ネットワーク上のコミュニケーション



第一段落(1〜7)
ネットワーク上のコミュニケーションの感情の増幅というメカニズムの問題点を、対面状況のコミュニケーションと対比することによって考える。
1)ネットワーク上のメッセージには、感情を増幅するメカニズムがある。2)その感覚は、「文字だけ」という特徴に還元されがちである。3)対面状況のコミュニケーションと対比すると、対面では非言語的コミュニケーションの役割が大きい。4)5)それは、マレービアンの法則でも示されている。6)しかし、コミュニケーション過程で制御が加わるのは、実時間を共有している前提にある。7)ネットワーク上の問題の本質は、実時間を共有していないことである。
第二段落(8〜15)
対面状況のコミュニケーションの実時間の共有について深く考える。
8)対面状況のコミュニケーションでは、フィードバックとフィードフォワード過程による制御を加えた複雑な局面が存在する。その解釈には実時間の要素が必要である。9)10)対面状況のコミュニケーションの出発点は、〈わたし〉が〈あなた〉のメッセージを受け取った時点である。11)そのことで、〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じる。物理学の用語で「場が歪む」と言う。12)例えば、〈わたし〉が心地よさを覚えて(反応)頬をゆるめる(修正)。〈あなた〉は冷笑と受取り(反応)声を荒らげる(修正)。〈わたし〉が声の変化に違和感を覚え(反応)眉をしかめる(修正)。13)〈あなた〉はしまったと思い(反応)声の調子をおさえる(修正)。〈わたし〉は「歪み」がくつろぎ(反応)あたりさわりない返事をする(修正)。その瞬間〈わたし〉は〈あなた〉が失望したような印象を受け、波紋がおさまる口調を予測し(予測)、話を始める。14)メーセージを伝える行為は、発する時点で受信者から作用を受けている。バーロも指摘している。15)対面状況のコミュニケーションとは、〈予測−反応−修正〉が絡み合った複雑な過程である。16)対面状況のコミュニケーションの本質は、話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合っていることであり、その前提条件が、同一の時間軸にいることである。
第三段落(16〜20)
対面状況や小説と対比することによって、ネットの自己循環過程やハウリング現象といった問題点を明確にする。
16)マクルーハンは、ネットワーク上のコミュニケーションを「クールなメディア」と言った。受け手は自分の想像力を動員して、相手のメッセージを行間から読み取ろうとする。17)対面状況コミュニケーションなら、大量の情報と常時接することができる。18)19)小説は、想像のための描写をもとに文字によって想像する。19)ネットでは相手の性格設定まで自分で想像しなくてはならない。これを自己循環過程と言う。20)対面状況は表情は相手が発するものであるのに対して、ネットは相手の表情自体が想像の産物である。そこに、想像した相手の表情に自分自身が反応するハウリング現象が発生する。
第四段落(21〜25)
ネットワーク上のコミュニケーションの感情増幅の問題点を、対面状況のコミュニケーションの問題点を考えることによって改善する。
21)対面状況ならコミュニケーションの問題がすべて解決するわけではない。22)ネット上のコミュニケーションは、ハウリング現象によって相手の表情を一方的に想像し誤解を重ねる。また、意味解釈の自己循環によってその速度は非常に速い。23)逆に、対面状況の特徴にみられる現象を拒否することで、ネットの感情的問題を抑制できる。例えば、一晩寝かせて読み返す、書いてあることだけに反応することである。24)対面状況の特徴は、思ったことを実時間で相手に伝えられること、こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること、非言語情報がより多くのメッセージを伝えることである。対面状況でも、相手の言い分をよく聞いてから答える、実時間で伝わる非言語情報を遮断することである。25)ネットは文字だけという点で手紙や雑誌に近いが、交換頻度がきわめて高いという点では対面に近い。

全体
1.【指】1〜26まで段落番号を打たせる。
2.【指】全文を黙読させる。(8分)

第一段落(1〜7)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)ヒンパン(頻繁   )に交換する  2)感情をゾウフク(増幅   )する  3)トクチョウ(特徴   )にカンゲン(還元   )される 4)キンジ(近似   )的な意味  5)セイギョ(制御   )が加わる
2.次の語の意味を書け。
 1)還元(物事をもとの形・性質・状態などに戻すこと
 2)近似的(ある数値に非常に近いこと
 3)自明(わかりきっていること
3.次の語を対義語を答えよ。
 1)感情(理性   )  2)現象(本質   )
4.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】指示に従う。
1)【L1】ネットワーク上のコミュニケーション(以下、ネトコミ)と対面状況のコミュニケーション(以下、対コミ)を対比する構造で、対コミの問題を考察する評論である。(ネトコミ)
 ・この評論が二項対立の構造で展開しているという枠組みを確認する。
 ・どちらを考えるための対比かを確認させる。
2)【L1】その問題とは、感情増幅のメカニズムである。●
 ・この評論の問題点を確認する。
3)【L1】ネトコミと対コミの特徴は、文字だけの言語情報と身振りや表情などの非言語情報の違いにある。●
 ・両者の違いを確認する。
4)【L1】言語情報は非言語情報より伝えられるメッセージは少ない。●
5)【L1】つまり、問題の原因は、文字だけの言語情報という特徴にある。(実時間の共有  がない)
 ・「還元されがちだ」は、還元できないという意味である。
 ・一般論を提示し、それを否定する形で、筆者の主張を明らかにする。
 ・6段落以降を読解する。
6)【L1】マレービアンの実験は、言語情報の決定権が低いことを傍証している。●
 ・メッセージの割合の数値から読み取る。
7)【L1】マレービアンの引用は、筆者の主張を有利にしている。(不利)
 ・引用の役割を考える。引用は、感情の増幅が文字だけであることの傍証になるので、  筆者の主張には不利になる。
 ・あえて引用して、それを否定することによって、自説の独自性を強調している。
8)【L1】「もちろん」で一旦一般論や相手の主張を受け入れて譲り、「しかし」で自分の意見を主張する逆説の論法が用いられている。(譲歩)
 ・譲歩の論法を意識させる。
9)【L1】ビデオカメラの利用は、非言語情報も伝えられるので、ネトコミの問題を解消できる。(できない)
 ・「できるというのだろうか」は反語的表現で、否定である。
 ・非言語情報の不足が原因でないことの傍証である。
10)【L1】第一段落を2つに分けると、後半は4段落から始まる。(6段落)
 ・「しかし」に注目して論の転換点を理解する。第一段落を読解した後に問う。
11)【L2】キーワードを2つ。(感情の増幅・実時間の共有)
 ・ネトコミの問題点とその原因を抑える。
5.60字以内で要約せよ。
 ・ネットワーク上のコミュニケーションで感情が増幅する原因は、「文字だけ」ではなく、実時間を共有していないことである。(57字)

第一段落(1〜7)      
ネットワーク上のコミュニケーション      │対面状況のコミュニケーション
─────────── ──     ┼─────────────────────
感情を増幅するメカニズム          │
×文字だけ=言語情報           │ 非言語情報
                        │ 《マレービアン》           
                        │  言語の決定権が低い
○実時間を共有していない         │ 実時間を共有している
 ×ビデオカメラの動画像=非言語情報 │                                    

第二段落(8〜16)

1.次のカタカナを漢字で書け。
1)コミュニケーションのカテイ(過程  )  2)シンショウ(心象  )風景  3)場がユガ(歪 )む  4)イワカン(違和感   )を覚える  5)そのセツナ(刹那  )  6)カラ(絡 )みあう  
2.次の語の意味を書け。
 1)心象(心に浮かぶ像
 2)頬がゆるむ(うれしさを表す表情
 3)眉をひそめる(不快を表す表情
3.次の語を対義語を答えよ。
 1)優越感(劣等感   )  2)緊張(弛緩  )
4.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】指示に従う。
1)【L2】「論」と「例」に分けると、「例」は何段落〜何段落か。数字で示せ。
 (9〜13)
 ・論と例の構成を考える。
 ・主題を確認する。
2)【L1】文章構成は、最後に結論を述べる尾括型である。(最初と最後に結論を述べる双括型)
 ・結論の置き方の構成を考える。
3)【L1】コミュニケーションの本質的な特徴は、実時間の共有にある。●
 ・結論を考える。
4)【L1】対コミは、〈予測−反応−修正〉の複雑な過程である。●
 ・論の部分を考える。
5)【L1】フィードバックとは〈予測−反応〉の過程、フィードフォワードとは〈反応−修正〉の過程である。(反応−修正・予測−反応)
 ・フィードバックとフィードフォワードの違いを論で考える。
6)【L1】コミュニケーションはメッセージを発した時点で出発する。(受け取った)
 ・例の部分を考える。
7)【L2】次の中からフィードフォワードの例を選べ。(オ)
 ア.〈わたし〉が頬をゆるめたことを、〈あなた〉が冷笑と受け取って声を荒らげる。
 イ.〈あなた〉が荒らげたことに、〈わたし〉が違和感を覚えて眉をひそめる。
 ウ.〈わたし〉が眉をひそめたことに、〈あなた〉が「しまった」と思って声の調子 をおさえる。
 エ.〈あなた〉が声をひそめたことに、〈わたし〉がくつろいであたりさわりのない 返事をする。
 オ.〈わたし〉が口調を変えれば波紋がおさまるだろうと予測して話を始める
 ・フィードバックとフィードフォワードの違いを例で考える。
8)【L1】バーロの言説は、フィードフォワードを説明するため引用されている。(フィードバック)
 ・引用の効果を考える。
 【L2】次の(  )に、反応(A)、修正(B)、予測(C)を入れよ。
   1)〈わたし〉が心地よさに頬をゆるめる(A反応)
   2)〈あなた〉が冷笑と受け取る(A反応) 
   3)これから発する声を荒らげる(B修正) 
   4)〈わたし〉が違和感を覚える(A反応) 
   5)眉をひそめる(B修正) 
   6)〈あなた〉が「しまった」と思う(A反応) 
   7)声の調子をおさえる(B修正) 
   8)〈わたし〉に波紋が広がる(A反応) 
   9)口調を変えれば波紋がおさまるだろうと(C予測)話を始める
 【L1】「場が歪む」とは、〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じることである。●

5.70字以内で要約せよ。
・対面状況のコミュニケーションの本質は、実時間の共有を前提条件にして、話者相互が発信受信の過程すべてに影響をおよぼしあっていることである。
 
第二段落(8〜15)
対面状況のコミュニケーション
 実時間の共有(前提)
  ↓
 フィードバック+フィードフォワードの複雑な過程
 反応−修正   予測−反応
 ・出発点=メッセージを受け取った時点→「場」が歪む
 ・〈予測−反応−修正〉の複雑な過程
 《バーロ》=フィードバックの過程

第三段落(17〜21)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)フグタイテン(不倶戴天    )に交換する  2)カイザイ(介在  )する  3)ノウリ(脳裡  )に描く  4)電子掲示板にケイサイ(掲載  )される  5)自己ジュンカンカテイ(循環過程    )  
2.次の語の意味を書け。
 1)不倶戴天(生かしてはおけないと思うほど深い恨みや怒り。《「礼記」曲礼の「父の讐   (あだ) は倶 (とも) に天を戴 (いただ) かず」》
 2)介在(二つのものの間に存在すること。
3.次の語を対義語を答えよ。
 1)クール(ホット   )  2)常時(一時・臨時)
4.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】指示に従う。
1)【L2】マクルーハンはネトコミを「クールなメディア」というが、「クール」とはどういう意味か、次の中から選べ。ウ
 ア.冷静な  イ.冷淡な  ウ.好意的な  エ.想像的な  オ.情報量が少ない
 ・引用の効果を考える。
2)【L1】対コミもネトコミも感情が高ぶる点は共通している、しかし、対コミでは相手の表情などを直接見ながら感情が高ぶるのに対して、ネトコミは相手の表情などを想像した結果で感情が高ぶる点が異なる。●
 ・対コミとネトコミを対比する。
 ・共に感情が高ぶることがある。
 ・対コミの方が情報量が多い。
3)【L1】小説もネトコミも言語情報を読んでイメージの世界へと展開する点では共通している。しかし、小説は感情の動きや表情の描写から想像するのに対して、ネトコミは文章の雰囲気から想像する点が異なる。●
 ・小説とネトコミを対比する。
 ・共に文字列が並ぶだけである。
 ・しかし、小説には想像するための描写がある。
5)【L2】「ネトコミ」「対コミ」「小説」を情報量の多い順に並べよ。
  (対コミ・小説・ネトコミ)
 ・小説とネトコミは共に文字情報だけだが、小説の方が情報が多い。
6)【L1】記述された文章だけから、相手の表情などを想像することを、自己循環過程という。●
 ・キーワードの定義を考える。
7)【L1】自分で想像した相手の表情に自分自身が反応することを、ハウリング現象という。●
 ・キーワードの定義を考える。
8)【L2】ネトコミの特徴を表すキーワードを2つ。(自己循環過程・ハウリング現象)
 ・キーワードを確認する。
5.70字以内で要約せよ。
 ・ネットワーク上のコミュニケーションはクールなメディアであり、自己循環過程で想像した相手の表情に自分自身が反応するハウリング現象が発生する。
 
第三段落(17〜21)



                  
対コミ 
ネトコミ         小説

・ホットなメディア=大量の情報と常時接触
 ↓
・相手の表情に反応
 ↓
・感情が高ぶる
《マクルーハン》
・クールなメディア=情報量が少ない
 ↓
・相手の表情を想像
 ↓
・感情が高ぶる
                                                                                    




            
・文字だけ
・記述された文章
 ↓
・性格などを想像する=自己循環過程
・文字だけ
・性格などの描写
 ↓
・イメージの展開
            
・相手が表情を発する
 ↓
・自己対話
            
・自分が表情を想像
 ↓
・自分自身が反応する=ハウリング現象
                                                

第四段落(22〜26)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)ケンカ(喧嘩  )が発生する  2)ネットワーク上のフンソウ(紛争  )  3)チュウトハンパ(中途半端    )に推測する  4)ベテランからシテキ(指摘  )される  5)非言語情報をシャダン(遮断  )する
 6)交換ヒンド(頻度  )
2.次の語の意味を書け。
 1)頻度(物事が繰り返して起こる度合い
3.次の語を対義語を答えよ。
 1)拒否(承諾  )  2)抑制(促進  )
4.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】指示に従う。
1)【L1】テレビの討論番組は、対コミが完璧でない傍証である。●
 ・コミュニケーション上の問題がすべてた解決するわけではない。
2)【L1】ネトコミは対コミより感情が伝わる速度が遅い。(速い)
 ・対コミなら数カ月数年かかるところを、ネトコミなら数日で到達する。
3)【L1】対コミの欠点を拒否することによって、ネトコミの感情的問題を抑制できる。●
4)【L1】対コミの特徴は、思ったことを実時間で伝えられること(A)、こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること(B)、非言語情報がより多くのメッセージを伝えること(C)である。●
5)【L1】ネトコミの「一晩寝かせてから読み返せ」という教訓は、対コミのどの特徴を拒否することか。A〜Cで答えよ。(B)
 ・「『一晩寝かせてから読み返せ』とはこの状況を強く意識することに他ならない」とあるが、「この状況」とは「相互作用がマイナス感情を加速するのを防ぐ」である。
6)【L1】ネトコミの「行間を読み取るな」という教訓は、対コミのどの特徴を拒否することか。A〜Cで答えよ。(C)
 ・実時間で伝わる非言語情報を遮断する。
7)【L1】「ネトコミ」「手紙」「雑誌討論」は文字だけの情報で成り立っている点では共通している。しかし、ネトコミか手紙や雑誌討論より対コミに近いのは、歴史が古いからである。(交換頻度が高い)
5.50字以内で要約せよ。
 ・対面状況の特徴にみられる現象を拒否することで、ネットワークで発生する感情的問題を抑制できる。
第四段落(22〜26)
ネット                 対面状況               
・感情の伝わる速度が速い
・感情的問題を抑制             ←
・一晩寝かせてから読み返せ         ←   ・行間を読み取るな           ←   ・感情のレベル形成の速度が速い
・感情の伝わる速度が遅い
(A)実時間での伝達
・相手の表情を誤解する。
・ネット・手紙・雑誌討論=文字だけ
 速1)  速3) 速2)




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