
教材観
「えたいの知れない不吉な塊」。これが全てを言い表しているだろう。なんせ「えたいが知れない」のだからどうしようもない。ただ、焦燥とか、嫌悪とか、二日酔いとか、思い当たるふしはある。何に追い立てられているのか? 何を嫌っているのか? なぜ次の日に体調を崩すことを知りながら毎日酒を飲むのか? 肺尖カタル、神経衰弱、借金がいけないのではない、と言っているが、それらがいけないのである。何かに焦燥し自己嫌悪に陥り、それを紛らすのに酒を飲むが、それでは何も解決せずますます焦燥は激しくなるのでというふうに悪循環に陥ってしまう。その結果、肺尖カタルになり神経衰弱になり借金も増えていく。このようにして、不吉な塊が、私を居たたまらずさせるのだ。
「そのころ」の私は、「みすぼらしくて美しいもの」に強くひかれた。例えば、壊れかかった街の裏通り。みすぼらしいけれどどこか親しみがある。華やかな表通りが京都とすれば、そこはまるで京都から遠く離れた異郷の地のようであるという錯覚を起こそうとする。そこでゆっくり静養したい。つまり、なにかに追われ疲れきって、現実から空間的に逃避したかったのである。
また、金はなく、二銭や三銭のもので、贅沢なもので、美しいもので、無気力な私の触覚に媚びてくるものが私を慰めてくれた。花火の安っぽい絵の具の色は、けばけばしく強い刺激で疲れ切った精神に病的に侵入してくる。びいどろや南京玉は、それをなめて叱られた幼児のあまい記憶が落ちぶれた私を慰めてくれる。つまり、現実からの時間的な逃避である。
「生活がまだ蝕まれていなかった以前」の私が好きであったのは、例えば丸善の高級小物であった。そこで、いっとういい鉛筆を一本買うぐらいの贅沢をした。お洒落な消費であった。しかし、そんな浪費が積もり積もって今の借金生活に陥った。私にとって丸善は借金取りの亡霊のように思えた。
「そのころ」私は友達の下宿を転々としていた。「何か」が私を追い立てるのだ。そしてお気に入りの果物屋「八百卯」に立ち寄る。その店の果物屋固有の美しさ、夜の店頭の周囲だけが妙に暗いこと、目深にかぶった帽子のような廂、店頭の電灯の驟雨のように浴びせかける絢爛などが気に入っていた。(京都で学ぶ生徒にとって、寺町は身近な場所である。「八百卯」も「丸善」も行くことができるし行ったこともある。地の利を生かさない手はない。写真を見せたり、梶井のお気に入りの店が「八百卯」なら、私のお気に入りの店を紹介してもいいし、生徒のお気に入りの店を紹介させてもよい。絶好の動機付けである。)
その店で、私は檸檬を買った。レモンヱロウの単純な色はその単純なゆえに、丈の詰まった紡錘形の恰好は丈の詰まった充実感ゆえに、冷たさと匂いは肺尖カタルで熱があった上に深呼吸ができなかったゆえに、不吉な塊に悩まされ続けた私には快かった。その感じを、すべての善いものすべての美しいものを重量に換算した重さに象徴した。これは「共鳴」である。心とは不思議なものだ。
その勢いを借りて、あの丸善にやすやすと入れるように思えて、ずかずかと入っていく。しかし、だんだんと憂鬱になってくる。そこで、袂の中の檸檬を思い出す。そして、画集を積み上げその頂上に檸檬を置くという第一のアイデアを実行する。画集の山は不吉な塊の原因とも言える丸善に代表される華やかで贅沢な美しさ象徴している。檸檬はすべての善いものすべての美しいもの象徴である。丸善vs檸檬。埃っぽい丸善の空気を檸檬が緊張させて、カーンと冴えかっている。丸善を檸檬が吸収した。檸檬の勝利である。
ところが、不意に第二のアイディアを思いつく。檸檬を爆弾に見立てて、画本の山に
置いたまま丸善を出て、丸善が大爆発するのを想像するのだ。それは私をぎょっとさせた。せっかく不吉な塊を凌駕したのに、なぜ爆発させる必要があるのだろうか。第一のアイディアでは不十分だったのだろうか。ここで重要なのは、くすぐったい気持ちである。密かな楽しみのためにそわそわする気持ちである。第二のアイディアは第一のアイディアとは違う方向を目指すものである。諧謔心というか、不吉な塊がゾンビのようにむくむくと甦ってきたのである。
0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.全文を音読する。
2.段落分けをする。
1)はじめ〜三一一01 「そのころの私〜不吉な塊〜」
2)三一一01〜三一三04 「ある朝の私〜果物屋〜」
3)三一三05〜三一五03 「その日の私1)〜檸檬〜」
4)三一五04〜おわり 「その日の私2)〜丸善〜」
3.感想を書かせる。
第一段落
1.漢字の読みを確認する。
塊 焦燥 嫌悪 宿酔 肺尖 辛抱 蓄音機 壊れ 趣 向日葵 努める 布団 蚊帳 糊 浴衣 鯛 南京玉 享楽 詩美 漂う 察し 触角 洒落た 切子細工 典雅 琥珀 翡翠 香水瓶 煙管 石鹸 煙草 小一時間 費やす 勘定台
2.語句の意味を確認する。
焦燥=いらいらすること。あせること。
むしばむ=病気などで、からだや精神を少しずつ損なう
享楽=思いのままに快楽を味わうこと。
こびる=他人に気に入られるような態度をとる
典雅=正しくととのっていて上品なさま。
第一段
4.えたいの知れない不吉な塊とは何か。【提言】
1)「えたいの知れない」とは、感じてはいるが、言葉で語り得ぬものである。【説明】
2)不吉な塊の正体は、だいたいどのようなものか。【閉じた発問】
・焦燥
・嫌悪
・宿酔に相当した時期。
3)「〜と言おうか」と断定できないでいる。「〜性」「〜のうよなもの」。【説明】
4)「焦燥」とはどんな感情か。【開いた発問】
・何かに追い立てられている。
5)何に追い立てられているか分からないから、「と言おうか」と言っている。【説明】
6)同じように、「嫌悪と言おうか」とは。【開いた発問】
・何かを嫌っているが、何を嫌っているか分からない。
7)その「何か」は何かが問題になる。【説明】
8)「結果した」は「その結果をもたらした」という意味である。【説明】
9)えたいの知れない不吉な塊という結果をもたらしたものは何か。【閉じた発問】
・肺尖カタル
・神経衰弱
・背を焼くような借金
10)「いけないのではない」と否定しているが、実際はどうか。【開いた発問】
・いけないのである。
・認めたくないものほど強く否定する。
11)肺尖カタルについて説明する。【説明】
・肺尖部の結核性病変。肺結核の初期症状。また、肺結核が治りにくかった時代には、 ぼかしていうのにも使われた。
・当時は死因として最も多かった。安静と栄養が必要で、治療には金がかかった。
12)なぜ、肺尖カタルに罹ったのか。【開いた発問】
・不摂生な生活。不衛生な環境。栄養不足。
13)なぜ、神経衰弱になったのか。【開いた発問】
・大きな悩みがあった。
14)何に使うために借金をしたのか。【開いた発問】
・ささやかな贅沢。
・正解は後に出てくるので、ここでは保留。
15)えたいの知れない不吉な塊をどのようにして解消しようとしたか。【閉じた発問】
・美しい音楽
・美しい詩
15)それらの共通点は。【開いた発問】
・芸術的、知的、高級。
16)今回は、それでも解消されず、街を放浪している。【説明】
17)「何か」とは何か。【開いた発問】
・えたいの知れない不吉な塊。
第二〜第三段
5.そのころ強くひきつけられた風景は。【提言】
1)「そのころ」とはどんな時か。【閉じた発問】
・えたいの知れない不吉な塊に抑え付けられていた時。
2)そのころ、私を引きつけたものは。【閉じた発問】
・みすぼらしくて美しいもの。
3)「みすぼらしい」と「美しい」という相反するものが同居している。【説明】
4)ここでも「なぜだか」と自分自身でも理由がはっきりしない。【説明】
5)それは、風景にすればどんな風景か。【閉じた発問】
・崩れかかった街の、裏通り。
・汚い洗濯物、がらくた、むさくるしい部屋、土塀が崩れている、家並みが傾く、
・ビックリさせるような向日葵やカンナ
6)ここでの向日葵やカンナのイメージは。【開いた発問】
・けばけばしい。大作り。下品。厚化粧。
7)路地裏の写真を見せる。【説明】
8)なぜ、そんな場所を好んだのか。【開いた発問】
・京都ではない場所にいると錯覚できるから。
・京都はもっと上品でよそよそしい感じである。
9)なぜ、京都から遠く離れた場所だと錯覚を起こそうと努めたのか。【閉じた発問】
・京都から逃げ出して、誰一人知らない所へ行きたかった。
・そこで、安静にしたかった。
10)なぜ、京都から逃げ出したかったのか。【開いた発問】
・京都にいると、えたいの知れない不吉な塊に抑え付けられるから。
11)安静のイメージは。【閉じた発問】
・がらんとした旅館の一室。
・清浄な布団。
・においのいい蚊帳と糊のよくきいた浴衣。
12)主人公の実際の生活は、これらと正反対のものである。【説明】
13)「錯覚」の言い換えは。【閉じた発問】
・想像の絵の具を塗り付けていく。
14)「私の錯覚と壊れかかった街との二重写し」とはどういうことか。【開いた発問】
・目の前に壊れかかった街を見ながら、京都から遠く離れた街のイメージを重ねる。
15)錯覚してどうしたかったのか。【閉じた発問】
・現実の自分自身を見失しなうのを楽しんだ。
16)言ってみれば、空間的な逃避である。【説明】
17)生徒に疲れた時、行ってみたい場所を問う。【開いた発問】
第四〜第六段
6.そのころ強く引きつけられた、みすぼらしくて美しい物は。【提言】
1)どんな物に引きつけられたか。【閉じた発問】
・花火の絵
・おはじき、南京玉。
2)花火やおはじき、駄菓子屋の毒々しい食べ物を見せる。【説明】
3)花火でなく花火の絵の特徴は。【開いた発問】
・安っぽい。
・毒々しい。
4)なぜ、おはじきや南京玉が好きだったのか。【閉じた発問】
・なめてみるのが好き。
・なめて、父母に叱られた幼時のあまい記憶が蘇ってくるから。
5)実際なめてみる。【説明】
6)崩れかかった街の裏通りの錯覚が「空間的逃避」とすると、南京玉をなめるのは。 【開いた発問】
・時間的逃避。
7)これらの風景や物に共通するものは。【閉じた発問】
・二銭や三銭の安いもので、贅沢なもの。
・美しいもので、無気力な私に媚びてくるもの。
8)どんなものを求めているのか。【開いた発問】
・安くてできる贅沢。
・こちらから行くのでなく、向こうから来てくれるもの。
9)他に、この条件に合うものは。【開いた発問】
第七段
7.以前好きであったものは。【提言】
1)好きだった場所は。【閉じた発問】
・丸善。
2)丸善のイメージは。【閉じた発問】
・オーデコロン、香水瓶、煙管、小刀、石鹸、煙草。
3)それらは、どのようなものか。【開いた発問】
・高級。舶来。高価。
・石鹸でも外国の特殊な高級石鹸。煙草でも外国の高級煙草。
4)それらを小一時間見るとどんな気持になるか。【開いた発問】
・金持ちになった気持ち。
5)なぜ、一番良い鉛筆を一本買うのか。【開いた発問】
・少ないお金で、高級で贅沢な雰囲気を楽しむ。
6)同じような贅沢の例は。【開いた発問】
7)なぜ、そのころの丸善が「重苦しい場所」になっていたのか。【開いた発問】
・そんなささやかではあるが、贅沢を積み重ねたために借金がかさんだ。
第二段落
1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.漢字の読みを確認する。
駄菓子屋 乾物屋 棒鱈 湯葉 果物 勾配 漆塗り 凝り固まる 青物 廂 目深
驟雨 絢爛 興がる 八百屋 丈 紡錘形 格好 緩む 憂鬱 一顆 紛らす 不審
不可思議 身内 弾む 装束 闊歩 載せて 諧謔心
3.語句の意味を確認する。
ぽつねん=ひとりだけで何もせず寂しそうにしているさま。
駄菓子=粗糖・雑穀などで作った菓子。豆板・あめ・かりんとうなど。
乾物=野菜・海藻・魚介類などを、保存できるように乾燥した食品。干ししいたけ・干瓢(かんぴよう)・昆布・するめ・煮干しなどの類。
勾配=水平面に対する傾きの度合い。傾斜。また、斜面。
青物=青色の野菜。
驟雨=急にどっと降りだして、しばらくするとやんでしまう雨。にわか雨。夕立
ほしいまま= 思いのままに振る舞うさま。
絢爛=華やかで美しいさま。きらびやかなさま。
興がる=おもしろがる。
不審=疑わしく思うこと。
逆説=一見、真理にそむいているようにみえて、実は一面の真理を言い表している表現。「急がば回れ」など。
闊歩=大またで堂々と歩くこと。
諧謔=こっけいみのある気のきいた言葉。しゃれや冗談。ユーモア。
第八〜九段
4.果物屋の魅力は。【提言】
1)その頃の私の生活は。【閉じた発問】
・友だちの下宿を転々としていた。
・友だちが学校へ出た後ひとり残される。
・何かに追い立てられ、街へさまよい出る。
2)「何か」は第一段の「えたいの知れない不吉な塊」である。【説明】
3)その時の私の気持ちは。【開いた発問】
・取り残された孤独感、疎外感、脱落感。
・目標の喪失。無気力。浮遊感。
4)梶井の好んだ散歩コースを地図を書いて紹介する。【説明】
・吉田→丸太町→寺町→二条→新京極→四条→円山公園→平安神宮→吉田。
5)果物屋の場所を写真を店ながら説明する。【説明】
6)好きだった理由は。【閉じた発問】
・果物屋固有の美しさが最も露骨に感じられた。
・夜が美しかった。
7)果物屋固有の美しさとは。【開いた発問】
・黒い漆塗りの勾配の急な台の上に、さまざまな色の果物が積まれている。
・台の黒と果物の様々な色彩のコントラストの鮮やかさ。
8)果物の質感の表現を味わう【説明】
・軽快な流れが、一瞬にして、凝り固まった。
9)夜の光のコントラストを図示して説明する。【説明】
・北側の二条通りが暗い。南側の隣家も暗い。
・打ち出した廂の上も暗い。
・店内の電灯の光だけが驟雨のように明るい。
・それを向かいの店の二階から見下ろしている。
10)生徒にお気に入りの店と、その特徴を質問する。【開いた発問】
丸善跡(三条麸屋町) |
前丸善 |
現丸善 |

寺町通りと八百卯 |

八百卯 |
八百卯の檸檬 |
第十〜第十六段
5.檸檬の魅力は。【提言】
1)実際に檸檬を持たせ、その感想を聞く。【開いた発問】
2)「いったいわたしはあの檸檬が好きだ」という唐突な言い方に注意する。【説明】
・「いったい」は、強い疑問やとがめの意味と、もともと。ここでは、強調。
・「あの」の指示内容はなく、強調している。
3)檸檬のどんな所が気に入ったのか。【閉じた発問】
1)単純な色
2)丈の詰まった紡錘形の恰好
3)冷たさ
4)匂い
5)重さ
4)単純な色が気に入った理由は。【開いた発問】
・黄色の鮮やかさ。
・単純さがいい。
・複雑なえたいの知れない不吉な塊に対抗できる。
5)丈の詰まった形が気に入った理由は。【開いた発問】
・丈が詰まるとは、上下から圧縮されている。
・凝縮して中身がつまって充実した感じがする。
6)冷たさが気に入った理由は。【開いた発問】
・主人公は、肺尖カタルで熱があった。
・冷たい檸檬は心地よかった。
7)ただし、手の握りあいをして誰よりも熱いことを自慢している。【説明】
・肺病は不摂生による病気で、当時の文学青年の憧れであった。
・人並でないことが、文学者の証であると思っていた。
8)匂いが気に入った理由は。【開いた発問】
・肺尖カタルで深呼吸したことがなかった。
・匂いを嗅ぐために深呼吸をするので、新鮮な空気が身内に入る。
・カリフォルニアが想像されて、遠くへ行った気になる。
9)重さを何と表現しているか。【閉じた発問】
・すべての善いもの美しいもの。
10)なぜ、そのように感じたのか。【開いた発問】
・何かが充満していて、不吉な塊の元凶になった肺尖カタルが癒される感じがした。
・インスピレーション。
11)檸檬を手に入れた私の気持ちは。【閉じた発問】
・軽やかな興奮。
・一種誇りやかな気持ち。
・幸福だった。
12)なぜ、そんな気持ちになったか。【開いた発問】
・探していたものが見つかったから。
・不吉な塊が一瞬なくなったような気がしたから。
13)檸檬と、丸善や見すぼらしくて美しい景色や物との違いは。【開いた発問】
・檸檬は、みすぼらしくはない。
・それ程高級ではないが、少し贅沢である。
14)食べ物や形や色に関する心理テストをする。
★ミカン、ナツミカン、グレープフルーツ、リンゴ、メロン、イチゴ、ブドウ、ナシ、パパイヤ、カキ、バナナ、モモの中から好きなものを選ぶ。
・ミカン=食べるのに手間がかからないし、ビタミンも豊富であるためか、もっとも好かれるフルーツのひとつ。ミカンの好きな人は、無理を好まない安全第一主義者。決して危険な冒険をせず、地道にコツコツと努力をしていく。おだやかでだれとでも調和していける人で、少しくらいイヤなことがあっても笑顔を忘れないし、人づき合いも上手で、ほどほどのペースを守っていけるタイプ。ただ意外に頑固なところがあり、周囲が驚かされることも。
・ナツミカン=人づき合いがとても上手で、社交性はバッグン。だれとでも気軽につき合うし、相手に合わせるタイプなので友達も多い。世話好きで、困っている人を見ると黙っていられないところもある。お人好しすぎてだまされたり、失敗することもあるが、一度の失敗ではへコタレない頑張り屋でもある。とてもエネルギッシュで、行動力にあふれているタイプ。
・グレープフルーツ=健康や美容に対する関心の強い人。平凡なことでは満足できず、理想は高く、いつもまわりから注目されたい、認められたいといった気持ちが強い。オシャレにも気をつかい、流行に敏感で、しかも超一流のものを求めるタイプ。スポーツ、絵画、音楽にも興味を持っている。言うなれば華やかに自分の生活をエンジョイしていきたいという気持ちを強く持っている人でなかなかのロマンチスト。また、楽天家でもある。
・リンゴ=もっとも一般的で、だれからも好まれるフルーツ。リンゴが好きという人は、ものごとをキチンと処理していく真面目型で、なにごとにもけじめを大切にし、エチケットやマナーにもうるさいだろう。はじめはつき合いにくい人のように見られるが、相手の気持ちをよく考えて行動できる人なので、次第に理解され、つき合う期間が長くなるにつれて、その良さがわかってもらえる。
・メロン=外観はとてもエレガントで控えめな人だが、心の中にはいつも大きな夢や理想を燃やしている。人の言いなりになることを嫌い、自分なりの理想や信念で生きていこうとする、かなり頑固な面もある。向上心も強く、いまの状態に満足して落ちついてしまうようなことは大嫌いだし、人に負けたり追い抜かれたりすることも大嫌い。ただ欲望はわりと現実的で、金銭的欲求がたいへん強く、ブランド品にあこがれるタイプ。
・イチゴ=洗練された美的センスがいっぱいの人。オシャレにも気をつかい、自分らしさをいろいろなところにあらわしていこうとするタイプ。美的感覚をなによりも大切にし、センスを磨き、人生をできるだけ楽しいものにしようと努力する。カッコイイことが大事で、ダサイこと、カッコ悪いことは死ぬほど嫌いという人。ロマンチックな夢を追い求め、異性に対してもひと目惚れすることが多い。
・ブドウ=知性にあふれ、美的センスや詩的空想力も豊かで、とても個性的な人。夢や理想を大切にし、お金のためよりも夢を求めて行動していこうとする。慎重で忍耐強い人だが、人づき合いはわりと苦手で、自分のカラに閉じこもりやすい。このため近寄りにくく冷たい印象を与えることもある。人を好きになるのにも時間がかかるが、親しくなるとイメージとはガラリとちがった姿になり、献身的だったり、わがままだったりする。
・ナシ=慎重で、落ちついたムードの人。自分の欲求をコントロールしていく真面目型で、派手な生き方よりも堅実第−。人づき合いでも控えめで、自分を主張するよりも相手に合わせていく。だが本心は、人とワイワイ騒ぐよりも、だれにも束縛されずにのんびり一人で過ごしたいと思っている。シンは意外と強く、趣味に打ちこんで素晴らしい才能を発揮したりするが、消極的すぎて、目の前のチャンスを逃してしまうということもある。
・パパイヤ=情熱的で、冒険心とスタミナにあふれた個性的な人。常に新しいものに挑戦していこうとする積極的なタイプで、いつも刺激とスリルを求めている。発想もユニークで、枠にはめられるのは大の苦手。金もうけのオ能もあり、ギャンブルなどにも興味を示すことがあるだろう。ただ粘り強さが不足しがちで、あきらめがはやいのが欠点。ただしライバルがあらわれると、かえってやる気を燃やしてがんばるタイプ。
・カキ=やや保守的。地味で豊たないが、確実に宗一歩進んでいくような生き方を選ぶ人。目先の利益よりも、将来のことを考えてコツコツ努力していくので、専門の知識や技術を身につけて出世する人が多い。金銭的にも無駄づかいをしない堅実型。人づき合いでも礼儀正しいので、年上の人に評判はいいが、少々頑固で、好き嫌いがハッキリしているところや、明るさや面白味に欠けるところがあるため、友人が偏りやすい。
・バナナ=カロリーの高い果物であるバナナは、テキパキとして行動力のある人が好みやすい。バナナの好きな人は、細かなことをあまりクヨクヨ考えない楽天家。人づき合いでもとても開放的で、だれにでもフランクに話しかけて、友達になれる社交性がある。とてもエネルギッシュな人で、女性なら、やや男勝りかも。仕事や金もうけに対しても積極的で非常に大胆な人。ただ、ときにはわがままな面が出て、まわりを手こずらせることもある。
・モモ=寂しがり屋で、一人ぼっちになることは大の苦手。心やさしく、思いやりのある人なので、いつも他人のことを考えていて、人のためなら、少々自分が犠牲になることなど気にしないタイプ。義理や人情をとても大切にする。いつも感じがよい人だが、本質的にはかなり勝ち気で、批判的で攻撃的な面がある。矛盾が多い人だが、生き生きとしたところが魅力的。
第三段落
1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.漢字の読みを確認する。
克明 橙色 尋常 慌ただしい 躍り上がる 頂 諧調 奇怪 悪漢 奇体 気詰まり 木っ端みじん 彩る
3.語句の意味を確認する。
克明=細かいところまで念を入れて手落ちのないこと。
はぐる=はいでめくる。めくりかえす。
尋常=特別でなく、普通であること。
そぐう=釣り合う。似合う。
諧調=濃淡の変化の度合い。グラデーション。
活動写真=映画の旧称。
奇体=普通とは違った感じを与えること。また、そのさま。風変わり。奇妙。
4.擬音語・擬態語プリントを配布し、空欄を埋めさせる。
・発表させる。
・梶井の感覚と比較する。
第十七〜二十段
5.丸善に入った気持ちは。【提言】
1)私の歩いた道を地図で確認する。昔の丸善の位置を確認する。【説明】
2)私にとっての丸善の意味を確認する。【説明】
・生活が蝕まれていなかった頃好きだった場所で、今では借金取りの亡霊のような所。
・平常避けていた。
3)丸善に入る前と後の気持ちは。【閉じた発問】
1)幸福だった。
2)やすやすと入れるように思えた。
3)ずかずか入って行った。
4)幸福な感情はだんだん逃げていった。
5)憂鬱がたてこめてきた。
4)幸福だった気持ちが、逃げていく。【説明】
5)なぜ、画本の棚へ行ったのか。【閉じた発問】
・以前私を引きつけたから、それを見て幸福感を取り戻したかった。
・生活に蝕まれていなかったころに好きだったものの一つである。【説明】
6)当時味わった変にそぐわない気持とは。【開いた発問】
・絵画の美に触れた高揚感と、周囲の普通の様子とのギャップに、優越感を感じる。
・自分は絵画という高級な趣味が分かる人間である。
7)似たような体験はないか。【開いた発問】
・映画館を出た後の気持など。
8)しかし、今日は、そういう気持が沸いて来ないだけでなく、ますます憂鬱になる。【説明】
第二十一〜二十四段
6.第一のアイディアとは。【提言】
1)何を思いついたか。【閉じた発問】
・本の色彩をゴチャゴチャに積み上げて、この檸檬で試す。
2)「試す」とはどうすることか。【閉じた発問】
・頂上に檸檬を置く。
3)絵を描いて状況を確認する。【説明】
4)積み上げた画本の言い換えは。【閉じた発問】
・奇怪な幻想的な城
・ガチャガチャした色の諧調
5)檸檬の様子は。【閉じた発問】
・カーンとさえ返っていた。
6)「カーン」の語感は。【開いた発問】
・緊張感があった。
7)思いついた時や完成する時の気持ちは。【閉じた発問】
・軽やかな昂奮がかえってきた。
・軽く躍り上がる心。
8)第一のアイディアの意味は。【開いた発問】
・画本は、以前の美しいもの、えたいの知れない不吉な塊の象徴。
・檸檬は、すべての善いもの美しいものの象徴。
・画本の上に檸檬を置くことによって、檸檬がえたいの知れない不吉な塊を吸収した。
・えたいの知れない不吉な塊が解消した。

20年ほど前、若気の至りでこんな写真をとったら50点やると言ったら本当に多くの生徒が行った。 |
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第二十五〜三十段
7.第二のアイディアとは。【提言】
1)第二のアイディアとは何か。【閉じた発問】
・檸檬が爆弾になって丸善を爆発させる、と想像すること。
2)「それをそのままにして」の「それ」の指示内容は。【閉じた発問】
・画本の上に檸檬を置いた状態。
3)なぜ、「ぎょっ」としたのか。【開いた発問】
・不意に思いついたから。
・自分でも意識してなかった、恐ろしい思いつきであったから。
4)変にくすぐすったい気持ちとは。【開いた発問】
・いたずらをした時のような、心がワクワクする感じ。
5)丸善に入る時は「ずかずか」、出る時は「すたすた」の違いは。【開いた発問】
・入る時は、自信に満ちている。
・出る時は、喜びに満ちている。
6)なぜ、せっかく満足したものを破壊するのか,第二のアイディアの意味は。【開いた 発問】
・安定した現状に、安住できない。
・幸せであることに、堪えられない。
・幸せを求めながら、手に入れたと思うと、破壊したくなる。
・これがえたいの知れない不吉な塊の正体である。【説明】
7)えたいの知れない不吉な塊の正体は何か。【開いた発問】
・負の想像力。
・崩れかかった街を見て、京都から遠く離れた土地と錯覚した。
・びいどろをなめて、幼児の頃を思い出した。
・檸檬の重さに、すべての善や美を感じた。
・画本の上に檸檬を置いて、不吉な塊を解消するイメージを作った。
・檸檬を爆弾に見立てて、丸善を爆破することを想像した。
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檸檬 第一段落(はじめ〜二一三04見えるのだった。) 学習プリント
点検日 月 日
組 番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
塊 焦燥 嫌悪 宿酔 肺尖 辛抱 蓄音機 壊れ 趣 向日葵 努める 布団 蚊帳 糊 浴衣 鯛 南京玉 享楽 詩美 漂う 察し 触角 洒落た 切子細工 典雅
琥珀 翡翠 香水瓶 煙管 石鹸 煙草 小一時間 費やす 勘定台
2.語句の意味を調べなさい。
3.次の問題の答えにあたる部分に線を引き、番号をつけなさい。
11)私の心を始終おさえつけていたものは。
2)それはどんな感じに近かったか。
3)その原因ではないものは。
24)そのころの私が強く引きつけられたものは。
5)たとえば、どんな風景か。
36)そこでどんな錯覚を起こそうと努めたか。
457)他に、何が好きだったか。
68)私の心を慰めた贅沢なものの条件は。
79)そのころの私が好きだった場所は。
10)そこで何をしたか。
学習のポイント
1.「えたいの知れない不吉な塊」の正体を理解する。
2.そのころの私が「みすぼらしくて美しいもの」に強くひかれた理由を理解する。
3.京都から遠く離れた土地へ行きたかった理由を理解する。
4.おはじきや南京玉が好きだった理由を理解する。
5.私にとって丸善がどんな場所だったかを理解する。
檸檬 第二段落(二一三05ある朝〜二一七13幸福だったのだ。) 学習プリント
点検日 月 日
組 番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
駄菓子屋 乾物屋 棒鱈 湯葉 果物 勾配 漆塗り 凝り固まる 青物 廂 目深
驟雨 絢爛 興がる 八百屋 丈 紡錘形 格好 緩む 憂鬱 一顆 紛らす 不審
不可思議 身内 弾む 装束 闊歩 載せて 諧謔心
2.語句の意味を調べなさい。
ぽつねん |
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駄菓子 |
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乾物 |
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勾配 |
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青物 |
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驟雨 |
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ほしいまま |
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絢爛 |
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興がる |
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不審 |
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逆説 |
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闊歩 |
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諧謔 |
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3.次の問題の答えにあたる部分に線を引き、番号をつけなさい。
81)そのころの私の心理状態は。
2)果物屋が好きだった理由は何を感じたからか。
93)もう一つの美しさは。
104)その店で何を買ったか。
5)檸檬の色は。
6)檸檬の形は。
157)檸檬の重さの意味は。
8)檸檬を手に入れた気持ちは。
学習のポイント
1.そのころの私の生活と気持ちを理解する。
2.果物屋の美しさの理由を理解する。
3.私が檸檬を気に入った理由を理解する。
4.檸檬を手に入れた私の気持ちの変化を理解する。
檸檬 第三段落(二一七14どこを〜おわり) 学習プリント
点検日 月 日
組 番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
克明 橙色 尋常 慌ただしい 躍り上がる 頂 諧調 奇怪 悪漢 奇体 気詰まり 木っ端みじん 彩る
2.語句の意味を調べなさい。
3.次の問題の答えに
あたる部分に線を引き、番号をつけなさい。
161)最後に私か立った場所は。
182)丸善に入った後の私の気持ちは。
193)以前好んで味わった気持ちは。
204)私が思いついたことは。
215)その時の私の気持ちは。
24256)第二のアイディアとは。
7)思いついた時の気持ちは。
26〜298)丸善を出て行く時の気持ちは。
9)私の想像とは。
学習のポイント
1.丸善に入る前と後の気持ちを理解する。
2.私が画本の棚に行った理由と行った後の気持ちを理解する。
3.第一のアイディアと檸檬の意味を理解する。
4.第二のアイディアと檸檬の意味と私の気持ちを理解する。
5.京極を下って行く私の気持ちを理解する。全体
どこをどう歩いたのだろう。わたしが最後に立ったのは丸善の前だった。平常あんなに避けていた丸善がそのときのわたしには(1) )と入れるように思えた。
「今日は一つ入ってみてやろう。」そしてわたしは(2) )入っていった。
しかしどうしたことだろう、わたしの心を満たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった。香水の瓶にも煙管にもわたしの心はのしかかってはゆかなかった。憂鬱が立て込めてくる、わたしは歩き回った疲労が出てきたのだと思った。わたしは画本の棚の前へ行ってみた。画集の重たいのを取り出すのさえ常に増して力がいるな! と思った。しかしわたしは一冊ずつ抜き出しては見る、そして開けては見るのだが、克明にはぐってゆく気持ちは更にわいてこない。しかものろわれたことにはまた次の一冊を引き出してくる。それも同じことだ。それでいて一度(3) )とやってみなくては気が済まないのだ。それ以上はたまらなくなってそこへ置いてしまう。以前の位置へ戻すことさえできない。わたしは幾度もそれを繰り返した。とうとうおしまいには日ごろから大好きだったアングルの橙色の重い本までなおいっそうに堪え難さのために置いてしまった。――なんというのろわれたことだ。手の筋肉に疲労が残っている。わたしは憂鬱になってしまって、自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めていた。
以前にはあんなにわたしをひきつけた画本がどうしたことだろう。一枚一枚に目をさらし終わって後、さてあまりに尋常な周囲を見回すときのあの変にそぐわない気持ちを、わたしは以前には好んで味わっていたものであった。……
「あ、そうだそうだ。」そのときわたしはたもとの中の檸檬を思い出した。本の色彩を(4) )に積み上げて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ。」
わたしにまた先ほどの軽やかな興奮が帰ってきた。わたしは手当たりしだいに積み上げ、また、慌ただしく崩し、また慌ただしく築き上げた。新しく引き抜いて付け加えたり、取り去ったりした。奇怪な幻想的な城が、その度に赤くなったり青くなったりした。
やっとそれは出来上がった。そして軽く躍り上がる心を制しながら、その城壁の頂に恐る恐る檸檬を据え付けた。そしてそれは上出来だった。
見渡すと、その檸檬の色彩は(5) )た色の諧調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、(6) )とさえかえっていた。わたしにはほこりっぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。わたしはしばらくそれを眺めていた。
不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろわたしをぎょっとさせた。
――それをそのままにしておいてわたしは、何食わぬ顔をして外へ出る。――
わたしは変にくすぐったい気持ちがした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう。」そしてわたしは(7) )出て行った。
変にくすぐったい気持ちが街の上のわたしをほほ笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた奇怪な悪漢がわたしで、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
わたしはこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も木っ端みじんだろう。」
そしてわたしは活動写真の看板画が奇体な趣で街を彩っている京極を下っていった。