メディアは何を変えるのか?
インターネットやケータイというテクノロジーは、文字表記や文字言語や言語活動全般に、どのような変化や意味をもたらしたか?
粘土版と葦から楔形文字、版画から江戸時代の出版物、活字から現在の出版物が生まれたように、テクノロジーの違いによって文字にも違いが出る。
インターネットというテクノロジーからは、仮名漢字変換による顔文字や絵文字、文字と記号の等価の組み合わせによるギャル文字、誤入力や誤変換による掲示板特有の表現が、美しくて見やすいが画一的で味がないデジタル・テクノロジーでの文字表記を逆手にとって形で生まれた。
これらの表現には、どのような機能や意味があるのか?
仕事のメールは情報を伝えるだけで十分である。しかし、日常生活のメールは背後にある感情や意図に関して送り手と受け手の間で乖離が生じ過激な感情的言語の応酬が惹起これることもある。対面状況での会話なら声や表情や身体の動きで感情を伝える事ができる。メールでは、絵文字などによって気持ちが伝わる機能がある。親近感がわき心理的距離が縮まる。こうして、社会的集団への帰属と連帯感を確認でき、社会的つながりが形成される。しかし、同時に集団外に対して排他的であるという点で反社会的である。
また、密着意識があり同期的であり近接感があると同時に、時間的空間的に拡散していて非同期的で不安感もある。
インターネットを通じたつながりについても、従来と異なるかかわりがでてきている。専門的な知識がなくても情報発信ができるようになったり、著者と読者のコミュニケーションができたり、互いにつながり合ったりできるようになった。しかし、緩やかで拡散的でもろいものである。絵文字などはそれを強化維持する働きを持っている。と同時に、排他的反社会的な面を伴っているので、自己中心的人間関係や孤独感と直結し、そこにコミュニケーション不全に起因する事件が起こる。
このように、インターネットやケータイで見られる新しい文字表記は、人間関係や社会的交流に変化を生じている。しかし、人間性は本質的に変化していないので歪みが生じるという考え方と、人間性に本質的な変化が起こったという考え方がある。
【指】指示。【説】説明。【注】注釈。【交】交流。【確】確認。【W】グループワークや心理テストなど。
【L1】抜き出す。【L2】縮めたり組み合わせたり言い換えたりする。【L3】解釈や想像。【L4】体験や知識。
全体
0.【L4】グーグル、ユーチューブ、ミクシィ、セカンドライフ、プロフ、モバ、バネェ画、メーリスの中で、知っているものがいくつあるか、挙手させる。
・グーグル=検索サイト
・ユーキューブ=動画配信サイト
・ミクシィ=SNS。ソーシャル・ネットワーク・サービス。会員制コミュニティサイト。
・セカンドライフ=人生シュミレーションソフト
・プロフ=いくつかの質問に答えて自分のプロフィールを作り、それをネット上で交流することによってコミュニケーションをはかる。
・モバ=モバゲー。無料ゲームのサイトから、SNS化したサイト。
・パネェ画=文字だけの絵。「半端ねぇ」の略。
・メーリス=メンバーだけのメール網。
1.【確】「学習プリント」の漢字を確認する。
楔形 葦 茎 刷る 一目瞭然 大概 発祥 頻度 画一 逆手 等価 遊戯 伝播 捨象 乖離 応酬 補塡 頻繁 排他 介する 陥る 緩やか 靱帯 逸脱 歪み 露呈 見極める
2.【確】「学習プリント」の語句の意味を確認する。
・メディア=媒体。手段。特に、新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどの媒体。
・テクノロジー=科学技術。
・理にかなう=理屈・道理に合う。
・一目瞭然=ひと目見ただけではっきりとわかるさま。
・大概=ほとんど。だいたい。
・発祥=物事が起こり現れること
・バリエーション=物事の変化。また、物の変型・変種
・相当=程度がその物事にふさわしいこと。
・画一=すべてを一様にそろえること。
・逆手=ふつう予想されるのとは反対の方法で応じること。
・自在=自分の思うとおりにできること。
・伝播=伝わり広まること。
・捨象=事物または表象からある要素・側面・性質を抽象するとき、他の要素・側面・性質を度外視すること
・乖離=結びつきがはなれること。
・惹起=事件・問題などをひきおこすこと。
・応酬=互いにやり取りすること。
・補塡=不足分を補って埋めること。
・頻繁=しきりに行われること。
・介す=両者の間に立てる。仲立ちとする
・同期=作動を時間的に一致させること。
・靱帯=関節の骨間および関節の周囲にある、ひもまたは帯状の結合組織。
3.形式段落に、1〜15まで番号をつける。
第一段落
第一節
1.【交】12をペアリーディングさせる。
2.【L2】問題提起は。
・インターネットやケータイといったテクノロジーは、文字表記や文字言語にどんな変化と意味もたらすか。
【注】「文字表記」と「文字言語」の違いに触れてもいいが、本質的ではない。
3.【W】【説】実演して、楔形文字の書き方が理に適っている理由を説明する。
・「ニシムラ」と書いてみる。(HP「楔形文字解読講座」参照)
・葦の茎の先を削って角を作り、その角を粘土に埋め込むようにして押し当てて、三角形を作る。
・粘土に曲線や円を書くのは難しいので、縦、横、斜めの線を組み合わせた。
4.【L3】江戸時代の本の文字が版画でなければならない理由は。
・続け字であるから。
【注】教科書の写真を見て考える。
5.【L1】3種類の文字と道具・テクノロジーの関係を表にする。
文字 |
道具・テクノロジー
|
楔形文字
江戸時代の本の文字
現在の出版物の文字 |
葦の茎と粘土板
一枚の板
活字
|
6.【確】テクノロジーが文字表記に影響していることを確認する。
第二節
1.【交】3〜5をペアリーディングさせる。
2.【説】インターネットやケータイの文字表現で新たに登場したものが顔文字や絵文字である。
3.【W】顔文字を当てる。
(^▽^) ハッハッハ
(;>_<;) エーン
\(>o<)/ギャーッ
(`□´) コラッ
(〜ε〜) ネムイ
4.【説】記号を一字ずつ入力するのでなく、「かお」と入力して変換して表示する。
5.【L2】電子メールの発祥の地であるアメリカで、顔文字が発展しなかった理由は。
・英語の入力システムに「仮名漢字変換」に相当するものがなかったから。
・アルファベットは変換しなくても入力できる。
6.【説】ギャル文字もケータイのメールから登場した。
7.【説】「もんじろう」で「山月記」の虎に変身する場面をギャル文字に代えたものを配布して、解読する。
8.【L2】ギャル文字が発達した理由は。
・デジタル・テクノロジーでの文字表記は、美しくて見やすいが画一的で味がないことを逆手にとっているから。
9.【L1】ギャル文字の表示の仕方は。
・文字や記号を自在に組み合わせる。
・入力システムの一覧の中から選択する。
10.【L2】手書き文字の「下手文字」や「丸文字」と,「ギャル文字」の根本的な違いは。
○「下手文字」や「丸文字」は、文字としての意識がある。
○「ギャル文字」は、文字も記号も等価であると考える。
文字と記号を区別する意識がない。
11.【説】掲示板言葉も新しいテクノロジーと関係している。
12.【説】教科書の写真の掲示板言葉を解読する。
13.【L1】掲示板言葉とは。
・誤変換や誤読可能性のある文字を意図的に使用して固定化された表現。
14.【L2】手書き文字の誤表記と掲示板特有の表現の違いは。
○手書き文字は、意図的ではない。
○掲示板言葉は、意図的である。
15.【L1】それぞれの文字とテクノロジーである入力システムの関係を表にする。
文字表記 |
入力システム
|
顔文字や絵文字
ギャル文字
掲示板特有の表現 |
仮名漢字変換
文字・記号一覧からの選択
誤入力・誤変換
|
第二段落
第一節
1.【交】67をペアリーディングする。
2.【L4】「言葉の乱れ」にはどんなものがあるか。
・ら抜き言葉。(見れる。着れる。食べられる。)
・誤った敬語。(〜させていただく。マニュアル敬語)
・極度の省略による流行語。(きもい。うざい。)
3.【L1】それらは何の問題か。
・話し言葉。
4.【L1】言葉には、話し言葉以外何があるか。
・書き言葉。
5.【説】情報通信のメディアの発達に伴い、書き言葉のが量的にも心理的にも相対的地位を高めてきた。
6.【L1】「相対的」とは何に対してか。
・話し言葉。
7.【L1】問題提起は。
・掲示板言葉やギャル文字や顔文字に、どのような機能や意味は何か。
8.【L1】その機能や意味の一つ目は何か。
・気持ちが伝わること。
9.【L2】対面状況での会話と、メールの文字で伝えられる情報の違いは。
対面状況での会話
|
メール
|
・声の調子や顔の表情や身体の動きから 感情が伝えられる。
|
・感情が捨象される。
↓
・送り手と受け手の間で乖離が生じる。
↓
・過激な感情言語の応酬が惹起される。 |
10.【W】表情当てクイズをする。
・教師が様々な表情をして、生徒に当てさせる。
・表情の各パーツの特徴を説明する。
・生徒に様々な顔を作らせる。
11.【L1】こうしたメールの特徴(欠点)を補う顔文字の役割は。
・感情やニュアンスを補塡する。
・親近感がわき心理的距離が縮まる。
第二節
1.【交】8〜10をペアリーディングする。
2.【L1】言語活動の持つ2つの社会的性質は。
1)情報を伝える。
2)社会的なつながり。
【説】「IT(情報技術)」「ITC(情報通信技術)」という言い方は、「情報を伝える」しか考えていない。
3.【L1】メールの2つの目的は。
1)言語的メッセージを伝える。
2)社会的つながりを感じ合い保つこと。
4.【L1】言語的メッセージを伝えることを目的にするメールは。
1)仕事のメール
5.【L1】社会的つながりを感じ合い保つことを目的にするメールは。
2)日常生活のメール
6.【L1】相手とのつながりの構築や維持をする2つのものは。
1)言語による伝達内容の共有。
2)特定の社会的集団への帰属と連帯感。
7.【L1】2)を更に言い換えると。
2)特定社会集団内の共同意識。
8.【L1】その働きをするものは。
・顔文字、絵文字、ギャル文字、掲示板言葉。
9.【説】それらは一種のジャーゴンの働きをする。
・ジャーゴンとはとは、特定の職業や仲間内でのみ使われる用語、隠語である。
10.【W】ジャーゴンクイズをする。
アンチョコ=教科書の参考書。
グリコ=お手上げ。
話がキュウリ=話が長くなりそうなこと。
話がキャベツ=込み入った内容の話。
話がサツマ=クサイ話。
話がスパゲッティ=話がこんがらがっている。
話がトマト=真っ赤な嘘。
話がにんじん=顔が赤くなるような話。
話がピーマン=内容のないつまらない話。
一円玉=ブス、醜男。
おしゃか=だめになること。
クロネコの尻尾=面白くない。
チョンボ=失敗。
アンパン=シンナーを吸うこと。
およぐ=授業中居眠る。
チクる=告げ口をする。
げんちゃり=原動機付自転車。
ちゃりんこ=自転車。
クリソー=クリームソーダ。
レーコー=アイスコーヒー。
レスカ=レモン・スカッシュ。
波の花=塩。
むらさき=しょうゆ。
あがり=お茶。
オドリ=海老。
カッパ=キュウリ。
しゃり=ご飯。
11.【L1】ジャーゴンの使用の二面性とは。
1)特定集団内の共同意識を高める。社会的。
2)集団外に対しては排他的である。反社会的。
第三節
1.【交】11〜12をペアリーディングする。
2.【L2】「この二面性」とは。
1)特定集団内の共同意識を高める。社会的。
2)集団外に対しては排他的である。反社会的。
3.メールやインターネットと対面状況の2つの違いは。
1)時間的空間的に広く薄く拡散している。
2)一時的であれ仮想的であれ密着意識をもたらす。
4.【L1】ケータイのメールの2つの時間性と類似物は。
1)非同期性。
手紙。
2)同期性。
対面状況や電話での会話。
5.【L2】「非同期性と同期性」とは。
1)非同期性=やりとりに時間のズレがある。
2)同期性 =送ればすぐに返ってくる。
6.【L1】これらが混在している結果起こることは。
1)現実には遠隔コミュニケーションである。
2)心理的には相手が「そばにいる」錯覚に陥る。
6.【L1】それぞれの結果によってどんな気持ちがするか。
1)メールをやりとりしている近接感。
2)返事が返って来ない不安感。
第四節
1.【交】13〜15をペアリーディングする。
2.【説】ブログによるかかわり合いの変化。
・日記形式で、一般の人が手軽に情報発信できる。
・メールや掲示板で、著者と読者がコミュニケーションをとる。
・コメントで、言語的メッセージを直接交換できる。
・トラックバックで、ブロクどうしのつながりを容易につけることができる。
・リンク集やアクセスランニングで、互いにつながり合い、コミュニティに属している。
3.【L1】ブログの性質は。
・緩やかで拡散的で希薄なもの。
4.【L1】言い換えると。
・もろい関係。
5.【L1】顔文字や掲示板言葉やギャル文字の2つの働きは。
1)もろい関係性を強化維持するための靱帯。
2)自己中心的対人的関係や孤独感と直結する。
コミュニケーション不全に起因する事件にも結びつく。
6.【L1】インターネットやケータイの文字表記は何に変化を与えるか。
・人間関係や社会的交流。
5.【L1】こうした変化から起こる2つの議論は。
1)人間性は本質的に変化していない。
2)人間性の本質的な変化が起こりつつある。
6.【説】見極めるには時間が必要である。
コメント
|

ホーム |
メディアは何を変えるのか? 学習プリント
点検 月 日
学習の準備
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
楔形 葦 茎 刷る 一目瞭然 大概 発祥 頻度 画一 逆手 等価 遊戯 伝播
捨象 乖離 応酬 補塡 頻繁 排他 介する 陥る 緩やか 靱帯 逸脱 歪み
露呈 見極める
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
メディア |
|
テクノロジー |
|
理にかなう |
|
一目瞭然 |
|
大概 |
|
発祥 |
|
バリエーション |
|
相当 |
|
画一 |
|
逆手 |
|
自在 |
|
伝播 |
|
捨象 |
|
乖離 |
|
惹起 |
|
応酬 |
|
学習のポイント
1.インターネットやケータイなどの新しいテクノロジーが文字に与える変化と意味を理 解する。
2.過去のテクノロジーと文字の例を理解する。
3.新しいテクノロジーの入力システムと、顔文字・絵文字、ギャル文字、掲示板言葉と の関係を理解する。
4.掲示板言葉やギャル文字や顔文字の機能や意味を理解する。
5.こうした言語や文字によって、「気持ちが伝わる」ことを理解する。
6.こうした言語や文字によって、社会的つながりができることを理解する。
7.ジャーゴンの二面性を理解する。
8.ケータイやインターネットを介した社会的つながりの二面性を理解する。
9.ケータイやインターネットでの時間性の二面性を理解する。
10.インターネットを通じたつながりの二面性を理解する。
11.ケータイやインターネットによる文字表記と、人間関係や社会的交流の変化、本質的 な変化との関係を理解する。