環境問題への視点


 地球温暖化について科学的に理解したり解決したりするのは難しい。なぜなら、この問題のシステムは複雑であるからだ。科学にこだわるのでなく、生きものとしての人間の生き方の問題として考えなければならない。「生きる」を基本に置く価値観の社会を生み出さなければならない。
 人間も生きる過程を生命の歴史に求めなければならないのだが、科学文明技術を持つことによって大いなる発展をしてきたために、欲望を肥大させ、生命の歴史を無視しかねない。人体も複雑であり、科学のように一対一の因果関係でなく、全体のバランスが必要である。生きものとしての感覚による判断があった上で、科学や技術を生かさなければ意味がない。
 生命について考える時、生きものとの付き合いは長く、科学は近代になって生まれたものである。にもかかわらず生命危機に陥った理由は、「分かっているはず」と言う時の「分かる」と、二十一世紀という現代社会の中で言う「分かる」がずれているからである。現代の「分かる」は、因果関係を重視した科学的理解であり、客観的・論理的・共通理解・普遍的である。生命をすべて分かろうとして、分からないことを無理に科学的に分かったかのようにしてしまう科学万能主義である。それに対して、「分かっているはず」の「分かる」は、生きものは仲間であり人間もその一つであると言う日本古来の考え方である。日常感覚と一致した直感的理解である。生命について考える、考え続けることである。そのことが生きものへの親近感を生み、生命を大切にすることが分かってくる。


【指】指示。【説】説明。【注】注釈。【交】交流。【確】確認。【W】グループワークや心理テストなど。
【L1】抜き出す。【L2】縮めたり組み合わせたり言い換えたりする。【L3】解釈や想像。【L4】体験や知識。


1.【確】「学習プリント」の漢字を確認する。
 獲得 対処 既に 普遍 妥当
2.【確】「学習プリント」の語句の意味を確認する。
 科学 自然や社会など世界の特定領域に関する法則的認識を目指す合理的知識の体系または探究の営み。実験や観察に基づく経験的実証性と論理的推論に基づく体系的整合性をその特徴とする。
 局所 体の中のある限られた部分。
 ひもとく 書物を開く。本を読む。
 因果 原因と結果。
 客観的 特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。
 論理的 きちんと筋道を立てて考えること。
 普遍的 極めて多くの物事にあてはまるさま。
 直観的 推理などによらず、瞬間的・直接的に物事の本質を見てとるさま。
 万能 あらゆることにすぐれていること。なんでもできること
3.形式段落に、1〜18まで番号をつける。

第一段落

1.【交】1〜5をペアリーディングさせる。
2.【L4】地球温暖化について知っていることは。
 ・地球表面の大気や海水の温度が中長期的に上昇傾向にあるという現象。
・自然要因だけでは現在の気温の上昇は説明できない。
・要因として、人為的な温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)の放出。
・人為的な土地利用によるアルベドの低下、排気ガスなどのエアロゾルやスス。
・影響として、気温や水温を変化させ、海水面上昇、降水量の変化やそのパターン変化を引き起こす。
・洪水や旱魃、酷暑やハリケーンなどの激しい異常気象を増加・増強させる。
・生物種の大規模な絶滅を引き起こす。
・真水資源の枯渇、農業・漁業などへの影響を通じた食料問題の深刻化。
3.【L1】一般に言われている温暖化の原因は。
 ・二酸化炭素。
 【説】二酸化炭素は熱を放出しにくく、地表の温度が下がらない。
4.【L1】これが原因に特定できない理由は。
 ・非常に複雑なシステムがあり、一対一の関係ではない。
5.【L1】一対一の関係の考え方を何と言うか。
 ・科学的理解
6.【L1】科学的理解に対して、筆者が主張している方法は。
 ・自分の身近な植物がおかしい。                
 ・なにか生きものにとっておかしいことが起きているのではないかという感覚。
7.【L4】例えばどんなことがあるか。
 ・花の開花時期がおかしい。
 ・生態系が変わった。
 ・気象が異常である。
8.【L1】こういう考え方をまとまった表現で言うと。
 ・生きものとして人間の生き方の問題。
 ・「生きる」を基本に置く価値観。
 【説】「生きもの」という語に注目する。
9.【L4】その考え方に基づく、食べ物のつくり方、食べ方、捨て方とは。
 ・遺伝子組み替え、化学肥料、農薬。
 ・食べ残し、賞味期限、大量廃棄。
 ・洗剤の河川への垂れ流し、ゴミの弁別。
第二段落

0.【指】板書しないので、授業を聞いて自分でノートを組み立てる。
1.【交】6〜9をペアリーディングさせる。
2.【説】生命誌について。
 ・遺伝子の研究を通して、生命の進化の過程を明らかにする学問。
 ・生きものは長い生命の歴史の中に存在する。
3.【L1】生命誌の中では、「生きもの」はどのようにとらえられているか。
 ・生命の歴史の中で存在する。
 ・生命の歴史をひもとく。
4.【L3】「生命の歴史をひもとく」とは。
 ・生きものとして受け継がれてきた本来持っている感覚や本能を確かめる。
 ・何か問題が起こったら、過去にどうしてきたかを振り返る。
5.【L1】それに対して人間は。
 ・文化を持っている。
 ・育児にも新しい技術や新しい考え方を使う。
6.【L2】これらをまとめて何と言うか。
 ・科学技術文明。
7.【L1】科学技術文明の恐ろしさは。
 ・これを無視しかねない。
 【L2】「これ」とは。
  ・生命の歴史。
8.【L2】恐ろしい理由は。
 ・人間も生きもので、生命の歴史の中に存在するから。
9.【説】筆者は科学を全て否定していないことを確認する。
10.【L1】科学の問題点は。
 ・しばらくすると否定されることがある。
11.【L4】科学による育児や食事や教育の失敗例は。
 ・うつ伏せ寝、人工ミルク、早期教育、紙おむつ。
 ・ダイエット、納豆事件。
 ・ゆとり教育、詰め込み教育、小学校の英語。
12.【L1】科学が否定される理由は。
 ・機械に頼りすぎる。
 ・欲望を肥大させすぎる。
13.【L3】生命の歴史が否定されない理由は。
 ・既成の事実であるから。
14.【L1】人類の未来を明るくするには。
 ・科学技術文明とは違う価値観を持ち込む。
15.【説】温暖化の地球環境も生命誌の人体も複雑である。
 ・ここで、第一段落と第二段落が結びつく。
16.簡単な「一つの原因で一つの結果」を言い換えると。
 ・一対一の関係。
17.重要なのは何か。
 ・全体のバランス。
18.【L1】全体のバランスを手に入れるにはどうすればいいか。
 ・生きものとしての感覚を養う。
 ・その感覚で判断する。
 ・そのうえで、科学や技術を生かす。
 【説】ここでも「生きもの」がキーワードになっている。
 【説】生きものとしての感覚と科学技術を両立させる。
19.【L1】現代社会の問題を考える基本は。
 ・「生命」。
 ・「生きる」と言うこと。
20.【指】ノートを組み立てる。
21.【W】隣の人と交流する。第三段落

0.【指】次の指示によって自分でノートをまとめる。
 1)問題提起を探す。
 2)その問題が出てきた過程をまとめる。
 3)その問題の解決方法を、2つの考え方を対照的にまとめる。
1.【交】10〜18をペアリーディングさせる。
2.【W】各自でノートをまとめる。
3.【W】隣の人と交流する。
4.【指】ノートを回収し、評価する。
 ・優れたノートをコピーして配布する。第三段落

テーマ生命について
問題提起生命危機という状況になったのはなぜでしょう。
「分かっているはず」と言う時の「分かる」 現代社会の中で言う「分かる」   
・既にあった。







・生きものは皆仲間であり、人間もその一つ・日本古来の考え方
・日常感覚と一致
 ↓
・自分の行動に安心感
・直観的理解  自信がない

・分からなくたっていい
・生命について考える、考え続ける
・少しずつ分かる
・生きものへの親近感
・生命を大切にする
・近代になって生まれた。
・因果関係
・科学的理解
・客観的
・論理的
・共通理解
・普遍的
 ↓
・よいわかり方
・西洋文化の人間中心の考え方



・科学的理解  正しい
・無理に分かったようにしてしまう
・科学万能主義
・すべてを分かる
・生命を操作できる
・因果関係で分かる
2.【説】生命について考える。
3.【L1】「生きもの」と対照的なものは。
 ・自動車、テレビ。
4.【L2】両者の違いは。
 ・生きものは、人間が登場した時に既にあった。
  だから、よく分かっているはず。
 ・科学は、近代になって生まれた。
  科学的知識が必要。
3.【L1】問題提起は。
 ・それなのに、ここへきて、生命危機という状況になったのはなぜか。
 【L2】「それ」の指示内容は。
  ・生きもののことがいちばんよく分かっているはずであること。
 【L2】「ここ」の指示内容は。
  ・現在。
4.【L1】2つの「分かる」は。
 1)「分かっているはず」と言う時の「分かる」
 2)現代社会の中で言う「分かる」
5.【L2】第二段落の言葉で言い換えると。
 1)生きものとしての感覚
 2)科学的理解
6.【L1】2)科学的理解のキーワードは。
 ・因果関係
 ・客観的
 ・論理的
 ・共通理解
 ・普遍的
7.【L3】その反対語1)は。
 ・偶然的
 ・主観的
 ・感覚的
 ・個別理解
 ・特殊的
8.【L1】近年の生物の研究で分かったことは。
 1)生きものは皆、仲間であり、人間もその一つである。
9.【L1】西欧と日本の考え方の違いは。
 2)西欧は、人間中心。
 1)日本は、人間も生きものの一つ。
10.【L1】「愛の遺伝子」という言い方が好ましくない理由は。
 ・そう呼ぶにふさわしいものが見つかっていない。
 ・「愛」という複雑な感情を支配する一つの遺伝子はない。
 ・各人にとって大事で、それぞれを自分の中で育てている愛を遺伝子で理解すること自体がおかしい。
11.【L1】愛を遺伝子で理解しようとする考え方を何と言うか。
 2)科学万能主義。
12.【L2】言い換えている部分は。
 2)分からないことを無理に科学的に分かったようにしてしまう傾向。
13.【L1】生命について筆者の否定する考え方は。
 2)生命についてすべてを分かる。
 2)生命とは何かを科学的に理解し、生命を思うように操作できる状況を作る。
 2)因果関係で分かる。
14.【L1】生命について筆者の肯定する考え方は。
 1)生命について考える、考え続ける。
 1)少しずつ分かる。
 1)親近感を生み、生命を大切にするとはどういうことかがわかる。



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学習プリント
 

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学習の準備
1.次の漢字の読み方を書きなさい。
 獲得 対処 既に 普遍 妥当
2.次の語句の意味を国語辞典で調べて書きなさい。
 科学 局所 ひもとく 因果  客観的 論理的 普遍的 直観 万能 
学習のポイント
1.地球温暖化について基本的なことを理解する。
2.科学的理解の方法を理解する。
3.生きものとしての人間の生き方の問題の意味を理解する。
4.生命誌における人間と人間以外の生きものとらえ方の違いを理解する。
5.生命誌における筆者の考え方を理解する。
6.生きものとの付き合いは長いのに、生命危機と言う状況になった理由を理解する。
7.二つの「分かる」の違いを理解する。
8.「愛の遺伝子」の例で筆者の言いたかったことを理解する。
9.生命危機から抜け出す筆者の考えを理解する。