徒然草


 平宣時は執権連署として、時の執権北条時頼に仕えた。執権は将軍の補佐役であるが、当時の将軍は飾り物で、実権は執権が握っていた。時頼は当時の最高権力者である。
 ある晩、時頼に呼ばれて、正装していこうと直垂を探していたが、その内にまた使いが来て、夜だからどんな格好でもかまわないから早く来いと督促された。普段着のままで急いでいくと、用件は、酒を一人で飲んでいても寂しいので一緒に飲もうと言うことであった。当時の最高権力者である時頼が、そんなことで呼びつけるというのは、傲慢というのではなく、それほど宣時を信頼していたということである。
 しかし、酒を飲もうと誘っておきながら、酒の肴がない。家来を呼んで探させてもよいのだが、みんな寝ているから探して来いと言う。このあたり、公私混同しないところが偉い。そして、皿に少しついた味噌を見つけてくると、これで十分と、気持ちよく酒を飲んだ。当時の権力者は、それほど素朴で質素であった。
 それに比べて、現在の権力者は、私利私欲に走り、格式張って、贅沢であると言う批判が見られる。


展開

1.「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題にする。
 ・本文写し、古語調べ、訳させる。
 
2.教師が音読する。
 
3.生徒が音読する。
 
4.単語に区切って読ませ、訳させる。
 1)平宣時朝臣、老の後、昔語りに、「最明寺入道、ある宵の間に呼ばるることありしに、
  1)「平宣時朝臣」「最明寺入道」の後に「が」を補う。
  2)「るる」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の意味を説明し、その中から選ばせる。
  3)夜中に上司に呼び出されたらどんな用事だと思うか。
   ・緊急の重要な要件。
 2)『やがて。』と申しながら、直垂のなくて、とかくせしほどに、
  1)主語を問う。
  2)「やがて」の意味と、後の省略を問う。
   ・1)そのまま。2)すぐに。3)すなわち。4)そっくりそのまま。5)まもなく。
  3)逆接の接続助詞「ながら」を確認する。
  4)「直垂」を図説229頁で確認する。
 3)また使ひ来たりて、『直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、疾く。』とありしかば、
  1)主語を確認する。
  2)「候ふ」の意味を確認する。
   1)お仕えする(謙譲語)。2)ございます(丁寧語)。3)(補助動詞)〜です。
  3)打消の助動詞「ぬ」、断定の助動詞「に」、疑問の係助詞「や」を確認する。
  4)「にや」の後の「あらむ」の省略を補う。
  5)逆接の接続助詞「とも」、順接の接続助詞「ば」を確認する。
  6)「疾く」の意味を確認し、後の省略を問う。
   ・1)勢いが激しい。2)早い。
   ・来よ(来たまへ)
 4)萎えたる直垂、うちうちのままにてまかりたりしに、銚子に土器取り添へて持て出でて、
  1)主語を問う。途中で変わっている。
  2)「萎ゆ」の意味を確認する。
   ・1)ぐったりする。2)柔らかくなる。
  3)「まかり」の意味を問う。
   1)(「去る」の謙譲語)退出する。2)(「行く」の謙譲語)出て行く。3)(「行く」の謙譲語)参上する。4)(「行く」の丁寧語)参ります。
   ・身分の低いところから高い所へいく。
   ・身分の低い平宣時朝臣から、高い最明寺入道へ。
  4)直垂がなかったのでなく、糊のきいた直垂がない。
  5)銚子と土器を持って出てきたのだから、酒を飲むために呼び出したことがわかる。
 5)『この酒を独りたうべんがさうざうしければ、申しつるなり。
  1)会話の主体を問う。
  2)「さうざうしけれ」の意味を問う。
   ・心が安んじない、楽しくない。あるべきものがないという、心が満足しないさま。1)物足りない。
   ★現代語とは違う。
  3)順接の接続助詞「ば」を確認する。
 6)肴こそなけれ。人は静まりぬらん。さりぬべき物やあると、いづくまでも求めたまへ。』
  1)主語を確認する。
  2)強意の助動詞「ぬ」現在推量の助動詞「らん」、強意の助動詞「ぬ」適当の助動詞「べし」を確認する。
  3)強意の助動詞「こそ」疑問の係助詞「や」の意味と結びを考える。
   ・係り結びの法則について説明する。
  4)尊敬の補助動詞「たまへ」を確認する。
  5)夜中に酒を飲むのに呼び出したのに、酒の肴を用意していない。
  6)執権であり、召使も自由に使えるのに、寝ているからといって用事を言いつけない最明寺入道の人柄に注意する。
   ・部下を思いやる。
  7)部下である宣時に「たまへ」と尊敬語を使っていることに注意する。
   ・部下に対しても偉そうぶらない。
 7)とありしかば、紙燭さして、隈々を求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少しつきたるを見出でて、
  1)主語を問う。
  2)順接の接続助詞「ば」を確認する。
  3)酒の肴を探して、味噌しか見つけられなかった宣時の気持ちを考える。
   ・叱られるのではないかと心配である。
 8)『これぞ求め得てさうらふ。』と申ししかば、『こと足りなん。』とて、快く数献に及びて、興に入られはべりき。
  1)主語を問う。
  2)補助動詞「さふらふ」「はべり」を確認する。
   ・「さふらふ」は前出と意味が異なる。
   ・「はべり」1)(「あり」の謙譲語)お仕えする。2)(「あり」の丁寧語)あります。3)(補助動詞)〜ます。
  3)「れ」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の中から選ばせる。
  4)宣時に恐る恐る差し出した味噌を、満足して受け取って、気持ちよく酒を飲んでいる最明寺入道の人柄を考える。
   ・質素で贅沢をしない。
   ・相手の気持ちを大切にする。
   ・本当の酒飲みである。
 9)その世には、かくこそはべりしか。」と申されき。
  1)主語を問う。
  2)「はべり」の意味を確認する。
   ・ここは補助動詞ではなく本動詞である。
  3)「れ」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の中から選ばせる。
 
5.内容を考える。
 1)もう一度通訳をする。
 2)「かくこそはべりしか」の指示内容を考える。
  a)夜中に酒を飲む相手に部下を呼び出す。
  b)服装を気にしない。
  c)酒に誘いながら肴を用意していない。
  d)召使に気をつかう。
  e)客に肴を探させる。
  f)部下に敬語を使う。
  g)粗末な肴に満足して酒を飲む。
 3)これらのことに対する、宣時の評価は。
  ・肯定している。
  ・夜中に、酒を飲むために呼び出されて、肴まで探させられたが、好意的に受け取っている。
 4)最明寺入道の人柄を考える。
  ・外見を気にしない。
  ・部下と信頼関係があり、深い関係が結べる。
  ・質素である。
 5)宣時が昔語りをした意図を考える。
  ・最明寺入道との思い出にふける。(最明寺入道は毒殺されて死んでいる)
  ・最明寺入道を称賛している。
  ・昔を好意的にとらえ、今の世を批判的にとらえている。
 6)宣時は、今の世をどのように思っているか。
  ・外見ばかり気にしている。
  ・部下との信頼関係や深いつながりがない。
  ・贅沢である。



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