羅生門 2016


 ある日の暮方、一人の下人が羅生門の下で雨止みを待っていた。
 羅生門は、京都のメインストリートの朱雀大路にある以上賑わっているはずである。しかし、この二、三年、京都では災いが連続し、仏具を薪にしているという神も仏もない状態である。当然、羅生門は見向きもされず、狐狸や盗人が住むだけでなく、死人まで捨てられる始末である。夕焼け空にからすが黒々と飛んでいる様子は不吉なものを感じさせる。今日は雨が降っているのでからすはいないが、糞の白い跡が点々と残っている。
 そこに下人は座っている。右の頬に大きなにきびがあるので若者だとわかる。主人から四、五日前にリストラされ、雨がやんでも帰る所がない。「雨やみを待っていた」というより、「行き所がなくて、途方に暮れていた」のである。
 明日の暮らしという、どうにもならないことを、どうにかするためには、手段を選んでいる暇はない。選んでいれば、飢え死にをする。選ばないとすれば、盗人になるしかない。しかし、その勇気が出ない。
 そこで、雨風を防げる、盗人などの人目にかかる恐れのない、一晩寝られそうな所として、死人しかいないはずの羅生門に登る。
 しかし、羅生門の上では誰かが火を灯している。この雨の夜に、この羅生門の上で火をともしているという不合理な理由から、ただの者ではないと警戒する。
 下人は死骸にの中にうずくまっている老婆を見る。ある強い感情、六分の恐怖と四分の好奇心で息をするのも忘れてしまう。怖いけれども見たいという心理である。老婆は未知の存在であり、力関係は老婆の方が大きく勝っている。
 しかし、観察していると老婆が死人の髪の毛を抜くに従って、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜いているという不合理な理由から、恐怖が消え、老婆に対する激しい憎悪、というよりもあらゆる悪に対する反感が強くなる。若者の発想は飛躍しやすいものである。この時の下人なら、飢え死にを選んでいただろう。力関係は対等になる。
 正義感に燃えた下人は老婆を捕まえると、老婆の生死を自分の意志が支配していると意識し、憎悪の心は冷め、安らかな得意と満足を覚える。正義感は変形する。ここで下人と老婆の力関係は逆転する。
 しかし、もっと極悪非道な答えを期待し、それによってますます英雄になろうとしていた下人は、老婆の答えを聞いて、平凡なのに失望し、前の憎悪と冷やかな侮蔑が心の中に入ってくる。正義感は吹っ飛び、自分の夢を壊したことへの憎悪と相手を見下す気持ちになっている。力関係は完全に下人が優位になっている。恐怖、憎悪、正義感、満足、侮蔑と下人の心理は激しく変化する。
 しかし、老婆も負けていない。せねば飢え死にをするから仕方がないならば、相手の悪を許すことによって自分の悪も許されるという、開き直ったエゴイズムの論理を述べ立てる。老婆は勝ったと思ったかもしれない。ところが、下人はその老婆の論理を逆手にとる。老婆が女の悪事を許して悪事を正当化できるなら、自分も老婆を許せば悪事を正当化できると考える。羅生門の下で出なかった勇気の根拠を見いだす。下人は盗人になるという勇気を得て老婆の着物を引はぎする。極限状況に追い込まれながらも、理想的な正義感に燃えていた下人が、老婆の論理で現実的な悪を選択をする。
 そして、盗人になって京の町へ走り去る下人を作者は突き放して、話は終わる。

 表現面に注目すれば、a)洛中のさびれ方、b)羅生門の荒廃ぶり、c)「蟋蟀」やd)「にきび」の使い方、e)動物を使った比喩、f)色彩の対比、g)「雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっという音を集めてくる」の聴覚的表現、h)「門の屋根が、斜めに突き出した甍の先に、重たく薄暗い雲を支えている」の視点の違いなどが考えられる。導入

1【指】形式段落番号を打たせる。
 ・1〜36
2【指】意味段落を指示する。
 ・第一  1〜4  場面設定
 ・第二  5〜9  下人の思考の低回
 ・第三  10〜15  老婆への好奇心と恐怖
 ・第四  16〜27  老婆への憎悪
 ・第五  28〜36  老婆の論理と下人の決断
3【指】教師が全文を音読する。
 ・大切だと思うところに───線、面白い表現だと思うところに線を引かせる。
4【指】感想文を書かせる。
 ・200字
 ・このあと下人はどうするか、その理由。
 ・疑問や授業で考えたいこと。


第一段落(1ある日の〜4雨の降るのを眺めていた)

1.【指】漢字の意味を確認する。
 11)雨やみ  22)丹塗り 3)剥げた 4)朱雀大路 5)市女笠 6)烏帽子  37)飢饉 8)災い 9)薪 10)始末 11)顧みる 12)狐狸 13)棲む 14)盗人  415)刻限 16)糞 17)紺
2.次の語句の意味を調べなさい。
31)日の目(日光。日差し。
 2)足踏みをしない(立ち入らない。

3【指】1〜4をペアリーディングする。
4.冒頭の二文について(1)
11)【L1】冒頭の二文から、いつ、誰が、どこで、何をしたかの情報を読み取れ。
   ・いつ=ある日の暮方
    どこで=羅生門の下
    誰が=一人の下人
    何を=雨やみを待っていた
  【説】冒頭の一文で状況設定が書かれている。短編小説の定石。
5.時間について(2)
 2)【L2】時間について、時代は何時代か。
   ・平安時代の末期。
 3)【L3】季節がわかるものを探し、季節を考えよ。
   ・きりぎりす
  【調】きりぎりすの特徴と季節を調べさせる。
   ・黄緑色
   ・夏から秋。初秋。9月ごろ。
  【説】しかし、8段落に「火桶のほしい寒さである」とある。

  【調】「きりぎりす」を古語辞典で調べさせる。
   ・平安時代のキリギリスはコオロギのことである。
   ・焦茶色
   ・秋から冬。晩秋。11月ごろ。
  【説】丹塗りの剥げた柱との色彩の対比について考える。

6.場所について(2〜4)
 4)【L1】場所について、羅生門はどこにあるか。
   ・朱雀大路の南端。
   ・今の千本九条
   ★教科書の羅生門の復元も模型と平安京の挿絵を見る。
  【調】朱雀大路はどんな通りか。
   ・平安京を南北に貫く中央道路。
   ・メインストリート。今の河原町とか、四条通りとか。
   ・人通りが多いはず。
  【調】京都の通り名を調べる
   ・丸(太町)竹(屋町)夷(川)二(条)押(小路)御池 姉(小路)三(条)六 角蛸(薬師)錦(小路)四(条)綾(小路)仏(光寺)高(辻)松(原)万(寿 寺)五条 雪駄(屋町=楊梅通)ちゃらちゃら(鍵屋町)魚の棚(=六条)花屋 (町)正面 北(小路)七条 七条こえれば八(条)九条 十条 東寺でとどめ さす
 ・寺(町)御幸(町)麩屋(町)富(小路)柳(馬場)堺(町)高(倉)間(町) 東(洞院)車屋町 烏(丸)両替(町)室(町)衣(棚)新町 釜座 西(洞
 院)小川 油(小路)醒井で堀川の水 葭屋(町)猪(熊)黒(門)大宮へ松
  (屋町)日暮に智恵光院 浄福(寺)千本さては西陣
 5)【L1】なぜ羅生門には誰もいないのか。
   ・地震や辻風や火事や飢饉などの災害が続いて荒れ果てていた。
   ・狐狸や盗人が棲みつき、死人まで捨てるようになった。
   ・日の目が見えなくなると、気味を悪がって足踏みをしなくなる。
   ★教科書の映画に表現された羅生門を見る。
 6)【L3】鴉の効果について考えよ。
   ・夕焼けの「赤」,鴉の「黒」の対比。
   ・不気味さを表現している。
  【説】他の色彩の対比について
   ・鴉の糞の「白」、長い草の「緑」、下人の着物の「紺」。
6.人物について(5)
  【調】下人を調べる。
   ・金銭で売買される奴隷。
   ・農耕、雑役、軍役等に駆使された。
   ・支配されるままで、主体性がない。
 
 7)【L2】下人の年齢や服装は。
   ・若い。十五〜十八才。
   ・にきびがある。
   ・洗い晒しの紺の襖を着ている。
  【調】襖(あわせ)を調べる。
  【説】下人の名前について説明する。
    ・名前がない。
    ・下書きメモでは、「交野五郎」「交野平六」となっていたが、「一人の男」「一人の侍」を経て、「一人の下人」になる。

7.時間・場所・人物の共通点は。
 8)【L3】夕暮れ・平安時代後期・季節、羅生門、下人の共通点は何か。
  ・境目。
  ・昼と夜・平安と鎌倉・秋と冬、洛中と洛外、子どもと大人。
 
第一段落(1〜4)
 いつ                           
・ある日の暮れ方のことである。
 だれが    どこで   何を
・一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。 
1)時間
 ・時間帯=暮れ方────昼と夜の境目
 ・時代=平安時代末期──時代の境目
 ・季節=晩秋──────季節の境目
   ↑
  ・きりぎりす─┐      
   ・黄緑色 │
   ・初秋   ├─丹塗りの柱に止まっている
  ○ころおぎ──┘                              
   ・焦茶色
   ・晩秋
   ↑
  ・火桶が欲しいほどの寒さ
2)場所
 ・羅生門───洛中と洛外の境目。
  ・朱雀大路=メインストリート→にぎやか
   ↓↑
  ・この男の他はだれもいない
  ・狐狸、盗人、死人
   ↓
  ・気味が悪い
   ↑
  ・夕焼けの空(赤)─┐
   からす(黒)───┴──不気味
3)人物
 ・下人=子供と大人の境目。
  ・売買される奴隷→意志がない
  ・にきび→若い。
  ・洗いざらし紺色の襖


第二段落(5〜9)

1.漢字の読み方を書きなさい。
 51)暇を出す 2)衰微 3)余波 4)途方 5)申の刻  66)甍  77)暇かない 8)築土 9)低回 10)逢着  811)大儀 12)火桶  913)汗衫 14)憂え 15)草履 16)履く
2.次の語句の意味を調べなさい。
51)暇を出す=休暇を与える。暇をやる。使用人などをやめさせる。妻を離縁する。
 2)衰微=勢いが衰えて弱くなること。
 3)余波=ある事柄が周囲のものに影響を及ぼすこと。また、その影響。とばっちり。
 4)途方に暮れる=方法や手段が尽きて、どうしてよいかわからなくなる。
75)低回=思索に耽りつつ行ったり来たりする。
 6)片をつける=物事の決着をつける。始末をつける
87)大儀=めんどうくさいこと。

3.【指】5〜6をペアリーディングする。
4.表現効果について(5)
51)【L4】作者が突然顔を出す表現の効果は。
   ・説明的になる。
   ・下人の心理を分析する。
6.下人の境遇について(5)
52)【L3】「下人が雨やみを待っていた」と「雨に降り込められた下人が、行き所がなくて、途方に暮れていた」の違いは何か。
   ・下人が雨やみを待っていた=帰る所がある。
   ・雨に降り込められた下人が、行き所がなくて、途方に暮れていた=帰る所がない。
 3)【L1】なぜ、下人は帰る所がないのか。
   ・主人から、四、五日前に暇を出された。
   ・失業者である。
   ・下人ではなく、元下人である。
 4)【L1】なぜ、下人は主人から暇を出されたのか。
   ・京都の衰微の余波である。
   ・「前にも書いたように」とあるので、3段落を振り返る。
 5)【L1】雨は、下人をどんな気分にさせたか。【L4】なぜ、フランス語なのか。
   ・サンチマンタリスム
   ・感傷的な気分
  【説】フランス語で表記することによって、新しい感じ、現代に通じる心理を表す。
   ★今後の気持ちの変化が激しい下人の性格が表れている。
6.雨の描写について(6)
66)【L3】雨の描写について、「雨は、羅生門を包んで、遠くから、ざあっという音を集めてくる」の表現は、五感の内どの感覚を働かせているか。
   ・視覚的でなく、聴覚的である。
  【L3】視覚的に表現するとどうなるか。
   ・「雨は、羅生門に向かって、激しく降りつけている。」
  【L4】感じの違いは。
 7)【L2】「門の屋根が、斜めに突き出した甍の先に、重たく薄暗い雲を支えている」の表現の主語は何か。
   ・門の屋根
   ・門の屋根か中心になっている。
  【L2】「雲」を主語にすると。
   ・「重たく薄暗い雲が、門の屋根の斜めに突き出した甍の先に、のしかかっている」
  【L4】感じの違いは。
   ・「屋根」を主語にすると、下人の視点からの構図になる。
   ・「雲」を主語にすると、遠くからの構図になる。
7.【指】7〜9をペアリーディングさせる。
8.下人の考えの展開について(7)
78)【L2】下人の考えはどのように展開するか。
   1)どうにもならないこと。
    ↓
   2)どうにかする。
    ↓
   3)手段を選んでいるいとまはない。
    ↓
   4)選んでいれば。  ┌→6)選ばないとすれば。
    ↓         │  ↓
   5)飢え死にをする。─┘ 7)盗人になるよりほかにしかたがない。
 9)【L1】「どうにもならないこと」とは何か。
   ・明日の暮らし
 10)【L1】「局所」とはどの考えか。
   ・6)選ばないとすれば
 11)【L3】「低回」とは、どの考えからどの考えに戻ることか。
   ・6)「選ばないとすれば」から、1)「どうにもならない」に戻る。
 12)【L1】なぜ、下人は盗人になることを選ばなかったのか。
   ・勇気が出ない。
  【注】「勇気」については、後の授業で考える。

9.下人が羅生門で夜を明かそうとした理由について(8〜9)
813)【L4】「くさめをした」「きりぎりすがいなくなった」ことの効果は。
  【指】「くさめ」の意味を調べさせる。
   ・くしゃみ
   ・寒さを強調する。気分が変わる。思索から行動へ移るきっかけになる。
   ・きりぎりすにさえ見放された。新しい動きが始まる予兆。
914)【L2】なぜ、下人は死人が捨てられている羅生門の上で夜を明かそうとしたのか。
   ・雨風の憂えがない
   ・人目にかかる恐れがない
   ・一晩楽に寝られそうなところ
    ↓
   ・人が寄りつかないので、物を盗まれたり命を奪われる心配がないから。
   ・気味の悪さより、生命の安全を選んだ。

 
1)下人の境遇
 ・下人が雨やみを待っていた=帰る所がある。
 ・雨に降り込められた下人が、行き所がなくて、途方に暮れていた=帰る所がない。
   ↑
 ・主人から、暇を出された。
   ↑
 ・京都の衰微の余波
   ↓
 ・サンチマンタリスム(感傷的な気分)
2)雨の描写
 ・雨は、羅生門を包んで、遠くから、ざあっという音を集めてくる=聴覚的
 ・雨は、羅生門に向かって、激しく降りつけている=視覚的
 ・門の屋根が、斜めに突き出した甍の先に、重たく薄暗い雲を支えている
 ・重たく薄暗い雲が、門の屋根の斜めに突き出した甍の先に、のしかかっている
3)下人の考えの展開
 1)どうにもならないこと=明日の暮らし ←───────┐
  ↓                               │
 2)どうにかする                         │
  ↓                               │
 3)手段を選んでいる暇はない                 │
  ↓                               │
 4)選んでいれば    ┌→6)選ばないとすれば=局所──┘
  ↓          │  ↓←勇気がない
 5)飢え死にをする──┘ 7)盗人になるよりほかにしかたがない 
4)羅生門で夜を明かそうとする
 ・くさめをした
 ・きりぎりすがいなくなった
  ↓
 ・雨風の憂えがない
 ・人目にかかる恐れがない
 ・一晩楽に寝られそうなところ
  ↓
 ・生命の安全


第三段落(10それから、何分かの後である〜15髪は手に従って抜けるらしい)

《目的》老婆とのファーストコンタクトによる恐怖と好奇心を読み取る。

1.【指】漢字の読み方を書きなさい。
 121)死骸 2)無造作 133)腐乱 4)臭気 5)覆った 6)嗅覚 147)痩せた 8)白髪頭 159)暫時 10)床板
2.【指】次の語句の意味を調べなさい。
 101)息を殺す=呼吸の音もさせないで、じっとしている。
  2)高をくくる=大したことはないと見くびる。
 153)暫時=少しの間。しばらく。

3.【指】10〜12をペアリーディングさせる。
1.場面展開
101)【L1】「一人の男」とは誰か。【L1】なぜわかるか。【L3】なぜ「下人」と書かなかったのか。
   ・下人
   ・右の頬→短いひげ→にきび→下人
    ・クローズアップすることによって、下人に焦点を当てていくテクニック。
   ・新たな人物が登場したかのような表現で、緊張感をかもし出す。
  【L3】「それから、何分かののちである」を挿入した効果は。
   ・場面転換をはかる。
   ・時間が止まっている。
  【L3】「そのはしごのいちばん下の段へ踏みかけた」の続きは。
   ・「はしごを二、三段上ってみると」
  【L2】「下人は、初めから、この門の上にいるものは、死人ばかりだと高をくくって    いた」と同じ内容を9段落から探す。
   ・上なら人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。

5.下人の心理の変化について(10〜15)
 2)【L2】なぜ、下人ははしごの中段で途中で立ち止まったのか。
   ・誰もいないと思った羅生門の上に火がともっているから。
 3)【L1】なぜ、楼の上にいる人が「ただの者ではない」と思ったのか。
   ・この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているから
  【L3】「この」にはどんな意味が込められているか。
   ・明確に指示内容があるのではない。
   ・雨の夜と羅生門の気味の悪さを強調している。
12 【L4】羅生門の上の描写からどんな感じを受けるか。
   ・気味の悪さを強調している。
   ・具体的な描写は今昔にはない。
134)【L1】鼻を覆うの忘れさせた「ある強い感情」とは何か。
   ・六分の恐怖と四分の好奇心
    ・怖いもの見たさ。
    ・お化け屋敷やホラー映画を見る感情を想定させる。
 5)【L2】なぜ、その感情が起こったのか。
   ・老婆を見たから。
146)【L1】老婆の様子はどのように表現されているか。
   ・檜皮色の着物を着た
   ・背の低い
   ・やせた
   ・白髪頭の
   ・猿のような(=顔がしわくちゃになっている)
   ・死人の髪の毛を一本ずつ抜いていた。
10〜157)【L1】動物を使った比喩を抜き出せ。【L3】どんな様子をたとえているか。
   ・猫のように=身を縮めている様子。
   ・やもりのように=静かに移動する様子。
   ・猿のような=顔が皺だらけな様子。
   ・猿の親が猿の子のしらみを取るように=丁寧な様子。
 
第三段落(10〜15)
・場面展開(羅生門の下→羅生門のはしご)
 ・一人の男
  ‖右の頬→にきび
 ・下人
・下人の心理の変化(1)
 場所はしごの中段
  ・誰もいないと思った
   ↓・上で誰かが火をともして移動している
  ・上には人がいる
   ↓・この雨の夜に、この羅生門の上で
  ・ただの者ではない
 場所いちばん上の段
  ・鼻を覆う。
   ↓・死体の腐乱した臭気
  ・ある強い感情=六分の恐怖と四分の好奇心
   ・老婆を見た=ただの者ではない
    ・檜皮色の着物を着た
    ・背の低い
    ・やせた
    ・白髪頭の
    ・猿のような(=顔がしわくちゃになっている)
    ・死人の髪の毛を一本ずつ抜いていた。
・動物を使った比喩
 ・猫のように=身を縮めている様子。
 ・やもりのように=静かに移動する様子。
 ・猿のような=顔が皺だらけな様子。
 ・猿の親が猿の子のしらみを取るように=丁寧な様子。


第四段落(16その髪の毛が〜27こんなことを言った)

《目的》下人の心理が、恐怖から憎悪、さらに得意と満足へ変化していく様子を読み取る。

1.【指】漢字の読み方を書きなさい。
 161)憎悪 2)語弊 3)未練 214)慌て 5)塞ぐ 6)罵る 237)鋼 8)険しく 9)成就 10)和らげる 2411)検非違使 2512)喉仏 2713)存外 14)侮蔑
2.【指】次の語句の意味を調べなさい。
 161)語弊=言葉の使い方が適切でないために誤解を招きやすい言い方。
 232)成就=物事を成し遂げること。
 243)縄をかける=捕まえる。逮捕する。
 274)存外=思っていたのと程度や様子が違うこと。思いのほか。案外
5)侮蔑=見くだしさげすむこと。
3.【指】次の語を使って短い文を作りなさい。
 23全然(本来なら、下に打消語が来るが、ここでは「意識した」と肯定表現)

4.16〜22をペアリーディングする。
5.恐怖から憎悪への下人の心理の変化について(16〜22)
161)【L1】髪の毛が抜けるにしたがって、恐怖が消え、どんな感情が生まれたか。
   ・老婆に対する激しい憎悪。
 2)【L1】「老婆に対する激しい憎悪」を言い換えると。
   ・あらゆる悪に対する反感
  【L3】「あらゆる悪に対する反感」を一言で言い換えると。
   ・正義感。
 3)【L3】「老婆に対する激しい憎悪」「あらゆる悪に対する反感」の違いは。
   ・老婆に対する激しい憎悪=個人的な憎悪。
   ・あらゆる悪に対する反感=社会全体への憎悪。
174)【L1】なぜ、老婆の行為を「許すべからざる悪」だと思ったのか。
   ・この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜いているから。
   ・なぜ老婆が死人の髪の毛を抜くのかわからない。
   ・合理的には善悪のいずれにかたづけてよいか知らなかった。
   【説】つまり、感情的、非論理的な判断である。
   【注】10で老婆をただ者ではないと思ったのと同じ論理である。
165)【L1】この時の下人なら、「飢え死に」か「盗人」かどちらを選んだか。
   ・飢え死に
18〜23【説】下人は、はしごから上に飛び上がり、老婆をねじ伏せる。

6.23〜27をペアリーディングする。
7.憎悪から得意と満足への下人の心理の変化について(23〜24)
235)【L1】老婆を捕らえて、どんな感情からどんな感情へ変化したか。
   ・憎悪から安らかな得意と満足へ。
 6)【L1】なぜ、「やすらかな得意と満足」を感じたのか。
   ・老婆の生死を自分が支配していると感じたから。支配感。
   ・ある仕事が円満に成就したから。
   【説】今までの支配される身分から、初めて人を支配する気持ちを体験した。
 7)【L1】ある仕事とは何か。
   ・老婆をとらえる。
248)【L2】24の下人の言葉の中の嘘は。【L3】なぜ、嘘を言ったのか。
   ・「門の下を通りかかった旅の者」
    ・本当は、主人から暇を出されて門の下で途方に暮れていた。
   ・正義の味方らしく見せるため。
   ・老婆に対して絶対優位を保ちたい。
259)【L1】刀を突きつけられた老婆の様子は。
   ・まぶたの赤くなった
   ・肉食鳥のような
   ・鋭い目
   ・鼻と一つになった唇
   ・鴉の鳴くような声
   ・蟇のつぶやくような声
26 【説】老婆は「死人の髪を抜いてかつらを作ろうとしていた」と言う。
2710)【L1】老婆の答えを聞いて、どんな感情に変化したか。
   ・前の憎悪と冷やかな侮蔑。
 11)【L1】なぜ、「憎悪と侮蔑」を感じたのか。
   ・老婆の答えが存外平凡なのに失望したから。
   ・もっと恐ろしい答えを期待していた。
   ・もっと大きな正義になりたかった。
   ・老婆がたいした悪人ではなかったから。
 12)【L4】下人はどんな答えを期待していたか。
   ・例えば、死人の髪の毛を抜き、頭の皮を剥ぎ、目玉をくり抜き、首を切り取り…。
 13)【L3】今度の「憎悪」は「前の憎悪」の違いは。
  ・前の憎悪=純粋に悪に対する憎悪であった。
  ・今度の憎悪=下人の勝手な思い込みを裏切られたことに対する私的な憎悪である。
 
第三段落(16〜27)
下人の心理の変化(2)
 場所はしごの上段
  ・髪の毛が抜ける
   ↓
  ・恐怖が消える
   ↓ 
  ・老婆に対する激しい憎悪=個人的
   あらゆる悪に対する反感=社会的=正義感
   許すべからざる悪
    ・この雨の夜に───────┐ 非合理
    ・この羅生門の上で    ├─非論理的   
    ・死人の髪の毛を抜いている─┘ 感情的
   ‖
  ○飢え死に
 場所楼の上
  ・老婆を捕らえる
   ↓
  ・憎悪が消える
   ↓
  ・安らかな得意と満足
   ・老婆の生死を支配=支配感
   ・ある仕事が成就した
    老婆を捕らえる
   ↓
  ×「門の下を通りかかった旅の者」=虚栄心
   ↓
  ・「死人の髪を抜いてかつらを作る」
   ・平凡→失望=×英雄
   ↓
  ・前の憎悪と冷やかな侮蔑。
   ・前の憎悪=社会的
   ・今度の憎悪=個人的


第五段落(28「なるほどな〜36おわり)

《目的》下人が盗人になることを決意する論理を読み取る。

1.【指】漢字の読み方を確認する。
 281)太刀帯 2)疫病 303)収める 324)嘲る 5)襟髪 336)恨む 347)蹴倒す
 8)剥ぎ取る 359)黒洞々 3610)行方
2.【指】語句の意味を確認する。
 281)現に=実際に
 2)大目に見る=人の過失や悪いところなどを厳しくとがめず寛大に扱う。
 324)念を押す=間違いがないように、相手に確かめる

3.【指】ペアリーディンクする。
4.老婆の論理について
281)【L1】老婆は死人の髪の毛を抜くことをどう思っているか。
   ・悪いこと。
  【L1】女は、生前何をしていたか。
   ・女が蛇を干し魚といって売っていた。
   ・詐欺を働いていた。
   ・悪いこと。
 2)【L1】なぜ、老婆はこの女のしたことを悪いと思っていないのか。
   ・せねば、飢え死にをするからしかたなくしたことだから。
 3)【L1】なぜ、老婆は自分のしたことを悪いと思っていないのか。
   ・せねば、飢え死にをするからしかたなくしたことだから。
 4)【L1】なぜ、この女は老婆のすることを大目に見てくれるのか。
   ・しかたがないことをよく知っていたから。
5)【L3】老婆の論理をまとめるとどうなるか。論理に矛盾はないか。
   ・生きるために仕方なくする悪は許される。
  ・相手の悪を許せば、自分の悪も許される。
 ・自分が死んだ女を許したとしても、死んだ女が許してくれるかどうかわからない。
 ・自分勝手な、自己中心的な考え方。
 ・エゴイズム。
5.下人の勇気について
306)【L1】次の勇気は何をする勇気か。【L4】それは勇気と言えるか。
  「ある勇気」
   ・盗人になる勇気。
  「門の下では欠けていた勇気」
   ・盗人になる勇気。
  「老婆を捕らえた時の勇気」
   ・飢え死にをする勇気。
  「反対な方向に動こうとする勇気」
   ・盗人になる勇気。
   ・一般的に、勇気は良いことをする意味に使われる。
   ・この場合、生きるための強い意志という意味で使われている。
 7)【L1】この時の下人の心持ちは。
   ・飢え死になどということは、意識の外に追い出されていた。

6.下人の論理について
328)【L3】なぜ、下人は嘲るように念を押したのか。
   ・老婆が女にしたことと同じことを下人にされるから。
   ・加害者から被害者になる。
   ・自業自得
339)【L1】なぜ、下人は老婆の着物を引剥ぐのか。
 ・そうしなければ、飢え死にをする体だから。
 10)【L3】下人の論理をまとめるとどうなるか。老婆の論理との違いは。
   ・生きるために仕方なくする悪は許される。
  ・相手の悪を許せば、自分の悪も許される。
   ・女は死んでいたが、老婆は生きている。
   ・死んだ女は拒否の意思表示ができないが、生きている老婆は拒否できる。
 11)【L3】下人が老婆の着物を引剥いだ意味は。
   ・盗人になる決意を表明する。
   ・老婆の着物は売れない。
7.にきびについて
  【説】にきびの描写の変化を確認する。
 4羅生門の下で、にきびを気にしながら、雨の降るのを眺めていた。
 10はしごの中段で、短いひげの中の赤くうみを持ったにきび。
 30にきびを気にしながら老婆の話を聞いていた。
 32不意に右の手をにきびから離して引剥ぎをする。
 12)【L3】「にきび」の意味は。
   ・悪事のスイッチ。
    ・気にしている時は悪人にはなれない。
    ・手を離した時に悪人になる。

8.結末について
34 【L1】下人の行動は。
   ・すばやく、老婆の着物を剥ぎ取った。
   ・またたくまに急なはしごを夜の底に駆け下りた。
3513)【L4】「夜の底」「黒洞々たる夜」のイメージは。
   ・真っ暗闇。不気味、不安。出口がない。
   ・現実社会。エゴイズム。人間の心。救いのない未来。
 14)【L4】「下人の行方は誰も知らない」という終わり方の効果は。
   ・「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ、強盗を 働きに急ぎつつあった。」
    (大正十一年『帝国文学』)
   ・下人を冷たく突き放している。
   ・読者にその後を想像させる。
 15)【L4】下人はどうなったと思うか。
   ・盗人になった。
   ・下人が老婆にしたように、誰かに引剥ぎされた。

9.「羅生門」の主題について
 16)【L4】この小説の主題は何か。
  ・極限状況での善悪。
  ・受動的な死より、主体的な生。
  ・生きることの正当性を捏造する大人の論理。
  ・少年の心の変わりやすさ。
  ・自己中心的な論理の破局、矛盾。
  ・生き抜くために悪事さえしなければならない苦悩。
  ・子供が大人になる儀式。
  ・人間が生きることのたくましさと恐ろしさ。
  ★主題についての自分の考え、あるいは、羅生門の続きを書かせる。
板書
 
老婆の論理
      
老婆=死人の髪の毛を抜く=悪
  ↑       ↑
  許す   せねば飢え死にをするので仕方がなくすること   ↓       ↓
女 =蛇を干し魚と偽って売る=悪=死んでいる







 ・生きるために仕方なくする悪は許される。
・相手の悪を許せば、自分の悪も許される。
・下人の勇気
 ・ある勇気=盗人になる
 ・門の下では欠けていた勇気=盗人になる
 ・老婆を捕らえた時の勇気=飢え死にする
 ・反対な方向に動こうとする勇気=盗人になる
  ‖
 ・飢え死に=意識の外
  ↓
 ・嘲るような声
・下人の論理

      
下人=老婆の着物を剥ぐ
  ↑       ↑
 許す   せねば飢え死にをするので仕方がなくすること     ↓       ↓
老婆=死人の髪の毛を抜く=生きている







 ・生きるために仕方なくする悪は許される。
 ・相手の悪を許せば、自分の悪も許される。
  ・女=死んでいた
  ・老婆=生きている。
 ・老婆の着物を引剥ぐ
 ・盗人になる決意
 ・にきびの表現
 ・4羅生門の下で、にきびを気にしながら、雨の降るのを眺めていた。
 ・10はしごの中段で、短いひげの中の赤くうみを持ったにきび。
 ・30にきびを気にしながら老婆の話を聞いていた。
 ・32不意に右の手をにきびから離して引剥ぎをする。
   ‖
 ・悪事のスイッチ。
・下人の行方
 ・「下人の行方は誰も知らない」
  ・下人を冷たく突き放す
  ・読者に想像させる。
 ・「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ、強盗を働きに急ぎつつあった」

マイクロディベート「羅生門」をする。

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