からだで味わう動物と情報を味わう人間
 


伏木 亨
 1)2)おいしさは、舌の感覚だけでなく、口の中の多くの感覚機能が、おいしさの分析に動員されている。3)実は、おいしさは、からだでも味わっている。4)食べ物が消化吸収され、代謝され、栄養価値が、脳に伝えられる。栄養価値の高いものをおいしく感じることは、食べるという行為の本質に関わる。
 5)カロリーがなくおいしいものを食べたい、おいしいのにカロリーがない脂肪が開発した、それは消費者の切実な問題であり、研究者の夢である。6)カロリーが削減されるだけでなく、7)ゼロの食品も開発されている。味の面もうまくできている。8)しかし、実験動物は、最初喜んで食べたが、三十分で食べなくなった。9)脂肪は三十分で消化吸収されエネルギーに変わる。エネルギーにならないという情報が嗜好性を失わせたのである。舌はだませてもからだには嘘はつけない。10)本能が、食べても役に立たないと判断したのである。生命の維持が危機に瀕するからである。栄養価値のない食べ物にだまされる動物は絶滅する。
 11)カロリーを補給すると執着が復活した。12)この結果は、味覚の判断と栄養の判断の二種類の信号が合意に達して、おいしいと記憶されることを表している。13)二種類の信号は、消化吸収に要する時間によって時差を生じるにもかかわらず、すり合わせが行われる。その結 果が脳に保存される。
 15)人間にも動物としての機能は残っている。16)17)18)しかし、味や栄養効果以外に情報による高度な判断基準がある。本来は情報は味覚による判断の補助であった。しかし、情報のおかげで安全性は高まったが、味覚は鈍くなった。19)情報の発達と味覚の後退は、人間の食生活に大きな影響を与える。それは自分の舌に自信がないからである。20)味覚より情報を優先する人間とは奇妙な動物である。

第一段落(1〜4)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)のどのカワ(渇 )き  2)口の中でアバ(暴 )れる  3)おいしさのカイセキ
 (解析   )  4)食べ物をショウカキュウシュウ(消化吸収       )する 5)食べ物をタイシャ(代謝   )する
2.次の語の意味を書け。
 1)風味(食べ物の持つ香りや味わい
 2)解析(ものごとを細かく調べて本質を明らかにすること
 3)代謝(古いものと新しいものが次々入れ代わること)
3.次の設問に答えながら内容を考える。
 ○【L4】おいしいものを挙げる。
11)【L1】おいしさといえば、まずどこで感じるか。
  ・舌の感覚
 ○【L3】人間の五感で言うと。
  ・味覚。
  ・視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。
22)【L1】さらに、のどごしや温度や風味や噛みごたえや物理的感触などを考えると、お   いしさはどこで解析されるか。
  ・口の中の感覚機能
 ○【L4】のど越し、温度、風味、歯ごたえで感じるおいしさの例は。
33)【L1】さらに、ダイナミックに考えると、おいしさはどこで味わうか。
  ・からだ
44)【L1】おいしさをからだで味わうとは、食べ物からどういう順序で記憶に影響を与え   るのか。
  ・食べ物→消化吸収→代謝→栄養価値→脳→記憶
 ○【L3】からだとは具体的にどこを指しているか。
  ・消化器官。
 ○【説】人体の器官について
  ・運動器系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、脳神   経系、感覚器系
 5)【L1】つまり、どういうものをおいしく感じるのか。
  ・栄養価値の高いもの
 6)【L1】このおいしさは何にかかわるのか。
  ・食べるという行為の本質
 ○【L3】食べるという行為の本質とは何か。
  ・生命の維持に欠かせない栄養を摂取すること。

第一段落(1〜4)
 
おいしさ=食べるという行為の本質
  
舌の感覚
   

  
口の中の感覚機能
   

  
からだで味わう
   
食べ物→消化吸収→代謝→栄養価値→脳→記憶
4.まとめる。
 ・おいしさとは、舌や口の中の感覚だけでなく、からだが栄養価値の高いものをおいし  く感じることである。

第二段落(5〜10)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)ヒソ(密  )かに願う  2)セツジツ(切実   )な問題
 3)ケッコウ(結構   )おいしい  4)栄養をハイセツ(排泄   )する
 5)シサク(試作   )された商品  6)シハン(市販   )の油
 7)実験動物のシコウセイ(嗜好性     )  8)油をセッシュ(摂取   )する
 9)油にシュウチャク(執着   )する
2.次の語を対義語を答えよ。
 1)結合(分離   )  2)排泄(摂取   )
 3)結果(原因   )  ネガティブ(ポジティブ    )
3.次の語の意味を答えよ。
 1)玉にきず(完全な物の中にわずかな欠点がある
 2)嗜好性(好み
4.次の設問に答えながら内容を考える。
 ○【L4】ダイエットの方法について聞く。
  ・生野菜、バナナ、豆腐、春雨スープ、鍋料理
  ×ファーストフード、揚げ物、ケーキ、お菓子。
51)【L1】脂肪とはどういうものか。
  ・おいしいがカロリーが高い。
 2)【L1】しかし、人々はどんな脂肪を求めているか。
  ・おいしいがカロリーがない
63)【L1】そのため、どのようにして食品のカロリーを削減するか。
  ・脂肪とよく似た食感の多糖類を増量する
74)【L2】さらに、カロリーをゼロにするにはどうすればいいか。
  ・脂肪の分子の結合を切断させない。
 ○【L4】低カロリー食品の例。
85)【L1】実験で動物が最初喜んで食べた理由は。
・嗜好性に差がないから。
 6)【L1】しかし、三十分後どうなったか。
  ・カロリーゼロの油を食べなくなった。
97)【L1】三十分は何をする時間か。
  ・脂肪が吸収されからだの中でエネルギーに変わる時間。
 8)【L1】その時内臓から出るネガティブな信号とはどんな情報か。
  ・おいしいが、エネルギーにならないという情報。
109)【L1】本能がカロリーゼロの油に執着することを許さなかった理由は何か。
  ・食べてもカロリーにならないものは役に立たないから。
  ・カロリーが不足して、命が危ない。
 10)【L1】栄養価値のない食べ物にだまされる動物はどうなるか。
  ・厳しい生存競争の中で死に絶える。

第二段落(5〜10)
 
脂肪=おいしいがカロリーが高い
     ↓
    
おいしいがカロリーがない
     
脂肪の代用品を増量する
     
脂肪の分子を切断させない
 
実験1)カロリーのない油
  
最初=喜んで食べる←嗜好性に差がない
   

  三十分=食べなくなる←エネルギーにならない
   
消化吸収      ネガティブな信号
   

  
本能が許さない
   
食べてもカロリーがないものは役に立たない
   
命が危ない
5.まとめる
 ・おいしくてカロリーのない食べ物はエネルギーにならず、命が危ないので動物は食べ  ない。
6.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
第一段落(1〜4)
1)【L1】おいしさは、味覚だけでなく、温度や風味や歯ごたえなど、口の中の機能でも判断する。●
2)【L1】さらに、おいしさはからだでも味わうが、そのからだとは、具体的には循環器系器官を指している。(消化器系器官)
 ・人体の器官には、運動器系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、脳神経系、感覚器系などがある。
3)【L1】からだは、食べ物を消化吸収して、代謝し、味覚が脳に送られ記憶しておいしさを判断する。(栄養価値)
4)【L1】栄養価値の高いものをおいしく感じて食べるという行為の本質は、厳しい生存競争に生き残ることである●
・3段落には後半部はないが、10段落にある。
第二段落(5〜10)
5)【L1】人間はおいしくてカロリーがない食べ物を追求し、代用品を増量したり、結合した脂肪分子の分離を阻止したり、飽くなき研究を積み重ねている。●
・ノンカロリーの研究について考える。
6)【L1】実験動物が、最初カロリーゼロの油も普通の油も同じように食べた理由は、栄養価値が似ているからだ。(嗜好性)
7)【L1】実験動物にカロリーのない油を食べなくなるまでの三十分という時間は、味覚を脳に伝える時間という深い意味がある。(消化吸収する)
8)【L1】内蔵からのネガティブな信号とは、食べ物がまずいという情報である。
(エネルギーにならない)
9)【L2】「本能」と同様の意味で使われている語を1つ。【からだ】
 ・共に栄養のない油に執着させないものとして使われている。
10)【L2】1)〜7)の「おいしさ」を、「味覚で味わうおいしさ」(A)と「からだで味わうおいしさ」(B)に分類せよ。
 1)3003おいしさ【A 】  2)3009おいしさ【A 】  3)3011おいしさ【B 】
 4)3103おいしさ【B 】  5)3105おいしい【A 】  6)3201おいしく【A 】
 7)3215おいしさ【B 】
★【L4】時間があれば、ダイエット法について交流しなさい。

第三段落(11〜14)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)油をトウヨ(投与   )する  2)栄養をホキュウ(補給   )する
 3)おいしさというガイネン(概念   )  4)感覚をソウドウイン(総動員
 する  5)情報にはジサ(時差   )がある
2.次の設問に答えながら内容を考える。
111)【L1】どうすればカロリーゼロの油への執着が復活したか。
  ・カロリーを補う。
122)【L1】見直しを迫られる冒頭に述べられたおいしさの概念はどんなものだったか。
  ・多くの感覚が総動員されて納得できるものを食べる。
 3)【L1】この実験の結果わかった、脳ですり合わされる二種類の信号とは何か。
  ・味覚の判断と栄養の判断の合意
134)【L1】それはそれぞれどこで判断するのか。
  ・味覚の判断=舌や口の中の感覚→短期記憶
  ・栄養の判断=内臓
 5)【L1】二つの判断の間に生じる時差は何に要する時間か。
  ・消化吸収
 6)【L1】時差があるのにすり合わせが起こるのはなぜか。
  ・味覚情報が短期記憶として一時的に保存されるから。
147)【L3】「味覚の修正」とはどうすることか。
  ・カロリーのない油に執着しなくなること。

第三段落(11〜14)
 
実験2)
  
カロリーのない食品
   

  
カロリーの補給
   ↓
  
食べる
   

  
おいしさという概念の見直し
   
舌の感覚+口の中の感覚
   
味覚の判断→短期記憶
    
+時差=消化吸収の時間
   
栄養の判断
   
カロリーがない
   
内蔵からのネガティブな情報
    

  
味覚の修正
   
おいしいがエネルギーにならないものは食べない

3.まとめる
 ・おいしさは、味覚の判断と栄養の判断の合意によって記憶される。

第四段落(15〜20)

1.次のカタカナを漢字で書け。
 1)人間はカットウ(葛藤   )する  2)健康ゾウシン(増進   )
 3)タンテキ(端的   )に語る  4)シンケン(真剣   )に味見する
 5)ホンマツテントウ(本末転倒      )  6)ズイショ(随所  )に見られる
2.次の語の対義語を答えよ。
 1)純粋(不純   )  2)特殊(一般   )
2.次の語の意味を答えよ。
 1)幸か不幸か(結果としての良し悪しは断定できないが
 2)葛藤(心の中に相反するものが存在し悩むこと
 3)本末転倒(重要なこととつまらないことが逆転すること
3.次の設問に答えながら内容を考える。
161)【L1】人間に残っている動物の機能とは何か。
  ・からだによる味覚や判断と栄養の判断
 2)【L1】それら以外の新たな手段とは何か。
  ・情報の活用
173)【L1】「このような特殊な機能」とは何か。
  ・ノンカロリーはダイエットに好ましい。
 4)【L1】その情報によってぼ、人間はどんな葛藤をするのか。
  ・おいしいものを食べたいが美容や健康も捨てがたい
185)【L1】「まずい、もう一杯」というCMからわかることは。
  ・まずくても健康増進によさそうなものは平気で食べ続ける。
 6)【L1】本来、安全や健康や栄養といった情報は何のためにあるか。
  ・味覚による判断を補助するため。
 7)【L1】情報の爆発的な進化によって食生活はどうなったか。
  ・安全性は高まったが、味覚は鈍くなった。
  ・情報の発達と味覚の後退
197)【L1】本来の食品の受容性はどうあるはずだったか。
  ・食べることによって確認する。
 8)【L3】しかし、情報の進化はどのような影響を与えたか。
  ・食べることより、情報が重視される。
 9)【L1】どんな例が挙げられているか。
  ・ブランド食材
  ・ワイン
  ・品質表示
 9)【L1】その理由は。
  ・自分の舌に自信がないから。
2010)【L3】人間とは奇妙な動物であるとはどういう意味か。
  ・本来の動物は味覚の判断と栄養の判断で食べ物を選ぶが、人間は情報によって食べ物を選ぶこと。

第四段落(15〜20)
 
人間
  動物としての機能
  
味覚の判断
   
+葛藤
  
栄養の判断
   

  
情報の活用
  
(例)ダイエット=情報
      
おいしい=味覚○
       
⇔葛藤
      
美容や健康=栄養×
  
(例)「まずい、もう一杯」=情報
      
まずい=味覚×
       
⇔葛藤
      
健康増進=栄養○
  

 
情報→発達
  
味覚判断の補助
  
予備知識や事前調査
  

 
味覚→後退
  
味覚が鈍くなる
  
味覚に自信がない
  
(例)ブランド食材
     
ワイン
  

 
人間は奇妙な動物である
  
味覚や栄養より情報を重視する
4.まとめる
 ・人間は動物としての機能以上に情報によっておいしさを判断し、食生活に大きな影響  を及ぼしている。
5.次の設問に答えよ。
【L1】○×で答え、×の場合は修正する。【L2】文中から抜き出す。
第三段落(11〜14)
1)【L1】カロリーを補給すると執着が復活するという結果によって見直しを迫られるおいしさの概念とは、舌や口の中の感覚による判断である。●
・冒頭に述べられた、舌の感覚だけでなく口の中の機能で味わうことと一致する。
2)【L1】内臓からの味覚の判断と、舌からの栄養の判断の二種類の信号が、からだですり合わされ、合意した時、おいしいと記憶される。(舌・内臓・脳)
・二種類の判断が、ここで初めて言葉として定義される。
3)【L1】消化吸収によって生じる、味覚情報と栄養情報の時差は、栄養情報の短期記憶に  よって解消される。(味覚情報)
4)【L1】味覚の修正とは、おいしくないものを食べなくなることである。
(カロリーのないもの)
第四段落(15〜20)
5)【L1】人間は、おいしさを味覚と栄養と色彩によって判断する。(情報)
6)【L1】「まずい、もう一杯」というCMは、まずくても健康増進に役立つものは食べると言う、栄養による高度な判断基準の例を示している。(情報)
・「味覚情報以外に情報による高度な判断基準があるから」がヒントになる。
7)【L1】情報の発達と味覚の後退は、人間の食生活に大きな影響を与え、人類絶滅へとつながる。●
・動物は厳しい生存競争に勝ち抜き命を守るために、栄養のないものは食べない。
8)【L1】3601・3606「しかし」は、共に、味覚を補助するという情報の役割と、情報の発達による味覚の後退を対比している。●
・味覚による情報の補助と味覚が鈍くなったこと、情報の予備知識や事前調査としての役割と自分の舌に自信がないうしろめこさを対比している。
9)【L1】おいしさについて、動物は味覚の判断を最重視するのに、人間は栄養の判断を最 重視する。
(栄養・情報)
10)【L2】1)〜7)を、「味覚で味わう」(A)と「からだで味わう」(B)と「情報で味わう」(C)に分類せよ。2つ入るものもある。
 1)3405下おいしさ【A  】 2)3409おいしい【AB 】 3)3505まずい【B  】
 4)3514まずい【A  】 5)3611おいしい【C 】
11)【L2】キーワードを3つ。【味覚・栄養・情報】



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