危険な共生 08


 宇宙基地の研究は、閉鎖された空間に、どのような生物を持ち込めば、人間の生命を維持できるかを調べる。
 1)人間は酸素を吸って二酸化炭素を出すから、二酸化炭素を吸って酸素を出し、しかも人間が食べられる「植物」が必要である。2)人間は動物性蛋白を要求するから、可食で、しかも酸素を吸って二酸化炭素を出し、植物を食べる「動物」が必要である。
 3)「水」は汗や尿から再生し、4)「糞の処理」は細菌で分解処理し植物の栄養とする。
 これらを生物に代行させるためには、生物種を選抜し、量を管理しなければならない。しかも、ボックスに入れ、循環させなければならない。
 これは、地球上の生物界における、物質循環、エネルギーの流れ、生物間の相互作用、人口論を理解する単純なモデルである。ここでは有限性の持つ意味が重要である。

 宇宙システムの研究から、人間生活の難点がわかる。
 1)ストックの欠落。動物は植物、植物は土壌、土壌は鉱物、鉱物は岩石というストックによって支えられている。
 2)余裕がない。閉鎖空間で円滑に活動するには、生物の活力と量を定常状態に保つ必要がある。相互依存が強すぎるとバランスが崩れる。地球上では複雑なネットワークで代替えしている。
 3)要素がボックスに入っているので、自然淘汰などの外部からの負のフィードバック、自律的な調整機能が欠如している。
 宇宙基地システムの難点は、共生を至上命令にし、共生するために生物が存在することである。自然界では生物同士の様々な関係の発生が、結果的に共生的になる。共生を目的としたシステムは、選択と管理を伴うので、自律性が制約され、行動が画一化し、安定性に欠ける、危険な関係が潜んでいる。

 資源小国日本は、食品、エネルギー、原材料などを手に入れるために工業製品を輸出し、外貨を手に入れなければならない。宇宙基地システムと類似しており、生態系が人口化され、生活が規格化され、ストックが消耗し、地球の有限化が進むと、同じ難点に対峙しなければならない。
 個人も国家も自立性を確保した上で、弾力性のある共生関係を構築しなければ、運命共同体になって、自他ともに崩壊の危機に見舞われる。


【指】指示。【説】説明。【注】注釈。【交】交流。【確】確認。【W】グループワークや心理テストなど。
【L1】抜き出す。【L2】縮めたり組み合わせたり言い換えたりする。【L3】解釈や想像。【L4】体験や知識。


全体把握
1.【指】学習プリントを配布し、漢字の読みと意味を予習させる。
2.【指】学習プリントの宿題を点検する。
3.【L4】家具家電付きのワンルームのレオパレスで、一ヶ月外部との接触を一切断ち切って生活する時に、4種類持ち込むとしたら。
 ・4人組で交流する。
4【L4】「危険な共生」というタイトルの矛盾点は。
 ・「共生」はプラスなのに、「危険」とある。

5.【指】読み方を確認する。
 94 蛋白 95 循環 膨大 土壌 96 代替え 至上 概して 98 潜んで 購入
 外貨 消耗 対峙
6.【指】語句の意味を確認する。
 想定=ある条件や状況を仮に設定すること。
 ストック=在庫品。手持品。
 定常=時間と共に変わりなく、一定を保っていること。
 間引く=十分に生育させるために、途中で抜いて数を減らす。
 至上=この上もないこと。
 概して=大体において。一般に。
 自律=他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動するこ    と。
 規画=企て、はかること。また、企て。画策。
 対峙=対立する者どうしが、にらみ合ったままじっと動かずにいること。
 自立=他への従属から離れて独り立ちすること。

7.【指】小段落ごとに1〜12まで番号をつける。
8.【指】5分間で黙読して、大きく3段落に分ける。
 ・第一=1〜5
 ・第二=6〜10
 ・第三=11〜12

第一段落

1.【指】1〜5をペアリーディングさせる。
2.【L1】「こんな研究」の指示内容は。
 ・閉鎖された空間に、どのような生物を持ち込めば、人間の生命を維持できるかを調べる研究。
3.【L1】ここで言う閉鎖された空間とは。
 ・宇宙基地。
4.【L4】人間が生存するのに必要なものは。
 ・空気、水、食べ物。
5.【L1】宇宙基地に持ち込むものは。
 ・植物、動物、水再生&糞処理。
6.【L1】植物の役割や条件は。
 ・炭酸ガスを吸って酸素を出す。
 ・人間が食べられる。
7.【L1】動物の役割や条件は。
 ・人間が食べられる。動物性蛋白。
 ・酸素を吸って炭酸ガスを出す。
 ・動物を餌にしない。草食動物。
8.【L4】どんな動物が考えられるか。
 ・豚、羊、鶏。
 ・牛は大きすぎる。
9.【L4】酸素供給、食物供給、水再生、廃物処理を、通常人間はどうしているか。
 ・酸素供給は自然に任せる。緑化運動。
 ・食物供給は自然供給と、養殖や栽培。
 ・水再生は、自然の循環と、浄化装置。
 ・廃物処理は、浄化装置。
10.【L1】これらを生物に代行させる時に、必要なことは。
 ・生物種の選抜。
 ・生物の量を定める。
 ・競争やけんかしないように、ボックスに入れる。
 ・物質とエネルギーを循環させてバランスをとる。
11.【W】4人組になって、各自のノートに人間を加えて4つの循環図を書かせる。
 ・文章を読んで図示できるか。
 ・最初、教師が少し書いてみる。
 ・一九六ページに図があるが、見ないで書く。
12.【L1】宇宙基地の研究は、何に役立つか。
 ・地球上の生物界の物質循環。
 ・エネルギーの流れ。
 ・生物間の相互作用。
 ・人口論。
13.【L1】筆者がこのシステムから考えたことは。
 ・有限性。
 ・物には限りがあること。
 ・宇宙基地の中ではすべての物質が有限であり、そのことがどのような影響を与えるか。

第二段落

1.【指】6〜10をペアリーディングさせる。
2.【L1】宇宙基地の3つの難点は。
 1)ストックが欠如している
 2)余裕がない
 3)外部から負のフィードバックを受けにくい
 【注】第一、第二、第三とわかりやすく書いてある。
3.ストックについて
 1)【L1】宇宙基地がストックが欠落しているのに対して、地球は。
  ・膨大なストックを抱えている。
  ・その結果,何十億年の寿命を保つ。
  ・多種多様な生物が共存し進化してきた。
 2)【L1】地球の膨大なストックの連鎖は。
  ・動物は、植物というストックの一部を食べている。
  ・植物は、土壌というストックから栄養分を吸収している。
  ・土壌は、鉱物というストックからできている。
  ・鉱物は、岩石というストックに支えられている。

4.余裕がないことについて
 1)【L1】宇宙基地には余裕がないので、何が必要か。
  ・生物の活力と量を定常状態を保つこと。
 2)【L1】定常状態を保てないとどうなるか。
  ・ある生物の増減が全体に影響する。
 3)【L1】なぜそのようなことが起こるのか。
  ・生物の種類が少ないので、相互依存が強すぎるから。
 4)【L1】地球上では、なぜそのようなことが起こらないのか。
  ・生物の種類がたくさんあって、複雑なネットワークで結ばれているから。
  ・別の要素で代替えできるから。
 5)【L3】「ストックの欠落」と「余裕がない」の違いは。
  ・ストックは、同じ種類の生物の量。
  ・余裕は、生物の種類の多さ。

5.外部からの負のフィードバックについて
 1)【L1】言い換えている語句は。
  ・自律的な調整機能。
 2)【L1】自然界の負のフィードバックは。
  ・ある生物が増えれば、他の植物が食べて数を減らす。
  ・食べられる生物が減れば、食べる生物も減る。
  ・元の状態になる。
 3)【L4】自律的な調整機能の例は。
  ・体温が上がれば、発汗作用が働き、熱が放出されて、体温が下がる。

6.宇宙基地システムの難点について
 1)【L1】宇宙システムの難点の根本的な原因は。
  ・共生を至上命令にしているから。
 2)【L1】なぜ、共生を至上命令にしなければならないのか。
  ・人間が生きるために他の生物にも生きてもらわなければならないから。
 3)【L1】自然界の共生の様子は。
  ・環境に適応した生物同士の間で様々な関係が発生する。
  ・その結果として、共生的に見える関係が認められる。
  ・共生するために生物が存在しているわけではない。
 4)【L4】「様々な関係」とはどんな関係があるか。
  ・共生関係もある。
  ・逆に、競争関係や敵対関係もある。
  ・むしろ、弱肉強食、自然淘汰の方が多い。
  ・だから、争いに負けて絶滅した生物も存在した。
 5)【L3】「結果」として「共生的に見える」とは。
  ・様々な関係の結果、生き残ったものだけが存在している。
  ・それが、共生的に見えるだけである。
  ・初めから、共生を目的にしていたわけでない。
  ・現在も共生しているわけではない。
 6)【L1】宇宙基地と自然界の違いは。
  ・宇宙基地は、共生を目的にしている。
  ・自然界は、結果として共生している。
 7)【L1】共生を目的としたシステムで必要なことは。
  ・成員の選択と管理。
 8)【L2】それに該当する第一段落の部分は。
  ・成員の選択=しかるべき生物種を選抜
  ・管理=生物の量を定めておく
 9)【L1】共生の裏にある危険な関係とは。
  ・自律性が制約される。
  ・行動が画一的になる。
  ・安定性にかける。
 10)【L3】なぜ自律性が制約されるのか。
  ・外部からの負のフィードバックを受けにくく、自律的な調整機能が働かないから。
 11)【L3】なぜ行動が画一的になるのか考える。
  ・ストックが欠落しているので、無駄な行動ができないから。
 12)【L3】なぜ安定性がかけるのか考える。
  ・生物の種類が少なく余裕がないため、相互依存が強く、影響が直ちに全体に波及するから。
 14)【L2】宇宙基地システムと自然界の違いをまとめる。
  ・宇宙基地システム
    ・共生を目的としている。
    ・成員は選抜され、管理されている。
  ・自然界
    ・共生を目的としていない。
    ・環境に適応しものが生き残る。

第三段落

1.【指】11〜12をペアリーディングさせる。
2.【L2】宇宙基地システムの話を何のためにしてきたのか。
 ・世界の現状を書くため。
3.【L1】筆者は世界の現状を何と呼んでいるか。
 ・宇宙船地球号。
4.【L1】宇宙船との共通点は。
 ・我々の生活が、食品、エネルギー、原材料など、全世界の産物よって成り立っている  こと。
5.【L1】その一つのである日本の様子は。
 ・資源小国。
 ・工業製品を海外へ輸出して、外貨を獲得する。
 ・その外貨で、海外から物質を購入する。
6.【L1】地球が有限性が進めばどうなるか。
 1)生態系の人工化
 2)人間の生活の規画化
 3)人口増加に伴うストックの消耗
7.【L4】それぞれの状態の具体例を考える。
 1)養殖、植林、遺伝子組み替え、自然保護など。
 2)交通や通信の発達により、地域間の差がなくなり、グローバルスタンダード化。
 3)石炭、石油の枯渇。食料不足。
8.【L1】どのような状況が望ましいか。
 ・他者に依存しすず、かなりの程度の自立性を確保する。
 ・弾力性のある共生関係を構築する。
9.【L1】そうしなければどうなるか読み取る。
 ・運命共同体になって自他ともに崩壊する。



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危険な共生  学習プリント

点検日  月  日
                  組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 94 蛋白 95 循環 膨大 土壌 96 代替え 至上 概して 98 潜んで 購入 外貨 消耗 対峙
2.語句の意味を調べなさい。
想定
ストック
定常
間引く
至上
概して
自律
規画
対峙
自立
学習のポイント
1.筆者の研究は何についてのどのような研究かを理解する。
2.宇宙基地システムで必要な4つのものを理解する。
3.それぞれの役割を理解する。
4.このシステムを生物に代行させるのに必要な4つのことを理解する。
5.宇宙基地システムの研究は何に応用できるかを理解する。
6.この研究を通して筆者が考えさせられたことを理解する。
7.宇宙基地システムの3つの難点を理解する。
8.地球の膨大なストックについて理解する。
9.生物の定常状態の必要性を理解する。
10.自律的な調整機能について理解する。
11.生物の存在と共生の関係を理解する。
12.宇宙基地システムと日本の類似点を理解する。
13.運命共同体の崩壊を回避する方法を理解する。