鶏口牛後
中国の戦国時代、秦、楚、斉、燕、韓、魏、趙の7つの強国が覇を争っていた。最強国 は秦で、他の六国は秦と同盟するか戦うかが国の存亡の大選択であった。蘇秦は遊説家で、
最初秦に他の六国と同盟を結ぶ連衡策を説くが、外国人排斥意識の強かった秦には採用されなかった。そこで、燕へ行き、連衡策とは正反対の合従策を説く。国への忠誠心も、戦いに苦しむ民衆への思いもなく、ただ己の出世のために口先だけで策謀を巡らす。燕王はその策を採用し、趙へ遣わす。趙王も説得に成功し、ついに六国の宰相になる。その時に使ったのが「鶏口牛後」の諺である。小国の国王の自尊心をうまくくすぐった弁舌であった。
ここでは、口先だけで時代を生きる蘇秦の生き方と、その弁舌の巧みさを学習する。
学習の準備
1.訓点に従って何度も音読しなさい。
2.次の漢字の読み方を書きなさい。
秦 恐喝 遊説 乃ち 往く 説く 燕 趙 従親 卒
并す 莫し 若く 六国 擯く 鄙諺 寧ろ 従合
3.句点(゚)で改行し、左右2行ずつ空けて、白文を書き、訓点を付けなさい。
為ラン 廻ラシテ
4.写した文の右に書き下し文を書きなさい。次の点に注意しなさい。
・助詞と助動詞はひらがなに直す。
・置き字は書かない。
5.写した文の左に現代語訳を書きなさい。
学習のポイント
1.次の語の意味を確認する。
恐喝 割く 遊説 乃ち 従親 資す 卒 六国 鄙諺
2.「莫シ若クハAニ」(比較の句法)、「寧ロAトモ、無カレBスルコト」(選択の句 法)を習得する。
3.受身、使役の訳に注意する。
4.国名と人名を確認する。
5.当時の各国の力関係や事情を理解する。
6.蘇秦の説得が成功した理由を理解する。
7.「鶏口牛後」の意味を理解し、現代での例を考える。
1.学習プリントを配布する。
2.本文を一文ずつ改行して写させる。
3.一行ずつ、語順と読みを確かめて、音読させる。
4.時代背景を確認する。
・戦国時代を教科書の付録の年表で確認する。前四〇三年で、日本では弥生時代である。 ・秦、楚、斉、燕、韓、魏、趙の7つの強国があった。地図で確認する。
・その中で、秦が最強で、他の国は秦といかに対処するかが重大事であった。
5.国名、人名に線を引かせ、関係を整理する。
・秦=恵王
・燕=文侯
・趙=粛侯
・六国=諸侯
・洛陽=蘇秦
6.書き下し文にさせる。
・ひらがなに直す漢字、書かない置き字に注意する。
7.秦人恐喝諸侯求割地。
1)秦人=秦王。
2)諸侯=秦以外の国の王。
3)割地=土地を割いて譲る。割譲する。
4)訳す。
・秦王は諸侯を恐喝して領土を割いて譲るように要求した。
8.有洛陽人蘇秦。
1)蘇秦について説明する。
・遊説家。
・鬼谷先生に学ぶ。
・数年間各国を遊説して回るが、失敗し、故郷に帰り、妻や親戚から嘲笑される。
2)訳す。
・洛陽出身の人で蘇秦という者がいた。
9.游説秦恵王不用。
1)游説=意見や政策を各国に説いて回る。「游」は「遊」の本字で、勉学や仕官のため に他国へいくこと。
2)用ヒラレ=「られ」は受身の助動詞。
3)訳す。
・(蘇秦は)秦の恵王を説得したが、採用されなかった。
4)秦の恵王に遊説した内容は。
・他の6国と同盟を結ぶ連衡策を説いた。
5)秦の恵王に採用されなかった理由は。
・外国人の商鞅の政策が失敗した後なので、外国人を極度に警戒していたから。
10.乃往説燕文侯、与趙従親。
1)乃=順接。そこで
2)従親セシメントス=「しめ」は使役の助動詞、「む」は意志の助動詞。
3)訳す。
・(蘇秦は)そこで行って燕の文侯を説得して、趙と南北に同盟を結ばせようとした。
11.燕資之、以至趙。
1)資之=蘇秦
2)至ラシム=「しむ」は使役の助動詞
3)訳す。
・燕王はこれに資金を与えて、趙に行かせた。
4)「之」の指示内容は。
・蘇秦
5)燕の文侯への説得を解説する。
・土地をほめてから、改革点を指摘する。
・趙が秦の防壁になっている。趙と和睦すべきである。
・秦に遊説したときには連衡策を、燕には合従策を述べている。
・国への忠誠とか民衆への救済という社会的な使命感はなく、自分の利益と保身のた めに、巧みな弁舌を弄するだけの策謀家である。
・蘇秦は6国の宰相になり、天下を統一して、皇帝になるという野望を持っている。
12 説粛侯曰
1)訳す。
・(趙の)粛侯を説得して言った。
2)粛侯はどこの王か。
13「諸侯之卒、十倍於秦。
1)卒=兵士
2)訳す。
・諸侯の兵力を集めれば秦の十倍になる。
14.并力西向、秦必破矣。
1)訳す。
・力を合わせて西に向かえば、秦は必ず破れるだろう。
2)西向とはどうすることか。
・秦と戦う。
15.為大王計、
1)計=考える。
2)訳す。
・大王の為に考えるに、
3)「大王」とは誰か。
・粛侯
16.莫若六国従親以擯秦」
1)莫シ若クハAニ=比較の句法。Aに勝るものはない。
2)以=そこで
3)訳す。
・六国が南北に同盟して秦を除け者にするのに勝るものはない。
4)「六国」とはどこの国か。
・趙、燕、楚、斉、韓、魏。
17.粛侯乃資之、以約諸侯。
1)約セシム=「しむ」は使役の助動詞。
2)訳す。
・粛侯はそこでこれに資金を与えて、諸侯に約束させた。
3)「之」の指示内容は。
・蘇秦
4)趙の粛侯への説得を解説する。
・燕と趙の二国の同盟では不十分である。
18.蘇秦以鄙諺説諸侯曰
1)訳す。
・蘇秦はそこでことわざを用いて諸侯を説得して言った。
19.「寧為鶏口、無為牛後」
1)寧ロAトモ、無カレBスルコト=選択の句法。たとえAしても、Bしてはいけない。
2)訳す。
・たとえ鶏のくちばしになっても、牛の尻になってはいけない。
3)「鄙諺」とは何たったか。
・寧為鶏口、無為牛後
4)「鶏口」「牛後」は何をたとえているか。
・鶏口=小さな国の国王
・牛後=大きな国(秦)の属国
・小国の王になっても大国の家来になるな。
20.於是、六国従合。
1)於是=そこで
2)従合=「従親」と同じ。
3)訳す。
・そこで、六国は南北に同盟を結んだ。
4)蘇秦の説得が成功した理由を考える。
・諺を使って分かりやすかった。
・国王の自尊心に訴えた。
21.その後の蘇秦の人生を説明する。
・六国の宰相を兼任する。
・故郷に帰ると、妻や家族が手のひらを返したように金持ちになった蘇秦を手厚くもて なす。
・鬼谷先生の弟子であるライバルの張儀の策謀で、秦が斉と魏を欺き、趙を討たせた。
・蘇秦は趙王に責められ、燕へ逃げる。
・燕の王の母(初老の老女)と密通し、斉に亡命する。
・そこで張儀の差し向けた刺客に暗殺される。
22.「鶏口牛後」を現在の例に当てはめさせる。
・大企業の一社員として働くよりも、企業家として小さな会社を経営する。