こころ 2018
教材観
〇.あらすじ
私とKの生い立ちは似ている部分が多い。私は叔父に裏切られ人間不信に陥るが、奥さんとお嬢さんに接するうちに回復する。Kは信念を貫いて家から絶縁され神経衰弱になっているところを、私の下宿でお嬢さんと接するうちに回復していく。しかし、私の心の中には一方的にお嬢さんをめぐってKとライバル関係が発生し、嫉妬をするようになる。
ある日、Kはお嬢さんに対する切ない恋が打ち明ける。私はKは強いのだという恐怖の念から何も言えなかった。私の頭は悔恨に揺られてぐらぐらした。どうして突然私に打ち明けたのか、どうして恋が募ったのか、強いまじめな平生のKはどこに吹き飛ばされたのか。Kが一種の魔物のように思えて、永久に祟られているのではないかとという気にさえなった。
一 Kの相談
ある日、図書館でKの方から散歩に誘ってきた。私はKの胸に一物があって談判に来られたような気がした。
まず、Kの方から例の事件、お嬢さんへの恋について口を切った。まだ、実際的な方面、お嬢さんや奥さんへの告白までは進んでいないようである。
次に、Kは「どう思う」と、恋愛の淵に陥った自分を私がどんな目で眺めているのか、現在の自分について私の批判を求めてきた。そこに、Kは平生と異なる点を確かに認めることができた。Kの平生は、他の思惑をはばかるほど弱くなく、こうと信じたら一人でどんどん進んでいく度胸も勇気もあった。
次に、私が私の批評が必要な理由を尋ねると、Kは「自分が迷っていて自分で自分が分からない弱い人間であるので、私の公平や批評が必要なのだ」と言った。「迷う」とはお嬢さんに進んでいいかである。しかし、私が退こうと思えば退けるのかと聞くと、Kは退くことは苦しいと答える。もし、お嬢さんのことでなければ、私はKにとって都合がよい、お嬢さんに告白しろいう慈雨のような言葉を与えたはずだった。それぐらいの美しい同情は持っていたつもりである。
二 私の逆襲
私は他流試合をしているように敵であるKを注視した。Kの保管している要塞の地図、心の中は手にとるように見えた。Kは自分の道を貫くという理想と、お嬢さんに恋をしているという現実の間を彷徨していた。私は、一打ちで倒す方法だけを考え、Kの虚につけ込んだ。
まず、策略から急に厳粛な改まった態度で、「精神的に向上心のないものはばかだ」と言い放った。この言葉は、房州旅行の際に、お嬢さんへの恋に悩む私にKが言った言葉で、その言葉には同情より侮蔑が込められていた。私は、その言葉に復讐以上の残酷な意味を持っていた。その一言で、Kの恋の行く手をふさごうとしたのである。Kは精進という言葉が好きであった。道のためには全てを犠牲にすべきであるというのが彼の第一信条で、欲を離れた恋そのものも道の妨げになると考えていた。だから、この言葉はKにとって痛いに違いない。それはKのせっかく積み上げた過去を今までどおり積み重ねさせてゆかせるというより、私の利害と衝突することを恐れた単なる利己心の発現であった。Kは「僕はばかだ」と答えた。それは居直ったにしては力に乏しいものであった。
0.ここまでのあらすじ
1.【W】「恋愛か出世か〜マイクロディベート〜」をする。
1)「恋愛か友情か」をロイロで配信して、読みながら説明する。
2)マイクロディベートについて説明する。
2)恋愛を選ぶ理由と問題点、友情を選ぶ理由と問題点を、ノートに5つ以上書き出す。
4)3〜4人組になって、マイクロディベートをする。
2.【説】これが、「こころ」のあらすじであることを説明する。
・私は恋愛を選び、Kは自殺する。
・なぜ、私は恋愛を選んだのか。
・なぜ、Kは自殺したのかを考える。
3.【説】ここまでのあらすじをまとめる。
私の過去
1)相次いで両親が病死する。
2)上京して高等学校に入る。
3)叔父に財産を横領され、人間不信に陥る。
4)故郷を捨てて上京して大学に入る。
5)下宿の奥さんとお嬢さんにいやされ、人間不信がなくなる。
6)お嬢さんを愛し始める。
Kの過去
1)寺の次男に生まれる。
2)私とは同郷の幼なじみ
3)医者の家の養子になり、医学科に進む。
4)無断で哲学科に進む。
4)養家と実家から勘当される。
5)過労から、神経衰弱になる。
私とKの関係
1)(私)Kを下宿に引き取る
2)(私)お嬢さんにKの世話を頼む
3)(K)お嬢さんと部屋で話すようになる
4)(私)嫉妬するようになる
5)(私)お嬢さんへの恋をKに告白しようとするが言い出せない
6)(私)Kと二人で旅をし、恋愛について語る
7)(K)「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と恋愛を軽蔑する
8)(私)Kがお嬢さんと散歩しているのを目撃する
9)(K)ある日、突然「お嬢さんが好きだ」と私に告白する
10)(私)Kの強い意志に圧倒されて何も言えなかった
11)(私)激しく後悔するが、Kが魔物に見えて自分の気持ちを伝えられない
私 |
K
|
1)相次いで両親が病死する
2)上京して高等学校に入る
3)叔父に財産を横領され、人間不信に陥る
4)故郷を捨てて上京して大学に入る
5)下宿の奥さんとお嬢さんにいやされ、人間不信がなくなる
6)お嬢さんを愛し始める
|
1)寺の次男に生まれる
2)私とは同郷の幼なじみ
3)医者の家の養子になり、医学科に進む
4)無断で哲学科に進む
5)強い信念と実行力がある
6)養家と実家から勘当される
7)過労から、神経衰弱になる
|
1)Kを下宿に引き取る
2)お嬢さんにKの世話を頼む
3)お嬢さんと部屋で話すようになる
4)嫉妬するようになる
5)お嬢さんへの恋をKに告白しようとするが言い出せない
6)Kと二人で旅をし、恋愛について語る
7)「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と恋愛を軽蔑する
8)Kがお嬢さんと散歩しているのを目撃する
9)ある日、突然「お嬢さんが好きだ」と私に告白する
10)Kの強い意志に圧倒されて何も言えなかった
11)激しく後悔するが、Kが魔物に見えて自分の気持ちを伝えられない
|
|
4.【指】大段落と小段落に番号を打つ。
一 Kの相談(1)〜4))
二 私の逆襲(5)〜12))
三 Kの反応(13)〜19))
四 覚悟の意味1(20)〜㉕)
五 覚悟の意味2(㉖2〜㉚)
六 私の決断(㉛〜㉟)
七 私の良心(㊱〜㊵)
八 私の策略(㊶〜㊼)
九 Kの自殺(㊽〜53)
十 私の結婚
十一 私の自殺
九 Kの自殺(㊽〜)
1【指】52「Kの遺書」を音読する。
2【L2】自殺の原因を解明するのに重要なことを抜き出せ。
・薄志弱行でとうてい行く先の望みがないから自殺する。
・お嬢さんの名前だけはどこにも見えません。
・もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろう。
3【指】49「自殺した夜の状況」を音読する。
4【L2】自殺の原因を解明するのに重要なことを抜き出せ。
・Kと私の部屋とのは仕切りの襖が、この間の晩と同じくらい開いています。
・【説】私の下宿の構造を見せる。
5【L3】問題点を整理する。
A なぜ襖が開けてあったのか。この間の晩とはいつか。
B 何に対する意志が弱かったのか。
C なぜお嬢さんの名前を書かなかったのか。
D 死ぬべき時期とは何時だったか。なぜ死ねなかったのか。
6.【指】これらの問題点を頭において、さかのぼって読解していく。
7.板書する。
第九段落 Kの自殺
A なぜ襖が開けて自殺したのか。この間の晩とはいつか。
B 何に対する意志が弱かったのか。
C なぜお嬢さんの名前を書かなかったのか。
D 死ぬべき時期とは何時だったか。なぜ今まで死ねなかったのか。
一 Kの相談(1)〜4))
1【指】音読する。
2【指】漢字の読みを確認する。
所作(しょさ) 一物(いちもつ) 談判(だんぱん) 平生(へいぜい) 悄然(しょうぜん) 退(ひ)く 慈雨(じう)
3【指】語句の意味を確認する。
胸に一物(口には出さないが心の中にたくらみを抱くこと)
談判(物事に決着をつけるために意見を戦わせること)
口を切る(話し始める)
悄然(元気がなく、うちしおれているさま。しょんぼり)
慈雨(恵みの雨)
4.Kの相談について
1)【L2】私はなぜ図書館で話しかけてきたKに「一種変な気持ち」がしたのか。
・図書館で小声で話しかけるのは普通だが、Kの方から近づいてくるのは珍しいから。
2)【L2】私が感じた談判でもしに来たようなKの「胸の一物」とは何か。
・お嬢さんへの恋について決着をつけること。
3)【L2】Kの方から口を切った「例の事件」とは何か。
・Kが私にお嬢さんへの恋を告白したこと
4)【L2】Kのまだ進んでいない「実際的な方面」とは何か。
・お嬢さんに告白すること
5)【L1】Kが私に言った「どう思う」とはどういう意味の質問か。
・恋愛の淵に陥ったKを、どんな目で私が眺めか
・現在の自分について、私の批判を求めたい
6)【L1】「Kの平生」はどんな性格か。
・こうと信じたら一人でどんどん進んでいく度胸と勇気がある。
7)【L3】「養家事件」とは何か。
・医者の家の養子になったKが、医学の勉強をせずに哲学の道に進み、養家から勘当され た事件。
8)【L1】私の「なんで私の批評が必要なのか」に対するKの答えは。
・自分の弱い人間であるのが恥ずかしい。
9)【L2】Kの言った「弱い」とはどういう状態か。
・自分で自分がわからない状態。
10)【L1】Kの言った「迷う」とは何に迷っているのか。
・進んでいいのか退いていいのか
11)【L3】Kが迷う「進む」「退く」とはどうすることか。
・進む=お嬢さんへの恋に進む
・退く=お嬢さんへの恋をあきらめる
12)【L1】私の「退こうと思えば退けるのか」に対するKの答えは。
・ただ苦しいと言うだけ。
・諦められない。
【説】「進む」でなく「退く」に焦点を当てる私の策略。
13)【L3】私のKに対する「都合のよい返事」とはどんな返事か。
・迷わずお嬢さんへの恋に進め。
5.板書する。
第一段落 Kの相談
K │私
────────────────────┼────────────────────
1)図書館で声をかける │2)一種変な気持ちになる
3)散歩に誘う │4)腹に一物があるのではないか
│ お嬢さんへの恋に決着をつける
5)例の事件について口火を切る │
Kが私にお嬢さんへの恋を告白したこと │
6)実際的な方面に進んでいない │
お嬢さんに告白すること │
7)どう思う │
・現在の自分に私の批判を求めたい │
恋愛の淵に陥った │
8)平生のKと異なる │9)なぜ私の批評が必要なのか
・人の思惑をはばからない
・信じた道を一人で進む
10)弱い人間であるのが恥ずかしい │11)退こうと思えば退けるのか
・迷っていて自分がわからない
・進む=告白する
・退く=あきらめる
12)苦しい │13)Kに都合のよい返事をしない
・諦められない │ ・恋に進め
│
二 私の逆襲(128上11)
1【指】音読する。
2【指】漢字の読みを確認する。
要塞(ようさい) 彷徨(ほうこう) 厳粛(げんしゅく) 滑稽(こっけい) 羞恥(しゅうち) 復讐(復習) 宗旨(しゅうし) 男女(なんにょ) 精進(しょうじん) 妨(さまた)げ 刹那(せつな) 居直(いなお)り
3【指】語句の意味を確認する。
彷徨(目的もなくあちこち歩き回る)
虚をつく(すきを襲う)
精進(一つのことに精神を集中して励むこと。一生懸命に努力すること)
刹那(きわめて短い時間。瞬間。)
4.私の逆襲について
1)【L2】「他流試合でもする人」とは私はKをどんな相手だと思っていたか。
・友だちではなく、倒すべき敵
2)【L3】Kが彷徨してふらふらしている「理想と現実」とは何と何か。
・理想=恋をあきらめ、道を追求する。
・現実=道を捨て、恋をしている。
・道とは、後で出てくる精神的な向上心、精進、第一信条。
3)【L1】私が言った、Kを一打ちで倒す必殺の言葉は何か。
・精神的に向上心のない者はばかだ
【説】この言葉は、以前、二人で房州を旅行しているとき、Kがお嬢さんを思っていた私 に言った言葉である。
4)【L3】「精神的に向上心のない者」とはどんな者か。
・道を追求せず、恋愛をしている者
5)【L1】その言葉に含まれていた「復讐以上に残酷な意味」とは何か。
・Kの前に横たわる恋の行く手をふさごうとした。
・Kは私を侮蔑しただけ。侮蔑仕返す以上に、Kにお嬢さんを諦めさせる。
【説】生家の真宗の宗旨は、念仏を唱えれば救われる他力本願。
Kの宗旨は、禅宗に近く、自力本願で修行して達成するもの。
6)【L2】Kの好きな「精進」の意味は何か。
・道のためには全てを犠牲にすべき。
・欲を離れた恋も道の妨げになる。
7)【L1】私がこの言葉を言った本当の理由は。
・私の利害と衝突するのを恐れたから。
・Kに恋を諦め、自分の道を進んでもらいたい。
8)【L1】その時の私の「心」は。
・利己心。
9)【L1】この言葉に対するKの答えは。
・「僕はばかだ」
10)【L2】私はKの答えに対してどう思ったか。
・居直り強盗のように感じた。
・開き直って、道を捨てて、お嬢さんに告白する
・力に乏しい
5.板書する。
第二段落 私の逆襲
私の逆襲
K │私
─────────────────────┼────────────────────
│1)他流試合でもするようにKを見る。
│ ×友○敵
2)理想と現実の間を彷徨している │3)一打でKを倒す
・理想=道を追究する │ 虚につけ込む
・現実=恋をしている │ 厳粛な改まった態度
4)「精神的に向上心のない者はばかだ」 │4)「精神的に向上心のない者はばかだ」
恋をしている者 │ ・復讐以上に残酷な意味
・同情より侮蔑 │ ・Kの恋の行く手をふさぐ
精進=第一信条 │ ・利害の衝突を恐れる=利己心
・道のためにはすべてを犠牲にすべきだ │
欲を離れた恋 │
5)「僕はばかだ」 │6)居直り強盗のように感じる
・力に乏しい │ 開き直って恋に進む