行く春を
 
去来抄


 「行く春を近江の人と惜しみけり」という芭蕉の句を、尚白が「『『近江』は『丹波』に、『行く春』は『行く歳』にも置き換えられる」と非難した。それについて芭蕉から意見を聞かれた去来は、「琵琶湖は春霞が朦朧としているところに趣があるのであり、実感からすれば、琵琶湖のある『近江』で、霞のかかる『春』を惜しむでなければならない」という。芭蕉も「風雅を愛する先人が近江の春を愛した歌を多く残している伝統を大切にしなければならない」と言う。去来は「年の瀬に丹波にいてはこの感動はない。自然の景色が人を感動させるのは本当だ」と言う。芭蕉は「去来こそ、俳諧を語るのにふさわしいものだ」と称賛する。


1.去来抄について説明する。
 ・ジャンルは、俳論書。
 ・作者は、向井去来。
 ・内容は、芭蕉と門人の俳句についての批評。
2.登場人物を把握する。
 ・先師(芭蕉)
 ・去来
 ・尚白
3.話題になっている俳句を確認する。
 ・行く春や近江の人と惜しみけり
4.行く春を近江の人と惜しみけり
 先師いはく、
 「尚白が難に、『近江は丹波にも、行く春は行く歳にもふるべし。』と言へり。なんぢ いかが聞きはべるや。」
 1)「行く春」を訳す。
  ・去りゆく春を近江の人と一緒に惜しんだ。
 2)「ふる」の意味。
  ・置き換える。
 3)助動詞「べし」の意味。
 4)「聞く」の意味。
  ・理解する。
 5)尚白の非難は。
  ・近江→丹波
  ・行く春→行く歳(歳末)
 6)「なんぢ」とは誰か。
  ・去来。
5.去来いはく、「尚白が難あたらず。湖水朦朧として春を惜しむに便りあるべし。こと に今日の上にはべる。」と申す。
 1)「湖水朦朧」の様子は。
  ・春霞がかかってぼんやりしている。
 2)「便り」の「今日の上」の意味。
  ・根拠。
  ・実際の風景に接した上での実感。
 3)去来の意見は。
  ・実際の景色を見た実感から、「近江の春」がよい。
6.先師いはく、「しかり。古人もこの国に春を愛すること、をさをさ都に劣らざるもの を。」
 1)「しかり」の意味。
 2)「古人」の意味。
  ・風雅を愛した先人。
 3)「この国」の指示内容。
 4)「をさをさ」の意味。
  ・(下に打消語を伴って)少しも
 5)芭蕉の意見は。
  ・風雅の先人が近江の春を愛で惜しむ詩歌を多く残している。
7.去来いはく、「この一言、心に徹す。行く歳近江にゐたまはば、いかでかこの感まし まさん。行く春丹波にいまさば、もとよりこの情浮かぶまじ。風光の人を感動せしむる こと、まことなるかな。」と申す。
 1)「いかでかこの感ましまさん」の訳。
  ・反語。
  ・どうしてこの感動がありますでしょうか、いやありません。
 2)「この感」「この情」とは。
  ・春を惜しむ気持ち。
 3)「風光」の意味。
8.先師いはく、「去来、なんぢはともに風雅を語るべき者なり。」と、ことさらに喜び たまひけり。
 1)「風雅」の意味。
  ・俳諧。



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行く春を(去来抄)  学習プリント

学習の準備
1.次の語の読み方を現代仮名遣いで書け。

 近江  朦朧  今日  一言  風雅
2.次の語句の意味を調べよ。
 難 ふる 聞く 朦朧 便り しかり をさをさ 風光 風雅
3.助動詞の意味と活用形、敬語の種類と主体と対象を本文プリントの右に書きなさい。
4.訳を本文プリントの左に書きなさい。

学習のポイント
1.登場人物とその関係を理解する。
2.話題になっている俳句を理解する。
3.尚白の非難を理解する。
4.去来の尚白に非難に対する反論を理解する。
5 先師の尚白に非難に対する反論を理解する。
6.去来の自然と俳句との関係に関する意見を理解する。
7 先師の去来に対する評価を理解する。
8.敬語の種類、主体、対象を理解する。
9.助動詞「べし」の意味の使い分けを理解する。