愛か友情か
さて、あなたが私ならどうしますか。必ずどちらかを選び、その理由を書いて下さい。
ア.Kとの友情を捨てて、お嬢さんとの恋愛を選ぶ
イ.お嬢さんとの恋愛を諦めて、Kとの友情を選ぶ。
ロール・プレイ こころ
K (ただ漠然と)「どう思う」
私 「どう思うって」
K 「恋の淵に陥っている僕を君はどう眺めているのか」
私 「この際、なんで私の批評が必要なのか」
K (しょんぼりした口調で)「自分の弱い人間であるのが実際恥ずかしい。迷っている から自分で自分が分からなくなってしまったので、公平な批評を求めるよりほかしかたがない」
私 (すかさず)「迷うとはどういう意味か」
K 「進んでいいのか、退いていいのか、それに迷うのだ」
私 (すぐに)「退(ひ)こうと思えば退けるのか」
K (不意に行き詰まり)「苦しい」
私 (厳粛な改まった態度で)「精神的に向上心のない者はばかだ」(少し間をおいても う一度)「精神的に向上心のない者はばかだ」
K (力の乏しい声で)「ばかだ。ぼくはばかだ」
私 (Kの口を出る次の言葉を腹の中で暗に待ち受ける)
K (悲痛な感じで)「もうその話はやめよう」(頼むように)「やめてくれ」
私 (狼がすきをみて羊ののど笛に食らいつくように)「やめてくれって、ぼくが言い出したことじゃない、もともと君のほうから持ち出した話じゃないか。しかし君がやめたければ、やめてもいいが、ただ口の先でやめたってしかたがあるまい。君の心でそれをやめるだけの覚悟がなければ。いったい君は君の平生の主張をどうするつもりなのか」
K (突然、独り言のように、夢の中の言葉のように)「覚悟?覚悟、──覚悟ならない こともない」
K 「もう寝たのか」
私 「何か用か」
K (普段よりかえって落ち着いた声で)「たいした用でもない。ただもう寝たのか、ま だ起きているのかと思って、便所に行ったついでに聞いてみただけだ」
私 「昨日の夜、襖を開けて、私の名を呼んだか」
K 「確かに、襖を開けて、名前を呼んだ」
私 「なぜ、そんなことをしたのか」
K (それには答えず、調子の抜けた頃に)「近ごろは、熟睡できるのか」
私 (念を押すように)「あの事件について何か話すつもりではなかったのか」
K (強い調子で)「そうではない。昨日上野公園で、その話はもうやめようと言ったで はないか」