舞姫 14


導入 《一時間》
 あらすじを身の上相談風にまとめた、主人公はどうするべきかを考える。

1.【指】「仕事か恋愛か」を配布する。
2.【W】補足しながら読み、仕事か恋愛かを選択し、その理由を5分間で書かせる。
 ・自分ならどうするかでなく、超エリートであるTならどうするべきか考えて選択する。
 ・机間巡視しながら、書くように促す。
3.【交】4人組になって、どちらを選んだか、その理由を話す。
4.【交】チームの決定と理由をボードに書かせて提示させる。
5.【説】教科書を開かせ、これが「舞姫」の前半のあらすじであることを説明する。
 ・「舞姫」は擬古文で書かれていて読みにくいが、内容的には現代的なテーマを取り上  げている。
 ・いずれの場合でも、明治中期の日本と現在の日本では、国が置かれている状況も人の  考え方も違う。その点を考慮しながら考えさせる。
 ・仕事か恋愛かを考えると同時に、明治の日本や日本人が何を考えていたかを学習する  ことを目的に、授業を進めることを予告する。

6.【指】小段落番号をつけさせる。
 ・1〜72。

7.第一段落(1〜3)の概要を板書する。
【板】
  ・明治時代の中頃。
 ・五年前に、ドイツに留学した。
 ・今は、日本へ帰国する船の中にいる。
 ・「人知らぬ恨み」に悩んでいる。
 ・恨みの概略を書く。=『舞姫』


8.【指】漫画を配布する。


第二段(4余は幼き〜8ひと月ふた月) 《一時間》

豊太郎の生い立ちと留学直後の様子
  母の存在の大きさ、その期待に答えようとする豊太郎が所動的器械的な性格を形成する生い立ちと行動を追う。

1.【指】「学習プリント第二段」を配布し、宿題にする。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 荒み  某省  殊  興さん  模糊  色沢  菩提樹  大道髪のごとき  臨める  楼閣  凱旋  神女  謁  暇
3.【確】語句の確認をする。
 ・庭の訓へ=家庭教育。
 ・出仕=官庁に勤めること。
 ・覚え=信任。
 ・模糊=ぼんやりしていてはっきりしないようす。
 ・功名=手柄をたてて有名になること。
 ・検束=自己規制。
 ・楼閣=高くて立派な構えの建物。
 ・目睫の間=極めて短い距離のこと。
 ・うべなり=いかにもその通りである。
 ・あだなる=無駄だ。
 ・謁を通ず=面会の取り次ぎを頼む。
4.【指】教師が音読する。
5.【W】4人組で「舞姫チェック」を解答させる。(15分)
   ・終わったチームから、○の数を黒板に書かせる。進行状況がわかる。
6.【説】「舞姫チェック」を解説しながら、訳す。
41)主人公は幼い頃からスパルタ教育を受けた。○
2)主人公は母子家庭に育った。○
    ★男性中心社会であり、母子家庭は、現在以上に厳しい環境であった。
  ★母は、父親の遺志を継いで、太田家の名誉ためにすべてを犠牲にして育てた。
3)主人公は商人の家の子どもである。(武士)
 ・藩校に行けるのは武士の子息だけ。
 4)主人公は大学の医学部に入学した。(法学部)
 5)主人公の名は、森林太郎である。(太田豊太郎)
  ・森林太郎は鴎外の本名。
6)トヨは藩校から大学までいつもナンバー1だった。○
   ★豊太郎も期待を裏切らず努力した。
 7)主人公は九人兄弟の四男である。(一人っ子)
  ★主人公は長男で一人息子であるので、太田家の跡取りとして、幼い頃から家の期待を一身に担って、超幼児英才教育を受けた。
 8)母にとっては自慢の息子であった。○
9)トヨは二十二歳で大学を卒業した。(十九歳)
 ・当時も普通は二十二才で卒業。当時は飛び級が認められ、優秀なら進級できた。
   ★日本の最高学府である東京大学を最年少で首席で卒業するのであるから、同年代だけでなく3歳上の青年を含めて日本一優秀な青年であった。超エリートである。
 10)トヨは国家公務員になった。○
   ★当時の憧れの職業である上級国家公務員になった。
    ★日本のために働き、日本を動かすことができる、やりがいのある仕事であった。
  ★現在の安定志向ではなく、大きな志があった。
 11)トヨは親孝行である。○
  ★女手一つで育ててくれた母への恩返しである。
 12)トヨは官長のお気に入りだった。○
13)トヨが洋行の官命を受けたのは二十一歳の時であった。(二十二歳)
 ・十九+三。
14)トヨは家と自分の名誉の為に洋行した。○
15)その時、母親は四十九才だった。(五十過ぎ)
 16)トヨが洋行した先は、欧羅巴の新大都の巴里である。(ベルリン)
  ★官費留学生は最高の名誉であった。
  ★ドイツも後発国で、日本の目標であった。
    ★当時の女性の平均寿命は四十四才。今で言えば九〇才位の年令。洋行中に死ぬかも   しれない。
517)トヨはぼんやりとした功名心と自己規制になれた勤勉さを持って洋行した。○
 18)トヨは美観に感動したが、仕事に専念した。○
619)トヨは日本でドイツ語とロシア語をマスターしていた。(フランス語)
820)トヨは半年後、仕事の合間に大学で政治学を学んだ。(一、二カ月後、法学)
  ★勉強好きである。

7.【説】板書しながら、まとめる。
 
1)武士の家の一人子で、幼い頃から厳しい家庭教育を受けた。
 2)早くに父を失い、母の手一つで育てられた。
 3)学校では常に首席を通した。
 4)十九才で、大学法学部を卒業した。
 5)某省に就職して国家公務員になった。
  6)三年間、母を都に呼んで楽しい生活を送った。
 7)官長の評判がよく、ドイツに留学が決まる。
  a)我が名と我が家の名誉のため。
  b)五十才を越えた母を日本に残す。
 8)模糊たる功名の年と検束になれた勉強力で留学する。
 9)仕事に専念し、大学で法律を勉強する。


8.【W】4人組で、生い立ちからわかるトヨの性格を4つずつ挙げさせる。
 ・根拠になった番号を書かせる。


第三段(9かくて三年〜13赤く白く) 《一時間》

自我の目覚め
 留学して3年後、豊太郎は二十五歳にして自我に目覚める。そして自由を勘違いして官長に反抗する。かといって羽目を外すことができず、留学生仲間とも付き合えない。母に育てられた性格が豊太郎を支配している。これらが今後の豊太郎に艱難をもたらす。
  自我の目覚めの前後の豊太郎の変化についてまとめる。所動的器械的人間から自由人間へ、法学から歴史文学へ、官長への反抗、そして母への疑問について、サラッと考える。

1.【指】「学習プリント第三段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
  褒むる  雄飛  瑣々  紛々  蔗を嚼む  覆す  猜疑  嫉み  合歓  欺き  顧みぬ  縛せし 有為  豪傑  就かん  疎き  冤罪  暫時 艱難  閲し
3.【確】語句の確認をする。
 ・好尚=好み。
 ・所動的=受動的。
 ・雄飛=意気盛んに勇ましく活躍すること。
 ・獄を断ずる=判決を与える。
 ・瑣々=つまらない。
 ・紛々=ごたごたして複雑な
 ・破竹のごとく=勢いが激しく、押さえきれないこと。
 ・庶を嚼む=物事の面白みを感じるようになる。
 ・猜疑=疑ったりねたんだりすること。
 ・讒誣=事実を曲げ、他人を悪く言う。
 ・かたくな=頑固なこと。
 ・有為=才能があって役にたつこと。
 ・冤罪=おかしたおぼえのない罪。無実の罪。ぬれぎぬ。
 ・暫時=しばらくの間。すこしの間。
 ・艱難=困難なことに出あって苦しみなやむこと。つらく苦しいこと。
 ・閲す=体験する

4.【指】指名して音読させる。
5.【指】4人組で「舞姫チェック」を解答させる。(15分)
   ・終わったチームから、○の数を黒板に書かせる。進行状況がわかる。
6.【説】「舞姫チェック」を解説しながら、訳す。
91)トヨは二十七才になった。(二十五才)
2)これまでのトヨは、父の遺言を守り、母の教えに従い、官長の期待に添う、能動的・器械的な人物であった。(受動的)
 3)「まことの我」が「我ならぬ我」を攻めるのは、自我の目覚めである。○
  ・今では30歳代後半。働き盛りで、自我に目覚めるには遅く、危険である。
 4)トヨは、政治家にも外交官にも向いていないと思った。(法律家)
 5)母は、トヨをウォーキング・ディクショナリーに、官長は、WALKING−RO PPOUにしようとしていた。○
  ・西洋文明を取り入れる日本の動きを敏感に察知し、語学の力を付けようとした。
  ・自分の仕事に便利なように法律を勉強させた。
 6)トヨは、母に対して自分の意見を主張し、反抗するようになった。(官長)
  ・国家公務員は今も昔も上意下達の世界。
  ・豊太郎に反抗する権利はない。
  ・反抗することは免官につながる。
 7)トヨは政治や経済に興味を持つようになった。(歴史や文学)
  ・政治や経済は機械的な学問であり、歴史や文学は人間的な学問である。
108)官長は、独立した思想を持ったトヨを喜ばなかった。○
  ・自分の思う通りに動く有能な部下が必要なのであって、いくら有能でも自分の意見を主張する人物は有害である。これは今の官僚についても言える。
119)留学生仲間は、一緒にビールを飲んだり麻雀をしたりしないトヨを、頑固な人物だと 尊敬した。(ビリヤード・あざけり妬んだ)
 ・留学生仲間は、私費の留学生。
 ・金持ちの道楽息子が遊ぶために留学していることが多かった。
 10)学問や仕事に専念したのは、勇気があったからではなく、臆病だったからである。○
  ×かたくななる心と欲を制する力ではない。
  ○遊ぶ勇気がない。
 11)トヨは、故郷を出る時、自分は才能があり、豪傑だと信じていた。○
12)トヨが、神戸の港を出る時に笑っていたのは、本性の表れである。(横浜、泣いて)
13)トヨは、弱くふびんなる心は父に育てられたから生じたと思っている。(母)
 ・責任転嫁している。
1314)ドイツで売春婦や道楽者と遊ばなかったのは、金がなかったからである。(勇気)
  ・一旦遊ぶと、流されてしまうことを恐れている。
 15)留学生仲間と遊ばなかったことが、無実の罪で苦しみを体験する原因になる。○

7.【説】板書しながら、まとめる。
 ・三年後、二十七才。
我ならぬ我=嘘の自分
まことの我=本当の自分=自我
・父の遺言を守り、母や官長に忠実
・所動的、器械的な人物
・政治家、法律家を目指す
・母→生きた辞書
 官長→生きた法律
・有為な人物、豪傑
・官長に自分の意見を主張する
・歴史や文学に興味を持つ
・臆病=弱くふびんなる心
  ↑責任転嫁
 母の手一つで育てられた
  ↓
 ・地位が危うくなる
  ・官長に逆らい、評判が悪くなる
  ・留学生仲間とのつきあいが悪く、嘲られ妬まれる。


8.【指】漫画とハーレクインロマンスを配布する。


第四段(14ある日の夕暮れ〜25少女は驚き)《二時間》

エリスとの出会い
  留学当初、あだなる美観に見向きもしなかった豊太郎がはまっていた古い教会の前で恍惚となっていた時に起こった運命の出会い。憐憫とか言っているが、要するに一目惚れ。のこのこエリスの家に付いていき、金を貸してやる。しかし考えてみれば、エリスが人通りの多い教会の前で泣いていたり、初め激しく戸を締めた強欲な母親がエリスの一言で手の平を返したように丁寧な対応になったり、いきなりエリスの方から借金の申し込みをしたり、留めは否とは言わせぬ媚態を含んだ目で悩殺したり、不自然なことが多い。この出会いは、豊太郎にとって吉なのか凶なのか。
  エリスに声をかけた豊太郎の状態や気持ち、豊太郎に声をかけられた(させた)エリスの気持ちについて、裏読みをして追及する。

1.【指】「学習プリント第四段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 巷  翁  凹字  恍惚  愁ひ  一顧  憐憫  真率  葬る  欷歔  鎮め  老嫗  悪しき  額  会釈  茫然  慇懃  無礼  右手  左手 煉瓦  価高き  傍ら  媚態
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・漫歩=散歩
 ・僑居=下宿
 ・巷=にぎやかな通り
 ・恍惚=うっとりする様子。
 ・一顧=一目見ること。
 ・憐憫=あわれむこと。
 ・係累=両親・妻子など面倒を見なければならない家族。
 ・真率=真面目な気持ち。
 ・欷歔=すすり泣き。
 ・会釈=軽くおじぎをすること。
 ・慇懃=ていねいなこと。
 ・媚態=男にこびようとする、女のなまめかしい態度。

4.【指】4人組で1文ずつ交代して音読する。
5.【指】4人組で「舞姫チェック」を解答させる。(15分)
   ・終わったチームから、○の数を黒板に書かせる。進行状況がわかる。
6.【説】「舞姫チェック」を解説しながら、訳す。
141)運命の出会いは、昼過ぎ、ウンテル・デン・リンデンの動物園の前で起こった。(夕方・クロステル巷の古寺)
 ・動物園→ウンテルデンリデン通り→クロステル通り→マリエ教会
  ・下宿はモンデシュウ街にあるので、クロステル通りの教会は寄り道になる。
  ・クロステル通りは狭く、道に面して洗濯物が乾してあり、夕方から酒を飲んでいる者もたむろしているような、貧民窟である。
2)トヨは、この三百年前の遺跡の前に初めて来て、うっとりしていた。(何度も)
  ・「恍惚」が一つのキーワードになる。
・留学直後は、あだなる美観に心を動かされまいとしていたが、自我の目覚めによって美しいものを心をひかれるようになった。
153)少女は閉ざされた教会の門の前で声をあげて泣いていた。(声をのんで)
4)少女は、十二、三才、詩人でなければ表現できないほどの超美少女だった。(十六、 七才)
5)少女のチャームポイントは、もの問いたげに憂いを含んで、涙に濡れた長い睫毛の黒 い瞳であった。(青い)
6)トヨは、少女に一目惚れした。○
167)臆病なトヨだが、ナンパしようという下心あって、大胆にも少女に声をかけた。(憐憫の情)
18〜208)少女は、遊ぶ金がないので、泣いて私に金を貸してくれるように訴え、頭を私の肩に寄せた。(父の葬式代)
・「我を救いたまえ」は金を貸せということ。
219)トヨは、教会の隣にある十四階の屋根裏部屋の少女の家まで送って行った。(筋向かい・四階)
  ・屋根裏部屋。天井がなくいきなり屋根である。従って、外気と直接触れるので、夏は暑く冬は寒い。条件が悪いので安アパートの中でもさらに家賃が安い。
10)部屋から出てきたのは、白髪まじりの貧しい服装をした少女の祖母であった。(母)
 ・悪人ではないが、貧しい身なり。
212211)少女の名前は、ワイゲルトで、父は詐欺師であった。(エリス・仕立物師)
2212)家の中でエリスと母が激しく言い争った後、母の態度が一変した。○
 ・戸を荒々しく閉める。
 ・口論
 ・戸を開けて無礼を謝る。
2313)エリスは、色黒で、ガッシリした、貧家の娘であった。(色白・かぼそい)
14)エリスは地方出身者である。○
 ・「少し訛りたる言葉」とある。
15)エリスは、モンビシュウ座の座頭のバウムクウヘンと言うスケベな中年男の愛人になれと迫られていた。(ビクトリア座、シャウムベルヒ)
 ・「身勝手なる言いかけ」とは愛人になれということである。
16)母は、エリスが座頭の愛人になることに反対していた。(賛成)
17)エリスは、初対面のトヨに借金を申し込んだ。○
18)エリスの目は、MUGOん・色っぽいものだった。○
    ・見上げた目には、人には否とは言わせぬ媚態があった。
 ・「MUGOん・色っぽい」のCDをかける。「青い瞳のエリス」も。
2419)トヨはポケットの中にあった二、三マルクの銀貨を貸した。(時計)
  ・高級時計なので、質屋に持っていけばお金を貸してくれる。
2520)エリスは、私の手に甲に感謝のよだれをこぼした。(涙)
7.【W】ワールドカフェ「エリスを疑え」
 1)4人組になる。
 2)「エリスの不自然な行動を指摘し、その理由を話し合う。(8分)
  ・模造紙(ホワイトボード)に話し合いのプロセスを残す。
 1)なぜ、人通りの多い教会の前で泣いていたのか。
  ・教会に救いを求めようとしたが夕方なので閉まっていた。
 2)なぜ、一六、七歳にもなって人前で泣くのか。
 3)なぜ、他の人は声をかけなかったのか。
 4)なぜ、初対面なのに「善き人と見ゆ」と言えるのか。
 5)なぜ、初対面の人に金を貸してくれというのか。
 6)なぜ、初対面の人に家庭事情をペラペラしゃべるのか。
 7)なぜ、話している内に私の肩に寄りかかったのか。
 8)なぜ、母の態度が一変したのか。
  ・娘を売るような母の心を短時間で一変させる内容とは。
  ・豊太郎が金銭的に援助してくれる。
 9)豊太郎も、「人には否とは言わせない媚びを含んだ目」が、意識的ではなかったかと疑っている。
  ・「知りてするにや」と疑っている時点で、すでに意識的であったと確信している。
 3)ホストを一人決め、ホストが残り、他のメンバーは他のチームに移動する。
 4)ホストがそのチームの話し合いを説明し、メンバーが自分のチームの話を言う。(5分)
 5)もう一度移動して、同じことをする。(5分)
 6)もとのチームに戻り、再度話し合う。(5分)
 7)発表する。(1分×n)
8.【説】板書しながら、まとめる
 1)ある日の夕方、古い教会の前で恍惚としている。
 ・美観に感動している。
 ・自我に目覚めで自由になっていた。
 ・当時の地位が危うく不安定な精神状態であった。
 2)すすり泣いている少女と出会う。
  ・十六、七才。
  ・超美少女。
  ・青く清らにてもの問いたげに愁ひを含める目
                      チャームポイント=魔性
 3)大胆にも少女に声をかける。
  ?憐憫の情
  ○一目惚れ
 4)少女の言葉(1)
  ・「君は善き人なりと見ゆ」
   「我を救いたまへ」
  ・明日の父の葬式の金がない
 5)少女の家に送る。
  エリス
  ・母と言い争い(=トヨが金を貸してくれる)
 6)少女の言葉(2)
 ・「君は善き人なりと見ゆ」
  「我を救いたまへ」
・座頭の身勝手な言いかけ+母も賛成
    愛人になれ。
   ↑
  ・目には人には否とは言わせぬ媚態あり
         ○意識的か、×無意識か
 7)金を貸す。
  ・トヨ=エリス=父を亡くす


9.【指】漫画とハーレクインロマンスを配布する。

第五段(26ああ、なんらの悪因〜読まぬがあるに。)《二時間》

エリスとの交際と人生の岐路
豊太郎はエリスとの出会いが不幸の始まりであると考えている。このことが留学生を通じて官長の耳に入り免官になる。また、母の死を知らせる手紙を受け取る。帰国か残留か、いずれにしても学問がならないことを迷う。そんな自分のために泣いてくれるエリスと離れ難い仲になる。相沢とエリスの助けで貧しいが楽しい生活を送る。

1.【指】「学習プリント第五段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 終日  漁する  岐路  旨  煩ふ  某  募り  辛苦  賤しき  卑しき 疎んぜん  愛づる  危急存亡 数奇  悲痛感慨  説き  赴き  若人  掌上  詳らか 流布  一隻
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・悪因=悪い結果をもたらす原因。
 ・速了=早合点。
 ・痴〓=幼稚な。
 ・事を好む=事を荒だてる。
 ・岐路=分かれ道。
 ・不時=思いがけない時。
 ・色を失う=驚いて顔色が青くなる。
 ・危急存亡=人生の大きな危機。
 ・数奇=不幸せ。
 ・悲痛感慨=激しい悲しみを感じること。
 ・浮かぶ瀬=出世する機会。
 ・寄寓=他人の家に住んで世話になること。
 ・流布=世間に広まること。
 ・一隻=ひとかど。

4.【指】4人組で1文ずつ交代して音読する。
5.【指】4人組で「舞姫チェック」を解答させる。

6.【説】「舞姫チェック」を解説しながら、訳す。
26@「舞姫」を書いているトヨはエリスとの出会いを後悔している。○
 ・「なんらの悪因ぞ」とある。
  ★後悔の理由は最後に考える。
 Aエリスはトヨと交際するためにトヨの下宿にやってきた。(トヨにお礼を言うため)
  ・質草を豊太郎の下宿に持ってきたことによって交際が始まる。
  ・質屋に行かせたのはトヨの計画か。
 B「一輪の名花を咲かせたり」とは、エリスが美しい花を持って来てくれたことである。
 (エリスのこと)
  ・読書ばかりしている豊太郎の人生が一転して華やかになる。
 Cトヨはエリスといきなり大人の関係になった。(幼ない関係)
 ・「痴〓なる歓楽」とある。
 ・お茶を飲みながら、話をする程度。
27Dスキャンダル好きの留学生はトヨが舞姫をナンパしていると官長にチクくった。○
  ・エリスとの交際を誇張する。
  ・官長への反抗、留学生との付き合いの悪さの結果。
  ・トヨをよく思っていなかった官長も、すぐに大使館に報告した。
  ・13「余が冤罪を身に追いて」に該当する部分。
 Eトヨはクビになり、直ぐに帰国すれば旅費は出すが、ドイツに残留するなら一切の援  助を断ち切ると言い渡された。○
  ・出世の道が閉ざされ、父の遺志や母の願いが実現できなくなった。
 Fトヨは、母の自筆の手紙と、母の死を知らせる親戚の手紙を、同時に受け取った。○
  ★「舞姫」の中の3通の手紙が登場する。
   いずれも、豊太郎の運命を左右する重要な小道具である。
  ・我がまたなく慕う母の手紙。
  ・二年後の今読んでも涙が止まらないほど悲しい内容。
  ★手紙の内容について考える。
28Gこの時すでに、トヨとエリスはHな関係になっていた。(清らかな関係)
 Hエリスは、ハックスレンデル座のナンバー1である。(ビクトリア座、ナンバー2)
 I舞姫は、舞台の華やかさとは反対に、ワーキングプアで、売春する者もいた。○
 Jエリスが売春しなかったのは、おとなしい性格と強い意志を持った母のおかげである。 (父)
  ・その父が死んでしまったのだから、エリスは窮地に陥った。
 Kトヨはエリスに読書や言葉や文字を教える、親子の関係になった。(師弟)
 Lトヨは、クビになったことをエリスに話したが、エリスは母に内緒にした。(隠した
  ・エリスは、女の勘で免官に気づいた。
  ・母に免官を知らせると、別れさせられるから。
  ・この時点で、エリスは豊太郎を純粋に愛していることが分かる。
 Mエリスの母は、金目当てでトヨとの交際を許していた。○
  ・「母の余が学資を失ひしを知りて余を疎んぜんを恐れてなり」
29Nこの時、悲しさのあまり恍惚となって、二人は男と女の関係になってしまった。○
  ・「離れ難き仲」とは男女の関係である。
  ・深い悲しみで恍惚としていた。
  ・不幸のどん底の豊太郎のために涙を流してくれた。
  ・母に代わる存在。
  ★14教会の前でエリスと出会った時も、恍惚としていた。エリスとの重要な局面では、   いつも恍惚としている。自己責任がとれない。
 Oトヨはこの時初めてエリスに愛を感じた。(初めて見た時から)
  ・15出会った瞬間から一目惚れしていた。
30Pトヨは、帰国してエリスと別れた汚名を負うか、ドイツに残って生活費も得られない  生活するか、究極の選択を迫られた。(学問ができない、学資)
  ・学問ができるかどうかが問題である。学問大好き人間である。
  ・エリスが問題ではない。この時は妊娠していない。
31Q天方大臣の秘書官で、東京にいる親友の相沢鎌吉が、新聞社の配達員の仕事を紹介してくれた。(謙吉、通信員)
32Rエリスが母親を説得して、トヨの下宿で同棲するようになり、貧しいながらも愛の生  活を営む。(エリスの家)
3435Sトヨは、実社会の知識には詳しくなったが、学問が衰えたことを後悔している。○
  ・「我が学問は荒みぬ」と二回繰り返している。
  ・やはり、学問大好き人間である。

7.【W】ワールドカフェ「母の手紙」
 1)4人組になる。
 2)「母の手紙には何が書いてあったのか」について話し合う。10〜15分。
  ・模造紙(ホワイトボード)に話し合いのプロセスを残す。
  @二年後に読んでも泣ける内容とは何か。
  A母は豊太郎の免官を知っていたか。
   ・恐らく知っていた。
   ・豊太郎が官長への反抗やエリスのことを手紙に書いていた。
   ・日本の官報に出ている。
   ・相沢も官報で豊太郎の免官を知った。
  B豊太郎の免官を知った時の気持ちは。
   ・情けない。
   ・亡夫に申し訳ない。
   ・可哀相とか、帰っておいでとは言わない。
  Cなぜ、母は自筆の手紙の直後に死んだのか。
   ・五十歳を越えていたので寿命。病気がちだった。
   ・夫や太田家に豊太郎の免官の責任をとって自殺する。
  D母の死が今後の豊太郎に与える影響は。
  ・心の支えを失った。喪失感。
  ・急いで帰国する必要がなくなった。
 3)ホストを一人決め、ホストが残り、他のメンバーは他のチームに移動する。
 4)ホストがそのチームの話し合いを説明し、メンバーが自分のチームの話を言う。10分
 5)もとのチームに戻り、再度話し合う。10分
 6)発表する。2分×

8.【説】板書しながら、まとめる。
 @エリスがトヨの下宿を訪れる。
  ・後に後悔している。
 Aエリスとの交際が始まる。
  ・幼い関係→師弟の関係
 B免官になる。
  ・エリスとの交際。留学生→官長→公使館
  ×父の遺言や母の期待
  a)日本に帰国する→旅費を支給する。
  b)ドイツに残留する→援助を断ち切る。
 C一週間の猶予をもらう。
  a)帰国する→学問ができない→出世はない
  b)残留する→学費がない
  ×エリスへの愛
 D母の死を知らせる「手紙@」
  ・心の支えを失った。喪失感。
  ・急いで帰国する必要がなくなった。
 Eエリスと離れ難い仲になる。
  ・深い悲しみで恍惚としていた。
  ・母に代わる存在。
 Fドイツに残留する。
  ・相沢→新聞社の通信員の仕事
  ・エリス→エリスの家に同居。
 G貧しいが楽しい愛の生活を送る。
  ・日本で母は暮らした三年間以来の安息の日々。
  ・学問が衰えた。


9.【指】漫画とハーレクインロマンスを配布する。


第六段(明治二十一年の冬〜車を見送りぬ。)

エリスの妊娠
明治二十一年、豊太郎はエリスの妊娠を知り、将来に不安を覚える。そんな時に相沢から大臣に会うようにという手紙が来る。第二の手紙である。豊太郎、大臣ではなく旧友に会いに行くのだと言って出かける。エリスは捨てられるのではないかと予感する。
相沢との約束
大臣は豊太郎の力を試そうと独逸語の翻訳の仕事を依頼する。その後、相沢は豊太郎を昼食に誘う。親友は離れていても豊太郎の臆病な心を見抜いていた。そして、語学の才能を示して自力で大臣の信用を得ることを勧める。これは自分の推薦責任のリスクを回避する高級官僚の保身術でもある。また、スキャンダルは出世の妨げになるのでエリスと別れることを忠告する。豊太郎にとって出世は遠い彼方、また自分が出世を望んでいるかも不確実である。確実なのは、エリスへの愛である。愛と友情と出世の狭間で、とりあえず目の前にいる相沢の忠告に従い、エリスと別れると約束するが、心の中でエリスへの罪悪感を感じる。

1.【指】「学習プリント第六段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 凸凹  朝  飢ゑ凍え  悪阻  昨夜  汝  疾く  不興  接吻  朔風  謁し  閲歴  凡庸  成心  曲庇者  薦むる
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・卒倒=急に意識を失って倒れること。
 ・さらぬだに=そうでなくてさえ
 ・おぼつかなし=不安定なこと。
 ・いぶかる=うたがわしく思う。
 ・茫然=ぼんやりすること。
 ・とみ=急ぎのこと。
 ・不興=おもしろくないこと。
 ・よしや=たとえ
 ・朔風=北風。
 ・踟〓=ためらうこと。
 ・品行方正=普段の行いが正しいこと。
 ・気象=性格。
 ・意に介す=気にする。
 ・生路=人生航路。
 ・轗軻数奇=不幸。
 ・凡庸=平凡なこと。
 ・色を正す=あらたまった表情をする。
 ・成心=先入観。
 ・曲庇者=道理を曲げてかばう者。

4.【指】4人組で1文ずつ交代して音読する。
5.【指】4人組で「舞姫チェック」を解答させる。

6.【説】「舞姫チェック」を解説しながら、訳す。
36@明治二十三年の夏の出来事である。(二十一年の冬)
  ・年代が明記されているのはここだけである。
  ・緊張感と新たな展開を感じさせる。
  ・時代を明記して現実味を帯びさせる。
 Aエリスが気分が悪く物を食うと吐くのを食べ過ぎであると気づいたのは豊太郎である。 (妊娠・母)
 Bトヨは、エリスの妊娠を知って将来に希望を感じた。(不安)
  ★なぜ不安かは後で考える。
37C相沢の手紙には、「相沢と会い名誉挽回せよ」とだけ書いてあった。(大臣)
  ・相沢の筆跡だが、切手はプロシア。日本でもプロシアの切手は手に入る。
  ・しかし、ベルリンの消印があるということは、相沢はベルリンに来ている。
  ・実は、昨夜天方大臣とベルリンに来て、すぐに手紙を出した。
  ・速達か?それにしても早すぎる。
  ・急な内容なので、豊太郎は茫然とする。
39Dエリスは、妊娠しているので、トヨが出世しても見捨てないでほしいと嘆願した。
  (いなくても)
  ・豊太郎の様子を見て最初、新聞社を解雇された手紙だと思った。
  ・その後、身支度を手伝いながら不安になる。
  ★その様子は後で考える。
40Eトヨは、富貴や出世をキッパリ否定し、大臣に会いに行くと言い切った。(友)
  ★本心かどうか後で考える。
41Fトヨは、超一流の豪華なカイゼルホオフホテルに初めて来た。(久しぶりに)
  ・「久しく踏み慣れぬ」とあるので初めてではない。
  ・留学直後には通ったのだろう。
 Gトヨが相沢に会うのを一瞬ためらったのは、落ちぶれた自分を相沢に見られるのが恥 ずかしかったからである。○
  ・学生時代は豊太郎の方が上位にあった。
  ・しかし今は、相沢は大臣の秘書、豊太郎はフリーター。
 H相沢は、デブになったが、快活な性格は変わらず、トヨの失敗を非難しなかった。○
 I大臣は、トヨにフランス語の文書の翻訳を依頼した。(ドイツ語)
 J相沢が、トヨをディナーに誘った。(ランチ)
43K相沢は、トヨの失敗の原因を生まれながらの臆病な心のせいだと見抜いていた。○
  ・さすが友人である。社会人としての豊太郎の弱点を見抜いている。
 L相沢も大臣も、トヨが女性問題でクビになったことを知っていた。○
 M相沢は、トヨに法律の才能を示して大臣の信用を得るように勧めた。(語学)
 ・なぜ直接推挙しなかったのかは後で考える。
 N相沢がトヨにエリスと別れるよう忠告した理由は、年令の差がありすぎるからである。 (身分)
  ・出世には女性関係のスキャンダルは致命傷になる。
  ・とはいえ、権力者のほとんどは愛人をもっていただろう。
44Oトヨは、相沢の示した前途の方針が実現するか、幸せに結びつくかわからなかった。  ○
 Pトヨは、この時、今の生活やエリスへの愛に満足していた。○
  ・「捨て難きはエリスへの愛」と明言している。
 Qトヨは、エリスを譲れという相沢の忠告を約束した。(エリスと別れろ)
 Rトヨは、友に対してはNO!と言えない性格だった。○
45Sトヨの心は、午後七時の気温だけでなく、エリスへの罪悪感からさぶ〜かった。
  (四時)

7.【説】質問し、まとめながら、板書する。
 1)エリスの妊娠について
  @【L1】トヨの気持ちは。
   ・「もしまことなりせばいかにせまし」
   (もし(妊娠が)本当ならばどうしよう)
   ・反実仮想
 A【L3】反実仮想は、事実に反することを仮定してその結果を想像することだが、事    実に反することとは?
  ・エリスが妊娠していないこと。
 B【説】豊太郎は、妊娠していることを信じたくなかった。
 C【L3】なぜ、信じたくないのか。
  ・経済的に不安定になる。
  ・学問ができなくなる。
 3)相沢に会いに行く
  @【L1】エリスの気持ちは。
 ○「たとひ富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。」
  (もし出世なさる日が来ても、私をお見捨てにならないでください)
  ・豊太郎が出世すれば、見捨てられることを予感している。
  ・女の直感。
 ○「我が病は母ののたまふごとくならずとも」
  (私の病が母のおっしゃるようでなくても)
 A【L3】私の病とは。
  ・妊娠。
 B【L3】真意は。
  ・妊娠していなくても→見捨てないでほしい。
    ↓まして
  ・妊娠しているなら→当然見捨てるはずがない。
  ・妊娠を武器にして、豊太郎を束縛する。
 C【L1】豊太郎の返事は。
  ○「政治社会などに出でんの望みは絶ちしより幾年かを経るを」
   ・富貴も出世もとっくに諦めた。
  ○「友にこそ会ひるは行け」
   ・相沢に会いに行く=友情
   ・大臣に会いに行く=出世
 D【W】豊太郎が相沢に会いに行くと言ったのは本当か。4人組で自分の立場と理由   を述べ、メンバーの意見を聞く。
 
 6)相沢との昼食
  @【L1】なぜ、豊太郎を責めなかったのか。
   ・「この一段のことはもと生まれながらなる弱き心より出でしなれば」
  A【L3】「この一段のこと」とは。
   ・エリスと深い関係になったこと。
 7)相沢の忠告
  @【L3】なぜ、語学の才能を示して大臣の信用を得させるのか。
   ・豊太郎の才能を生かして再び出世させる=友情
   ・優秀な人物を紹介して自分の評価を上げる=利己心
  A【L3】なぜ、直接推薦しなかったのか。
   ・大臣は豊太郎の免官の理由を知っている。
   ・推薦すれば、曲庇者と思われる=保身
   ・官僚的な用心深さ。
  B【L3】なぜ、相沢がエリスと別れるように忠告したのか。
   ・身分が違う。
    ・女性問題は出世の妨げになる。
   ・仕事に専念させる
    ・やがて弱い心がエリスを選ぶ
 8)豊太郎の気持ち
  @【L2】比喩は。
 ・大洋=ヨーロッパ
 ・舟人=豊太郎
 ・はるかな山=出世
 A【L1】不確実要素は。
 ・果たして行き着きぬとも=出世できるか?
 ・我が中心に満足を与へんも=満足できるか?
  B確実要素は。
 ・貧しいが楽しい生活。
 ・エリスの愛。
 9)エリスと別れる約束
  @【L1】なぜ、エリスと別れると約束したのか。
  ○親友の意見には逆らえないから。
  ×エリスを捨てようと決断したわけではない。
   ・優柔不断、主体性の欠如。
  2)【L2】なぜ、心に一種の寒さを感じたのか。
   ・エリスへの罪悪感。

 1)明治二十一年の冬、エリスが妊娠する。
  ・豊太郎の気持ち
           反実仮想
   「もしまことなりせばいかにせまし」
    (もし妊娠していたらどうしようか)
     ↓妊娠していないことを前提にしている
    妊娠を信じたくない
     ↑
    学問
    将来が不安である
 2)相沢の手紙(二通目)を受け取る。【説】
  ・「大臣に会いに来い」
    ‖
   名誉挽回のチャンス
 3)相沢に会いに行く
  @エリスの気持ち
   「たとひ富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ」
   ・豊太郎が出世すれば、見捨てられることを予感している。
   ・女の直感。
    妊娠
  「我が病は母ののたまふごとくならずとも」
    ×妊娠→見捨てない
    ○妊娠→見捨てるはずがない
     ↓
    ・妊娠を武器に、豊太郎を束縛する。
  A豊太郎の返事
  「政治社会などに出でんの望みは絶ちしより幾年かを経るを」
   ・富貴も出世も諦めた
  「友にこそ会ひには行け」【L2】
   ・相沢に会いに行く=友情
   ・大臣に会いに行く=出世
 4)相沢と再会する
  ・会うことをためらう=劣等感【L1】
   ・相沢=大臣の秘書官
   ・豊太郎=免官
 5)大臣から翻訳を依頼される
 6)相沢と昼食をする
  ・豊太郎を責めない
    ↑
    エリスとの関係        トヨの本質を見抜いている
  ・「この一段のことは生まれながらの弱き心より出でしなれば
 7)出世を勧められる【L3】
  ○語学の才能を示して大臣の信用を得ろ
   ・豊太郎の出世=友情
  ×直接推薦しない
   ・大臣から曲庇者と思われたくない=保身
     ↑
       エリスとの関係
   ・大臣も豊太郎の免官の理由を知っている。
 8)エリスと別れろと忠告される
  @人材(=身分)が違う
   ・女性問題を解消させる
  A仕事に専念させる
   ・弱い心が再びエリスを選ぶ
 9)豊太郎の気持ち【L2】
  ・大洋=ヨーロッハ
  ・舵を失った舟人=免官になった豊太郎
  ・はるかな山=出世
    ↓
  ・行き着くか? ─┬─不確実 
  ・満足できるか?─┘                                ⇔
  ・貧しいが楽しい生活 ─┬─確実
  ・捨て難いエリスへの愛─┘ 
 10)エリスと別れると約束する
  ・友の言葉にはノーと言えない=優柔不断、主体性の欠如
    ↓
  ・一種の寒さを覚える=エリスへの罪悪感

                        
8.【指】漫画とハーレクインロマンスを配布する。


第七段(翻訳は一夜に〜涙満ちたり。)

豊太郎は大臣の信用を得ていく自分に気づかない。一月後、ロシア行きを打診され、信頼する人の依頼を断れず承諾する。ロシアではエリスのことも忘れてしまいそうになるほど通訳の仕事に生き甲斐を感じる。そんな中、エリスの手紙で自分の地位に気づく。軽率にもエリスと別れる約束をしたことを後悔するが、出世と帰国の可能性に心中穏やかではない。自我の目覚めが偽物であったことに気づく。ベルリンに帰り、エリスと再会するまでは出世に心が傾いていたが、エリスに会うと一気に愛に傾く。エリスは旅行中に準備していたおむつを見せて認知を迫る。

1.【指】「学習プリント第八段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 卒然  咄嗟  量らず  直ちに  強いて  虚  賜り  費え  憂かる 拉し  驕奢  巧み  賓主  周旋  生計  袂  云々  操り  寂然 刹那  低徊踟〓  一瞥  木綿
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・卒然=突然。
 ・咄嗟=わずかの間。 
 ・うべなふ=承知する。
 ・うしろめたし=
 ・舌人=通訳。
 ・拉す=むりに連れて行く。
 ・驕奢=贅沢。
 ・賓主=客と主人。
 ・周旋=にはいって取り持つこと。
 ・路用=旅費。
 ・袂を分かつ=別れる。
 ・順境=物事がつごうよく運び、幸なことなどのない境遇。
 ・逆境=苦労の多い不幸せな境遇。
 ・寂然=寂しい様子。
 ・刹那=わずかな間。
 ・低徊踟〓=迷いためらうこと。
 ・一瞥=ちらっと見ること。
 ・あだし名=正当でない名。

4.【指】4人チームで「舞姫チェック」を解答させ、○の数を板書させる。7つ。

5.【説】訳しながら正解を確認する。
46@翻訳には3日かかった。(一夜)
  ・トヨの有能さが証明された。
 A大臣は、次第にトヨの意見を聞いたり冗談を言って笑うようになった。 ○
  ・冗談を言うということは、大臣がトヨを信用しだした。
47B一週間後、大臣はトヨに数日後のフランスへの同行を打診した。(一カ月、明日、ロシア)
  ・急な申し出である。トヨへの信頼の現れである。
 Cトヨは、その打診を予測したので、即座に断った。(予測していなかったが、引き受けた)
 Dトヨは、信頼している人から頼まれたので、あまり考えずに即座にOKを出した。○
  ・相沢との約束に続いて2つ目の対応である。
  ・相沢の場合も、信用する友にNOと言えなかった。
48Eエリスは、トヨの愛を信じていたので、ロシア行きに不安を感じていなかった。○
50Fトヨは書記官として、フランス語を駆使して客と主人の間をとりもった。(通訳)
  ・通訳は信用されてななければ任せられない仕事である。
 Gトヨは、この間すっかりエリスのことを忘れていた。(忘れることができなかった) ・「忘れざりき」ではなく、「え忘れざりき」とある。
  ・エリスの手紙が頻繁に来るので忘れることができなかった。
51Hエリスの1通目の手紙は、一人で暮らすことの心細さが切々と書いてあった。○
52Iエリスの2通目の手紙は、妊娠しているのでゼーッタイ捨てないで!相沢の信用を得 たならエリスの旅費ぐらいは出してくれるだろうと書いてあった。(大臣)
  ・「ゆめな〜そ」の強い禁止に注意する。
  ・エリスは自分の立場を理解していない。
 Jトヨは、エリスの1通目の手紙で、初めて自分の地位に気づいた。(2通目)
53Kトヨは、大臣の信用が出世につながるとは思わず、通信員の仕事を忠実に果たした。 (翻訳や通訳)
  ・語学の才能を活かせる翻訳や通訳が楽しくて仕事をしていた。
  ・相沢の会話にヒントがあったのに気づかなかった。
  ・相沢の大臣の信用を得ろという助言は考えていなかった。
 L相沢は、トヨがエリスと別れると約束したことを、速攻で大臣に伝えていた。○
  ・女性問題を清算することが、豊太郎を重用する条件であった。
55Mトヨは、自我の目覚めはニセモノで、昔は母、今は相沢に自由を束縛されていたと気づいた。(官長、大臣)
 Nトヨがベルリンに帰ったのは、大晦日の夜である。(元旦の朝)
57Oトヨは、エリスと再会する前、愛情より望郷の念や出世欲が強かった。○
 Pトヨは、エリスと再会した瞬間、愛情が消えた。(望郷の念や出世欲)
59Qトヨは、机の上の白い木綿のハンカチーフを見て驚いた。(おむつ)
  ・太田裕美の懐かしい歌である。
  ・着々と出産の準備をしていた。
60Rエリスはトヨにお腹の子の認知を迫った。○
  ・「よもあだし名をば名のらせたまはじ」と言っている。
 Sエリスは、赤ん坊が教会で洗礼を受けることが悲しくて泣いていた。(うれしく)

6.【説】板書しながら、説明する。
 1)大臣の信用を得る
  @【L1】なぜ大臣の信用を得つつあると分かるのか。
   ・翻訳を一夜で完成した。
   ・大臣が意見を問うたり、笑い話をしたりする。
   【説】笑い話をするのは、信用の証拠。
   【説】しかし、豊太郎は気づかない。
 2)ロシア同行を依頼される
  @【L1】大臣の依頼の仕方は。
   ・「従ひて来べきか」(付いてくるか)
   ・疑問であるが、実は命令である。
  A【L1】豊太郎の返事は。
   ・「いかで命に従はざらん」
    (どうして命令に従わないことがありましょうか、絶対に従います)
   ・反語。即断。
  B【L1】なぜ、驚いたのか。
   ・最近相沢に会っていないので、情報も入って来なかった。
  C 【L1】なぜ、即断したのか。
  ・信頼している人の依頼はすぐに承知する。
   ・答えの影響をよく考えない。
   ・我慢して実行する。
   ・自我に目覚める前の豊太郎に戻っている。
  D【L2】「答への影響」とは。
   ・大臣の信用を得て、再び出世する。
   ・エリスとしばらく別れて暮らす。
  E【L1】送り出すエリスの気持ちは。
   ・偽りのない豊太郎の心を厚く信じている。
  F【L2】豊太郎の気持ちは。
   ・通訳の仕事で充実している。
 3)ロシアでエリスの手紙を受け取る
  @【説】豊太郎の運命を左右する3通目の手紙である。
  A【説】手紙の内容
   ・愛の力でドイツにつなぎ止める。
     ↓それができなければ
   ・母と一緒に日本へ付いて行く。
     ↓旅費がない。
   ・どんなことをしても、ドイツで出世してほしい。
   ・お腹が目立つようになったので絶対見捨てないでほしい。
   ・私一人で日本に付いていく。
   ・大臣に重く用いられたら、私の旅費は出してもらえる。
  B【L2】二通目のこの手紙で最も重要な所は。
   ・「大臣の君に用ゐられたまはば我が路用の金はともかくもなりなむ」
  C【L2】エリスの気持ちは。
   ・豊太郎の出世の可能性に気づいている。
   ・一緒に帰国できると思っている。
  D【L1】手紙を読んで気づいたことは。
   ・初めて出世の可能性に初めて気づく。
   ・今までは出世を考えずに仕事をしてきた。
   ・冷静ではいられなくなった=帰国したい、出世したい。
  E【L1】大臣の信用をどのような比喩でたとえているか。
   ・屋上の鳥。
   ・第7段落では、「はるかなる山」
  F【L1】なぜ、大臣の信用を得たのか。
  ・語学の才能が認められたから。
   ・女性関係を清算した思っているから。
  G【L1】なぜ、大臣は女性関係が解決したと思っていたのか。
   ・エリスと別れる約束を、相沢が大臣に伝えていたから。
  H【L1】自分を何にたとえているか。
   ・足を縛して放たれし鳥。
  I【L1】足を縛っていたものは。
   ・先は、官長。
   ・今は、大臣。
 4)ベルリンでエリスと再会する
  @【L1】再会の前と後の豊太郎の気持ちの変化は。
   ・前=故郷を思う気持ち(帰国)と栄達を求むる心(出世)。
   ・後=エリスへの愛。
  A【L3】なぜ、変わったのか。
   ・目の前の状況に左右される。
  ・優柔不断。
 B【L1】エリスの気持ちは。
   ・「よもあだし名は名のらせまはじ」
    (まさか別の姓は名のらせないでしょうね)
   ・子どもの認知を迫る。
  C【L4】それに対する豊太郎の気持ちは。
   ・負担に感じているのかどうか。

1)大臣の信用を得る
 ・翻訳を一夜で完成
   ↓
 ・大臣が意見を問たり。冗談を言って笑う
2)ロシア同行を打診される
 ・「随ひて来べきか」  
         反語
 ・突然の依頼
 @豊太郎の気持ち
  ・「いかで命に従はざらん」
    反語
 ・信頼している人の依頼はすぐに承知する。
  ・答えの範囲をよく考えない。
   ・大臣の信用を得て出世する。
   ・しばらくエリスと離れて暮らす。
 Aエリスの気持ち
  ・偽りのない豊太郎の心を厚く信じている。
         3通目
3)ロシアでエリスの手紙を受け取る
 @エリスの気持ち
  ・「我をばゆめな捨てたまひそ」
       強意  禁止
  ・「大臣の君に用ゐられたまはば我が路用の金はともかくもなりなむ」
    豊太郎の出世の可能性   一緒に日本に行ける
 A豊太郎の気持ち
      屋上の鳥
  ・「初めて我が地位明視する」
       大臣の信用を得て出世する
    ⇔
  ・「己が尽くしたる職分をのみ見ていた」
    翻訳・通訳
    ↑
  ・語学の才能が認められたから。
  ・女性関係を清算したと相沢から報告を受けたから。
    ↓
  ・故郷を思ふ念(帰国)と栄達を求むる心(出世)
   ・足を縛して放たれし鳥。
    ・先→官長。
    ・今→大臣。

4)ベルリンでエリスとの再会する
 @豊太郎の気持ち
  ・故郷を思ふ念と栄達を求むる心
   ↓
  ・エリスへの愛。
   ‖
  ・目の前の状況に左右される。
 ・優柔不断。
Aエリスの気持ち
  ・「よもあだし名は名のらせまはじ」
   ・子どもの認知を迫る。

13.【指】漫画とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。

第八段(二、三日の間は大臣をも〜そのまま地に倒れぬ。)

大臣から帰国の命令が下る。エリスのことを理由に帰国をを断ることは相沢の顔を泥を塗ることになる。もしこのチャンスを逃せば日本に帰ることも出来なくなり、名誉を回復することもできなくなる。このドイツでうだつの上がらぬまま死んでいくのかというかつてのエリート意識が頭のそこから突き上げてきて、帰国を承知してしまう。しかし、エリスにどのように説明すればよいのか。雪の街を一晩中彷徨った挙げ句、家にたどり着くと同時に高熱で倒れてしまう。
 豊太郎が倒れている数週間の間に、相沢がエリスに真実を伝え、エリスが発狂する。相沢も自分の身分を守るのに必死だったろう。卑しい職業のエリスがどうなろうとかまわなかったのだろう。意識が戻った豊太郎は発狂したエリスを抱きしめて涙を流す。そして、エリスと子どものことをエリスの母親に頼んで帰国する。豊太郎の心には相沢に対する人知らぬ恨みが残る。

1.【指】「学習プリント第九段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 待遇  滞留  係累  心頭  特操  承り  傍ら  醒めし  外套  鷺 蒼然  顛末  繕ひ  一諾  欺き  痴なる  赤児  治癒  欷歔  癒え 屍  
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・係累=関係。
 ・特操=終始一貫して変わらない自分の志。
 ・黒がねの額=恥知らずで厚かましいこと。鉄面皮。
 ・ふつに=全然。
 ・蒼然=色が黒ずんで青々としているようす
 ・人事を知る=意識。
 ・顛末=はじめから終わりまで。一部始終。
 ・つばらに=くわしいこと。

4.【指】ペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで、解答させる。

7.【説】訳しながら正解を確認する。
61@トヨは、一週間後の昼過ぎ、大臣を見舞いに訪れた。(二、三日後の夕方、招待された)
 A大臣がトヨを一緒に帰国させる一つの理由は、大臣が法学を評価したからである。(語学)
 Bもう一つの理由は、大臣が相沢から、トヨがエリスと別れると約束した報告を受けていたからである。○
 Cトヨは、エリスとの約束は嘘だったと言えなかった。(相沢)
 D断れば帰国や名誉回復の機会は二度となく、ベルリンでフリーターになると思った。 ○
 Eトヨは、一週間の猶予をもらった。(すぐに承諾した)
62Fトヨの頭の中はエリスへの罪悪感でいっぱいだった。○
67Gトヨは帰宅と同時に、帰国を承知したことをエリスに伝えた。(倒れた)
68Hトヨは、数日間意識不明だった。(数週間)
 Iその間に、大臣が見舞いに来た。(相沢・様子を見に)
 J「余が彼に隠したる顛末」とは、意識不明になっていたことである。(エリスと別れていないこと)
 K相沢は大臣に、病気のことと、トヨがエリスと別れていないことを報告した。(だけを)
 Lトヨの意識が回復した時、エリスは丸々と太り、精神的に死んでいた。(やせ細り)
69M「余が相沢に与へし約束」とは、エリスを相沢に譲るという約束である。(エリスと別れる)
 N「かの夕べ大臣に聞こえ上げし一諾」とは、ロシア同行を承知したことである。(帰国を承諾したこと)
70O「過激なる心労」とは、流産したことである。(豊太郎に騙されたこと)
 Pエリスは、時々「シャブをくれ、シャブをくれ」と言った。(豊太郎に薬をあげなく ては)
71Qトヨは、発狂したエリスの死体を抱きしめ涙を流し、エリスの母に慰謝料を渡して帰国した。(生活費)
72Rトヨは大臣を恨んでいる。(相沢)
 Sラストクエスチョン、この時、トヨは二十九才である。(二十七才)[22歳で留学して5年間]

8.質問をしながら板書する。
1)帰国の命令を受ける
 @【L1】大臣が帰国を勧めた理由は。
   ・豊太郎の語学の才能を認めた。
   ・豊太郎がエリスと別れたと、相沢から報告を受けていた。
  【説】エリスと別れることが帰国の条件であった。
 A【L1】豊太郎が承知した理由は。
  ・相沢の信用を傷つけられない。
  ・この機会を逃せば、帰国も出世もできない。
 B【L3】エリスと別れていないことを言えば、相沢はどうなるか。
  ・相沢が嘘を言っていたことになれば、相沢の信用がなくなる。
  ・相沢が嘘をついていないとすれば、人を見る目がないことになり、やはり信用がな   くなる。
 C【L2】エリスと別れると約束した時や、ロシア行きを承諾した時との違いは。
  ・エリスと別れる時は、友だちの言うことに否と言えない。
  ・ロシア行きの時は、信用している人の依頼を断われない。
  ・帰国の承諾は、帰国や出世がしたいから。
  ・確信的

2)エリスへの罪悪感に苦しむ
 @【説】苦しむ様子。
  ・雪の降る中を一晩中歩き回った。
  ・自業自得である。
 A【L3】いい解決方法があるか。
 a)正直に話す。
  ・エリスに激しく非難される。
・帰国をあきらめるかもしれない。
b)黙って帰国する
  ・豊太郎の弱い心は隠しきれない。
  ・勘の鋭いエリスは必ず気づく。
 c)黙ったまま残留する
  ・帰国や出世のチャンスは二度とない。
  ・相沢の信用を傷つける。
   【説】どの場合も行き詰まる。
      今まで問題を先延ばしにしていた報いが来た。

3)帰宅と同時に倒れる
 @【L2】どんな意味があるか。
  ・一時的にしろ、エリスに帰国を説明しなくてすむ。
  ・再び問題の先延ばし。

4)相沢が訪問する
@【L2】なぜ来たのか。
 ・ホテルに来ないので様子を見に来た。
 ・見舞いではない。
A【L3】相沢の気持ちは。
  ・「余が彼に隠したる顛末」を知る。
   ・豊太郎がエリスと別れていないこと。
B【L1】相沢の取った行動は。
 ・大臣には病気のことだけを報告する。
  ・エリスと別れていないことは報告しない。
 C【L2】大臣には病気の事だけを伝えた理由は。
 ・豊太郎がエリスと別れていないことが大臣に知れれば、嘘をついていたか、騙され  ていたことになる。
 ・いずれにせよ、自分の地位も危なくなる。
 D【L1】エリスに伝えた真実とは。
  ・「余が相沢に与へし約束」
   (エリスと別れる約束)
  ・「大臣に聞こえあげし一諾」
   (帰国の承諾)
 E【L2】相沢がエリスに真実を伝えた理由は。
  ・豊太郎と別れさせるため。
  ・豊太郎の弱き心では、豊太郎の口から真実を伝えるのは難しいと判断した。
  【注】エリスがどう思うか、どうなるかは考えていない。

5)エリスが発狂する
 @【L1】エリスが相沢から真実を聞かされた時の気持ちは。
  ・「我が豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺きたまひしか。」
  ・「過激なる心労」
   (豊太郎に裏切られたショック)
 A【L2】発狂後の様子は。
  ・赤ん坊のことを忘れられない。
  ・裏切られる前で時間が止まっている。
 B【L1】豊太郎の行動は。
  ・エリスを抱いて涙を流す。
 C【L2】その時の豊太郎の気持ちは。
  ・エリスを愛している。
  ・エリスに謝罪している。
 D【L4】もしエリスが発狂していなければ、エリスを抱けたか。
  ・怒りにふれて近づくこともできない。
  ・豊太郎にとっては好都合。

6)豊太郎が帰国する
 @【L3】豊太郎のエリスに対する気持ちは。
  ・罪悪感。
 A【L3】それと反対の感情は。
  ・安堵感。
   ・発狂したのだから強引に引き止められなくてすむ。
 B【L1】豊太郎の相沢に対する気持ちは。
  ・相沢のような良友は得難い
 C【L1】それと反対の感情は。
  ・相沢を憎む心が今日まで残っている。
  【説】これが「人知らぬ恨み」である。
 D【L4】なぜ、豊太郎は相沢を憎んでいるのか。
 a)エリスを発狂させたから。
  ・相沢が言わなければ、いずれ豊太郎が言わなければならなかった。
  ・相沢に自分の責任を転嫁していることになる。
 b)再び出世の道を開いたから。
  ・エリスが妊娠した時に将来に不安を覚えていた。
  ・エリスとの破局はいずれやって来たはずである。
 c)エリスと別れる約束をさせたから。
  ・いずれ、現実に負けて愛は冷めるかもしれない。
  ・結果的には、豊太郎はエリスから直接非難されなくてすむ。
  ・にもかかわらず、責任転嫁である。

1)帰国の命令を受ける
 @大臣が帰国を勧めた理由
  ・豊太郎の語学の才能を認めた。
  ・豊太郎がエリスと別れたと相沢から報告を受けていた。
 A豊太郎が承知した理由
  ・相沢の信用を傷つけられない。
  ・この機会を逃せば、帰国も出世もできない。
  ・確信的

2)エリスへの罪悪感に苦しむ
 ・雪の降る中を一晩中歩き回った。
 a)正直に話す。
  ・エリスに激しく非難される。
・帰国をあきらめる
b)黙って帰国する
  ・豊太郎の弱い心は隠しきれない。
  ・勘の鋭いエリスは必ず気づく。
 c)黙ったまま残留する
  ・帰国や出世のチャンスは二度とない。
  ・相沢の信用を傷つける。

3)帰宅と同時に倒れる
 ・一時的に、エリスに帰国を説明しなくてすむ。
  問題の先延ばし。

4)相沢が訪問する
 ・「余が彼に隠したる顛末」=エリスと別れていないこと
    ↓
 ○病気のことだけ報告する。
  ×エリスと別れていないことは報告しない=保身
 ・エリスに真実を伝える
  ・「余が相沢に与へし約束」=エリスと別れる
  ・「大臣に聞こえあげし一諾」=大臣に付いて帰国する
    ↑
   ・豊太郎と別れさせる
   ・豊太郎の弱き心
5)エリスが発狂する
 @エリスの気持ち
  ・「我が豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺きたまひしか。」
  ・「過激なる心労」=豊太郎に裏切られたショック
    ↓
  ・赤ん坊のことを忘れられない。
   ・裏切られる前で時間が止まっている。
 B豊太郎の気持ち
  ・エリスを抱いて涙を流す。
  ・エリスを愛している。
  ・エリスに謝罪している。
6)豊太郎が帰国する
 @エリスに対する気持ち
  ・罪悪感
   ⇔
  ・安堵感
 A相沢に対する気持ち
  ・彼のような良友は得難い
   ⇔
  ・相沢を憎む心が今日まで残っている。
   「人知らぬ恨み」
   a)エリスを発狂させたから。
  b)再び出世の道を開いたから。
  c)エリスと別れる約束をさせたから
   ↓
  ・責任転嫁

9.【指】漫画とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。




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