「もの」の世紀
 

柏木 博


第一段落 
 時代の変化について述べてある。
 十八世紀は文字の時代であり、今後は情報の時代になるだろうが、近代は「物質の時代」である。それは、物質の所有をめぐる争い、それまで存在しなかった膨大なものの出現、日用品の種類と量の増大に現れている。それは万国博覧会の展示物の変遷によっても分かる。
第二段落
 ものの連鎖について、技術だけでなく、人類学などから考察し、その過程の特徴、ものの変化と人間や社会の変化の関係を述べている。
 ものは欲望の連鎖として出現し、人々の生活はものに結びつけられる。連鎖の様子は、例えば、自動車のフロントガラスなどの技術的な変化から言える。一方、人類学的に見ても、ものは人間の外化としてとらえられる。例えば、手の外化としての道具、身体の原動力の外化としての動力装置、神経系の外化としてのエレクトロニクスなどである。人間の最も根源的な道具は身体であるが、その機能を独立させ、進化させ、複合化させてきた。その過程は、生物学的進化と同じく、前のものを後のものが排除するのでなく、更に要素を付け加え完成させていくことになる。例えば、鉛筆削りは、単なる刃物から筋肉や頭脳の機能を外化させ進化した。しかし、欧米ではセンサー付きの鉛筆削りや自動ドアは見かけない。
 「身体の外化としてのもの」という視点は、メディアの概念を押し広げて解釈するマクルーハンの「身体拡張」の視点と一致する。人間や社会の意識や感覚の変容によってものが出現するのではなく、ものの出現によって人間や社会の変化が引き起こされるという技術決定論を唱え、批判されたが、現実に通用する部分がある。
第三段落
 ものの差異性と均質化、それと文化との関係、ものと人間の行為や行動様式との関係、さらには「文化」との関係について述べている。
 ものは人間の行為や行動をめぐってしか存在せず、行為や行動の差異が文化であるとするなら、ものも文化の差異を表している。したがって、ものを対象にして文化のあり方を読むことも可能である。例えば、ナイフやフォークと箸、カップや茶碗の取っ手の有無、自動車などの無数の部品の集合体である複雑なものもそうである。
 しかし、国際化によってによって、行為や行動の均質化、インターナショナル化は進んでいる。例えば、自動車やコンピュータなどのデザインは似てきている。
 また、ものは言葉と同じく外界にかかわる根源的なメディアである。したがって、身体から離れて独自な体系を作り上げてきた。その体系が行為や行動様式を変化させた。マクルーハンの考えと一致する。新たな道具の出現は、新たな行為や行動様式を強いる。ものが増えれば扱い方を習得する時間も膨大になる。
 資本主義的な市場経済のシステムが、ものを均質化していく傾向にある。しかし、一般化しないものもある。鉛筆削りだけでなく、椅子や畳やナイフとフォークの問題など、ものが均質化しない分野や均質化する時間の差異は,行為や行動の均質化の差異であり、その差異が「文化」である。


1.【指】学習プリントを配布して宿題にする。
2.【確】学習プリントの漢字の読みを確認する。
 ・博覧会 連鎖 太古 爪 店舗 差異 介在 強いる 砦 履き物
3.【確】学習プリントの語句の意味を確認する。
 博覧会=産業・貿易・学術・技芸などの振興・促進のために、種々の産物・文化財などを集めて展示し、広く一般に公開する催し
 人類学=人間の生物的側面と文化的所産とを研究する学問。生物としての人間を扱う形質人類学と、人間が築き上げてきた文化を課題とする文化人類学とに2分される。初めは前者を意味したが、19世紀半ばごろから後者が発達。
 エレクトロニクス=電子伝導、およびその現象を応用する装置・技術についての学問。
 太古=非常に遠い昔。大昔。有史以前。
 差異=他のものと異なる点。ものとものの違い。
 介在=二つのものの間にはさまってあること。両者の間に存在すること。
 ちなみに=それまで述べてきた事柄に関連して、本筋から離れた事柄を言い添えるときにいう語。関連して。ついでにいえば。

4.【指】形式段落に1〜17の番号を付ける。


第一段(1〜3)

1.【指】ペアリーディングさせる。
2.ものの時代について
 1)【L3】何について書いてあるか。
  ・時代の特徴。
 2)【L1】それぞれの時代の特徴は。
  ・十八世紀=文字とイラストレーションによって、世界を記述し、把握しようとした時代。
  ・二十世紀=物質の時代。
  ・二十一世紀=情報、記号や社会関係の生産に重心を移す。
 3)【L3】「物質の時代」のようなまとまった表現で言い換えると。《解釈》
  1)【L3】十八世紀は、文字やイラストによって何を表現しようとしたのか。
    ・思想の時代。
  2)【L1】二十一世紀を一言で言うと。
    ・情報の時代。
 4)【L2】近代がものの時代であるといえる現象は。《具体化》
  ・物質の所有をめぐる争いが起こっている。
  ・それまでの時代になかった膨大なものが出現した。
  ・日用品の種類や量が増大した。
 5)【L4】物質の所有をめぐる争いの例は。
  ・太平洋戦争は、中国や東南アジアの資源をめぐる争い。
  ・イラク戦争は、石油をめぐる争い。
 6)【L4】「それまでの時代になかったもの」の例は。
  ・家電や電話や自動車やコンピュータなど。
 7)【L4】「種類や量が増大した日用品」の例は。
  ・食器や衣服や家具などの。

3.【指】70字以内で要約する。
・近代は「物質の時代」であり、物質の所有をめぐる争いが起こったり、それまで存在 しなかった膨大なものが出現したり、日用品の種類と量が増大した。(69字)


第二段(4〜11)

1.【指】4〜11をペアリーディングさせる。
 ・【注】三つの視点に分けることを指示しておく。
2.三つの視点に分ける。
 1)【L2】どこで切れるか。
 2)【L1】2)3)は誰の何と言う視点か。
 3)【L2】1)の視点を何と言えばいいか。
  1)4。技術論。
  2)5〜8。人類学的な視点。グーラン。
  3)9〜11。社会学的な視点。マクルーハン。

3.ものの連鎖について
 1)【L1】ものの特徴は。
  ・欲望の連鎖で出現する。
  ・生活行為と結びつく。
 2)【L1】ものが欲望の連鎖である例は。《具体例》
  ・自動車の屋根→フロントガラス→ワイパー→エアコンや熱線。
 3)【説】論の後にすぐに例示をして分かりやすくしている。
 4)【L3】「ものへの欲望が果たして純粋に自発的に出現して連鎖しているかどうかは、改めて検討する必要がある」とは、何が言いたいのか。
  ・自発的ではない。
  【注】自発的でなければ、どんな力が働くかは今後の展開で明らかになる。
 5)【説】注釈を付けることによって、主張を厳密にしている。

4.グーランの人類学的な視点について
 1)【L1】アンドレ・ルロワ・グーランは、人類学的な定義は。《定義》
  ・ものを人間の外化としてとらえる。
 2)【L2】「人間の外化」とは何か。
  ・身体という道具と動作が、人間の外部のものとなって使われる。
  ・機能の一部を、身体から独立させる。
  【注】直後の「つまり」は普通は換言・言換の接続詞だが、ここでは例示になってい   る。
 3)【L2】手の道具としての機能は。
  ・ものをつかんだりつまんだり引っかいたりする。
 4)【L4】手の道具としての機能の他の例は。
  ・髪をとかす。指で数を数える。扇ぐ。つかむ。つまむ。掘る。
 5)【L2】それが外化する例は。
  ・ナイフ。ピンセット。
  ・櫛。カウンター。団扇。ペンチ。ピンセット。スコップ。
 6)【説】手以外の外化について。《具体化》
  ・身体の原動力の外化として動力装置。
  ・神経系の外化としてエレクトロニクスとしての装置。
 7)【L4】原動力の外化の例は。
  ・風車。水力。馬車。蒸気機関。エンジン。
 8)【L4】神経系の外化の例は。
  ・赤外線センサー。サーモスタット。半導体。コンピュータ。
 9)【L1】道具の進化の特徴は。
  ・さらに要素を付け加え完成させる。
  ×前のものを後のものが排除する。
 10)【L1】鉛筆削りの進化は。
  ・ナイフ→鉛筆を回す→ハンドルを回す→モーター→センサー。
 11)【L1】欧米との差異は。
  ・センサー付きや自動ドアは使わない。
 12)【L1】それは何を表しているか。
  ・文化の差異。

5.マクルーハンの社会学的視点について
 1)【L2】彼の視点の特徴は。
  ・メディアの概念をもの一般にも押し広げて解釈する。
  ・身体拡張
  ・ものの出現によって人間や社会の変化が引き起こされる。
  ×社会の意識や感覚の変容によってものが出現する。
 2)【L1】彼の主張は何と呼ばれているか。
  ・技術決定論。
 3)【L3】技術決定論が技術史論的な視点に与える影響は。
  ・技術史論的な視点で、欲望は純粋に自発的かという疑問があったが、人間の自発的なものでなく、ものが影響を与えることもある。
 3)【L4】身体拡張の例は。
  1)衣服は。
   ・皮膚の拡張。
  2)車輪は。
   ・足の拡張。
  3)ラジオは。
   ・耳の拡張
  4)コンピュータは。
   ・中枢神経組織の拡張。
 4)【L4】技術が生活を大きく変えた例は。
  ・テレビ。ケータイ。インターネット。                    
 5)【説】近代は、ものの多層的、高速度の進展が、膨大なものを生み出した。

6.【指】115字以内で要約する。
 ・ものは欲望の連鎖として出現し、人々の生活はものに結びつけられる。ものは人間の  外化としてとらえられる。身体の機能を独立させ、更に要素を付け加えて、進化させ、  複合化させてきた。ものの出現によって人間や社会の変化が引き起こされる。(11  2字)


第三段(12〜17)

1.【指】12〜17をペアリーディングさせる。
 ・キーワードに注意する。
2.【L2】キーワードを3つ挙げる。
 ・差異化、均質化、根源的なメディア

3.ものの基本的なとらえ方について
 1)【L2】基本的に、ものをどのようにとらえているか。
  ・言葉と同様、わたしたちが外界にかかわっていくための根源的なメディア。
  ・それを使わなければ人間として生存していけないもの。
 2)【説】言葉が根源的なメディアであることを確認する。
 3)【L1】言葉と同様に基本的なメディアだとすると、何を作り続けてきたのか。
  ・身体から離れた独自の体系。
 3)【L4】言葉の体系とは。
  ・文法、語彙体系。
 4)【説】ものの独自の体系について、楽天のホームページの商品分類を見せる。
 5)【L4】わたしたちが突然アフリカの未開社会で生活をしなければならなくなった時のことを想像する。
  ・食べられる物と食べられない物の見分け。火の起こし方。天気の変化。方向。
 6)【L4】逆に、未開人が突然現代社会で生活しなければならなくなった時のことを想像する。
 7)【説】未開人でなくても、老人がコンピュータを使わなければならなくなった時のことを想像する。
 8)【L4】老人でなくても、わたしたちが、いきなり車を運転できないし、コンピュータやテレビやDVDレコーダーも使いこなせていないことを考える。
 9)【説】日常性に使われているものが2万種あるとして、1つの扱いをマスターするのに10分かかったとしても、20万分、1日24時間使うとして4カ月、1日8時間なら1  年かかることになる。それだけ、われわれはものに支配されて生活している。
 10)【説】このように、具体的な状況を数字や挙げると分かりやすくなる。

4.差異性について
 1)【L1】差異の例は。
  ・ナイフやフォークと箸。コップの取っ手。自動車。鉛筆削りのセンサー。
 2)【説】ナイフやフォークについて。
  ・ナイフやフォーク人口は、欧米など18億人、
   箸食人口は、日本・中国・ベトナムなど18億人、
   手食人口は、東南アジアやアフリカなど、24億人。
 3)【説】コップの取っ手について
  ・ヨーロッパでお茶を飲むようになったのは、中国茶や日本茶が伝わったら。
  ・茶碗も輸入され、取っ手は付いてなかった。
  ・茶碗を手に持って、お茶に砂糖を入れてスプーンで溶かすために、取っ手が必要になった。
 4)【L4】その他、日本と西洋のものの違いは。
  ・小論文で取り上げた生徒も多い。
 5)【L2】「もの」と文化の関係は。
  ・「もの」は行動によって存在する。行動→もの。
  ・行動の差異が文化の差異である。行動の差異→文化の差異。
  ・ものの差異は文化の差異を表している。ものの差異→文化の差異。
  ・したがって、ものから文化を読むことができる。

5.ものの均質性について
 1)【L1】均質性の例は。
  ・自動車やコンピュータのデザイン。
 2)【L4】他の例を探す。
  ・マクドナルド。
 3)【L1】均質性の同義語は。
  ・インターナショナル化。
 4)【L2】最近よく使うインターナショナル化と似た言葉は。
  ・グローバル化。
 5)【L3】インターナショナル化とグローバル化の違いは。
  ・インターナショナル化は、それぞれの国の存在を前提とした国際化。
  ・グローバル化は、それぞれの国の国境を越えた一元化。
   実は、アメリカ化である。
   小泉、竹中国賊大臣が進めた政治の方向。
 6)【L1】均質化の原因は。
  ・資本主義的な市場経済のシステムが社会を支配しているから。
  ・新自由主義。
 7)【L4】どんなシステムか。
  ・安くて良い物が売れる。
  ・市場の原理に任せて、政治が介入しない。

6.文化について
 1)【L2】均質化と差異化の関係は。
  ・ものが均質化する中で、均質化せずに差異が現れたり、均質化するにしても速度が   異なる。
 2)【L1】その差異や速度の違いを何と言うか。
  ・文化。

7.【指】95字以内で要約する。
ものは根源的なメディアであり、独自な体系を作り上げた。ものの差異は文化の差異を表している一方、資本主義の市場経済のシステムによって均質化が進んでいる。その中に残っている差異が「文化」である。(93字)
                                        



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学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 博覧会 連鎖 太古 爪 店舗 差異 介在 強いる 砦 履き物
2.語句の意味を調べなさい。
 博覧会=

 人類学=

 エレクトロニクス=

 太古=

 差異=

 介在=

 ちなみに=

学習のポイント
1.二十世紀(近代)はどんな時代であるか理解する。
2.ものが、欲望の連鎖として出現し、人々の生活行為を結びつけるとはどういうことか 理解する。
3.ものが人間の外化であるとはどういうことか理解する。
4.道具の進化について理解する。
5.マクルーハンの「身体拡張」の視点を理解する。
6.ものが文化の差異を表しているとはどういうことか理解する。
7.もののインターナショナル化、均質化とはどういうことか理解する。
8.ものが根源的なメディアである理由を理解する。
9.「文化」とは何か理解する。