「ふしぎ」ということ
 
河合隼雄


 「ふしぎ」と思うことは、すぐ心から消えるものと追究したくなるものがある。「ふしぎ」は人間を心を平静にしておかず、「分かった」という解決があって平静に戻る。
 「ふしぎ」の反対は「あたりまえ」である。しかし、「あたりまえ」を「ふしぎ」だと思った偉人が、ニュートンや釈迦牟尼である。ニュートンはリンゴが木から落ちるのを不思議だと思って万有引力の法則を発見した。釈迦牟尼は「人間はなぜ死ぬのか」という不思議から仏教を生み出した。

 子どもの世界は「ふしぎ」に満ちている。大人に答えを聞いたり、自分で考えたりして、知識を蓄え人生観を築いていく。大人も子どもと一緒にふしぎがると生活が豊かになる。子どもは自分なりに説明を考えることがある。例えば、せみはなぜ鳴くのかという質問は、外的な説明と、何かあると「お母さん」と呼びたくなる自分の気持ちが込められている。それが子どもにとって納得のいく答え、物語である。外的な事象と子どもの心の中に生じることが一つになって物語に結晶する。

 人類は言語を用い始めた最初から物語ることを始めた。「いかにして我々はここに存在するのか」という人間にとって根本的な「ふしぎ」に答える物語が神話である。神話は存在を深め豊かにする役割を持つものであった。
 しかし、神話を現象の説明と見ると都合か悪いことが出てくる。人間は、そこで、内的世界を関わらせない方が正確になることに気づき、現象を人間から切り離して観察した自然科学が生まれてくる。
 自然科学の方法は普遍的な話、物理的な法則を生み出す。近代人は神話を嫌い自然科学によって世界を見るようになった。自然科学は外的現象の理解には大いに役立ったが、神話を全く放棄すると自分の心の中のことや自分と世界との関わりが無視されたことになる。

1.【L4】ふしぎに思ったこと、それをどうしたかを質問する。
2.学習プリントを配布する。
3.漢字と語句の確認をする。
 追究  平静  万有引力  貢献  尋ねる  既に  都合  普遍  最たる
 ・心に収める=納得すること。
 ・最たる=最も優れたもの。
 ・普遍的=すべてのものに共通すること。
 ・周知=多くの人に知られていること。
4.【指】段落番号を付ける。大段落に分ける。
  ・1〜18
  第一 1〜6
  第二 7〜11
  第三 12〜18

第一段落 1)〜6)
1.【指】第一段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L3】何について書いてあったか。
  ・ふしぎの大切さ
3.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
4.【L1】指示語の指示内容を確認する。
 1)それ=「ふしぎだな」と思う時
 2)それ=ピーンと変な小さな音
 3)それ=「あたりまえ」の世界
 4)それ=リンゴが木から落ちるの
  それ=リンゴが木から落ちるの
 5)これ=人間は必ず死ぬ
  これ=人間は必ず死ぬ
  それ=「人間はなぜ死ぬのか」
  これ=仏教という偉大な宗教が生まれてきた(こと)
 6)このように=4)5)段落
5.設問を考える。
1)1)【L1】「ふしぎ」にはどんな程度の差があるのか。
  ・小=ふしぎだと思いつつすぐ心から消えてしまうもの。
  ・大=あくまでそのふしぎさを追究していきたくなるもの。
  【L3】「追究」の同音異義語を考える。
   ・真理・学問を「追究」する。
   ・理想・利益を「追求」する。
   ・責任・犯行動機を「追及」する。
2)2)【L1】「ふしぎ」の特徴は。
  ・人間の心を平静にしておかない。
  ・「わかった」という解決の体験があって平静に戻る。
3)3)【L1】「ふしぎ」の反対は。
  ・あたりまえ

4)5)4)【L1】「あたりまえ」の世界を「あたりまえ」と思わない人は誰か。
  ・ニュートン、釈迦牟尼。
 5)【L1】それぞれ、何をふしぎと思って、何を生み出したか。
  ・りんごが木から落ちるのを不思議だと思って、万有引力の法則を発見した。
  ・「人間はなぜ死ぬのか」という不思議から、仏教を生み出した。
6)6)【L1】偉大な人とはどんな人か。
  ・他の人たちが「あたりまえ」と感じていることを「ふしぎ」と受けとめる人。
 7)【L3】「あたりまえ」を「ふしぎ」と感じる意義は。
  ・「ふしぎ」を追究して人類に偉大な真理をもたらすこと。
7.板書する。
第一段落(1〜6)
★「ふしぎ」の大切さ
・ふしぎの大小
 
小=心から消えてしまうもの。
 
大=あくまで追究していきたくなるもの。
・ふしぎの特徴
 
・人間の心を平静にしておかない。
 
・解決の体験があって平静に戻る。
・あたりまえと思わない人=偉大な人
 
・ニュートン
  
・りんごが木から落ちる
   

  
・万有引力の法則
 
・釈迦牟尼
  
・人間はなぜ死ぬのか
   

  
・仏教
   

・「ふしぎ」を追究することが人類に真理をもたらす

第二段落 7)〜11)
1.【指】第二段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L3】何について書いてあったか。
  ・子どもの世界の「ふしぎ」
3.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
4.設問を考える。
7)1)【L1】子どもは「ふしぎ」をどのようにして解決していくのか。
  ・大人に答えを聞いたり、自分なりに考えたりする。
 2)【L1】子どもは答えを得ることによってどうなるのか。
  ・知識を蓄え、人生観を築く。
8)3)【L1】大人の答え方は。
  ・簡単に答える。
  ・いっしょになって「ふしぎだな」とやってやる
 4)【L1】大人がそう答えることによってどうなるか。
  ・自分の生活が豊かになる。
9)5)【L3】「せみはなぜ鳴くの」という子どもの問いに対して、母親が「なぜ、鳴いているんでしょうね」と答えると、子どもが納得するのはなぜか。
  ・子供の質問には、単なる外的な説明だけではなく、何かあるとお母さんと呼びたくなる自分の気持ちも込められているから。
10)6)【L2】「外的な説明」とは何か。
  ・せみの鳴き声はどうして出てくるのかについての正しい知識。
 7)【L3】「せみは鳴くのが仕事よ」と答えても子どもが納得しないのはなぜか。
  ・お母さんと呼びたくなる気持ちに答えていないから。
 8)【L1】子どもにとって納得のいく答えを何と呼んでいるか。
  ・物語
11)9)【L1】「物語」とはどのようにして結晶するのか。
  ・外的な現象と、子どもの心の中に生じたことが一つになる。
 10)【L3】「物語」とはどんなものか。
  ・外的な説明に自分の思いを込めたもの。
 11)【L3】「せみがお母さん、お母さんと呼んでいる」という答えにはどんな「物語」があるか。
  ・子どもが何かあるとお母さんと呼びたくなること。
 12)【L4】「雨はなぜ降るのか」「飛行機の中の人間はどうなるのか」という「ふしぎ」に「物語」的な答えを与える。
5.板書する。
第二段落(7〜11)
★子どもの世界の「ふしぎ」
・子ども−ふしぎの解決
 
・大人に答えを聞く。
 
・自分なりに考える
  

 
・知識の蓄積
 
・人生観の構築
・大人−答え方
 
・簡単に答える
 
・一緒にふしぎがる
  

 
・生活が豊かになる
(例)「お母さん、せみはなぜ鳴いてばかりいるの」
      

    
「お母さんを呼んでいる」
     
・単なる外的な説明
       

     
・お母さんと呼びたくなる気持ち
       

     
・物語
      
・外的な現象
       

      
・心の中に生じたこと

第三段落 12)〜18)
1.【指】第二段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L3】何について書いてあったか。
  ・神話と自然科学の長所と短所
3.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
4.【L1】指示語の指示内容を確認する。
5.【L3】接続語とその働きを確認する。
2.設問を考える。
12)1)【L1】物語はいつから始まったか。
  ・人類が言語を用い始めた最初から。
13)2)【L1】太陽について、古代ギリシャの人々はどう思っていたか。
  ・熱を持った球体。
  ・四頭立ての金の馬車に乗った英雄
 3)【L1】後者の答えはなぜ必要だったのか。
  ・太陽を見た体験や感動を表現するのにふさわしかったから。
14)4)【L2】各部族や民族がなぜ物語を必要としたのか。
  ・いかにして我々はここに存在するのか。という人間にとって根本的なふしぎに答え   を出したいから。
 5)【L1】そうした物語を何と呼んでいるか。
  ・神話。
 6)【L1】「それ」の指示内容は。
  ・神話。
 7)【L1】神話の役割とは。
  ・存在を深め、豊かにする役割。
15)8)【L1】神話の欠点は。
  ・すべての現象について説明するのには都合が悪いこと。
16)9)【L1】その欠点を補うために生まれたものは何か。
  ・自然科学。
 10)【L1】自然科学とはどんなものか。
  ・現象を人間から切り離したもの。
17)11)【L1】自然科学の言い換えを2つ。
  ・普遍的な話、物理学の法則。
 12)【L2】神話を嫌い、自然科学によって世界を見ることのメリットとデメリットは。
  ・外的現象の理解に大いに役立つ。
  ・自分の心の中の事や自分と世界との関わりが無視された。
3.板書する。
第三段落
・物語=神話                       │自然科学
────────────────── ───┼────────────────── 
・いかにして我々はここに存在するのか         │・現象を人間から切り離したもの

 
・人間にとって根本的なふしぎに対する答え     │・普遍的な話
 
×すべての現象について説明するのには都合が悪い│・物理学の法則
  
                            │○外的現象の理解に大いに役立つ
                              │×自分の心の中の事や自分と世界との関わりが無視される