危険な共生


 宇宙基地の研究は、閉鎖された空間に、どのような生物を持ち込めば、人間の生命を維持できるかを調べる。
 1)人間は酸素を吸って二酸化炭素を出すから、二酸化炭素を吸って酸素を出し、しかも人間が食べられる「植物」が必要である。2)人間は動物性蛋白を要求するから、可食で、しかも酸素を吸って二酸化炭素を出し、植物を食べる「動物」が必要である。
 3)「水」は汗や尿から再生し、4)「糞の処理」は細菌で分解処理し植物の栄養とする。
 これらを生物に代行させるためには、生物種を選抜し、量を管理しなければならない。しかも、ボックスに入れ、循環させなければならない。
 これは、地球上の生物界における、物質循環、エネルギーの流れ、生物間の相互作用、人口論を理解する単純なモデルである。ここでは有限性の持つ意味が重要である。
 宇宙システムの研究から、人間生活の難点がわかる。
 1)ストックの欠落。動物は植物、植物は土壌、土壌は鉱物、鉱物は岩石というストックによって支えられている。
 2)余裕がない。閉鎖空間で円滑に活動するには、生物の活力と量を定常状態に保つ必要がある。相互依存が強すぎるとバランスが崩れる。地球上では複雑なネットワークで代替えしている。
 3)要素がボックスに入っているので、自然淘汰などの外部からの負のフィードバック、自律的な調整機能が欠如している。
 宇宙基地システムの難点は、共生を至上命令にし、共生するために生物が存在することである。自然界では生物同士の様々な関係の発生が、結果的に共生的になる。共生を目的としたシステムは、選択と管理を伴うので、自律性が制約され、行動が画一化し、安定性に欠ける、危険な関係が潜んでいる。
 資源小国日本は、食品、エネルギー、原材料などを手に入れるために工業製品を輸出し、外貨を手に入れなければならない。宇宙基地システムと類似しており、生態系が人口化され、生活が規格化され、ストックが消耗し、地球の有限化が進むと、同じ難点に対峙しなければならない。
 個人も国家も自立性を確保した上で、弾力性のある共生関係を構築しなければ、運命共同体になって、自他ともに崩壊の危機に見舞われる。


全体把握
 
1.学習プリントを配布し、漢字の読みと意味を予習させる。
2.学習プリントの宿題を点検する。
3.自分が自分の部屋から一歩も出ずに一週間暮らすとして、必要なものを4つ挙げる。
 ・各自書いた後、近くの生徒と交流させる。
4.読み方を確認する。
 94 蛋白 95 循環 膨大 土壌 96 代替え 至上 概して 98 潜んで 購入 外貨 消耗 対峙
5.語句の意味を確認する。
 想定=ある条件や状況を仮に設定すること。
 ストック=在庫品。手持品。
 定常=時間と共に変わりなく、一定を保っていること。
 間引く=十分に生育させるために、途中で抜いて数を減らす。
 至上=この上もないこと。
 概して=大体において。一般に。
 自律=他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること。
 規画=企て、はかること。また、企て。画策。
 対峙=対立する者どうしが、にらみ合ったままじっと動かずにいること。
 自立=他への従属から離れて独り立ちすること。
6.小段落ごとに1〜12まで番号をつける。
7.5分間で黙読して、大きく3段落に分ける。
 ・第一=1〜5
 ・第二=6〜10
 ・第三=11〜12
8.第一段落は丁寧に板書するが、第二段落以降は板書しないので、第一段落に習って、 自分で図示することを指示しておく。


第一段落   板書

1.「こんな研究」(2)の指示内容を読み取る。
 ・閉鎖された空間に、どのような生物を持ち込めば、人間の生命を維持できるかを調べる研究。(1〜3)
2.それは何の研究かを読み取る。
 ・宇宙基地(6)
3.宇宙基地で人間が生命を維持するために必要なものを4つ読み取る。
 ・植物、動物、水、糞の始末。
4.植物について
 1)植物の役割を読み取る。
  ・炭酸ガスを吸って酸素を出す。
  ・人間が食べられるもの。
 2)それが必要な理由を読み取る。
  ・人間は、酸素を吸って炭酸ガスを出す。
5.動物について
 1)動物が必要な理由を読み取る。
  ・可食。
  ・酸素を吸って炭酸ガスを出す。
   ・植物が炭酸ガスを吸うため。
 2)その条件を読み取る。
  ・植物を餌にして生きられるの。
  ・草食動物
   ・動物を食べれば人間の食料が減る。
 3)具体的にどんな動物があるかを考える。
  ・牛、豚、鶏、ひつじ、兎。
6.水は何から再生するのかを読み取る。
 ・汗や尿。
7.糞の始末の方法を読み取る。
 ・細菌で分解処理する。
 ・分解産物を植物の栄養に戻す。
8.一九六ページの図を見ないで、これらの記述から循環図を書く。
9.生物が「酸素供給」「食物生産」「水再生」「廃物処理」を代行することを確認する。
10.生物が代行するために必要なことを読み取る。
 ・生物種の選抜と量の管理。
 ・物質とエネルギーの循環。
11.そのためには具体的に何をするのかを読み取る。
 ・生物をボックスに入れる。
  ・競争したりけんかしたりしないため。
 ★これらが、人間が生物にしてあげることになる。


第二段落   板書

1.音読する。
2.宇宙基地システムについて
 1)この段落は、何について書いているか読み取る。
  ・宇宙基地の難点
 2)難点はいくつあるか読み取る。
  ・3つ。
  ★第一,第二、第三とわかりやすく書いてある。
 3)3つの難点を読み取る。
  1)ストックが欠如している
  2)余裕がない
  3)外部から負のフィードバックを受けにくい
3.ストックについて
 1)なぜストックが欠落していることが決定的な弱点なのか読み取る。
  ・地球が膨大なストックを抱えているので、何十億年の寿命を持ち、多種多様な生物が共存して進化してきたから。
  ★地球と比較している。
 2)地球の膨大なストックの連鎖を読み取る。
  ・動物は、植物というストックの一部を食べている。
  ・植物は、土壌というストックから栄養分を吸収している。
  ・土壌は、鉱物というストックからできている。
  ・鉱物は、岩石というストックに支えられている。
 3)しかし、宇宙基地にはストックがないことを確認する。
4.余裕がないことについて
 1)閉鎖空間では、物質やエネルギーが円滑に流れるため必要なことを読み取る。
  ・生物の活力と量を定常状態を保つこと。
 2)定常状態を保てないとどうなるか読み取る。
  ・全体に影響が波及する。
 3)なぜ、定常状態を保てないと全体に影響が波及するのか読み取る。
  ・生物の種類が少なく、相互依存が強すぎるから。
 4)わかりやすく言い換える。
  ・自立できない。
  ・自分一人で生きていくことが困難で、たえず他の生物の援助を受けて生きていかなければならない。
 5)なぜ、地球では、そのようなことが起こらないのか読み取る。
  ・生物の種類がたくさんあって、複雑なネットワークを形成して結ばれているから。
  ・別の要素で代替えできるから。
 6)「ストックの欠落」と「余裕がない」の違いは何か考える。
  ・ストックは、同じ種類の生物の量。
  ・余裕は、生物の種類の多さ。
5.外部からの負のフィードバックについて
 1)言い換えている語句を読み取る。
  ・自律的な調整機能。
 2)自律的な調整機能の例を考える。
  ・体温が上がれば、発汗作用が働き、熱が放出されて、体温が下がる。
 3)自然界の負のフィードバックとは何か考える。
  ・ある生物が増えれば、他の植物が食べて数を減らす。
  ・食べられる生物が減れば、食べる生物も減る。
  ・元の状態になる。
6.宇宙基地システムの難点について
 1)宇宙システムの難点の根本的な原因を読み取る。
  ・共生を至上命令にしているから。
 2)なぜ、共生を至上命令にしなければならないのか読み取る。
  ・人間が生きるために他の生物にも生きてもらわなければならないから。
 3)自然界の共生の様子を読み取る。
  ・環境に適応した生物同士の間で様々な関係が発生する。
  ・その結果として共生的に見える関係が認められる。
  ・共生するために生物が存在しているわけではない。
 4)「様々な関係」とはどんな関係があるかを考える。
  ・共生関係もある。
  ・逆に、競争関係や敵対関係もある。
  ・むしろ、弱肉強食、自然淘汰の方が多い。
  ・だから、争いに負けて絶滅した生物も存在した。
 5)「結果」として「共生的に見える」とはどういうことか考える。
  ・様々な関係の結果、生き残ったものだけが存在している。
  ・それが、共生的に見えるだけである。
  ・初めから、共生を目的にしていたわけでない。
  ・現在も共生しているわけではない。
 6)人工的に、共生を目的としたシステムで必要なことを読み取る。
  ・成員の選択と管理。
 7)それに該当する第一段落の部分を読み取る。
  ・成員の選択=しかるべき生物種を選抜し
  ・管理=生物の量を定めておかなければならない
 8)共生が危険な関係である理由を読み取る。
  ・自律性が制約される。
  ・行動が画一的になる。
  ・安定性にかける。
 9)なぜ自律性が制約されるのか考える。
  ・外部からの負のフィードバックを受けにくいから。
 10)なぜ行動が画一的になるのか考える。
  ・ストックが欠落しているので必要のない行動ができないから。
 11)なぜ安定性がかけるのか考える。
  ・生物の種類が少ないため相互依存が強すぎて、影響が直ちに全体に波及するから。
 12)宇宙基地システムと自然界の違いをまとめる。
  ・宇宙基地システム
    ・共生を目的としている。
    ・成員は選抜され、管理されている。
  ・自然界
    ・共生を目的としていない。
    ・環境に適応しものが生き残る。


第三段落   板書

1.音読する。
2.現代の我々の生活は何によって成り立っているか読み取る。
 ・全世界の産物。
3.それには何が含まれているか読み取る。
 ・食品、エネルギー、原材料
4.その一つの国である日本はどういう国か読み取る。
 ・資源小国。
5.どのような流通をしているか考える。
 ・工業製品を輸出して外貨を獲得し、海外から物質を購入する。
6.このような状態を何と表現しているか読み取る。
 ・宇宙船地球号。
7.どのような意味か考える。
 ・地球が宇宙船システムに似てきている。
8.地球がどのような状態になっているかを読み取る。
 1)生態系の人工化
 2)生活の規画化
 3)ストックの消耗
 4)地球の有限性
9.それぞれの状態の具体例を考える。
 1)養殖、植林、遺伝子組み替え、自然保護など。
 2)交通や通信の発達により、地域間の差がなくなり、グローバルスタンダード化。
 3)石炭、石油の枯渇。食料不足。
 4)限りある資源。
10.どのような状況が望ましいか読み取る。
 ・他者に依存しすぎない。
 ・かなりの程度の自立性を確保する。
 ・弾力性のある共生関係を構築する。
11.そうしなければどうなるか読み取る。
 ・運命共同体になって自他ともに崩壊する。



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危険な共生  学習プリント

学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 94 蛋白 95 循環 膨大 土壌 96 代替え 至上 概して 98 潜んで 購入 外貨 消耗 対峙
2.語句の意味を調べなさい。
 想定 ストック 定常 間引く 至上 概して 自律 規画 対峙 自立
学習のポイント
1.筆者の研究は何についてのどのような研究かを理解する。
2.宇宙基地システムで必要な4つのものを理解する。
3.それぞれの役割を理解する。
4.このシステムを生物に代行させるのに必要な4つのことを理解する。
5.宇宙基地システムの研究は何に応用できるかを理解する。
6.この研究を通して筆者が考えさせられたことを理解する。
7.宇宙基地システムの3つの難点を理解する。
8.地球の膨大なストックについて理解する。
9.生物の定常状態の必要性を理解する。
10.自律的な調整機能について理解する。
11.生物の存在と共生の関係を理解する。
12.宇宙基地システムと日本の類似点を理解する。
13.運命共同体の崩壊を回避する方法を理解する。





















第一段落

・筆者の研究=宇宙基地
 ・閉鎖された空間に、どのような生物を持ち込めば、人間の生命を維持できるかを調べ  る研究
  ↓
 ・植物=炭酸ガスを吸って酸素を出す→人間〈酸素供給〉
     食べられる→人間〈食物生産〉
     炭酸ガスを出す←人間
 ・動物=食べられる→人間〈食物生産〉
     酸素を吸って炭酸ガスを出す→植物
     植物を餌にする=草食動物
 ・水の再生←汗や尿
 ・糞の始末=細菌で分解処理→植物
  ↑    排泄←人間・動物
 ・生物種の選抜と量の管理。
 ・物質とエネルギーの循環。
  ↑
 ・ボックスに入れる←競争やけんかしない


第二段落

・宇宙基地システムの難点
宇宙基地システム         地球(自然界)           
ストックが欠如している 膨大なストック
 ↓何十億年の寿命
多種多様な生物が共存、進化
余裕がない
 ↓
定常状態を保つ
 ↓
相互依存が強すぎる
生物の種類が多い
 ↓
複雑なネットワーク
 ↓
別の要素で代替え
負のフィードバックを受けにくい
 ‖
自律的な調整機能が欠如
ある生物が増えると他の生物が食べる
 ↓食べ物がなくなる
食べる方も減って元の状態
共生が至上命令
 ‖
人間が生きるために他の生物にも生きてもらう              ↓
成員の選択と管理
 ↓
自律性が制約
行動が画一的
安定性にかける
 ↓
危険な関係
環境に適応したもの同士の関係
 ↓結果として
共生しているように見える


第三段落

・我々の生活=宇宙船地球号
  ↑
 全世界の産物=食品、エネルギー、原材料
  ex日本(資源小国) 工業製品──海外からの物質
  ↓
 1)生態系の人工化──┐
 2)生活の規画化  │=宇宙基地システムの難点
 3)ストックの消耗 │
 4)地球の有限性 ──┘                            
  ↓
 ・他者に依存しすぎない。
 ・かなりの程度の自立性を確保する。
 ・弾力性のある共生関係を構築する。
  ↓
 ・運命共同体になって自他ともに崩壊