村上陽一郎
壮大なプログラム
科学技術の「進歩」を考えるのに、歴史的と今日的の視点を設ける。歴史的とは縦の時間の流れであり、通時的視点である。今日的とは横の空間の広がりであり、共時的視点である。ほとんどのものが、この二つの視点で全体像が明らかになる。
まず、「進歩」という「 」付きの個人言語の定義から始まる。定義するために類似した「改良」という言葉と対比させるという手法を取る。「改良」は個別的な技術で、具体的な目標に縛られ、目標を達成するための簡単で効率的で安全な方法・手段が一義的に決まるものである。部分ごとの個別の変化である。それに対して「進歩」は、そうした個々の場面を包摂する全体的な文脈を問題にする。全体的な方向性を示す。
こうして「進歩」を定義した上で、「進歩」の歴史的な経過から考えていく。第一の成立要件は、個別的な技術から、科学と結びついた一つの社会制度に変革したことである。人間の知的好奇心を満足させる知的営為から、得た知識を自然の支配と制御に用いるか壮大な全体的技術のプログラムへの変化と言い換えることができる。
救済史観の変遷
第二の成立要件は、神から人間へという「世俗化」現象である。中世のキリスト教の救済史観は、人類の歴史は神によって作られ、最後は神の審判と救済が待っているというものであった。救われれば喜び、救われなければ初めは神に怒りを感じるが、やがて自分の至らなさを後悔するように仕向けられ、最終的にはそうしたことまで見通す神に畏敬の念を抱かせるというペテンの仕組みである。
それに対して、フランス革命によって、キリスト教と相互扶助関係にあった絶対王政から、一部のブルジョワとはいえ一般市民に権力の中心が移った後期近代ヨーロッパの救済史観は、自然の支配や歴史の主人公が、「科学」によって、神から人間に移動した。ここで言う「科学」とは、自然を人間にとって都合よく支配する為の手段である。「救済」とは、人間自らが人間を悲惨と病苦から救い出し、未来の現世に天国を創出するというものに変遷した。その実現のために、科学技術と、旧時代の政治的社会的宗教的桎梏の革新を標榜した。
神による救済を標榜した中世を無視したフランス百科全書派の哲学者や、中世の歴史のないアメリカ新大陸に理想の王国建設を夢見た人々も、人間の手による救済のプログラムの実現にのみ奔走した。
世界観としての位置
このような歴史観・世界観・科学観の中で、理念としての「進歩」が登場する。それは個別的な場面での改良ではなく、全体的な世界観の中で位置づけられた概念である。「進歩」は今日まで自明の真理と見なされてきたが、次第に疑問符が投げかけられるようになる。その最大の原因は、近代西欧の「救済」の定義が自明性を失ったことである。人類は科学によって、多くの食糧、労苦の少ない労働、便利快適な生活、長生きを現実化した。悲惨と病苦からの解放とうい当初の救済は実現し、そこには天国が創出するはずであった。ところが、一方現実化した地域はそれによって失われたものを回復することに新たな「救済」に進歩を求めるようになった。他方実現化が遅れている地域は、かつての「救済」に進歩を託している。
南北の食い違い
今日的な視点で科学技術と「進歩」を考えた時、南北の格差に気づく。北は、科学技術の「進歩」による「恩恵」を享受する段階から、支払った代価をいとおしみ始めた。「恩恵」とはいいながら、環境破壊によって未来を危うくするという代価を支払っていることにようやく気づき始めた。しかし、南はようやく、代価を支払ってでも、「進歩」を手に入れようとする。このような北と南のライムラグが問題になる。
北は人類の歴史の主体者として、科学技術の自然の支配と制御による、人類の悲惨と病苦からの解放という「救済」の自明性を疑い始めた。科学技術による環境破壊などを考えると必然的な流れである。しかし、そこには根本的な問題が3つある。
第一に、北が従来の「進歩」が間違いであるという主張を広めることが利己主義であるという点である。もし南が北と同じ「進歩」を望めば環境が破壊され地球は破産する。しかし、「進歩」の「恩恵」を十分に享受した北が、まだ「恩恵」を享受していない南に「自然環境」を「開発」で破壊してまで「進歩」を望むなと求めることは利己主義以外の何ものでもない。
第二に、「人類が歴史の主体者であり人類の未来を創造する」という世界観が正しくないと証明されたわけではない点である。正しい面もあるのに全否定してしまうことへの危うさである。それは、その世界観を自明の真理と妄信したのと同じ過ちを犯すことになる。二者択一ではなく、個別的に検証する必要がある。もしここで科学技術を放棄するとしたら、南は貧困と病苦と過酷な労働から解放されることなく、北は科学が犯した生態学的な危機を乗り越えることをあきらめたことになり、科学を押し進めてきた人間は満足できないだろう。
それだけではなく、人間は人類の未来に責任を負う義務が与えられているはずであり、そうした義務の中で「進歩」を目指すことを全面的に非難することはできない。それは責任放棄である。また、科学技術の成果をすべて同等に否定することは利益のある方法とは思えない。科学技術のもたらしたプラスの面にも注目すべきである。そうした単純な発想が危ういのである。(それを助長するのが愚かなるマスコミである。)
自然の流れの中に
第三は、人類も自然の導く流れの外にはあり得ないことである。確かに、人間が自分たちに都合よく自然を支配する自由度は大きい。もし、生物学的な「種」が、「同一の行動様式を持つ固体の集合」と定義されているならば、人間の文化を一つの「種」とみなすことができる。人間全体というよりも、それぞれの文化を持つ民族や文化圏が一つの「種」を形成し、地球上にいくつのも「種」が共存していると言うことができる。とするならば、人間は、同一の行動様式を持つ「種」を自らの選択によって自由に決定できるかといえば、明らかにそうではない。人間と自然は切り離せない一体のものであり、人間が自然を支配し制御しているようでありながら、それは自然に強く制限されているのである。
二つの力の緊張関係
我々の現在は、過去に強く制約されて成り立っている。その歴史から自由な人間という概念はありえない。我々は、未来を選ぼうとする主体的な努力と、それに対する規制として働く歴史の力との緊張関係の中にある。過去の制約の中で未来を志向するのである。このことは当たり前ではあるが、忘れられがちである。
歴史の規定性の積み重ねの中で人類は変化を遂げ、今後も現在を歴史化しながら変化する。その変化を「進歩」と呼ぶかどうかは言葉の問題である。要は、緊張関係の把握に出発点を置けるか否かである。
0.形式段落に1〜26の番号を付ける。
1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.漢字の読み方を確認する。
2 隔絶 3 包摂 4 興った 営為 制御 趣意 5 悔い 6 交替 7 都合
8 妨げ 桎梏 標榜 9 就いた 発露 10 自明 11 仮託 12 既に 轍
14 瀕する 16 放擲 17 等し並み 得策 18 証左 21 人為 22 刻印 画餅
有り様 23 遂げる
3.語句の意味を確認する。
3一義的 | 意味が一種類だけであるさま。一つの意味にしか解釈できないさま。 | |||
包摂 | 一定の範囲の中につつみ込むこと。 | |||
4要件 | 必要な条件。 | |||
営為 | 人間が日々いとなむ仕事や生活。 | |||
制御 | 相手を押さえて自分の思うように動かすこと。 | |||
趣意 | 物事をなすときの考えやねらい。また、言わんとする意味。 | |||
5理念 | ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え。 | |||
世俗 | 俗世間。また、俗世間の人。世の中の風俗・習慣。世のならわし。 | |||
史観 | 歴史を全体的に把握し、解釈するときの基礎的な立場・考え方。歴史観。 | |||
8桎梏 | 人の行動を厳しく制限して自由を束縛するもの。 | |||
標榜 | 目じるしとして立てる立て札。 | |||
9発露 | 心の中にあるものや隠していたことがおもてに現れ出ること。 | |||
10自明 | 特に証明などをしなくても、明らかであること。わかりきっていること。 | |||
11仮託 | 他の物事を借りて言い表すこと。 | |||
依然 | もとのままであるさま。 | |||
12享受 | 受け入れて自分のものとすること。 | |||
轍 | 車が通ったあとに残る輪の跡。 | |||
14瀕する | ある重大な事態に今にもおちいろうとする。 | |||
16放擲 | 投げ出すこと。 | |||
英知 | すぐれた知恵。深く物事の道理に通じる才知。 | |||
17等し並み | 同じ扱いをすること。 | |||
得策 | 利益のあるはかりごと。うまいやりかた。 | |||
18多様 | いろいろと種類の違ったものがあること。 | |||
証左 | 事実を明らかにするよりどころとなるもの。証拠。 | |||
21所産 | ある事の結果として生み出されたもの。 | |||
人為 | 人の力で何かを行うこと。人のしわざ自然の状態に人が手を加えること。 | |||
22刻印 | 刻みつけること。 | |||
画餅 | 絵にかいたもち。実際の役にたたないもののたとえ。 | |||
有り様 | 物事の状態。ありよう | |||
楽観的 | 物事をうまくゆくものと考えて心配しないさま。 |
第一段落 壮大なプログラム 板書
1.評論全体の視点について(1)
1)科学技術と「進歩」の問題を考える「二つの視点」を読み取る。
・歴史的
・今日的
2)それぞれどういう意味かを考える。
・歴史的=通時的。縦の時間の広がり。
・今日的=共時的。横の空間の広がり。
3)「今日的」の留保条件を読み取る。
・「今日」は過去の「歴史」を背負っているので、切り離せない。
・横糸と縦糸の関係。
2.進歩の定義について(2〜3)
1)「進歩」と対比されているものを読み取る。
・改良。
2)「進歩」と「改良」の違いを読み取る。
1)改良=個別的な技術
具体的な目標
簡単で効率的で安全な方法・手段
2)進歩=全体的な文脈
2)改良の「方法・手段」が、簡単で効率的で安全に「一義的」に定義できる理由を考える。
・一義的=意味が一種類だけであるさま。一つの意味にしか解釈できないさま。
・目標が具体的なので、達成するための方法が、簡単で、能率的で、リスクが少なく、一つに定まる。
3)今日の技術革新の改良の具体例を考える。
・テレビ、コンピュータ、ケータイ、デジカメなど。
4)その特徴を考える。
・部分的に少しずつよくなっている。
・機能が向上している。
5)「全体的な文脈」とは何か考える。
・文脈=ある一貫した関係性。
・個々の部分的な変化ではなく、長期的な大きな目的や方向性。
3.進歩の歴史的経過について(4)
1)進歩が全体的な文脈の中で姿を現すのはいつか読み取る。
・近代科学が十七世紀にヨーロッパに起こった時。
2)どんなことか起こったのか説明する。
・ガリレオ
・天動説から地動説を主張。
・天の川が無数の恒星の集合であることを発見。
・ピサの大聖堂で揺れるシャンデリアを見て、振り子の等時性を発見。
・ピサの斜塔の頂上から大小2種類の球を同時に落とし、両者が同時に着地するのを見せた。自由落下するときの時間は、落下する物体の質量には依存しない。
・パスカル
・「人間は考える葦である」
3)進歩が姿を現す経過の第一の成立要件を読み取る。
・技術が個別的な場面から、科学と結びついた社会制度への変革。
4)「個別的な場面」「科学と結びついた社会制度」の言い換えを読み取る。
・個別的な場面=知的営為。
・科学と結びついた社会制度=知識を自然の支配と制御に用いた壮大な全体的技術のプログラム。
5)「知的営為」とはどんなものかを読み取る。
・人間の好奇心を満足させるもの。
・知識を獲得することだけを目的にする。
・クイズ的な知識。断片的な知識。単なる物知り。
・得た知識を生活の役に立てられない。
6)得た知識を用いた自然の支配や制御の例を考える。
・森林の伐採。ダム建設。
第2段落 救済史観の変遷 板書
1.中世の救済史観について(5)
1)「進歩」の第二の成立要件を読み取る。
・「世俗化」現象。
★「世俗化」とは何かについて、救済史観によって考える。
2)伝統的なキリスト教の歴史観を読み取る。
・救済史観。
3)それはどのようなものか読み取る。
・人類の歴史は神によって作られ、最後は神の審判と救済が待っている。
・「最後の審判」
・世界の終末においてメシアが出現し、死者をよみがえらせて裁きを行い、永遠の生命を与えられる者と地獄へ墜ちる者とに分ける、という思想
4)その終末はどのようなものか読み取る。
・救いの喜びと怒りと恐怖。
5)「救いの喜び」はわかるが、「怒りと恐怖」が起こる理由を考える。
・自分の思い通りにならない怒り。
・人間の意志や能力を超えた力が運命に弄ばれる恐怖。
2.後期近代の救済史観について(6〜8)
1)後期近代ヨーロッパについて解説する。
・フランス革命以後。
・絶対王政を倒した市民革命。
2)何がどのように変化したか読み取る。
・自然の支配者が、神から人間に移った。
・歴史を導く主役が、神から人類へと交替した。
・神から人間へ。
3)この現象を何というか読み取る。
・世俗化。
3)この変化を助けたものを読み取る。
・科学。
4)科学とは何か定義を読み取る。
・自然を人間にとって都合よく支配していくための手段。
・今まで自然は神が作ったものであり、人間の力が及ばないものと考えられていた。しかし、人間は科学の力によって自然を変える力を得た。
5)近代的な救済とは何か読み取る。言い換えも読み取る。
・人間が人間を悲惨と病苦から救う。
・未来の現世に天国を創出する。
6)「天国」とはどんな世界を考える。
・悲惨や病苦がない世界。
7)その実現のために標榜するものを読み取る。
・科学技術。
・旧時代の政治的=社会的=宗教的桎梏の革新。
8)「旧時代の政治的=社会的=宗教的桎梏」とは何かを考える。
・絶対王政。
・封建制。
・キリスト教の神への服従。
3.近代の指導的理念について(9)
1)どんな立場があるかを読み取る。
・フランス百科全書派
・アメリカ新大陸建設者
・フランス革命
・ユートピア思想
2)それぞれについて説明する。
・百科全書=フランス革命前に当時の学問と技術との集大成を実現した一代出版事業。
・アメリカ新大陸=ピューリタンがメイフラワー号で北アメリカに移住した。
・ユートピア思想=中世の暗黒時代から理想的な社会を目指す考え方。
3)かれらの共通点を読み取る。
・歴史の主人公についた人間が救済プログラムを実現する。
4)なぜそのようなことを考えるようになったのかを考える。
・神から人間による救済史観に変わったから。
第3段落 世界観としての位置 板書
1.「進歩」の理念の変化について
1)このような歴史観・世界観・科学観とは何か、今までの部分からまとめて考える。
・近代科学の発達によって、神から人間中心の世界観に変遷した。
2)そのような世界観が「自明」であったことを確認する。
3)そうした全体的な文脈の中から「進歩」が登場し、自明性を持っていたことを確認する。
4)西欧近代の世界観が自明性を失うとどうなるかを読み取る。
・「進歩」の理念も疑問符を投げかけられる。
★前提が崩れると結果も変わる。
5)世界観が自明性を失った最大の要点を読み取る。
・「救済」の定義。
6)従来の世俗化された「救済」の内容を読み取る。
・より多くのパンを。飢えからの救済。
・より労苦少ない労働を。苦役からの救済。
・より便利快適な生活を。不便からの救済。
・より長生きを。病苦からの救済。
7)それぞれ具体的に考える。
8)夢に見てきた救済が科学技術によって現実化したことを確認する。
9)新たな「救済」とは何か読み取る。
・失われたものを取り戻す。
10)失われたものとは何かを考える。
・自然。
11)こうした新たな救済を求める人々はどういう国の人かを考える。
・先進国。
・科学技術によって十分に救済された人々。
12)しかし、まだ従来の世界観の救済をされていない人々の存在とその望んでいるものを確認する。
13)視点が、歴史的な視点から今日的な視点に変わることを確認する。
1.後半を大づかみにする。
2.前半の、「進歩」の歴史的視点をまとめる。
1)技術が個別的な場面から、科学と結び付いた一つの社会制度へと変革したこと。
2)「世俗化」の現象。
神から人間へ
3.後半の、「進歩」の今日的視点について考える。
1)南北の格差が問題になるが、その根本問題を3つ抜き出させる。
・「第一」「第二」「第三」という語に注目する。
2)不要な部分を削り、大切な部分を指摘して、短くまとめる。
1)今ここで北が、これまでの「進歩」は間違っていたと主張(することは)し、その主張を地球上に──かつて科学技術による「進歩」を地球上に普及拡大することを自明の善と信じたように──広めようとすることは、著しい利己主義(である)になりかねないという点。
2)人類こそ歴史の主体者(という)であり、人類の未来を創造するものである、というヨーロッパ近代の世界観(が)そのものが、正しくない、ということは、今日の地球の生態学的危機においても証明されたわけではない、という点
3)人類もまた自然の導く(あえて神の導くと言わないまでも)流れの外にはあり得ない、ということの認識
第4段落 南北の食い違い 板書
1.歴史的な視点から、今日的な視点で考えることを確認する。
2.第一の根本的な問題について(12〜14)
1)今日的な視点で問題になることを読み取る。
・南北の格差。
2)南北の具体的な国名と共通点を考える。
・北=アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国。先進国。
・南=アフリカ、南アメリカ、(オーストラリアは除く)。発展途上国。
3)北の「進歩」の状態を読み取る。
・科学技術の「進歩」による「恩恵」を享受する段階を終える。
・「恩恵」を手に入れるために支払った代価をいとおしみ、懐かしがる段階が始まる。
4)どんな代価を支払ったかを考える。
・資源を大量に消費した。
・自然環境を破壊した。
5)「いとおしみ、なつかしがる」とはどうすることか考える。
・昔はよかったと単純に回顧する。
5)「「恩恵」を手に入れるために支払った代価をいとおしみの段階が始まる」の言い換えを13から読み取る。
・科学技術によって人類の「救済」を実現してきた意味の自明性を疑う。
6)それが自然な成り行きであることを確認する。
★歴史的に過去の失敗を振り返る。
7)南の「進歩」の状態を読み取る。
・「進歩」を自らのものにしようとする。
8)そこに生じる第一の根本的な問題を読み取る。
・「進歩」の間違いを主張し広めることは利己主義であること。
9)「利己主義」である理由を読み取る。
・北が「進歩」の「恩恵」を享受しておきながら、南に「進歩」の「恩恵」を望むなと求めているから。
10)なぜ北が南に「恩恵」を望むなと求めるのか読み取る。
・自然を開発することで環境が破壊され、地球が破産に瀕するから。
★歴史的な教訓から、今日的な失敗を未然に防ぐため。
3.第二の根本的な問題について(15〜17)
1)第二の根本的な理由を読み取る。
・人類こそ歴史の主体者であり、人類の未来を創造するものであるという世界観が正しくないと言うことが証明されたわけでないこと。
★二重否定を確認する。全否定できない。正しい面もある。
★白か黒か、オール・オア・ナッシングの考え方を改める。
2)「人類が自らの意志によって未来を選び創出しようとすることをやめるとは、南北ではどういうことか、読み取る。
・南は、人々を貧困と病苦と過労な労働から解放しようとする努力を放擲すること。
(貧しいままにしておくこと)
・北は、今日の生態学的な危機を乗り越えるための英知を結集することを怠ること。
(環境が破壊されるままにしておくこと)
3)「生態学的な危機」とは何かを考える。
・食物連鎖などの生態系の秩序と調和が崩れそうになっていること。
4)人間はそれで満足できない理由を考える。
・科学を棄てることができないから。
・自分で犯した過ちを自分の責任で回復しようとするのが本来の姿である。
5)自己満足だけでなく、どんな義務が与えられているか読み取る。
・未来に責任を負う義務。
・責任放棄は許されない。
6)どうするべきか考える。
・「進歩」を全面的に否定しない。
・科学技術の成果をすべて否定しない。
・進歩や科学のプラス面も評価する。
・単純な発想に陥らない。
第5段落 自然の流れの中に 板書
1.第三の根本的な問題について1(1819)
1)第三の問題を読み取る。
・人類も自然の導く流れの外にはあり得ないという認識。
2)論法に注意する。
・「確かに」で、予想される反論を挙げ、「明らかにそうではない」でそれに反論する。
3)予想される反論を読み取る。
・人間に与えられた生物学的な自由は大きい。
4)「生物学的な自由」とは何かを読み取る。
・自然によって規定された生きていくための条件を、様々な工夫で乗り越えていく度合い。
・細菌さえ生息しなかった極地で暮らすことができること。
・文化的に極度に多様化できること。
5)「文化的な多様化」とは何かを考える。
・自然の厳しい条件の中でさまざまな工夫して乗り越えてきた所に生じるのが文化であり、それが多くあること。
6)生物学的な「種」について説明する。
・生物分類の基本的単位。特徴の共通点や分布域、遺伝子組成など。
・たとえばミカンの木につく青虫を育てれば、そこから出てくるチョウチョは、黄色のまだらのものか、真っ黒の羽根のものかである。前者はアゲハチョウで、後者はクロアゲハであるが、それらは色だけでなく、羽根の形や幼虫の姿でも少し異なっている。また、このような形質は、世代を越えて維持される。
7)「同一の行動様式」とは何かを読み取る。
・文化。
8)「文化」によって種を分類すればどうなるか読み取る。
・さらに、民族とか文化圏によっていくつもの「種」が共存する。
9)「これは人間の持つ極めて高い自由度の証左の一つになる」理由を考える。
・生物学的な「種」まで自由に作り出せるから。
★ここまで、人間の自由度の大きさという反論を補強する形で考えてきた。
2.第三の根本的な問題について2(2021)
1)「では」で反論の反論に入るきっかけになっていることを確認する。
2)ここまでの論点を整理する。
・人類に与えられた自由度は高い。
・その高い自由度によって、行動様式の違いから文化を作ってきた。
・文化は人為的営為である。
3)これらのことを前提として立てられた仮説を読み取る。
・「種」としての存在様式を自由に決定できるか。
4)その答えを読み取る。
・明らかにそうではない。
5)そうではない理由を読み取る。言い換えを読み取る。
・人間の文化は自然の所産であるから。
・自然を離れた純粋に人為としての人間は存在しないから。
・人間から切り離された純粋な自然は存在しないから。
・文化の歴史は自然の歴史であるから。
6)自分の言葉で考える。
・文化とは自然を乗り越えることによって生じる。
・だから、文化は自然と無関係に存在しない。
・また、自然も人間が関わる以上なんらかの文化の影響を受ける。
・だから、自然は人間の文化と無関係に存在しない。
第6段落 二つの力の緊張関係 板書
1.まとめについて(2223)
1)別の言い方をするとどうなるか読み取る。
・現在は、過去の歴史を刻印されて初めて成り立つ。
2)「現在」の様子の言い換えを読み取る。
・未来を選ぼうとする主体的な努力。
3)「過去の歴史」の力を読み取る。
・ある規制として働く歴史の力。
4)この二つの力の緊張関係にあることを確認する。
・未来へ伸びようとする力と、過去に縛りつけようとする力。
5)楽観的な未来論者、単なる悲観的反科学論者、ロマンチックな反進歩論者とはどんな人かを考える。
・楽観的な未来論者=何の根拠もなく未来は明るいと考える人。
過去の歴史の積み重ねを問題にしていない。
・単なる悲観的反科学論者=科学が自然を破壊してきただけであると考える人。
科学の利点を考えない。
・ロマンチックな反進歩論者=進歩をやめて昔に帰ることが理想であると考える人。
6)「同一の誤り」とは何かを考える。
・歴史の規定性を否定的にばかり解釈する。
7)それが誤りである理由を読み取る。
・歴史の規定の積み重ねの中で人類は変化を遂げてきた。
・今後も現代を歴史化しつつ変化していく。
8)自分の言葉で考える。
・過去に規定されるだけでなく、それを乗り越えて変化してきた。
・過去の規制と、未来を選ぼうとする努力の緊張関係が出発点になる。
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点検日 月 日
組 番 氏名学習の準備 1.読み方を書きなさい。 2 隔絶 3 包摂 4 興った 営為 制御 趣意 5 悔い 6 交替 7 都合 8 妨げ 桎梏 標榜 9 就いた 発露 10 自明 11 仮託 12 既に 轍 14 瀕する 16 放擲 17 等し並み 得策 18 証左 21 人為 22 刻印 画餅 有り様 23 遂げる 2.語句の意味を調べなさい。
学習のポイント 1.科学技術と「進歩」を考えるための二つの視点を理解する。 2.「改良」と「進歩」の違いを理解する。 3.「進歩」の歴史的な経過の、第一の成立要件を理解する。 4.第二の成立要件である「世俗化」を理解する。 5.「救済史観」の変遷を理解する。 6.近代的「救済史観」が自明性を失った理由を理解する。 7.今日的な視点で科学技術と「進歩」の第一の問題である南北の格差を理解する。 8.第二の問題である近代的な世界観の自明性の再考を理解する。 9.第三の問題である人類もまた自然の導く流れの外にはあり得ない認識を理解する。 10.未来を選ぶ主体的な努力と規制としての歴史の力との緊張関係を理解する。 |
壮大なプログラム ・科学技術と「進歩」 ・歴史的=通時的。縦の時間の広がり。 ・今日的=共時的。横の空間の広がり。 ┌改良=個別的な技術 │ 具体的な目標 │ 簡単で効率的で安全な方法・手段 └進歩=全体的な文脈 ・長期的な大きな目的や方向性。 ・進歩の経過 十七世紀 近代科学がヨーロッパに起こる 第一技術が個別的な場面 │・知的営為=人間の好奇心を満足させるもの ↓ 科学と結びついた社会制度 ・知識を自然の支配と制御に用いた壮大な全体的技術のプログラム 救済史観の変遷 第二「世俗化」現象 ・救済史観 ・人類の歴史は神によって作られ、神の審判と救済が待つ ↓ 救いの喜びと怒りと恐怖 ・自然の支配者が、神から人間に移った ・歴史を導く主役が、神から人類へと交替した ‖ ・「世俗化」 │科学=自然を人間にとって都合よく支配していくための手段 ↓旧時代の政治的=社会的=宗教的桎梏の革新 ・人間が人間を悲惨と病苦から救う ・未来の現世に天国を創出する 世界観としての位置 ・「進歩」の理念の変化 ・近代西欧の歴史観・世界観・科学観=自明性 ・近代科学の発達によって、神から人間中心の世界観に変遷した。 ↓ ・「進歩」=自明性 ↓ ・従来の「救済」 ・より多くのパンを。飢えからの救済。 ・より労苦少ない労働を。苦役からの救済。 ・より便利快適な生活を。不便からの救済。 ・より長生きを。病苦からの救済。 ↓ ・科学技術の進歩により現実化した人々=先進国 ・「進歩」によって失われたものを取り戻す ・自然。 ↓↑ ・従来の世界観の救済が実現されてない人々=後進国 南北の食い違い ・今日的な視点 ・南北の格差。 ・北 1)科学技術の「進歩」による「恩恵」を享受する段階を終える。 2)支払った代価をいとおしみ、懐かしがる段階が始まる。 ・資源を大量に消費した。 ・昔はよかったと単純に回顧する ・自然環境を破壊した。 科学技術によって人類の「救済」を実現してきた意味の自明性を疑う。 ‖ 歴史的な反省 ・南 2)「進歩」を自らのものにしようとする。 ↓ ・第一の問題 ・北の利己主義 ・「進歩」の「恩恵」を享受する ・「進歩」の「恩恵」を望むなと求める ・環境が破壊され地球が破産に瀕する ★歴史的な教訓から、今日的な失敗を未然に防ぐため。 ・第二の問題 ・世界観が正しくないと証明されたわけではない ・人類こそ歴史の主体者 ・人類の未来を創造するものである ・南=人々を貧困と病苦と過労な労働から解放しようとする努力 ・北=今日の生態学的な危機を乗り越えるための英知を結集 ↓ ・人間は満足できない ・科学を棄てることができない ・未来に責任を負う義務がある ↓ ・「進歩」を全面的に否定しない。 ・科学技術の成果をすべて否定しない。 自然の流れの中に ・第三の問題 ・人類も自然の導く流れの外にはあり得ないという認識。 「確かに」=反論 ・人間に与えられた生物学的な自由は大きい。 ↑ ・細菌さえ生息しなかった極地で暮らすことができた。 自然の厳しい条件 様々な工夫で乗り越えた ↓ 文化的な多様化 「もし」=仮定 ・「種」の定義=同一の行動様式を持つ個体の集団 文化=人為的営為 ↓ ・民族や文化圏によっていくつもの「種」が共存する。 ↓ ・「種」としての存在様式を自由に決定できるか。 ↓ ・明らかにそうではない。 ・人間の文化は自然の所産であるから。 ・自然を離れた純粋に人為としての人間は存在しないから。 ・人間から切り離された純粋な自然は存在しないから。 ・文化の歴史は自然の歴史であるから。 二つの力の緊張関係 ・現在は、過去の歴史を刻印されて初めて成り立つ。 ・未来を選ぼうとする主体的な努力。 ・ある規制として働く歴史の力。 ↓↑ ×歴史の規定性の否定 ・歴史の規定の積み重ねの中で人類は変化を遂げてきた。 ・今後も現代を歴史化しつつ変化していく。 |