梁上君子


 ある年、凶作が続いて人々の暮らしが苦しかった。盗人が陳寔の家に入り、梁の上にいた。陳寔はそれを見て、子どもに言うふりをして梁上の盗人に聞こえるように言った。「人間は元々努力するものだ。不善の人も根っからの悪人ではない。長年の習慣が性格になってしまって悪人になった。梁の上にいる者もその一人だ。」盗人は大変驚いて、その通りだと思って自ら梁から降りて罪を認めた。陳寔は盗人を諭して言った。「あなたは根っからの悪人に見えない。自分に打ち勝って善に戻りなさい。しかし、盗人になった理由は貧困にある。」そして絹を与えた。この話から、県内に徳が広まり、窃盗がなくなった。
 つまり、悪をなくすのは罰ではなく、徳である。


1.【指】「学習プリント」と本文プリントを配布し、宿題にする。
2.【指】宿題を点検する。
3.【指】学習プリントの読み方を確認する。
4.【指】教師が2回範読する。
5.【指】ペアリーディングさせる。
6.【L1】4の書き下し文を板書させて確認する。

7.時 歳 荒 民 倹。有 盗 夜 入 其 室、止 於 梁 上。
 1)【説】梁の説明をする。
 2)【訳】教師が訳する。
  ・その年、凶作で人々の生活が苦しかった。ある泥棒が夜に陳寔の奥座敷に忍び込み、梁の上で留まった。
 3)【注】「歳 荒 民 倹」が最後の伏線になる。

8.陳 寔 陰 見、乃 起 自 整 払、呼 命 子 孫、正 色 訓 之 曰、
 1)【語】
  ・陰=ひそかに
  ・乃=そこで。一つのことが終わり、間を置いて次のことが起こる。
    則=〜ならば。レバ則。仮定や条件と帰結との密接な関係。
    即=そのまますぐに。
    便=そのまま。即より軽い。
    輒=そのたびごとに。
  ・訓=説いて教える。
 2)【構】主語と述語(動詞)を確認する。
  ・主語=陳寔
  ・述語=見、起、整払、呼、命、正色、訓、曰。
 3)【訳】生徒に訳させる。
  ・陳寔は密かに見て、そこで起き上がって、身なりを整えて、子や孫を呼んで、命じて、改まった顔つきをして、これに教えて、言った。
  1)【L1】何を見たのか。
   ・泥棒。
 4)【L1】「之」の指示内容は。
  ・子や孫。
  ・実は泥棒に聞かせている。

9.「夫 人 不 可 不 自 勉。不 善 之 人、未 必 本 悪。
 1)【語】
  ・夫=そもそも。話の初めに使う。
  ・勉=努力する。
  ・不善之人=悪人。
  ・本=もともと。
 2)【句】
  ・不可カラ不ル〜=二重否定。〜でないことはできない→〜しなければならない。
  ・未ダ〜ず=再読文字。いまダ〜ず。まだ〜ない。
  ・未ダ必ズシモ〜ず=部分否定。否定語+副詞。後必ずしも〜でない。必ず〜であるとは限らない。悪人である可能性もあるが、そうでない可能性もある。
 3)【訳】生徒に。
  ・そもそも人は努力しなければならない。悪人もまだ必ずもともと悪人とは限らない。

10.習 以 性 成、遂 至 於 此。梁 上 君 子 者 是 矣」
 1)【語】
  ・遂=そのまま。
  ・君子=学識・人格とも優れた立派な人。人格者。
 2)【訳】生徒に。
  ・習慣が身について生まれつきの性格と同じようになり、そのままこれに到る。梁の上の人格者がそれである。
 3)【説】「習以性成」について。
  ・生まれつきの性質ではなく、生後の環境によって人格が形成される。
 4)【L1】此の指示内容は。
  ・悪。
 5)【L2】是の指示内容は。
  ・習以性成、遂至於此。
 6)【L3】なぜ泥棒に対して君子と言ったのか。
  ・ユーモアを込めて言った。泥棒に反省を促す。

11.盗 大 驚、自 投 於 地、稽 顙 帰 罪。寔 徐 譬 之 曰、
 1)【語】
  ・徐=ゆっくりと。
  ・譬=目下の者に物事の道理をよくわかるように話し聞かせる。納得するように教え導く。
 2)【構】主語は。
 3)【訳】生徒に。
  ・泥棒は大変驚いて、自分から降りてきて、額を地につけて礼をして、罪を認めた。
   陳寔はこれに話して聞かせた。
 4)【L1】之の指示内容は。
  ・盗。
 5)【L1】なぜ、泥棒は「自投於地、稽顙帰罪」したのか。
  ・陳寔が自分の悪を責めずに、間違いを諭したから。

12.「視 君 状 貌、不 似 悪 人。宜 深 剋 己 反 善。然 此 当 由 貧 困」
 1)【語】
  ・剋=打ち勝つ。
  ・然レドモ=しかし。逆接。然ルニ。
 2)【句】
  ・宜シク〜べシ=再読文字。〜しなければならない。〜するのがよい。
  ・当ニ〜べシ=再読文字。当然〜すべきだ。きっと〜だろう。
 3)【訳】生徒に。
  ・あなたの様子を見ると、悪人には見えない。よく自分に打ち勝って善に返るのがよい。しかし、これはきっと貧困のせいだろう。
 4)【L1】此の指示内容は。
  ・泥棒になったこと。
 5)【L1】陳寔は泥棒になった原因を何だと考えているか。
  ・貧困。本人の性格ではない。

13.令 遺 絹 二 匹。自 是 一 県 無 復 盗 窃。
 1)【語】
  ・遺=贈る。
 2)【句】
  ・令ム(〜ヲシテ)〜セ=使役。(〜に)〜させる。
  ・無復タ〜=部分否定。否定語+副詞。二度と〜ない。一度はあったが二度目はない。
 3)【訳】生徒に。
  ・絹二匹を贈らせた。このことから、県内では二度と盗みはなくなった。
 4)【L2】是の指示内容は。
  ・陳寔が泥棒を許したこと。
 5)【L3】なぜ、盗みがなくなったのか。
  ・人々が陳寔の仁徳に敬服し、盗みを恥ずかしいことだと考えるようになった。
 6)【説】陳寔について
  ・寛大なだけではない。
  ・母親が病気になったと嘘をついて休暇を取った役人に対して、死刑を命じた。なぜなら、主君を欺くのは不忠であり、母を病気にするのは不孝である。不忠不孝は最   大の罪である。
  ・二人の息子、陳紀(ちんき)と陳ェ(ちんしん)も優れた人物で、「兄たりがたく弟たりがたし」という故事成語が生まれた。



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学習の準備
1.3回音読しなさい。
2.4行ずつ空けて白文(句読点や訓点がない漢字だけの文)を写し、句読点(、。)を 付け、訓点(返り点と送り仮名)を付けなさい。
3.次の語の読み方を歴史的仮名遣いで書きなさい。
 蔭ニ  乃チ  自ラ  訓ヘテ  夫レ  未ダ  本ヨリ  遂ニ  是  徐ニ
 譬ス  宜シク  剋チテ  然レドモ  当ニ  由ル  令ム  自リ
4.書き下し文の決まりに注意して本文の右に書きなさい。特に次のものに注意しなさい。
 a.返り点に従って書く。
 b.読まない字は書かない。
 c.助詞と助動詞に当たる漢字はひらがなで書く。
 d.再読文字は、一度目は漢字で、二度目はひらがなで書く。
 1)夫 人 不 可 不 自 勉。
 2)不 善 之 人、未 必 本 悪。
 3)視 君 状 貌、不 似 悪 人。
 4)宜 深 剋 己 反 善。
 5)然 此 当 由 貧 困。
 6)令 遺 絹 二 匹。

学習のポイント
1.ある年の世の中の状態を理解する。
2.陳寔が身なりを整えて子どもたちに話を始めた理由を理解する。
3.陳寔は人の本性をどのように考えていたかを理解する。
4.陳寔は不善はなぜ起こると考えていたかを理解する。
5.盗人はなぜ梁から降りて罪を認めたのかを理解する。
6.陳寔は盗人にどうしろと話したかを理解する。
7.陳寔は不善の原因を何だと考えていたかを理解する。
8.なぜその後県内に窃盗がなくなったのかを理解する。
9.この話の教訓を理解する。