借虎威
入門の後の演習として扱う。書き下し文、構文、句法、訳をきっちりと授業していく。 登場するのは、虎、狐、百獣。主語と述語を押さえながら訳をつけていく。句法では、禁止、使役、反語が出てくる。使役はパターンが明確であり、反語は漢文特有の言い回しである。内容は、論理的である。天帝が自分を王に命じている。だから、自分を殺せば天帝の命令に逆らうことになる。と口で言っても信じられだろうから、証明して見せる。虎に後ろから歩いて来させ、百獣が虎を見て逃げるのを、自分を見て逃げるのだと錯覚させようとするのである。作戦はまんまと成功する。
これだけ見れば、狐の機知、虎の愚かさがテーマであるようだが、出典は「戦国策」である。荊の宣王が、北方の諸国が我が国の宰相の昭奚恤(しょうけいじゅつ)を恐れていると言われているが、その真偽を問うた。そこで江乙が、この話をし、宣王=虎、昭奚恤=狐、諸国=百獣にたとえ、諸国は昭奚恤ではなく宣王を恐れていると説く。宣王は満足したが、よく考えると、虎の愚かさからすれば、宣王を愚弄しているとも言える。
1.学習プリントを配布し、本文写しと書き下し文を宿題にする。
2.教師が音読する。
3.生徒が追読する(2〜3回)。
4.ロイロノートに音読を録音し、提出する。
5.書き下し文を確認する。
5.虎求百獣而食之、得狐。
1)語句の意味。
・百獣=獣たち。
・而=置き字。そして。単純接続。
2)構文。
・虎(主)求(述)百獣(目)而(接)食(述)之(目)、得(述)狐(目)。
3)訳す。
・虎は獣を探し求めて、これを食べた。(ある時)狐を捕まえた。
4)「食之」の指示内容。
・百獣。
6.狐曰、「子無敢食我也。
1)語句の意味。
・曰=言った。
・子=あなた。二人称の敬称。
★無敢A=禁止の句法。決してAするな。
・也=置き字。断定。
2)訳す。
・狐は言った。「あなたは決して私を食べてはいけない。
3)「子」「我」の指示内容。
・子=虎
・我=狐
7.天帝使我長百獣
1)語句の意味
・天帝=天の神。天を支配する神。
★使ムAヲシテBセ=使役の句法。AにBさせる。A=我、B=長百獣。
・長百獣=獣たちの王。
2)訳す。
・天の神は私を獣たちの王にさせた。
3)補足。
・私を食べてはいけない理由。
8.今、子食我、是逆天帝命也。
1)語句の意味。
★今Aバ=仮定の句法。もしAならば
2)訳す。
・もし、あなたが私を食べれば、これは天の神の命令に逆らうことになる。
3)「是」「天帝命」の指示内容。
・是=子食我
・天帝命=使我長百獣
9.子以我為不信、吾為子先行。
1)語句の意味
★以A為B=AをBと思う。
・先行=前を行く。
2)訳す。
・あなたが私を信じないと思うなら、私はあなたの前を行きましょう。
3)補足。
・天帝の命を証明する。
10.子随我後観。百獣之見我而敢不走乎。」
1)語句の意味。
・観=よく見る。
見=目で見る。目に見える。
・而=置き字。単純接続。
★敢不ンA乎=反語の句法。どうしてAしないだろうか、いやAするだろう。
・走=逃げる。
2)訳す。
・あなたは私の後に従ってよく見なさい。獣たちが私を見てどうして逃げないだろうか、いや逃げるだろう。
3)補足。
・狐の提案した状況を理解する。
11.虎以為然。故遂与之行。獣見之皆走。
1)語句の意味。
・以為A=Aと思う。
・然=その通り。
★故=だから。
★遂=そのまま
2)訳す。
・虎はとの通りだと思った。だから、そのままこれと行った。獣たちはこれを見てみな逃げた。
3)「然」「与之」「見之」の指示内容。
・然=百獣之見我而敢不走乎。獣たちが狐を見て逃げること。
・与之=狐。
・見之=虎。
4)補足。
・狐の言ったことと、現実の違いを理解する。
12.虎不知獣畏己而走也。以為畏狐也。
1)構文。
主 述 目
・虎 不知 獣 畏 己 而 走
主 述 目 述
・複文。
2)訳す。
・虎は獣が自分を見て逃げることを知らない。狐を恐れていると思った。
3)補足。
・虎の認識を理解する。
13.現在の使われ方。
・弱い者が、強い者の力を借りて、威張っている。
・英語では、イソップ物語から、ライオンの皮をかぶった驢馬。
14.「狐借虎威」の背景。
・出典は「戦国策」。
・戦国時代、魏・韓・趙・斉・秦・燕・楚の七雄が割拠していた。
・楚は南方の長江領域で安定した勢力を保持していた。
・楚の将軍として権力を握っていたのが昭奚恤(しょうけいじゅつ)であった。
・そこで、魏は、楚に江乙を送り込んだ。
・楚と北方の国々(秦・魏・斉)の対立。
・宣王=楚の王。昭奚恤(しょうけいじゅつ)=楚の宰相。
・北方は、宣王ではなく、昭奚恤を恐れて攻めてこないという噂がある。
・そこで、江乙が、この話をした。
14.例えられているもの。
・虎=宣王
・狐=昭奚恤
・獣=北方の国々。
15.江乙の真意は。
a)北方の国々は、昭奚恤ではなく、宣王を恐れて攻めてこないのである。
宣王の力を称賛している。
b)宣王は昭奚恤に言葉巧みにだまされている。
宣王の昭奚恤に対する疑念を深め、二人を引き離し、楚の力を弱める。