猫は後悔するか
 
野矢茂樹


1 人間は後悔する。人間以外の動物、猫は後悔するか。
2 人間以外の動物は後悔しない、それはなぜか。
3 後悔するとは事実に反する思いを含んでいる。とすれば、問題を、事実に反する思いを持つことはどのようにして可能になるのか、と提起し直すことができる。

4 「論理空間」という用語を導入して問題を考える。論理空間とは、現実に起こった事実と起こりえた事実を含んだ、可能な事実の総体である、と定義できる。
5 「論理空間」における「可能性」とは、論理的に矛盾しないかぎりは可能であるという論理的可能性である。
6 論理空間には現実の世界と可能性が含まれているが、われわれが出会うのは現実の世界だけであり、現実の世界を元手に可能性を想像しなければならない。ここに問題の根っこがある。
7 どのようにして、現実の世界をもとに論理空間の了解が形成されるのか。

8 世界が「分節化」されなければならない。「分節化」とは、構成要素を取り出すこと である。
9 われわれは対象と概念(性質と関係)に分節化された世界に生きている。
10 「裏」を考えると、世界が分節化されていなければ、反事実的な思いも不可能になる。 論理空間を開くには世界が対象と概念に分節化されていなければならない。
11 「逆」を考えると、論理空間を開くには世界が分節化されていなければならないが、世界が分節化されているためには論理空間が成立していなければならない。
12 (机の上のパソコンの例)
13 (机の色の例)
14 (机と床の例)
15 論理空間の成立と、分節化された世界の成立は、同時である。

16 論理空間の成立のためには、分節化された言葉を持っていなければならない。
17 言語の重要な働きは、ものごとを表現するという働きである。音声言語や文字言語以外のものごとを表現する働きを持ったものをすべてを言語と呼ぶ。
18 「裏」を考えると、世界は分節化されているが、分節化された言語を持っていないと仮定すればどうなるか。
19 言語がなければ、その対象や概念そのものを組み替えるしかない。(机の上のパソコン)
20 反事実的な可能性を開くには現物の代理物たる言語が必要である。しかし、言語も現実の一部である。したがって、可能性とは言語が表現するものとしてのみ成立する。
21 可能性を開く言語は分節化されていなければならない。

22 論理空間、分節化された言語、分節化された言語は同時に成立する。言語を持っていない動物は分節化された世界に生きていない。また、言語が分節化されていなければ論理空間を開くことはできない。
23 だから、猫は後悔しない。人間だけが後悔する。

 今回は『学び合い』のスタイルをとってみる。といえば冒涜になる。『学び合い』はスタイルではなくて哲学である。全員が理解できるようになる。だれも落ちこぼさない。そのためには意欲づけが必要であると同時に、協力すればできる難易度が必要である。よってたかっても解決できない問題ではダメだし、一人で簡単にできる問題でもダメである。その当たりのレベルの調整が大切である。また、論理的な文章なので、枝葉末節に入り込むのでなく、幹の部分を確認しながら枝の部分も考えるという形にしたい。


猫は後悔するか
第一段落(1〜3)
1〜31)【L2】「人間は後悔する」を前提として、「猫は後悔するか」と問いを立てているが、「後悔」の部分を文中の別の語に置き換えて、「猫は〜」という形で言い直すとどうなるか。
事実に反する思いをするか
第二段落(4〜7)
41)【L1】問題解決のために導入した「論理空間」の定義は何か、8字以内で。
可能な事実の総体
 3)【L1】「論理空間」に含まれている事実とは何と何か。
起こった事実
現実には起こらなかったけれども起こりえた事実
 4)【L1】2つの事実をそれぞれ言い換えると、文中の5字以内で。
現実の世界
可能性
75)【L3】「現実を元手に、論理空間の了解を形成する」とはどうすることか、4)の語を使って。
与えられている現実の世界をもとに、起こりえた可能性を想像すること。
第三段落(8〜15)
86)【L1】「世界を分節化する」とあるが、「分節化」の定義は何か、12字以内で。
構成要素を取り出すこと 
 7)【L2】〈白い犬が走っている〉を「分節化」せよ。
  ・白い(    )犬(    )が走っている(    )
98)【L2】〈机の上にパソコンがある〉を「分節化」せよ。
  ・机(    )の上に(    )パソコン(    )がある(    )
109)【L2】〈犬が逆立ちしている〉という「反事実的な思い」(「論理空間」)が可能になる理由は。
対象と概念が別々の要素としてとらえられているから。
 10)【L3】「世界が分節化」されていると「論理空間」が開くのはなぜか。
世界が分節化することによって、構成要素を組み合わせて、反事実的な可能性を考えることができるから。
111211)【L2】「論理空間」が成立していないと、〈机の上にパソコンがある〉という現実世界はどうなるか。
パソコンと机は分離不可能になり、パソコンは机の上にしかありえないものになる
1512)【L2】以上のことからどんな結論が出るか。
論理空間の成立と分節化された世界の成立は同時である。
第四段落(16〜21)
161713)【L1】「分節化された言語」とあるが、「言語」の定義は何か、18字以内で。
ものごとを表現する働きを持ったもの。
1914)【L1】「世界が分節化」されているならば、〈パソコンの上に机がある〉といった「反事実的な可能性」(「論理世界」)が可能になるが、「言語」がなければ実際はどうなるか。
パソコンの上に机を置いてみるしかない。
2015)【L1】さまざまな可能性を表現するために、どうするか。
言葉をさまざまな組み合わせる。
 16)【L2】以上のことからどんな結論が出るか。
反事実的な可能性(「論理空間」)を開くには、言語が必要である。
2117)【L2】「言語が分節化」されていると、何ができるか。
言語の組み合わせを試すことができる。
 18)【L3】「言語が分節化」されていると「論理空間」が開くのはなぜか。
言語が分節化することによって、言語をさまざまなに組み合わせて、反事実的な可能性を考えることができるから。
第五段落(22〜23)
222319)【L3】全体を踏まえて、「人間は後悔するが、猫は後悔しない」理由を一四〇字程 度で説明せよ。
1)後悔とは何かを定義する。
2)キーワード「論理空間」「分節化された世界」「分節化された言語」を使う。






猫は後悔するか まとめ


第一段落(1〜3)
  人間は後悔する
   ↓
猫は後悔する(=1)事実に反する思いをする)か?
第二段落(4〜7)
  論理空間=2)可能な事実の総体
        4)現実に世界
         ↓5)想像
        4)可能性
第三段落(8〜15)
  論理世界の成立=10)反事実的な可能性を考える
   ↓↑12)同時 
  分節化(=7)構成要素を取り出す)された世界の成立=10)構成要素を組み合わせる
第四段落(16〜21)
  論理空間の成立=18)反現実的な可能性を考える
   +
  分節化された世界の成立=10)構成要素を組み合わせる
   ↓↑
  分節化された言語(=13)ものごとを表現する働きを持ったもの)
                           =17)言葉の組み合わせを試す
第五段落(22〜23)
  論理空間     ─┐
  分節化された世界  ├─同時に成立
  分節化された言語 ─┘
   ↓
  猫=×分節化された言語
     ↓
    ×分節化された世界
     ↓
    ×論理空間
     ↓
  猫は後悔しない

 



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