重ね合わせ理解と発見的理解
  
山鳥重


 わかるには2つのパターンがある。A答えが自分の頭の中で用意できるタイプと、B答えが自分の外にしか存在しないタイプである。Aは相手の会話を自分の頭の中のモデルと重ね合わせて理解する。
 天気の話、外国語の理解、筆者の友人の話、失語症、そし邪馬台国、学校教育の例が挙げられている。いずれも自分の中の言葉と相手の言葉が重なった時にわかったと感じる。邪馬台国は、現在の日本の地図に、「魏志倭人伝」の記述を当てはめていく作業である。学校教育は、教科書や教師の教えてモデルに、将来遭遇する知らないことを重ねて人生を切り開いていくことを目的にしている。
 Bは、自分の中にモデルはなく新しく発見していく。自然の仕組みや働き、人間のふるまい、社会の動きに関する理解である。答えは自然の中にあり、自分の中にあるのは仮説である。実験や観察によって仮説が正しいかどうかを確かめ、発見する。
 引力、心と脳の関係、遺伝子の研究、なぜ人は人を憎むのか、殺すのか、いじめるのかなどの問題をわかる時のパターンである。
 Aはわからないことを既にわかっている説明の仕方によってなぞる、「重ね合わせ的理理解」、Bはわからないことを仮説を立てながら説明していく「発見的理解」である。行動に必要なのはBである。
 「海図なき海へ旅立つ」はいう言葉は人生にも当てはまる。わかっているようで、何もわかっていない人生を、我々は困ったことがあれば誰かが何とかしてくれる、誰かが教えてくれると海図に期待して生きている。しかし、実際には海図はなく、自分が使える海図を自分で作っていかなければならない。それによって初めて、大きい意味や深い意味を発見できる。
 この教材は、理系の生徒の理解の仕方を示すの大切であり、原発事故など未曾有の問題に対応していく時にも必要である。


1.【指】1〜40まで段落番号を打たせる。
2.【L2】タイトルから何がわかるか。
 ・2つの理解の方法を対比している文章である。
3.【指】全文を10分で黙読させる。(10分)

4.「わかり方の二つのパターン」について
 1)【L1】二つのパターンとは。(1)
  A 答えが自分の頭の中に用意できるタイプのわかり方
  B 答えが自分の頭の外にしか存在しないタイプのわかり方
 2)【L1】それぞれ言い換えると。(37)
  A 重ね合わせ的理解
  B 発見的理解
 3)【L2】もう一カ所、対比的な表現がある部分は。
  ・33段落。
  A わからないことをすでにわかっている説明の仕方によってなぞっていく。
  B わからないことを仮説を立てながら説明していく。
 4)【L1】第一段落をさらに2つに分けると。
  ・21〜
 5)【説】違いを明らかにして説明していく。
  ・その中で、例の果たす役割も考える。

5.重ね合わせ理解の例について
 1)【L1】なぜ相手の会話が理解できるのか。
  ・相手の会話と自分の頭の中のモデルと重ね合わせることができるから。
 2)【L1】逆に、なぜ外国語がわからないのか。
  ・相手の言葉が自分の中にないか少ないから。
 3)【L1】どうすればわかるようになるか。
  ・自分の中の言葉を増やす。
 4)【L2】友人の例は、友人の中に言葉がなかったわけではないのに、なぜ起こったのか。
  ・相手の言葉と自分の言葉の重ね合わせに失敗したから。
  ・重ね合わせとは、予測と言い換えることができる。
  ・つまり、相手の言葉は自分の中にもあるが、予測がうまくいかなかったから。
 6)【L2】なぜ失語症の人は、指示された通りに動けなかったりするのに、言葉の一部を  言うと続きが言えるのか。
  ・手持ちの言葉が失われているから。
  ・おおざっぱな予想は立てられるが、正確に相手の言葉と自分の言葉を重ね合わせる   ことができないから。
 7)【L2】邪馬台国の場合、何と何を重ね合わせるのか。
  ・「魏志倭人伝」の記録と現在の日本の地理。
  ・「魏志倭人伝」の記録が相手の言葉で、地理が自分の言葉。
 8)【L1】学校教育の場合の重ね合わせ的理解とは。
  ・自分の言葉は、先生のモデルや教科書のモデル。
  ・相手の言葉は、将来遭遇する知らないこと。
  ・人生を、教師や教科書のモデルを自分の判断の基準にして理解する。
6.発見的理解について
 1)【L1】重ね合わせ的理解との大きな違いは。
  ・自分の中には重ね合わせるべきモデルは用意されていない。
  ・つまり、自分の中に既知の答えがない。
 2)【L2】それでは、答えはどこにあるのか。
  ・自然の中にある。
 3)【L1】では、どうして答えを求めるのか。
  ・新しく発見していく。
  ・だから、発見的理解である。
 4)【L2】どのように発見するのか。
  ・わからないことを仮説を立てる。
  ・仮説が正しいか、実験して確かめる。
 5)【説】ニュートンの仮説について。
・りんごが木から落ちるのに遭遇したニュートン。
・りんごの木を見上げるとその向こうには月が光っている。
・りんごが落ちたのはりんごを木につなぎ止めていた力がなくなったからである。
・では、なぜ月は落ちて来ないのか? どんな力が月を空につなぎ止めているのか?
・糸をりんごに結びつけて振り回している図を想像するニュートン。
・振り回すと速度によって離れて行こうとする(遠心力)。
・月は地球を回っていることを思い浮かべる。
・遠心力で月が飛び去って行かないのは、糸のかわりをしている力があるはずである。
・月が地球の回りを回りながら同じ距離を保っているのは、遠心力とこのつなぎ止める力がつりあっているからであるに違いない。
・このつなぎ止める力を重力と呼ぼう。
・しかし、重力は地球だけが持ち月をつなぎ止めているのか? それとも月も地球も重力を持ちお互いに引っ張りあっているのか?

7.心と脳の関係について
 1)【L1】心と脳の関係の、2つの仮説は。
  ・心と脳は別の存在である。
  ・心が脳と離れて存在するはずがない。心と脳は同じ存在である。
 6)【L2】「心と脳は別の存在である」というデカルトの仮説の説明は。
  ・脳は身体の一部として。
  ・自分(身体)があって、その自分について考えている自分(心)がある。
  ・その考えている自分(身体)を、さらに疑っている自分(心)がある。
  ・つまり、身体(脳)と心は、別の存在である。
 7)【L1】「心と脳は同じ存在である」「心は脳の働きである」という仮説の証拠は。
  ・人が死ぬと心がなくなる。
  ・昏睡状態になると心の働きがなくなる。
  ・薬で脳の働きを変えれば心の働きも損傷される。
  ・脳が損傷されれば心の働きも損傷される。
 8)【L1】それぞれ、どんな人が支持するか。
  ・「心と脳は別の存在である」は、哲学者や宗教家。
  ・「心と脳は同じ存在である」は科学者。
 9)【L2】なぜ、科学者は「心と脳は同じ存在である」という仮説を信じているのか。
  ・自然の中に答えを発見しているから。
 10)【L1】筆者の立場は。
  ・「心と脳は同じ存在である」
 11)【説】どちらも仮説なので、どちらが正しいかわからない。
  【注】邪馬台国とは違う。邪馬台国は昔九州か大和がどちらかにあった。

8.人間のふるまいや社会の動きについて
 1)【L1】人間のふるまいの例は。
  ・なぜ人は人を憎むのか。
  ・なぜ人は人を殺すのか。
  ・なぜ人は人をいじめるのか。
 2)【L4】その答えは。
 3)【L3】人間のふるまいが、自然現象の理解と似ている点は。
  ・自分の中に答えがない。
  ・自分なりの生き方を発見し工夫し実験(実践)しながら生きていく。

9、二つの理解について
 1)【L1】本当に必要なのは、重ね合わせ的理解か発見的理解か。
  ・発見的理解。
 2)【L1】その理由は。
  ・自然や社会の中で生きていくには、新しい発見や仮説が必要だから。

10.「海図なき海に旅立つ」について
 1)【L1】「海図なき海に旅立つ」とは。
  ・まだ知られていない、海図のない海を航海する。
 2)【L2】生きていくことは、どこが海図なき航海と似ているのか。
  ・わかっているようで、何もわかっていない人生を、自分の判断によって生きていか   なければならない点。
 3)【L4】「困ったことがあれば誰かが何とかしてくれるだろう」「わからないことかあ  れば誰かが教えてくれるだろう」と期待している例は。
  ・福島原発事故。
  ・世界経済の行方。
  ・少子高齢化社会への対応。

11.重ね合わせ的理解と発見的理解を定義する。
 1)【L2】「重ね合わせ的理解」の定義のベースは。
  ・答えが自分の頭の中に用意できているタイプのわかり(1)       (2)
  ・自分の頭の中にモデルが準備されていて、それと重ね合わせることができる。
  ・わからないことをすでにわかっている説明の仕方によってなぞってゆく(33)
 2)【L3】これらの部分を使って、定義する。
  ・わからないことを、自分の頭の中に準備できているモデルと重ね合わせて理解する。
  ・既存のモデルに、未知のものを重ねていく。
 3)【L2】「発見的理解」の定義のベースは。
  ・答えが自分の頭の外にしか存在しないタイプのわかり
  ・自分の中には重ね合わせるべきモデルは用意されていない。
  ・既知の答えがない。
  ・新しく発見していく。
  ・人間が思いついた仮説。
  ・答えは自然に問うしかない。
  ・実験しなければわからない。
  ・わからないことを仮説を立てながら説明していく。
 4)【L3】これらの部分を使って、定義する。
  ・わからないことを、仮説を立てて、実験して、自然の中に答えを発見して理解する。
  ・未知の仮説を立てて、既存のものの中に答えを発見する。



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