たとえ話から考える。ある貧乏学生が饅頭を知らず食べたこともなかった。ある日店に饅頭を並べている男を見た。そこで、何とか饅頭をただで食べてやろうとして、突然倒れて大声で「私は饅頭が怖い」と叫んだ。店の主人はそんなはずはないと思って好奇心から、あるいはいじめてやろうとして、部屋を饅頭で一般にしてこの男を閉じ込めて、穴から覗いた。すると、男は饅頭をむしゃぼり食っている。主人が理由をたずねると、「急に饅頭が怖くなくなった」と言う。主人は怒って「他に怖いものがあるか」と言った。男はお茶が飲みたくなったので「二杯のお茶が怖い」と言った。
 この話は、仕官して高い報酬を得ている者が、仕官しない人の方が立派だとか言って、官を捨てようとするものがいる。しかし、それは本心ではなく、実際その者のやり方は、仕官を希望している者よりも酷い。時には官職以外のことに口を出したり、つまらない異議を申し立てて辞職をほのめかすが、結局辞めない。そして実績がないのに名声を得て、さらに良い地位を手に入れてしがみつく。しかし、世間はそのことに気づかず、そんな奴を偉い人だと勘違いする。腐った奴だ。
 学問をして登用試験を受けない人はそれでいい。学問をして登用試験を受けて、合格を望み、合格して仕官し、仕官して出世するのは悪いことではない。
 「山月記」の李徴はこのタイプである。


1.原文写しと書き下し文の宿題を点検する。
2.音読し、書き下し文のポイントを確認する。
3.学習プリントを配布し、訳させる。
4.例え話から入ることを提示する。

8.有言。窮書生不識饅頭、計無従得。一日、見市肆有列而鬻者。輒大呼仆地。
 1)語句の意味を確認する。
  ・饅頭=中国の饅頭の餡は、肉や野菜である。肉まんや中華まん。
  ・一日=ある日。
  ・肆=店。
  ・鬻グ=売る。
  ・輒チ=すると。そのたびに。
   則チ=〜ならば。〜すればそのときは。前後をスムーズにつなぐ。
   乃チ=そこで。そこではじめて。いったん間を置いて前後をつなぐ。
   即チ=そのまますぐに。即刻、即席。
   便チ=すぐ。すぐにそのまま。「即」に近い。
 2)訳す。
  ・次のような話がある。ある貧乏学生が饅頭を食べたことがなく、食べようとしても手に入れる方法がなかった。ある日、町の店で並べて売っている者がいるのを見た。するとすぐに、大声で叫んで地面に倒れた。
 3)なぜ貧乏学生は大声を上げて倒れたのか。
  ・饅頭屋の注意を引くため。

9.主人驚問、曰「吾畏饅頭」主人曰「安有是理」乃設饅頭百許枚空室、閉之。徐伺于外、寂不聞声。穴壁窺之、則以手摶撮食者、過半矣。
 1)語句の意味を確認する。
  ・安クンゾ有ランヤ是理=反語の句法。どうしてこんなことがあるだろうか、いやな              い。
  ・理=理屈。
  ・徐ロニ=こっそりと。
 2)訳す。
  ・主人は驚いて尋ねた。貧乏学生は言った。「私は饅頭が恐い。」主人は言った。
   「どうしてこんなことがあるだろうか、いやない。」そこで、饅頭を百個ばかり空き部屋に並べて、これを閉じ込めた。こっそりと外から覗くと、ひっそりとして物音が聞こえない。壁に穴をあけて部屋の中を覗くと、手でつかんで(饅頭を)取って半分以上食べている。
 3)指示内容を読み取る。
  ・是理=畏饅頭。
  ・閉之=窮書生。
  ・窺之=(設饅頭百許枚)空室。
 4)なぜ主人は饅頭部屋を作って学生を閉じ込めたのか考える。
  ・饅頭が恐いということを信じられないから、試してやろうと思った。
  ・学生をいじめてやろうと思った。

10.亟開門、詰其然、曰「吾見此、忽自不畏」主人知其紿、怒而叱曰「若尚有畏乎」曰
 「有。猶畏臘茶両椀爾」
 1)語句の意味を確認する。
  ・忽チ=突然。
 2)訳す。
  ・急いで戸を開けて、そのさまを問いただすと、学生は言った。「私はこれを見て、突然恐くなくなった。」主人は学生が欺いていたことを知り、怒って言った。「お前はまだ恐いものがあるか。学生は言った。「ある。お茶二杯が恐い。」
 3)指示内容を読み取る。
  ・其然=饅頭が恐いと言ったのに饅頭を半分以上食べていること。
  ・見此=饅頭。
  ・其紿=窮書生。
 4)どういう気持ちで主人は「「若尚有畏乎」と言ったのか。
  ・皮肉のつもりで言った。

5.読書而不応挙、則已矣。読書而応挙、応挙而望登科、登科而仕、仕而以叙進、苟不違道、于義皆無不可也。
 1)語句の意味を確認する。
  ・読書=学問をする。勉強をする。
  ・仕=仕官する。官職に就く。公務員になる。
  ・道、義=道徳。道義。正しい筋道。
 2)訳す。
  ・学問をして科挙を受けないことは、しかたがない。学問をして科挙を受け、科挙を受けて科挙に合格することを望み、科挙に合格して仕官し、仕官して昇進するのは、もし道義に反していなければ、道義としてまったくいけないことはない。
 3)学問をして科挙の試験を受けないのも、学問をして昇進を目指すのも、問題ないことを確認する。

6.而世有一種人、既仕而得禄、反嘐嘐然以不仕為高、若欲棄之者。此豈其情也哉。
 1)語句の意味を確認する。
  ・而ルニ=しかし。
  ・豈ニ其情ン也哉=反語の句法。これはどうして本当の気持ちだろうか、いやそうではない。
 2)訳す。
  ・しかし、ある種の人で、既に仕官し給料を得ると、かえって志が高邁な様子で仕官しないことが立派であるとし、これを捨てようとするような者がいる。これはどうして本当の気持ちだろうか、いやそうではない。
 3)指示内容を読み取る。
  ・棄之=仕。官職。
  ・此=欲棄之。

7.故其経営、有甚于欲仕。或不得間而入、或故為小異以去。因以遅留。往往遂窃名、以得美官、而不辞。世終不寤也。
 1)語句の意味を確認する。
  ・往往=しばしば。
  ・遂ニ=そのまま。
  ・終ニ=最後まで。
 2)訳す。
  ・だからそいつが官吏の役職を利用した稼ぎ方は、仕官しようとする者よりもひどいものがある。ある場合は、役職以外のことにも強引に割り込んで口出ししたり、ある場合はつまらぬ異議を申し立てて辞職をほのめかす。そうして役職に留まる。しばしばそのまま実質もないのに名声を得て、よい官位につくと、辞めない。世の中の人は最後まで気づかない。
 3)「経営」の具体例を考える。
 4)「不得間而入」の具体例を考える。
 5)「小異」の具体例を考える。
 6)最低最悪の人間のくずである。しかし、こんな奴ほど出世する。

11.此豈求不仕者也。
 1)語句の意味を確認する。
  ・豈ニ不仕者=反語の句法。どうして仕官することを求めない者であろうか、いふ求める。
 2)訳す。
  ・これは、どうして仕官することを求めない者であろうか、
   いふ求める。

12.一種人と窮書生を比較する。
 ・一種人=1)仕官をやめると言う。(棄之)
      2)役職を利用して稼ぐ。(経営)
      3)より高い官位を得ようとする。(得美官)
 ・窮書生=1)饅頭が恐いと言う。
      2)饅頭をむさぼり食う。
      3)お茶まで要求する。



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畏饅頭   学習プリント

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学習の準備
1.左右1行ずつ空けて原文を写しなさい。
2.次の漢字の読み方を書け。
 則チ 仕ヘ 苟シクモ 違ハ 于イテ 而ルニ 既ニ 禄 若キ 棄テン 豈ニ 故ニ 甚シキ 或イハ 故ニ 遂ニ 終ニ 従リテ 鬻グ 輒チ 安クンゾ 乃チ 徐ニ 寂トシテ 然ルヲ 忽チ 自ヅカラ 若 尚ホ 爾
3.原文の右に書き下し文を書きなさい。特に、次の部分に注意しなさい。
 1)苟不違道、于義皆無不可也。
 2)而世有一種人、既仕而得禄、反匸匸然以不仕為高、若欲棄之者。
 3)此豈其情也哉。
 4)窮書生不識饅頭、計無従得。
 5)若尚有畏乎。
 6)猶畏臘茶両椀爾。
 7)此豈求不仕者也。
4.原文の左に現代語訳を書きなさい。

学習のポイント
1.学問と出世の道徳的関係を理解する。
2.仕官しながら口先だけで偉そうぶる最低の人間のクズを理解する。
3.貧乏学生が大声を出して倒れた理由を理解する。
4.店の主人が貧乏学生を饅頭部屋に閉じ込めた意図を理解する。
5.貧乏学生の行動とその言い訳を理解する。
6.貧乏学生がお茶が二杯怖いと言った意図を理解する。