる。


第三段     板書

0.「学習プリント 第三段」を配布し、宿題にする。

1.生徒と音読する。

2.語句の意味を確認する。

3.虎になるまでの過程をまとめる。

 1)戸外でだれかが我が名を呼んでいる。

 2)声を追って走っている内に虎に変身していた。

 3)目を信じなかった。

 4)夢にちがいないと考えた。

 5)どんなことでも起こりうると思って恐れた。

 6)理由を考えたがわからない。

 7)死のうとを思った。

 8)兎を見たとたんに自分の中の人間が姿を消した。

 9)一日の内に数時間人間の心が還ってくる。

4.1)「だれか」の正体を考える。

 ★答えが出ない場合は後で考える。

5.「夢の中でこれは夢だと知っている夢」について

 1)見たことがあるか。

 2)どんな夢か。

 3)「あなたの夢の自己チェック」をする。

6.「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きてゆくのが、我々生き物のさだめだ」について

 1)「自分」ではなく「われわれ」とあるのはなぜか。

 2)「理由も分からずに押しつけられたもの」とは何があるか。

  ★すべて偶然であり、合理的な答えはない。

 3)「理由も分からずに押しつけられたもの」をおとなしく受け取っているか、理由もわからずに生きているか。

 4)「さだめ」傍点がある理由を考える。

  ★明らかな答えはない。

7.「自分の中の人間はたちまち姿を消した」について

 1)「人間」に傍点がある理由は。

 2)死のうと思っても死ねないつらさを確認する。

8.「人間の心が還ってくる」ことについて

 1)その時の気持ちは。

 2)その理由は。

 3)「どうして以前人間だったか」と考えることが恐ろしい理由は。

 4)「古い宮殿の礎」「土砂」の比喩は。

 5)「人間の心がすっかり消えてしまう」ことに対する気持ちは。

  ★矛盾する二つの気持ち(ダブルバインド)がある。

 6)「しあわせ」と考えている理由は。

 7)「しあわせ」に傍点がある理由は。

 8)「恐ろしく」感じている理由は。

 9)李徴の本心はどちらか。

9.この気持ちは誰にもわからないと、他者の理解を拒否していることに注意する。

10.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

11.あらすじを一〇〇字以内でまとめ、感想を書かせる。


第四段    板書

0.「学習プリント 第四段」を配布し、宿題にする。

1.生徒と音読する。

2.語句を確認する。

3.李徴が詩の伝録を依頼したが、その理由は。

 ★生徒にはこのような思いはないか。

 ★年をとるにつれ死が近づくにつれて、このような思いが強くなる。

 ★僕にとってのホームページ。

4.袁傪の感想をまとめる。

 1)袁傪の印象は。

 2)疑問点は。

 3)「微妙な点」とは何か。

  ★これが李徴が虎になった理由である。

  ★後の部分で出てくるので、ここでは意見を聞く程度に留める。

5.自嘲的になった理由は。

6.李徴は自分のことをどのように表現しているか。

 ★李徴を一言で言い表した言葉。

7.漢詩ついて

 1)訳す。

  偶然、精神病によって人間以外のものになってしまった。

  災いが襲いかかって避けることもできなかった。

  今では、この爪や牙に誰が歯向かうだろうか。

  当時は、私も君も二人とも評判が高かった。

  私は虎になって雑草の下にいるが、

  君はすでに車に乗って順調に出世している。

  この夕方谷山の明月に向かって、

  私は詩を吟ずるのでなくほえ叫んでいるだけだ。

 2)虎になった理由をどのように考えているか。

 3)「山月記」の題名の根拠を確認する。

8.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

9.あらすじを一〇〇字以内でまとめ、感想を書かせる。


第五段     板書

0.「学習プリント 第五段」を配布し、宿題にする。

1.生徒と音読する。

2.語句の説明をする。

3.「時に、残月〜告げていた」の引き締まった描写の見事さを味わう。

4.虎になった理由を語り始めることを確認する。

5.キーワードは何か。 

6.「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」について

 1)それぞれの意味は。

 2)「臆病」「自尊心」「尊大」「羞恥心」の関係は。

 3)「己の珠に〜すべてだったのだ。」の中から、(x)臆病・羞恥心、(y)尊大・自尊心に当たる表現を抜き出させる。

  (x)2)進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。

     3)己の珠にあらざることを恐れる(がゆえに

     4)あえて刻苦して磨こうともせず

     5)慙恚

     6)才能の不足を暴露するかもしれないという卑怯な危惧

  (y)1)詩によって名をなそう(と思いながら

     2)(かといって)俗物の間に伍することも潔しとしなかった。

     3)己の珠なるべきを半ば信ずる(がゆえに

     4)碌々として瓦に伍することもできなかった。

     5)憤悶

     6)刻苦をいとう怠惰

7.虎になった理由を考える。

 1)「人間は誰でも猛獣使いである」について

  1)猛獣とは。

  2)李徴の場合は。

  3)「猛獣使い」とは。

  4)李徴の場合は。

 2)猛獣を飼い太らせた理由は。

  1)自尊心や羞恥心、尊大や臆病が中途半端であった。

  2)その根底には、努力を厭う怠惰があった。

 3)どうすれば虎にならなかったのか。

 4)「人生は何事をも成さぬにはあまりに長いが、何事かを成すにはあまりに短い」という言葉をどう思うか。

8.性格タイプの心理テストをする。

 1)自分の立場で回答させ、自分のタイプを考える。

 2)李徴の立場で回答させ、タイプを考えさせる。

 3)自分のタイプと比較する。

9.虎になった今も、かつて人間であった時も、誰も自分の気持ちを分かってくれなかったことを説明する。

   ・第三段の「この気持ちは誰にもわからない」と重なる。

10.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

11.あらすじを七〇字以内でまとめ、感想を書かせる。


第六段     板書

0.「学習プリント 第六段」を配布し、宿題にする。

1.生徒と音読する。

2.語句の意味を確認する。

3.時間の推移の表現を味わう。

4.「李徴の声が言った」の表現に注意する。

5.二つ目の依頼について

 1)何を依頼したのか。

 2)「死んだと告げてほしい」と依頼した理由は。

6.李徴が自嘲的な調子に戻った理由を考える。

 ★依頼した後、必ず自嘲的になる。

 ★虎になった理由でもある。

7.三つ目の依頼について

 1)何を依頼したのか。

 2)理由は。

  ★第二段で姿を見せなかった自尊心が消えた。

8.李徴が咆哮した気持ちを考える。

 ★さまざまな意見を出させる。

9.別冊宝島『珍国語』のパロディ「木曜スペシャル風山月記」を編集して配布する。

10.あらすじを八〇字以内でまとめ、感想を書かせる。


全体を振り返って

1.「人虎伝」の口語訳を配布して読み、「山月記」との異同を考える。

 1)共通点をまとめる。

  1)退官するまでの性格と身分。

  2)退官した後、復官した。

  3)如水のほとりに宿った時に、虎に変身した。

  4)袁傪に出会い、草むらに隠れて話す。

  5)妻子の今後と、詩の伝録を依頼する。

 2)相違点をまとめる。

  1)詩人になるために役人を辞めたのではない。

  2)復官後は地方の人に歓迎された。

  3)虎になって、兎でなく、人を食った。

  4)妻子の今後と、詩の伝録の依頼の順序が逆。

  5)袁傪の詩の欠点の指摘がない。

  6)虎になった理由は、未亡人との密通と一家の焼き殺し。

  7)尊大な羞恥心と臆病な自尊心という言葉がない。

  8)袁傪の後日談がある。

 3)相違点から、「山月記」の特徴を考える。

    ↓



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場面構成

 第一段 はじめ〜誰もなかった。 【虎になる前の李徴】

 第二段 翌年、監察〜次のように語った。 【袁慘の出会い】

 第三段 今から一年〜頼んでおきたいことがある。 【虎になった李徴の心境】

 第四段 袁慘はじめ〜(漢詩)。 【詩の伝録】

 第五段 時に、残月〜ためばかりではない。 【虎になった理由】

 第六段 ようやく〜おわり。 【袁慘との別れ】







第一段

1.李徴の性格

  • 博学才穎(非常に頭がよい)
  • 狷介(協調性がない)
  • 自ら恃むところが厚い(自信過剰)

    ↓

  • 若くして役人になる

2.退官する。

  • 身分の低い役人に満足できない。
  • 詩家として後代に名を残したい。

3.退官後の生活

  • 生活が苦しくなる
  • 文名は簡単に上がらない

4.地方官吏に復職する

  • 妻子の衣食のため
  • 己の詩業に半ば絶望した

       半ば未練を残していた

5.復職後の生活

  • 同輩や後輩の命令を受ける(自尊心を傷つけられる)

  歯牙にもかけなかった

  • 怏怏として楽しまない(不平不満)
  • 狂悖の性が抑え難くなる(非常識でわがまま)

    ↓

  • 発狂し行方不明になる







第二段

1.李徴と袁惨

  • 袁惨=温和な性格─┬─親友
  • 李徴=峻峭な性情─┘

2.李徴の気持ち

  • 旧友の前にあさましい姿をさらしたくない。──自尊心
  • 袁慘に恐怖と嫌悪を起こさせたくない

   ↓↑

  • 恥ずかしさを忘れるほど懐かしい。







第三段

1.虎になるまでの経過

 1)戸外でだれかが我が名を呼んでいる。

     運命、自尊心

 2)声を追って走っている内に虎に変身していた。

 3)目を信じなかった。

 4)夢にちがいないと思う。

 5)どんなことでも起こりうると思って恐れた

 6)理由を考えたがわからない。

  「理由もわからずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きていくのが我々生き物のさだめである。」

                                                            ×自分 普遍性あきらめ

 7)死のうとを思った。

 8)兎を見たとたんに自分の中の人間は姿を消した。

  • 死ぬことさえ許されない 理性

 9)一日の内に数時間人間の心が還ってくる。

  │・情けなく、恐ろしく、憤ろしい。

  ↓ ・人間の心で虎としての残虐な行いを見て後悔するから

  どうして以前人間だったのかと考える。

  │・恐ろしい

  │ ・完全な虎に近づいている。

  │・古い宮殿の礎=人間だったこと

  ↓・土砂=虎になること

  人間の心がすっかり消えてしまう。

   ×しあわせ

  • 虎としての残虐な行為に悩まなくてすむ
  • 自分の運命に悩まずにすむ。
  • 恐ろしい
  • 人間への未練
  • 運命に引きずられる不安

 10)この気持ちは誰にもわからない。

  • 他者の理解を拒否している。






第四段

1.李徴の依頼1)

  • 詩の伝録

   ↑

  • 自分が生涯執着したものを後代に伝えたい。

2.袁傪の感想

  • 格調高雅、意趣卓逸。

   ↓↑

  • 第一流の作品になるには、どこか微妙な点において欠けている。
  •                      =虎になった理由
  •                        家族への愛
  •                        尊大な羞恥心・臆病な自尊心

3.李徴の自嘲1)

  • 虎と成り果てても、詩に未練がある。
  • 「詩人になりそこなって、虎になった哀れな男」

4.李徴の詩

  • 精神病で虎になった。






第五段

1.虎になった理由

  • y)臆病な[態度]x)自尊心[心理]=自尊心はあるが、(失敗を恐れて)臆病になる。
  • x)尊大な[態度]y)羞恥心[心理]=羞恥心はあるが、(隠そうとして)尊大になる。
    (x)臆病、羞恥心          (y)尊大、自尊心

    2)進んで師に就いたり、求めて詩友と交 わって切磋琢磨に努めたりすることを しなかった。[態度]
    3)己の珠にあらざることを恐れる(がえに)[心理]
    4)あえて刻苦して磨こうともせず[態度]
    5)慙恚[心理]
    6)才能の不足を暴露するかもしれないと いう卑怯な危惧[態度]
    1)詩によって名をなそう(と思いなが)[心理]
    2)(かといって)俗物の間に伍すること も潔しとしなかった。[態度]

    3)己の珠なるべきを半ば信ずる(がゆえ )[心理]
    4)碌々として瓦に伍することもできなか った。[態度]
    5)憤悶[心理]
    6)刻苦をいとう怠惰[態度]

      ‖

     猛獣

      │

      ├─────┐

      ↓猛獣使い↓飼い太らせる

     人間     虎  中途半端
                怠惰

2.誰も自分の気持ちを分かってくれない

  • 虎になった今
  • かつて人間であった時 






第六段

1.李徴の依頼2)

  • おれは死んだと告げてほしい。
  • 妻子が飢え死にしない様に援助してやってほしい。
     ↑
   ・生きているかもしれないという期待を起こさせないため。=妻子
   ・夫が虎になってしまったという驚きを起こさせないため。=妻子
   ・虎になったことを知られると、自尊心が傷つくから。=自分2.李徴の自嘲2)
  • 妻子の生活よりも、自分の詩の方を先に依頼するような、人間性の欠如に気がついて
     自らを恥ずかしく思っている。3.李徴の依頼3)
  • 丘の上から自分の虎になった姿を見てほしい。

   ↑

  • 袁惨に再び自分に会おうという気を起こさせないため。
  • 自尊心や羞恥心を捨て、ありのままの自分を見てもらおうと思った。

4.李徴が咆哮した気持

  • 袁惨に会えた喜び。
  • 人間への未練を捨て切った。







































山月記  学習プリント 第一段

学習の準備

 .次の漢字の読み方を書きなさい。

 賤吏 潔し 帰臥 下吏 焦燥 容貌 豊頬 貧窮 面影 赴き 鈍物 歯牙 往年 捜索

2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。

博学  
 
賤吏  
潔しとしない  
いくばくもなく  
帰臥  
焦躁  
豊頬  
登第  
節を屈する  
鈍物  
歯牙にもかけない  
往年  
自尊心  
怏々  

学習のポイント

1.李徴の性格を理解する。

2.李徴が官を退いた理由を理解する。

3.李徴の退官後の生活を理解する。

4.李徴が再び地方官吏になった理由を理解する。

5.復官後の生活を理解する。

6.李徴が行方不明になった様子を理解する。

 







山月記 学習プリント 第二段

学習の準備

1.次の漢字の読み方を書きなさい。

監察御史 勅命 駅吏 供回り 多勢 躍り出た 翻して 恐懼 久闊を叙す 畏怖嫌厭 傍ら 
 
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
勅命  
驚懼  
畏怖嫌厭  
消息  
学習のポイント
 
1.袁の身分と役割を理解する。
 
2.虎になった李徴に出会った袁惨の様子を理解する。
 
3.李徴と袁の関係を理解する。
 
4.李徴が袁の前に姿を現さない理由を理解する。






山月記  学習プリント  第三段
 
学習の準備
 
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
 
無我夢中 臨んで 茫然 所行 操れば 経書 残虐 憤ろしい 経る 礎 故人
 
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
無我夢中  
茫然  
所行  
章句  
学習のポイント
 
1.李徴を呼ぶ「誰か」の正体を考える。
 
2.李徴が虎になる過程を理解する。
 
3.夢の中でこれは夢だと知っている夢について考える。
 
4.生き物のさだめについて考える。
 
5.「人間」に傍点がついている理由を理解する。
 
6.人間の心が還って来る時の気持ちを理解する。
 
7.李徴がどうして以前人間だったのかと考えることを恐ろしいと思うのかを理解する。
 
8.人間のもとは何だったのかを考える。
 
9.李徴の中の人間の心がすっかりなくなることをしあわせであると同時に恐ろしく感じている気持ちを理解する。







山月記  学習プリント  第四段
 
学習の準備
 
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
 
業 遺稿 記誦 巧拙 詩人面 執って 朗々 意趣卓逸 嗤う 自嘲癖 
 
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
息をのむ  
名を成す  
業   
遺稿  
巧拙  
産を破る  
朗々  
意趣  
卓逸  
自嘲  
狂疾  
災患  
渓山  
学習のポイント
 
1.李徴の第一の依頼を理解する。
 
2.詩の伝録を依頼する理由を理解する。
 
3.李徴の詩を聞いた袁の感想を理解する。
 
4.李徴の詩の第一流の作品になるには欠けている非常に微妙な点を考える。
 
5.李徴が自嘲的になった理由を理解する。
 
6.李徴の即席の詩の意味を理解する。







山月記  学習プリント  第五段
 
学習の準備
 
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
 
暁 粛然 薄幸 倨傲 羞恥心 就いたり 切磋琢磨 努める 珠 刻苦 損ない 警句 弄しながら 卑怯 危惧 専一
 
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
粛然  
倨傲  
尊大  
羞恥心  
郷党  
鬼才  
切磋琢磨  
俗物  
伍する  
 
空費  
警句  
弄す  
危惧  
専一  
学習のポイント
 
1.漢文調の風景描写を味わう。
 
2.李徴の語る虎になった理由を理解する。
 
3.尊大な羞恥心と臆病な自尊心の内容を理解する。
 
4.李徴の中の猛獣について理解する。
 
5.虎に近づいていく李徴の心情を理解する。







山月記  学習プリント  第六段
 
学習の準備
 
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
 
還る 道途 恩幸 慟哭 旨 飢え凍えよう 帰途 咆哮
 
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
恩幸  
慟哭  
意に添う  
ねんごろ  
咆哮  
学習のポイント
 
1.時間の経過の表現を味わう。
 
2.李徴の最後の依頼を理解する。
 
3.李徴が再び自嘲的になった理由を理解する。
 
4.帰途にここを通らないように言った理由を理解する。
 
5.最後に虎になった姿を袁に見せた気持ちを理解する。
 
6.最後の表現を味わう。