ネットワーク上のコミュニケーション
  

江下雅之
 コミュニケーションには、ネットワーク上のコミュニケーションと対面状況でのコミュニケーションがある。両者の違いは、身振り手振り等の非言語的コミュニケーションの有無である。
 ネットワーク上のコミュニケーションは、感情を増幅するメカニズムのように思われる。その原因は、「文字だけ」という特徴に還元されがちである。マレービアンの法則でも、ことばの決定権が最も低い。それならば、ビデオカメラで非言語的コミュニケーションを補えば解決できるのではないか。しかし、そうではない。なぜなら、問題の本質は、実時間を共有にある。

 対面状況のコミュニケーションとは、言葉を相互に投げ合うだけ、身振りを示し合うだけではない。二人の会話は、〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じる、「場が歪む」時に初めて始まる。例えば、〈わたし〉が心地よさを覚えて(反応)頬をゆるめる(修正)。〈あなた〉は冷笑と受取り(反応)声を荒らげる(修正)。〈わたし〉が声の変化に違和感を覚え(反応)眉をしかめる(修正)。〈あなた〉はしまったと思い(反応)声の調子をおさえる(修正)。〈わたし〉は「歪み」がくつろぎ(反応)あたりさわりない返事をする(修正)。つまり、メーッセージを伝えるという行為は、発する時点で受信者からの作用を受けている。対面状況のコミュニケーションとは、〈予測−反応−修正〉が絡み合った複雑な過程である。対面状況のコミュニケーションの本質は、同一の時間軸にいることが前提条件になり、話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合っているのである。

 ネットワーク上のコミュニケーションは、「クールなメディア」と呼ばれるように、受け手は自分の想像力を動員して、相手の表情、感情の動き、雰囲気などのメッセージを行間から読み取ろうとする。対面状況コミュニケーションなら、表情等の非言語的なメッセージを含め大量の情報と常時接することができる。
 小説も、文字だけのコミュニケーションである。小説は、登場人物の感情の動きや表情が形容されている。ネットワークは、書かれた文章から判断した雰囲気を基準に、書かれた文章のニュアンスを決めるという自己循環過程が発生する。また、自分で想像した相手の表情に自分自身が反応するというハウリング現象が発生する。
 対面状況の特徴は、1)思ったことを実時間で相手に伝えられること、2)こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること、3)非言語情報がより多くのメッセージを伝えることである。
 ネットワークは、1)2)で起こる相手の表情の誤解を、ハウリング現象によって一層強調し暴走させる。逆に、感情が高ぶっている時は一晩寝かせてから読み返したり、書いてあることだけに反応することで1)2)で起こる感情的問題を抑制することができる。
 また、文字だけのコミュニケーションである手紙や雑誌上の論争と比較すると、ネットワークは交換頻度がきわめて高いので、対面に近い感覚が抱かれやすく、感情が加熱してくる頻度も高まる。

1.【指】1〜26まで段落番号を打たせる。
2.【指】全文を黙読させる。(8分)
3.【L2】対比されているものは。
 ・ネットワーク上のコミュニケーションと対面状況でのコミュニケーション。
                                        
4.ネットワーク上と対面状況でのコミュニケーションの違いについて(1〜7)
 1)【L1】ネットワーク上のコミュニケーションの問題点は。
  ・感情を増幅すること。
 2)【L1】その原因は。
  ・「文字だけ」という特徴に還元されがち。
 3)【説】論証1として、反対概念である対面状況でのコミュニケーションの特徴は。
  ・非言語的コミュニケーションの役割が大きい。
 4)【L1】論証2として、挙げられていることと、それからわかることは。
  ・マレービアンの実験
  ・言葉の決定権が最も低い。
 5)【W】表情やノンバーバルコミュニケーションの例を紹介する。
 6)【L1】それならば、ビデオカメラで非言語的コミュニケーションを補えば解決できる  か。
  ・そうではない。
 7)【L1】問題の本質と何か。
  ・実時間の共有。
 8)【説】実時間の共有についてはこの後説明される。

5.対面状況のコミュニケーションについて(8〜16)
 1)【L1】〈わたし〉と〈あなた〉がある場所に居合わせ、互いに表情や身振りも見え、  相手の声もよく聞こえる状況で、コミュニケーションの出発点とどこか。
  ・〈あなた〉がメッセージを発した瞬間ではない。
  ・〈わたし〉が〈あなた〉のメッセージを受け取った時点である。
  ・〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じ、
   「場が歪む」時。
 2)【説】例を追う。
  1)〈わたし〉が、心地よさを覚えて(感情)頬をゆるめる(行動)。
  2)〈あなた〉は、冷笑と受取り(感情)声を荒らげる(行動)。
  3)〈わたし〉が、違和感を覚え(感情)眉をしかめる(行動)。
  4)〈あなた〉は、しまったと思い(感情)声の調子をおさえる(行動)。
  5)〈わたし〉は、くつろぎ(感情)あたりさわりない返事をする(行動)。
  6)〈あなた〉
  7)〈わたし〉は、失望した(感情)と感じる。【予測】
          翳り、波紋が広がる。【反応】
          口調を変える。【修正】
 3)【L1】この例から何がわかるか。
  ・対面状況のコミュニケーションとは、言葉を相互に投げ合うだけ、身振りを示し合   うだけではない。
  ・メーッセージを伝えるという行為は、発する時点で受信者からの作用を受けている。
 4)【説】バーロの説を説明する。
 5)【L1】対面状況のコミュニケーションの本質は。
  ・〈予測−反応−修正〉が絡み合った複雑な過程である。
  ・話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合うこと。
 6)【L1】その前提条件は。
  ・実時間の共有
 7)【L2】実時間の共有とは。
  ・同一の時間軸にいること。

6.ネットワーク上のコミュニケーションについて(17〜21)
 1)【L2】なぜ、ネットワーク上のコミュニケーションが「クールなメディア」と呼ばれ  るのか。ネットワークと対面交流の違いは。
  ・対面状況コミュニケーションなら、表情等の非言語的なメッセージを含め大量の情   報と常時接することができる。
  ・ネットワーク上のコミュニケーションは、受け手が自分の想像力を動員して、相手   の表情、感情の動き、雰囲気などのメッセージを行間から読み取ろうとする。
 2)【説】「不倶戴天」の意味を説明する。
  ・憎しみや恨みが強いこと。
 3)【L1】ネットワークと小説の共通点は。
  ・文字だけのコミュニケーション。
 4)【L1】小説の特徴は。
  ・登場人物の感情の動きや表情が形容されている。
 5)【L2】ネットワークの特徴を、2つのキーワードで言えば。
  ・自己循環過程
  ・ハウリング現象
 6)【L1】自己循環過程とは。
  ・書かれた文章から判断した雰囲気を基準に、書かれた文章のニュアンスを決める
 7)【L1】ハウリング現象とは。
  ・自分で想像した相手の表情に自分自身が反応する。

7.ネットワークと対面交流の長所と短所について(22〜26)
 1)【L1】対面状況の特徴は。
  1)思ったことを実時間で相手に伝えられること。
  2)こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること。
  3)非言語情報がより多くのメッセージを伝えること。
 2)【L1】ネットワーク上の紛争が深刻化する、対面交流の悪い面とは。
  ・相手の表情を誤解するところ。
 3)【L2】なぜ、ネットワーク上では紛争が深刻化するのか。
  ・ハウリング現象によって、相手の表情を想像する。
  ・自己循環過程によって、誤解を重ねる。
 4)【L1】解決法は。
  ・感情が高ぶっている時は一晩寝かせてから読み返す。
  ・メッセージの行間を中途半端に推測せず、書いてあることだけに反応する。
  ・どちらも、実時間で伝わる非言語情報を遮断する。
 5)【L1】ネットワークと手紙や雑誌上の論争の共通点は。
  ・文字だけのコミュニケーションである。
 6)【L1】違いは。
  ・ネットワークは交換頻度がきわめて高く、対面交流に近い感覚が抱かれやすい。
  ・その結果、感情が加熱してくる頻度も高まる。
  ・これも、対面交流の悪い面である。



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