ホンモノのおカネの作り方の極意は、ニセガネを作らないことである。ニセガネを作らない極意は、ホンモノのおカネに似せようとしなければよい。
第一段では、ホンモノに近い「似せ」ガネを作る例として、幕末の佐土原藩の例を挙げる。ニセの二分判金をつくり方を丁寧に説明し、ホンモノの金銀に見えるように細工する苦労を紹介している。
第二段では、ホンモノのお金の「代わり」がホンモノのおカネになるという逆説を述べている。天王寺屋や鴻池屋などの両替商は、貨幣を時価によって交換するだけでなく、財産の保管もしていた。そこで、金貨銀貨との交換を保証する文章が添えられている短冊形の紙切れである「預かり手形」を発行した。これによって借金の支払いができる。持ち運びも保管も容易なので便利である。このことから、ホンモノのおカネとは似ても似つかない「代わり」が、ホンモノのおカネとして支払いの手段として流通するという、逆説が作用していることがわかる。
第三段では、ホンモノのおカネが作られるシステムと、ニセガネ作りの「ホンモノの形而上学」について述べている。本来、金銀は、装身具や祭礼器具に使われていた。それが交易のための支払いの手段として用いられた時、おカネが誕生する。次に、金銀の塊に内容量を刻印した金貨銀貨が流通し始め、次に金貨銀貨の引換証書である預かり手形や銀行券になり、現在では小切手やクレジットカードになっていく。つまり、ホンモノのおカネの「代わり」がホンモノのおカネになっていくという逆説の作用が、ホンモノのおカネを作り続けてきた。
だが、ニセガネ作りは、ホンモノのおカネはホンモノの金銀でできているという「ホンモノの形而上学」に支配され、金銀に似せたものを作ろうとした。しかし、ホンモノに似せられたニセモノはホンモノになることはできず、発覚すれば極刑に処せられた。
つまり、ホンモノのおカネに似せるのでなく、ホンモノのおカネに代わってしまうことが、ホンモノのおカネを作る極意である。
第四段では、ホンモノのおカネを作るには、大きな資力と厳重な金蔵が必要であることを補足している。それのない者は、ホンモノの形而上学でニセガネを作るか、ホンモノのおカネの作り方を科学するしかない。
この評論の主題は、ホンモノのおカネの作り方の極意は、ホンモノのおカネに似せようとしないことであるという逆説である。本来、ホンモノのおカネはホンモノの金銀でできているという「ホンモノの形而上学」があった。たしかに、金銀や金貨銀貨までは太古において価値のあった装身具などに交換できる等価交換の価値があり、ホンモノのおカネとして流通していた。しかし、その後ホンモノのおカネは、預かり手形、紙幣や小切手やクレジットカード、さらに電子マネーへと発展し、硬貨の形を止めないばかりか、無形のものになってしまった。この逆説を成立させているものは、おカネとは支払い手段であるということである。そして、大きな資力に保証されていることである。
授業では、論理の展開を丁寧に抑えて、逆説が成り立つことについて考える。
1.逆説について考える。
1)エビメニデスのパラドックスについて考える。
プラトン曰く、「ソクラテスの言は本当だ」
★真理に反する説。
2)ゼノンのパラドクスについて考える。
★真理に反する説。
3)方丈記の冒頭について考える。
★一見真理ではないことを述べているようで、よく考えると真理を述べている。
4)次の教材で考える逆説とは、3)の意味であることを確認する。
2.おカネについて考える。
3.基本問題をさせる。
4.ホンモノのおカネの作り方の極意を確認する。
5.ニセガネを作らない極意を確認する。
6.つなげて考えるとどうなるか確認する。
7.この論理に矛盾はないか考える。
8.作者の論理は逆説になっていることを確認し、この逆説の真理を解明することがこの 評論の論旨になっていることを確認する。
9.第一段の役割を確認する。
↓
ニセガネとはホンモノの金銀でないものが、あたかもホンモノの金銀に見えるように細工されたものである(抽象)
10.第二段の役割を確認する。
↓
ホンモノのおカネの「代わり」が、ホンモノのおカネになってしまう。(抽象)
11.ニセガネ作りは、どのようにしてニセガネを作るのかを確認する。
12.ニセガネ作りを支配している「ホンモノの形而上学」とは何かを確認する。
13.ニセガネ作りは、ニセガネが発覚するとどうなるか、確認する。
14.そうしたニセガネ作りを何と呼んでいるか確認する。
15.ホンモノのおカネの変遷を確認する。
1)おカネが誕生する前はどうだったか考える。
2)初めてのおカネとして誕生したものとその理由を確認する。
3)金銀の代わりに流通したものと、金銀との関係を確認する。
4)金貨銀貨の代わりに流通したものと、金貨銀貨との関係を確認する。
5)銀行券の代わりに流通したものを確認する。
16.この変遷で特徴的なことは何か考える。
18.「ホンモノのおカネ」とは何か。
19.「ホンモノ」「おカネ」カタカナになっている理由を考える。
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