個性とは何か
養老孟司
個性とは、自分だけの特徴である。しかし、日本では自分だけの考え、感情、思い、つまり心の属性と考えられている。しかし、筆者は個性とは心の問題ではないと結論する。自分だけの考えに基づいて行動すれば精神科の病室に終わる、つまり他人に理解されず社会から排除される。
心(脳)の機能は社会に「共有」されたものでなければならない。例えば、日本語は脳の機能であり、日本人に共有されている。メンデルの法則は教育という脳の機能であり、中学生にも共有されている。人の心がわかることは脳の機能であり、洋の東西を問わず共有されている。つまり、脳機能(心の問題)は、他人に理解され社会で共有されて初めて意味が生まれるのである。したがって、脳機能(心の問題)は、個性のような自分だけの特徴ではない。
個性は身体である。なぜなら、すべての身体は必ず異なるからである。
免疫は身体の機能である。免疫の機能は、外来の異物だけでなく縁の近いものも含めて、自分以外のすべてを拒否という「自己規定」である。免疫系が自己規定する理由は、多くの細胞を統一して個体の特徴、個性を維持するためである。したがって、個性は身体であると考えることは生物学的にも正しい。
個性は身体であるというのは、個性を身体ではなく心だと考える日本の現状を正すためにあえて強調する逆説、アンチテーゼである。日本型共同体は、身体を無視する。例えば、野球の練習の場合は体調より精神的理由が優先される。日本人はそれが個性は身体ではなく心だという独特の日本思想の問題であることを意識していない。
個性を担うのは自己である、個性は身体である、したがって自己は身体である。「脳死」とは身体の一部である脳の廃絶にすぎない。き
それでは、身体的ではない心的な自己とは何か。一つは、自己を自己と見なしている自己意識、「自分が考える自分」であり、もう一つは、他人が自分をどう見ているかという「他人から見た自分」である。
「自分が考える自分」(自己意識)が存在する理由は、脳が持っているさまざまな異質な機能が、バラバラにならないために、「一つである」ことを維持する機能が必要であるからである。
「他人から見た自分」は、一時的に振り分けられた社会的役割(役職)にすぎない。若者にアイデンティティの問題が生じるのは、は社会的自己がないからである。しかし、個性とは歴史性を帯びた肉体を所有していることで十分である。
日本の古典芸能(芸事)は、師匠のまねをするという身体性への感覚評価が如実に示されている。まね自体が不可能な点の先が個性である。修練された芸は「身に付く」、身体に付属するのである。その意味で、教育とは「体育」である。
遺伝子の組み合わせで言えば、どの個人も宇宙で全く一人しかいない。個性とはそれで十分である。
1.【指】学習プリントを配布し、漢字の読みと語句の意味を調べることを宿題にする。2.【指】宿題の点検をする。
3.【L1】漢字の読みを確認する。
属性 捉える 問答 憂い 免疫 臓器 明瞭 胎生 寛容 孵化
逆説 際限 貴し 担う 絡んで 廃絶 名刺 叱咤激励 芸事
鼓 如実
4.【説】語句の意味を確認する。
個性=個人の特有の性質。
教養=学問を身につけることによって得られる心の豊かさや社会人として必要な文化に 関する知識。
属性=ある事物に属する性質・特徴。
寛容=心が広くて、よく人の言動を受け入れること。
免疫=生体が自己と異質な物質を識別し排除する現象。
もっぱら=それだけ。
叱咤激励=大きな声で強く励ますこと。
如実=ありのまま。
5.【W】『20の私』をする。
・3分間で、「私は〜です。」の「〜」の部分に言葉を入れて文を完成させる。
・書き出したものが私を表すもの、個性である。
・それぞれの文が、心にかかわるものか、身体にかかわるものかを分類する。
6.【L4】個性は、心の問題か、身体の問題かを聞く。
7.【L4】個性とは何かを聞く。
・その人個有のもの。
【注】この定義は大切なのでしっかり抑える。
8.【指】段落番号を1)〜31)まで付けさせる。
9.【指】大段落をI〜IVまで確認する。
第一段落(1)〜9))
★個性は心の問題でないことを理解する。
1.【指】音読させる。
○読解プリントを配布する。
2.(1)【L1】「個性」の辞書的な意味は。
・そのもの固有の特性。
【説】性格だけに限らない。物体の特徴でもかまわない。
【説】たとえば、サスペンダー、丸眼鏡、5本指靴下、草履。そういう意識的なものもあるが、顔だちとか体型とか自然なものもある。
3.(2)1)【L1】日本では、個性といえば何だととらえられているか。2)【L1】言い換えると。
1)心の属性。
2)自分だけの考え、感情、思い。
4.(3)1)【L2】自分だけの考えに基づいて行動すればどうなるか。2)【L2】それはどういう意味か。
1)精神科の病室に終わる。
2)他人に理解されず、異常なものと見なされる。
【L4】例えばどんなことが考えられるか。
・教室で突然歌いだす。
・電車の中で突然服を脱ぎだす。
5.(4)1)【L1】以上のことから何が言えるか。2)【L1】どんな例が挙がっているか。
3)【L2】それらの例の共通点は。
*「論」を証明するために「例」を挙げられている。
1)心(脳の機能)は、社会に共有のものでなければならない。
2)日本語。メンデルの法則。オーストラリア留学体験。
3)心の共有。
【説】日本語は、脳の機能であり、日本語を語るすべての日本人に共有されている。
【説】メンデルがエンドウの交配実験から明らかにした遺伝の法則。
雑種第一代では優性形質が顕在して劣性形質が潜在するという優劣の法則。
雑種第二代では優性・劣性の形質をもつものの割合が3対1に分離して現れるという 分離の法則
異なる形質が二つ以上あってもそれぞれ独立に遺伝するという独立の法則
【説】メンデルの法則は、教育という心の問題で、中学生に共有されている。
【説】日本でもオーストラリアでも偉い人は、人の心がよくわかる人で、心の共有であ る。
6.(5)「個性とは心の問題ではない」(9)という結論に至る理由を考える。
1)【L2】個性の辞書的な意味は何か。2)【L1】心(脳)の役割は何か。3)【L1】社会で必要なものは何か。4)【L3】1)〜3)を対立点を明らかにして結論に至る理由を65字以内でまとめる。
1)そのもの固有の特性である。
2)社会を作ること。
3)共有されること。
4)個性とは固有の特性であるが、心が作る社会では共有することが必要であり、固有と共有は反対の意味なので、個性は心の問題ではない。62字
7.まとめる
・個性=固有 ‖ 心の属性=自分だけの考え、感情、思い ↓ 精神科の病室=理解されず排除される ↓ ・心=共有 1)日本語 2)メンデルの法則 3)オーストリア留学体験 ↓ ・個性は心の問題ではない。 |
・個性=身体 ↑ すべての人の身体は必ず異なる ・免疫系=身体機能 ・すべての異物を拒否する ↑ ・自己規定⇔免疫学的寛容 ↑ ・多細胞生物としての個体の形成 ・日本型の共同体 ・身体を無視する ‖ ・日本思想=個性は身体ではなく心である |
第三段落(20)〜27))
★日本人が評価する2つの心的自己、自分が考える自分と他人が見る自分を理解する。
★自分が見る自分の自己意識が脳の分化のまとめ役であることを理解する。
1.【指】20)〜25)を音読する。
○読解プリントを配布する。
2.(1)【L2】三段論法を理解する。
・「個性」を担うのは「自己」である。個性(A)=自己(B)
「個性」は「身体」である。 個性(A)=身体(C)
「自己」は「身体」である。 自己(B)=身体(C)
3.(2)【L1】日本人が評価する2つの心的な自己とは何か。
a)自己を自己と見なしている自己意識。
「自分が考える自分」
b)他人が自分をどう見ているか。
「他人が見る自分」
4.(3)「自分が考える自分」(24)が存在する理由を85字以内で説明せよ。
*免疫系の機能との共通点を考える。
・脳はさまざまな異質な機能を持っているが、それらは一つの脳で処理されるので、それらの機能がバラバラにならず「一つである」ことを維持するために自己意識が必要になるから。
1)脳はどんな機能を持っているか。
・さまざまな異質な機能を持っている。
【説】脳のさまざまな機能を説明する。
・「大脳皮質の機能区分」図で説明する。
・例えば、視覚は,形・色・運動・空間配置は大脳皮質の視覚領。
2)それらはどのように処理されるか。
・たった一つの脳で処理される。「単一脳の機能」
3)そのために何が必要になるか。
・諸機能が「一つである」ことを維持する機能が必要である。「自己意識」
4)簡単に言い換えると。
・脳の諸機能がバラバラにならないために、自分という意識を持つ。
5.【指】26)〜27)を音読する。
6.(4)【L2】「他人が見る自分」の言い換えは。
・名刺の肩書、社会的実体、社会的役割、役職、社会的自己
【説】名刺を見せて説明する。
★【L4】生徒が名刺を作るとして、肩書に書くか。
7.(5)若者の「他人の見る自己」について
1)【L1】「若者のアイデンティティの問題が生じる」理由は何か。
・社会的自己がないから。
2)【L1】若者の「社会的自己」とは何か。
・学生という身分。
★それは実質的内容ではない。
【説】実質的内容とは、自分が考える自分である。
3)【L1】若者も持っている個性・自己は何か。
・それなりの歴史性を帯びた肉体。
【説】どんな平凡なものであっても、その人だけが体験してきたもの。
8.まとめる。
・心的な自己 1)自分が考える自己=免疫 ・脳のさまざまな異質な機能 ↓ ・単一脳の機能 ↓ ・自己意識 2)他人が見る自己=社会的実体=社会的役割=役職=社会的自己 ↓ ・若者にはない ⇔ ・それなりの歴史性を帯びた肉体=個性 |
第四段落(28)〜31))
★日本の古典的教育の身体性への感覚評価を理解する。
1.【指】28)〜31)を音読する。
○読解プリントを配布する。
2.(1)日本の古典的教育について
1)【L1】言い換えると。
・芸事
2)【L4】どんなものがあるか。
・琴・三味線・踊りなど
3)【L1】日本の古典的教育には身体性への感覚的評価が示されている理由は。
・師匠のするようにするしかないから。
4)【L1】日本の古典的教育では個性はどこにあるか。
・徹底的に師匠のまねをして、まね自体が不可能な点の先。
【説】「まね」と「個性」は正反対のようであるが、その関係を考える。
5)【L3】なぜそこに個性があるといえるのか。
・まねをしてもまねできないものが、その人独自のものであるから。
6)【L1】日本の古典的教育はどうなれば完成するのか。
・身に付く。身体に付属する。体育。
7)【L3】「まね」と同じ意味で使われていた語を第一段落から抜き出せ。
・共有
3.(2)【L1】究極の個性とは何か。
・宇宙に一つしかない遺伝子の組み合わせ。
4.まとめる
・日本の古典的教育=芸事 |
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学習の準備
1.読み方を書きなさい。
属性 捉える 問答 憂い 免疫 臓器 明瞭 胎生 寛容 孵化
逆説 際限 貴し 担う 絡んで 廃絶 名刺 叱咤激励 芸事
鼓 如実
2.語句の意味を調べなさい。
個性 |
|
教養 |
|
属性 | |
寛容 | |
もっぱら | |
叱咤激励 | |
如実 |