大きなプロットは、
 何もない砂漠の中で生まれた抽象な「アラビア文字」文化圏と、豊かな自然の中で生まれた具象的な「サンスクリット文字」文化圏。自然豊かな国だったかつての日本は「サンスクリット文字」文化圏に属していたが、産業構造の大変動で外部に規範のない商品社会に変貌した現在の日本は、「アラビア文字」文化圏的なものに変質しなければならない。
 キーワードの言い換えは、
 「アラビア文字」は、イスラム世界・イスラム教(徒)。
 「サンスクリット文字」は、インド゙ヒンドゥー語(文字)・ヒンドゥー教(徒)。
 筆者とアラビア文字との出会いは、シリア砂漠に撮影に行った時に、村の長老に、砂の上に自分の名前をアラビア文字で書いてもらった時である。その時、「雲のような」「砂丘の風紋のような」形態のアラビア文字は、「イスラム地方の広大な砂のキャンパスに描かれたことに始まり、そして砂をキャンパスとして描くにふさわしい形へとフォーマライズされた」と「小さな発見」をする。「通説」では、アラビア文字は「石や金属」に描かれたらいしが、「歴史学者は、古代のアラビア人が砂に描いたかもしれぬ古代アラビア文字はけっして見ることができない」ので、この発見は「魅惑的」である。
 砂に描かれたという印象だけでなく、アラビア文字そのものの持つ形態も「抽象的」で、「物質とは遊離した、『声』や『魂』あるいは『精神』を形象化したもの」のように見える。「一定の形をとどめず、常に変転として移ろう」「砂漠や半砂漠」の「イスラム世界の風景ほど抽象的なものはな」く、「もし、そこで人間が自己を維持していくには“意識”というもう一つの抽象しか残されていない」。
 インド大陸のサンスクリット文字は、「曲線の上下にすべて一定の直線が描かれる」「地平線が現れる」印象がある。つまり、「具体的な生命力が宿る」「動かぬ大地」が現れたのである。さらに、中国大陸の漢字は、「目の前の具体的な自然物を写実した形象文字である。このように、文字の形態の変容は、「自然の変容に、あるいは自然の豊かさの変容に依拠しながら変容するもの」である。
 これは、宗教的偶像の有無にも関連する。
 イスラム教は「偶像という具体物を信仰の対象としない偶像否定の宗教」であるのに対し、ヒンドゥー教は「無数の偶像を頂く偶像崇拝の宗教」である。偶像を「さまざまな自然の形の様式化」と解釈するなら、ヒンドゥー教は「自然を規範とし、その中に律を求めた宗教」であり、イスラム教は「抽象的自然の中で人間が編んだ戒律を規範とする宗教」である。
 ヒンドゥー教は「理念よりも身体感覚を優先させた性質の宗教」でありえた理由は、「インド亜大陸に生命豊かな自然が存在していた」からである。生命や自然は、「生命を正常に維持するための自然科学的な構造をあらかじめ内包しており、その構造を尊び、学び、準拠することによって人間生活をおのずから正常に律せられていった」のである。
 イスラムの自然には「体で知るべき、生命や自然の規範が乏しい」。その中で人が自己を律するには「人間の知恵や心といった形のない『内なる自然』より出た規範に身をゆだねる」ことになる。したがってイスラム教は「理念の宗教」になる。
 このことは「コーラン」に顕著である。「コーラン」は、激しい怒りと数々の戒めによって人間とその生活を次々と律していく」。それは、「間違いを犯しやすい人間という抽象的動物が抽象的な環境に置かれたとき、そこではより単純明快で強力な法規」が必要になるからである。
 日本は、「自然の生命力は驚くほどある」のでヒンドゥー教徒の範疇である。「豊かな自然の中で農耕を営んできた」日本人は、「自然科学の中に潜む道徳を体で学び、それによって生命体としての自己を律してきた」。つまり、「農業とは広義の意味で宗教」であり、これまでの日本人は「自然という外部に自らを律せられ、甘え、それにおすがり」していればよかった。
 しかし、日本の産業構造が農業から工業に大変動し、外部である自然が消え、それと交わる日常生活が消え、「人間の欲望を律するのではなく、無限に喚起する商品社会」に取って代わられた。「なんら規範のない、そして無限の蕩尽と消費をよしとする商品社会の中で、外部を無差別に受けいれていく昔からの身体性のみが居残ってしまった」。
 現代の日本は「イスラムの砂漠的環境」と似ている。イスラム民族が「理念や知恵によってその抽象的環境を克服した」ように、「ヒンドゥー教徒からイスラム教徒的なるものへ変質しなければならない」。
 日本人は「規範や律という人間が生きていく上で不可欠な超自我的なものを失って、右往左往している状態」である。その中で、「イスラム教的なる抽象教義」が現れているが、正しい知恵ではなく、「暴力的な戒律である校則」や「血の通わない無機的な戒律であるマニュアル化社会」や「極度にキッチュな宗教」が氾濫し、いともたやすく洗脳される人が多い。

 授業では、アラビア文字とサンスクリット文字の形状の比較から始める。インターネットで自分の名前をアラビア文字にするサイトがあるので活用する。漢字の成り立ちについても、いくつかの象形文字を見て考える。そうした「具体的」な所から入って、論理という抽象的なものを追究していく。
 まず、大づかみに、アラビア文字(イスラム教)的なものとサンスクリット文字(ヒンドゥー教)的なものの比較から、日本の昔と現在の規範意識について考えていくというプロットを理解する。
 次に、イスラム教が、砂漠という無味乾燥な抽象的な風景の中で、みずからを律する性格を帯びてきたこと。ヒンドゥー教が、豊かな自然という具象的な環境が人間を律してくれるという性格を帯びたことを抑える。
 そして、農業を営んでいた昔の日本は、ヒンドゥー教的で、自然が自分を律してくれたが、商品社会に変容した現在の日本では、イスラム教的な抽象的な理念や知恵によって自らを律していかねばならないことを確認する。
 文と文の内容的なつながりと、個々の文の意味を分かりやすく考えていく。


全体把握

1.イスラムについて連想すること、知っていることを列挙させる。
 ★出てきたものをA4の紙に書き、マグネットで黒板に貼り、似た物をまとめていく。
 ★文字、自然、宗教、風習、戒律など、後の展開の中で考える材料を集める。
 ★イラク戦争やテロの問題など、タイムリーなものなども多く出るだろう。
2.小段落毎に、1〜24まで番号を付けさせる。
3.全文を黙読させ、大切と思う箇所に線を引かせる。(12分間)
4.おおまかな要旨を50字以内でまとめさせ、初発の段階での感想や意見を書かせる。
 ・1)アラビア文字と2)ヒンドゥー文字を比較し、3)自然や4)宗教と関連させ、5)現代日本の規範について考える。(45字)


第一段   板書

0.学習プリントを配布し、読みと語句の意味調べさせる。
1.読みを確認する。
2.語句の意味を確認する。
3流麗 よどみがなく美しいようす。                     
 風紋 風によって砂地の表面にできる波形の模様。              
 形態 ものや柄のかたちやありさま。                    
 フォーマライズ 形を与えること。                     
4メディア 媒体。                             
 通説 世間一般に認められている説。               反異説  
 魅惑 魅力によって、人の心をひきつけ迷わすこと。             
3.全員で音読する。
4.作者がアラビア文字を意識したきっかけは自分の名前をアラビア文字で書かれたことだが、その時の状況は。
 ・砂の上に描いてくれた。
5.作者は砂に描かれた自分の名前を見て、どんな印象を確認する。
 ・漢字や平仮名が半紙の上に墨で描かれるのと同じく流麗。
 ・空を流れる雲のような。
 ・変転と移り変わる砂丘の風紋のような。
6.生徒の名前をアラビア語で描いたものを配布し、印象を聞く。
 ★インターネットの「かなアラビア文字変換」(http://satosi.net/~moji/php/kana_arb.php)を利用する。
7.その時した作者の「小さな発見」とは何か。
 ・アラビア文字は、イスラム地方の広大な砂のキャンパスに描かれることから初まり、そして砂をキャンパスとして描くに最もふさわしい形へとフォーマライズされた。
8.「創生期のアラビア文字はそのような(=石や金属)メディアに描かれた」という
 「通説」が作者の「小さな発見」と対立していることを確認する。
9.にもかかわらず、作者が「小さな発見」にこだわる理由は。
 ・歴史学者は、古代のアラビア人が砂に描いたかもしれぬ古代アラビア文字は決してその目で見ることができないから。
10.作者が「書く」ではなく「描く」と言う文字を使う理由は。
 ・「書く」は楷書でしっかり表記する。
 ・「描く」は草書のように模様として表記する。
11.第一段で重要なポイントは。
 ・アラビア文字が砂漠で創生された。


第二段    板書

0.学習プリントを配布し、読みと語句の意味調べさせる。
1.47頁のアラビア語の新聞と49頁のヒンドゥー語の新聞の印象を質問する。
2.読みを確認する。
3.語句の意味を確認する。
6抽象 個々別々の事物・事柄・具体的概念からそれらに共通の属性を抜き出し、これを一般的な概念としてとらえる心的作用 反具象
 形象化 外に現れている姿。目に見えるものの形。         同具象  
 具象 目や耳でとらえられるような、はっきりした形・形態をそなえていること                        反抽象  
7様相 事のありさま
8堅牢 堅くて丈夫なようす。
9写実 物事の実際のありさまをありのまま表すこと。
10変容 姿・外観が変わること。
 依拠 よりどころとすること。また、そのよりどころ。            
11偶像 信仰の対象になる像。(ひゆ的に、理想的・絶対的なものとして)崇拝・盲信の対象とされるもの。
12様式化 長い間に自然に定まったやり方。約束で定められた形。
 規範 人間が行動したり判断したりするときに従うべき、価値判断の規準。
 律 物事がそれに従って行われる、おきて・法則。
 理念 ある物事に関して、何を最高のものとするかについての根本的な考え方。経験を超越し、純粋に理性によって得られた最高概念。
 戒律 僧尼の守らなければならない道徳的な徳目や修行上の規範。
4.学習プリントの基本問題の答えを教科書に線を引かせ番号を打たせる。
 ★細部を考えさせた上で、全体的な質問をしつつ解答する。
 ★理解が難しければ、先に簡単に解答してから、全体的な質問をする。
5.3つの文字は。
 ・アラビア文字、サンスクリット文字(ヒンドゥー文字)、漢字。
6.それらの変化が依拠するものは。12)
 ・自然の変容。自然の豊かさ。
7.それが何に関連するのか。13)
 ・宗教(的偶像の有無)。
 ★ここまで大づかみにするための質問。
8.アラビア文字の特性は。
 ・抽象性。
 ★「抽象」の意味を確認する。
9.ヒンドゥー文字や漢字の特性は。
 ・具象性。
 ★「具象」の意味を確認する。
10.アラビア文字の抽象性とは。2)
 ・物質とは遊離した「声」「魂」「精神」を形象化した(形に現した)もの。
 ★アラビア文字は、実際には形のないものを形にして表現したものである。
11.アラビア文字が依拠するイスラムの風景とは。4)
 ・砂漠。
 ★3)の「面白い」という表現は、文字と風景の関係に気づいたから。
12.砂漠の特性は。5)
 ・生命という具象性が乏しい。
 ・一定の形をとどめず、常に変転して移ろう。
 ★砂漠には水がないので生命が育たない。
  一面砂で変化に乏しい上、風が吹けば地形が変わってしまう。
  はっきりした形がないので抽象的である。
13.イスラムでの風景と文字の関係をまとめる。
 ・抽象的な自然の中から、抽象的なものを形にしたアラビア文字が生まれた。
 ★さらに、その中で生きていくにはもう一つの抽象である「意識」が必要である。
  これは、第三段で「戒律」として再考する。
14.ヒンドゥー文字の特徴は。7)8)
 ・地平線がある。
 ・曲線の上下にすべて一定の直線が描かれる。
 ・49頁のヒンドゥー語の新聞で確認する。
15.ヒンドゥー文字の依拠する自然は。9)
 ・動かぬ大地。
16.動かぬ大地の特性は。10)
 ・堅牢。
 ・具体的な生命が宿る。
 ★風などで変化せず、いつも一定である。
17.インドの風景とヒンドゥー文字の関係をまとめる。
 ・しっかりした大地が、文字の上下の線になった。
18.さらに中国に行くと文字はどのように変化するか。11)
 ・目の前の具体的な自然物を写実した形象文字。
 ★より具体的になる。
 ★象形文字のプリントを配布し、問題を考える。
19.文字の変容が宗教的偶像の有無に現れた影響は。14)15)
 ・イスラム教=偶像という具体物を信仰の対象にしない偶像否定。
  ヒンドゥー教=無数の偶像を頂く偶像崇拝。
20.偶像を自然の様式化と解釈するとどうなるか。16)17)
 ・イスラム教=抽象的自然の中で人間の理念が編んだ戒律を規範とする。
  ヒンドゥー教=自然を規範とし、その中に律を求めた。
21.イスラムとインドを表にして対照する。
 ★表の枠と項目だけ書き、埋めさせる。
イスラム インド
アラビア文字 サンスクリット文字
抽象的 具体的
砂漠 大地
イスラム教 ヒンドゥー教
偶像否定 偶像崇拝
人間が編んだ 自然を規範とし、その中に律を求める

第三段

0.学習プリントを配布し、読みと語句の意味調べさせる。
1.読みを確認する。
2.語句の意味を確認する。
13準拠 よりどころ。
15必然 必ずそうなること。反偶然                      
16機能 物のはたらき。相互に連関し合って全体を構成している各因子が有する固有な役割。
 体得 十分会得(して自分のものとすること。                
 介在 両者の間に他のものがはさまってあること。              
3.生徒と音読する。
4.13〜15を読んで、イスラム教とヒンドゥー教の対応表を作らせる。
 ・3つのポイントで対照させる。
ヒンドゥー教 イスラム教
1)身体感覚を優先させた宗教
2)生命豊かな自然が存在していた=具象
3)自然科学の構造に準拠する
1)理念の宗教
2)生命や自然の規範が乏しい=抽象
3)「内なる自然」(人間の知恵や心)より出た規範に身をゆだねる
   ‖                                  =抽象
・「コーラン」
 ・「六法全書」に近い機能
   単純明解で強力な法規
 ・声を出して読む
   身体性=具象
5.「このこと」(5102)の指示内容は。
 ・イスラム教は理念の宗教であること。
6.「コーラン」が「六法全書」に近い機能を有している理由は。
 (「六法全書」とは法令集で、法的な制限を加えるものである)
 ・間違いを犯しやすい人間と言う抽象的動物が、抽象的な環境に置かれたとき、より明快で強力な法規が必要になるから。
 (それを作り、守るのは理念である)
7.「コーラン」を声を出して読まねばならない理由は。
 ・身体性が介在しなければならないから。
 ・抽象的な動物が、抽象的な環境の中ですることだから、具体的なものが必要になる。
8.ヒンドゥー教の説明をする。
 1)歴史的な説明をする。
  ・ヒンドゥー教は、インドの宗教と言う意味。
  ・バラモン教から生まれる。
  ・バラモン教は、身分の高い人と低い人がいるという宗教。
  ・仏教もバラモン教から、人間は誰でも平等であると考えて生まれた。
  ・輪廻を信じ、いろいろな神がいる。多神教。
 2)筆者の考え方を説明する。
  ・生命豊かな自然が存在していた
  ・そこに内包している自然科学的な構造に準拠する。
  ・自然という形のあるものに触れて、身体感覚を働かせる。
  ・偶像などを作って形あるものに依拠する。
9.イスラム教の説明をする。
 1)筆者の考え方を説明する。
  ・砂漠の中なので、体感できるような生命や自然が乏しい。
  ・いわば抽象的な環境で、依拠するものがない。
  ・その中で、自分を律するには、知恵や心といった形のない物が必要。
  ・それを「外なる自然」と対応させて、「内なる自然」という。
  ・自分で規範を考えて、それに身をゆだねる。
第四段    板書

0.学習プリントを配布し、読みと語句の意味調べさせる。
1.読みを確認する。
2.語句の意味を確認する。
17範疇 同じ種類のものの所属する部類・部門の意。 外来カテゴリー      
 広義 同じ言葉の指す意味に幅があるとき、指す範囲の広い方の意味。反狭義  
18喚起 よび起すこと。                           
 劇的 劇に出て来るようなありさま。緊張し感激させられるさま。
 メンタリティー 精神構造。心的傾向。
19蕩尽 財産などを湯水のように使いはたすこと。
3.音読する。
4.「日本人はいうまでもなくヒンドゥー教徒の範疇である」理由は。
 ・日本の自然の生命力は驚くほどのものである。
 ・自然科学の中に潜む道徳を体で学んできた。
 ・自然によって生命体としての自己を律してきた。
 (日本人は仏教徒や無神教者が多い。)
 (葬式は仏教だが、結婚式はキリスト教や神道、宮参りや七五三は神道)
 (しかし、自然という具象に依拠し、体という具象を媒介にしている点では、イスラムよりもヒンドゥーに近い)
5.「農業とは広義のヒンドゥー教である」といえる理由は。
 ・農業もヒンドゥー教も、自然に依拠し自然の恵みの中で育まれてきたから。
 ・どちらも、身体感覚で体験してきた。
 ・「自然」と言う「外部」に「身体感覚」で律せられた。
6.「自然によって生命体としての自己を律してきた」を悪く言うと。
 ・自然に甘え、おすがりすれば間違いはない。
 1)「おすがり」の意味は。
  ・自分では何もしないで相手に頼る。
  ・主体性や自主性の欠如。
7.しかし、「産業構造の大変動変化」によって数十年の間にどんな変化があったか。
 ・外部(自然)は突然消えた。
 1)正確に言うと。
  ・自然を意識し、自然と交わる日常生活が消えた。
 (自分の育ってきた環境の変化について考える)
 (自然がなくなり開発されたことや、遊びなど自然との関わりも減った)
 2)具体的にどんな変化があったか、質問してみる。
 3)自然と関連する迷信を考える。
8.取って代わった「別のもの」とは何か。
 ・商品社会。
9.商品社会の特徴は。
 ・人間の欲望を律するのでなく、無限に喚起する。
 (環境が変わっただけでなく、律するものがなくなったことが大きい)
 1)今ほしいものを質問する。
  ・精神的なものでなく、物質的なものが多く挙がるはずである。
10.しかし、その中で変わらなかったものは何か。
 ・外部に甘え、外部に律せられる自己という身体構造。
 (意識と言う抽象的なものは変わりやすいが、身体構造という具象的なものは変わりにくい)
11.「これが緊急事態である」理由は。
 ・商品社会は、無限の蕩尽と消費をよしとする。
 ・身体構造は、外部を無差別に受け入れていく。

第五段    板書

0.学習プリントを配布し、読みと語句の意味調べさせる。
1.読みを確認する。
2.語句の意味を確認する。
20克服 努力して困難にうちかつこと。                    
21的を射る 物事の肝心な点を確実にとらえる。                
22不可欠 欠くことのできないこと。                     
 超自我 イド・自我と共に心を構成する三要素の一。自我から分化発達し、あるべき行動基準によって自我を観察し、欲動に対して禁止的態度をとるもの。
 右往左往 秩序なくあちらへ行ったりこちらへ行ったりすること。混乱の状態などにいう。                            
 教義 特定の宗教や宗派の信仰内容が真理として公認され、信仰上の教えとして言い表されたもの。ドグマ。                      
23無機 (生命力がない意) 無機化学または無機化合物の略。反有機       
 キッチュ まがいもの。俗悪なもの。                    
 闊歩 ゆったりと歩くこと。大股に歩くこと。いばって歩くこと。傍若無人に行動すること。
 洗脳 新しい思想を繰り返し教え込んで、それまでの思想を改めさせること。  
3.音読する。
4.「ニッポン」とカタカナ表記している理由は。
 ・昔の日本ではなく、現代の日本であることを表現している。
5.「現代のニッポンはイスラムの砂漠的環境に似ている」とはどのような点か。
 ・自然が乏しい。
 ・外部に規範がない。
6.だから、ニッポン人もイスラムの民のように「理念や知恵によって抽象的環境を克
 服」する必要があることを説明する。
7.実際に現れている「イスラム的なる抽象教義」には何があるか。
 ・校則−暴力的な戒律
 ・マニュアル化社会−無機的な戒律
 ・キッチュな宗教−いともたやすく洗脳する
8.暴力的で戒律的な校則、マニュアル社会、キッチュな宗教の例を考えさせる。
9.「ニッポン遊牧民族の行き先には、まだ濃い砂塵のとばりが立ちこめたままである」 の表現効果は。
 ・「遊牧民族」「砂塵」で日本人も砂漠の民のイスラムの民と同じと表現している。



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第一段

・自分の名前をアラビア文字で砂の上に描かれた。
  ↓小さな発見
 ・イスラム地方の広大な砂のキャンパスに描かれたことに始まった。
  砂をキャンパスとして描くにふさわしい形へとフォーマライズされた。
 ・通説=石や金属に描かれた。
  ↑
 ・歴史学者は、古代のアラビア人が砂に描いたかもしれぬ古代アラビア文字はけっして見ることができない。

第二段

1)アラビア文字=抽象
2)サンスクリット文字(ヒンドゥー文字)=具象
3)漢字=具象
 ↑
・自然の変容。自然の豊かさ
 ↓
・宗教
1)アラビア文字=抽象性
 ・物質とは遊離した『声』『魂』『精神』を形象化したもの
  ↑面白い=依拠している
 ・イスラムの風景
  ・砂漠
   ・生命という具象性が乏しい。
   ・一定の形をとどめず、常に変転して移ろう。
   ↓
 ・人間が自己を維持していく“意識”
2)サンスクリット文字=具象性
 ・地平線が現れる
  ↑
  曲線の上下にすべて一定の直線が描かれる
 ・インドの風景
  ・動かぬ大地
   ・堅牢な
   ・具体的な生命力
3)漢字=具象性
 ・目の前の具体的な自然物を写実した形象文字
  

・宗教
 ・偶像の有無
  ・イスラム教=偶像という具体物を信仰の対象としない偶像否定
  ・ヒンドゥー教=無数の偶像を頂く偶像崇拝
 ・自然の様式化
  ・イスラム教=抽象的自然の中で人間が編んだ戒律を規範とする
  ・ヒンドゥー教=自然を規範とし、その中に律を求めた

第四段

・日本人=ヒンドゥー教徒
 ・自然の生命力がある。
   ↓
 ・自然科学の中の道徳を体で学ぶ。
            身体感覚
 ・自然によって自己を律してきた
   ‖
・農業
 ・自然に甘え、おすがりしていれば間違いはなかった。
  主体性の欠如
  ↓外部である自然や日常生活が消えた
・商品社会
 ・人間の欲望を律するのでなく、無限に喚起する。
  +
・身体構造
 ・外部に甘え、外部に律せられる。
  ↓
・緊急事態
 ・無限の蕩尽と消費をよしとする。
 ・外部を無差別に受け入れていく。


第五段

 現代のニッポン=イスラムの砂漠的環境
  ・外部になんらの規範がない
   ↓
  ・理念や知恵によってその抽象的環境を克服
   ↓
  ・イスラム的抽象教義が立ち現れる
   ・暴力的な戒律である校則
   ・血の通わない無機的な戒律であるマニュアル化社会
   ・極度にキッチュな宗教
   ↓
 ニッポン遊牧民族の行き先には、まだ濃い砂塵のとばりが立ちこめたままである。
     イスラム           砂漠

 

























イスラム感覚 第一段 学習プリント         点検  月  日
                   組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 2 収める 3 流麗 4 魅惑
2.語句の意味を調べなさい。
3流麗  
 風紋  
 形態  
 フォーマライズ  
4メディア  
 通説                               反    
 魅惑  

学習のポイント
1.作者がアラビア語を意識したきっかけを確認する。
2.作者のアラビア語の印象を確認する。
3.作者の「小さな発見」を理解する。
4.アラビア語成立の通説を確認する。
5.作者が「小さな発見」にこだわる理由を理解する。
6.第一段落の全体での役割を理解する。
 
                                                                          
イスラム感覚 第二段 学習プリント         点検  月  日
                   組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 7 突如 8 堅牢 10 完璧 顧み 経て 即 依拠 11 偶像 12 頂く 戒律
2.語句の意味を調べなさい。
6抽象                               反    
 形象化                            同      
 具象                               反    
7様相  
8堅牢  
9写実  
10変容  
 依拠  
11偶像  
12様式化  
 規範  
 律  
 理念  
 戒律  
基本問題
1)「私の名前が抽象的ではかないもののような気がした」理由は。2つ。
2)「アラビア文字の形態の抽象」とは。
3)「その抽象性を面白いと思う」理由は。
4)「その風景の大半」は何か。
5)「砂漠」の特性は。2つ。
6)そこで「人間が自己を維持していく」のに必要なものは。
7)ヒンドゥー語の新聞を見た時の「視覚的な驚き」とは。
8)ヒンドゥー文字の「地平線」とは。
9)「地平線」は言い換えると何か。
10)「動かぬ大地」の特性は。
11)中国大陸の文字である「漢字」の特性は。
12)「文字の形態の変容が依拠する」ものは。
13)「文字の変容」と関連するものは。
14)「宗教的偶像の有無」から考えて、イスラム教は。
15)「宗教的偶像の有無」から考えて、ヒンドゥー教は。
16)「偶像を自然の形の様式化と解釈する」と、ヒンドゥー教は。
17)「偶像を自然の形の様式化と解釈する」と、イスラム教は。 

                                                                           

イスラム感覚 第三段 学習プリント         点検  月  日
                   組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 13 準拠 16 犯し 介在
2.語句の意味を調べなさい。
13準拠  
15必然                               反    
16機能  
 体得  
 介在  
学習のポイント
1.イスラム教やヒンドゥー教の、自然や規範との関係を理解する。
2.「コーラン」の法律的な機能を理解する。
3.「コーラン」を声を出して読まなければならない理由を理解する。

                                                                           

イスラム感覚 第四段 学習プリント         点検  月  日
                   組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 17 範疇 潜む 18 喚起 19 蕩尽
2.語句の意味を調べなさい。
17範疇                         外来        
 広義                              反    
18喚起  
 劇的  
 メンタリティー  
19蕩尽  

学習のポイント
1.日本人がヒンドゥー教の範疇である理由を理解する。
2.日本人の規範意識を理解する。
3.日本のここ数十年の産業構造の大変動を理解する。
4.日本人の身体構造の変化を理解する。
5.日本人の「緊急事態」を理解する。 

 

イスラム感覚 第五段 学習プリント         点検  月  日
                   組  番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 20 克服 22 右往左往 23 闊歩 24 砂塵
2.語句の意味を調べなさい。
20克服  
21的を射る  
22不可欠  
 超自我  
 右往左往  
 教義  
23無機                              反    
 キッチュ  
 闊歩  
 洗脳  

学習のポイント
1.現代ニッポンとイスラムの共通点を理解する。
2.作者の考えるこれからのニッポン人のあるべき姿を理解する。
3.今のニッポン人の状態を理解する。
4.間違った「イスラム的な抽象教義」を理解する。