アメリカナイゼーションは、都市に林立する超高層ビル、ハリウッドや若者に代表される大衆文化、日常的で浸透しやすい生活文化の一例としてのファースト・フードなどに見られるが、ここではファーストフードを取り上げる。

 ファースト・フードの流行は、ネーションを超えた世界的な力、強力な資本力の現れである。同じ施設、同じ味で統一されるハンバーガーはアメリカから始まったアメリカナイゼーションを端的に示す二十世紀文化の本質を示していて、二十世紀の歴史を考える際に無視できない。ハンバーガーのアメリカナイゼーションは、資本が商業の形態をとりながら文化の様式を携えて世界を均質化する。強力な資本力をもって、企業が世界中でハンバーガーを販売し、それを消費者が購入するという商業の形態で、世界中が同じ施設で同じ味で統一されることによって、食文化が均質化する。こうした広がりは、味覚の問題ではなく、まだ見ぬ自由諸国への憧憬とでもいうべきものが作用した結果である。

 ファースト・フードが広まった理由は、1)都市生活者の食事の仕方が気軽さを好むようになったことと、2)家族の絆が緩み解体するなどの人間の集合状態の変化に対応している。
 1)都市生活者の食習慣の簡便化の世界中での拡散について考えると、宮廷社会での晩餐会は、食事によって生命を維持するという日常生活の中の、娯楽や社交や政治的な効果をもった非日常性であった。それが、市民社会への移行に伴い、さまざまなタイプの宴会の形式を生むなどすそ野を広げる一方、私的な生活の増大のために希薄になる傾向があった。

 2)どの社会でも、共食は社会文化の中心であって、象徴的な意味合いを持っていた。支配階級の饗宴の意味機能から、その文化の様相を推測できた。公私にわたる食事の形式は、社会での共同性の様相の分析を可能にするものであった。市民社会の発展につれて、一方では受け継がれて、都市にレストランが誕生したり、家族の共食形式(一家団欒)が家族制度を強化する象徴として維持された。他方では、ファースト・フードの出現によって、家族の絆を希薄化し、都市という集合における人間の行動のパターンを変化させた。
 逆から見ると、ファースト・フードの広がりは、文化や人間の集合状態に変化が起こったことが原因している。共食による食事は至上の快楽ではなくなった。家族は安定感を失い、私的な生活や労働や遊びのパターンも、個人的かつ多様化してきた。人間の接触が煩わしいものに感じる傾向も増大した。そして、食事は他の行為の合間に挿入されることが多くなり、食事を簡便に済ませる、孤食を望むようになった。
 ファースト・フードは、セルフサービス、内装の統一、メニューの画一化、厨房の廃止、ネットワーク端末による中央管理を徹底した。食事の内容から文化的な意味を失わせ、人々の接触の様相も変えた。家族団欒という制度を拒否する若者、猛烈な仕事の忙しさの中で時間を節約したい人間、他人との煩わしい関係も店員との接触も最上限に抑えたい人間にとって、好ましい施設であった。
 もちろん、家庭での食事は続き、外食の施設や料理の種類も多様化し増殖している。その中で、ファースト・フードはアメリカを感じさせる。しかし、そこにはアメリカナイゼーションと言うにふさわしい「アメリカ」の実体がなく、一種の無国籍な食べ物になっている。この無国籍さゆえに、どのネーションでも受け入れられ、世界的に広がりを得た理由でもある。つまり、アメリカナイゼーションというより、世界中で無国籍化が進行し、ネーション固有の文化の希薄化が促進しているのである。
 ファースト・フードは、食文化の多様化の流れの中で、逆方向に働く一つの均質化する力として割り込み、ローカルな都市を世界的な規模にまで広がった同一の網目に組み込んだ。

 ファースト・フードの経験は、意識されている以上に、貧困なメニュー慣れたり、都市の遊民になったり、自分自身を世界化している無意識の感覚の影響の方が大きい。それは巨大なネットワークであり、巨大な帝国であり、メディアである。


板書


●はじめ〜一三一06 1

0.学習プリントを配布し、宿題にする。
1.音読させる。
 ・重要と思われる箇所に線を引かせる。
2.キーワードとその意味は。
 ・アメリカナイゼーション。
 ・アメリカ化。
3.アメリカナイゼーションの例として挙げられているものは。
 ・超高層ビル。
 ・大衆文化。
 ・ファーストフード
4.東京の超高層ビルについて話す。
5.アメリカナイズされた大衆文化には何があるか。
 ・音楽、映画、ジーンズ、ダンス、コカコーラ。
6.ファーストフードの定義を説明する。
 ・店頭で注文してから短時間(遅くてもおよそ10分以内)で提供され、かつ、手早く食べることのできる簡単な食事のこと。ファストフードとも言う。
 ・ハンバーガー・牛丼・おにぎり・ホットドッグ・フライドチキン・サンドイッチ・ピザ・立ち食いそばなどが代表例で、ファストフードの多くがジャンクフードとされている。特に、アメリカナイズされたメニューをいう。
7.ファーストフードの店の名前を挙げさせる。
 ・ハンバーガー
  ・マクドナルド、モスバーガー、ロッテリア、フレッシュネスバーガー、ファーストキッチン、ウェンディーズ、サブウェイ、ベッカーズ、ドムドム
 ・コーヒー
  ・スターバックス、ドトール、タリーズ、プロント、シャノアール、エクセルシオール、セガフレード・ザネッティ、カフェデュモンド、カフェ・ド・クリエ、サンマルク、シアトルズベストコーヒー、スクリクトリー・シアトル、カフェコロラド、
 ・牛丼
  ・吉野家、松屋、すき家、なか卯、神戸らんぷ亭
8.マクドナルドについて
 1)規模を説明する。
 ・店舗は一二一カ国にあり、店舗数は約三一,〇〇〇 店舗。
  ・一九九〇年一二月に全都道府県進出を達成。最後までなかったのは山形県だった。
 2)特徴を挙げさせる。
8.この評論では、アメリカナイゼーションの例としてファーストフードの例を取り上げていることを確認する。

●一三二01〜一三三03 2
1.音読させる。
 ・ファーストフード=アメリカナイゼーションとして、その定義されている箇所に線を引かせる。
2.「ファーストフードの流行は、ネーションを超えた世界的な力の現れ」の言い換えは。
 ・アメリカナイゼーションという、ネーション・ステートを超えて広がる文化の波及。
 ・アメリカナイゼーションは、資本が商業の形態をとりながら文化の様式を携えて世界を均質化する
3.ネーションとは何かを確認する。
 ・一定の領土とそこに居住する人々からなり、統治組織をもつ政治的共同体。または、その組織・制度。主権・領土・人民がその三要素とされる。
4.「ネーションを超えた」について
 1)具体的にどう言うことか。
  ・世界中のどの都市に行っても、同じ施設、同じ味であること。
 2)マクドナルドの呼称を説明する。
  ・スペインでは「マクドナル(ス)」と呼ばれる。セットメニューのドリンクは、追加料金なしでビールを選ぶことが出来る。
  ・フランスでは「マクドナール」と呼ばれる。略称として「マクド」とも呼ぶ。
  ・中国では「麦当労(繁体字では麥當勞)」という字を当てて、「マイタンラォ」と呼ばれる。
 3)マクドナルドの施設について説明する。
  ・看板は、赤い背景色に黄色の文字だが、京都市内の一部店舗は景観保護条例による規制で背景色が茶色になっている。
  ・旧来型店舗イメージは、赤い背景色に黄色の文字の看板がもたらす印象を損ねないようなアメリカンテイストを取り入れたデザインで、内壁はシンプルな白地を用い、小物や内装はところどころに赤や青の原色系を塗りこみ、材質もプラスチックとビニールが主で、ある種のチープインテリアを目指したものとなっていた。また赤色の内装は落ち着きを失わせ、顧客の回転を早める効果も兼ねていた。
  ・新型店舗イメージは、原色基調から中間色基調で設計。内装からドぎつい風合いをなくし、清潔感と落ち着きのある木材系、打ちっぱなしの壁などを取り入れ、テーブルや小物類もファストフードというよりダイニング的な温かいものをあつらえ、全体的に静かでシャレた雰囲気にまとめあげた。
 4)マクドナルドの味について説明する。
  ★メニューを配布する。
  ・一般的に高カロリー、高脂肪、栄養素の偏りがある食品が多いこと、手早く食べられるため過剰に摂取可能であることから、死に至らしめるのが早い食べ物であると揶揄して、ファストフードと呼ぶことがある。
  ・工場(セントラルキッチンとも呼ばれる集中調理施設)から形ができているものが搬入され、厨房では焼いたり揚げたりするだけで細かい調理の必要がない。
  ・焼くプレートや揚げる油の温度、時間も決められており、調味料もボタン1つでハンバーガー1個分が自動噴射されるしくみである。若干の訓練を受ければ誰が作っても同じ大きさ、同じ形、同じ味のものができる。調理工程も簡略化され、付け合せなども極力簡略化して、高速で調理できるようになっている。
  ・二〇〇四年6月16日から「マックグラン」「ダブルマックグラン」「トマトマックグラン」が全国で発売開始された。バンズを専用のものに変更するなどして高級感を持たせ、鳴り物入りで登場した。
  ・しかし専用のバンズを使用しなければならなかった事で店側の取り扱いが煩雑になった、期待したように売れなかった等の理由で「ダブルマックグラン」は店頭メニューから消え、注文されれば調理するという裏メニューのような扱いとなった。・・残りの2つは大幅値下げをして暫く生き残ったものの、遂に二〇〇五年10月27日、新メニュー「えびフィレオ」の発売と引き換えに販売終了となった。同時に「フィッシュマックディッパー」も完全に販売を終了した。
  ・バリューセットで選択できるサイドメニューから「チキンマックナゲット」が外され、「マックフライポテト」と「ガーデンサラダ」の二択制に改められ、「プチパンケーキ」と「アイスクリームバニラ」がそれぞれ百円→百四十円に値上げ。
5.「世界的な力」とは。
  ・強力な資本力。
  ・文化の波及。
  ・二十世紀文化の本質。
6.マクドナルドの資本力や価格について説明する。
 ・二〇〇一年の間の売り上げは一四八億七〇〇〇万米ドル(一兆六千億円)、純利益一六億四〇〇〇万ドル(一七〇〇億円)だった。
 ・一九九五年、それまで二一〇円だったハンバーガーの価格を一気に一三〇円に変更。さらに、創業当時の八〇円、更に六五円まで値下げする。
 ・四〇代・五〇代が、世の中の不景気の中で「小遣いが少ない中で安くて手軽に食べられる」と大喜びして、再びマクドナルドへ足を向けるようになる。
 ・値下げしすぎて客単価が下がったことから、収益が悪化、二〇〇二年、創業以来初の赤字決算となってしまう。加えて、それまで行われたことがなかった不採算店舗の閉鎖をこの時期初めて実施するようになる。
 ・価格を八〇円に戻したが、いきなりの値上げには消費者が大きく反発、客離れを引き起こしてしまう。
 ・再度客を呼び戻そうと、今度はハンバーガーを五九円に値下げするが、値下げに慣れてしまった消費者にはインパクトがなく、期待したようには客足が戻らなかった。
 ・つり銭を一〇円単位とすることで能率アップを目的として、二〇〇五年四月にメニューを一新、一〇〇円メニューと五〇〇円セットを発売する。これはマクドナルドにとって久々のヒットで、客足が大きく回復する。
 ・ところが、売り上げは大きく改善したものの、客足が伸びすぎて逆に店員が足らずに増員するなどで人件費が高騰、増収減益という悪循環に陥り業績が再び悪化、三ヶ月で値上げを発表する。
6.「資本が商業の形態をとりながら文化の様式を携えて世界を均質化する」の意味を確 認する。
 ・資本が文化を均質化する。

●一三三04〜一三五03 3〜6
1.音読させる。
 ・重要と思われる箇所に線を引かせる。
2.問題提起を確認する。
 ・どうしてこんなにファーストフードが広まったのか。
3.ファーストフードが広まった理由について
 1)理由をふたつ考える。
  1)都市生活者の食事のしかたが気軽さを好むようになった。
  2)人間の集合形態の変化。
 2)1)を言い換えると。
  ・食習慣の簡便化。
 3)2)の例は。
  ・家族の絆が緩み、解体する。
4.食習慣の簡便化について
 1)生徒の食事の様子を質問する。
  ・揃って食事を取るか。
  ・おかずは作るか買うか。
  ・食べながら何かするか。
 2)以前の食習慣は。
  ・日常生活の中の非日常性であった。
 3)食事の日常性とは。
  ・生命を維持する。
 4)どういう点が非日常性なのか。
  ・娯楽、社交、政治的な効果。
 5)宮廷社会から市民社会への移行での変化は。
  ・すそ野を広げてさまざまなタイプの宴会形式を生む。
  ・私的な生活の増大のために公的な饗宴の意味を希薄にする。
5.饗宴のすそ野の広がりについて
 1)社会文化の中心にあった食文化の形式は。
  ・共食。
  ・もともとは、神への供え物を皆で食べることによって、神と人または人と人の結合を強めようとする儀式的な食事。
 2)市民社会への移行によって、私的にはどのように広がったか。
  ・レストランの誕生。
  ・家族の共食形式(一家団欒)。
 3)レストランの説明をする。
  ・一八世紀の中頃のパリの外食は、宿屋か居酒屋か菓子屋などに限られていた。一七六五年にブラージュが「レストラン」という名のスープを出す、手軽に外食ができる料理店を開いた所、爆破的な人気を博した。その後、スープの名前が店の形式を表す言葉になった。
 4)一家団欒の説明をする。
  ・日本食では、個人用の膳の食器に一人分の料理が盛られた。現在の会席料理である。
   家父長制が徹底していた。
  ・明治から卓袱台が普及し、家族が一つの食卓を囲む形式が定着した。さらに、料理を大皿に盛って、個人の皿に取り分けるようになった。
 5)象徴的な意味は。
  ・家族制度の教化。
6.饗宴の希薄化ついて
 1)レストランと対照的なものは。
  ・ファーストフード。
 2)レストランとファーストフードの違いを考える。
  ・心地よさや豪華さの違い。
  ・値段の違い。
  ・料理ができる時間の違い。
  ・非日常性を楽しむか、日常生活を埋めるだけか。
 3)象徴的な意味は。
  ・家族の絆の希薄化。
  ・人間の行動パターンの変化。
  ★ファーストフードが広まった2つ目の理由である。
7.文化や人間の集合状態について
 1)キーワードは。
  ・個人。多様。
 2)文化や人間の集合状態の変化は。
  ・人間の接触が煩わしいもの。
  ・食事は社交の快楽ではなくなった。
 3)その影響は。
  ・食事を簡便に済ませることを望んだ。
  ★ファーストフードが広まった2つ目の理由である。
  ★これらの理由は互いに関係し合っている。

一三五04〜一三六09 7〜9
1.音読させる。
 ・重要と思われる箇所に線を引かせる。
3.ファーストフード、ハンバーガー店について
 1)特徴は。
  ・セルフサービス。
  ・内装を統一。
  ・メニューの画一化。
  ・厨房の廃止。
  ・中央管理。
 2)推量できる意味機能は。
  ・文化的な意味を失わせた。
  ・人々の接触の様相を変えた。
 3)「文化的な意味」とあるが、文化とは何か。
  ・その地域の人々によって工夫されること。
 4)どんな人に好まれたか。
  ・家族の団欒を拒否する若者。
  ・猛烈な仕事の忙しさの中で時間を節約したい人間。
  ・他人との煩わしい関係や店員との接触を最小限に抑えたい人間。
4.従来の外食の施設とファースト・フードについて
 1)従来の外食の施設の特徴は。
  ・多様化。増殖。
 2)ファースト・フードの特徴は。
  ・規格化。
 3)ファーストフードはアメリカナイゼーションの象徴だが、規格化はアメリカらしさではなく、無国籍化であることを確認する。
 4)アメリカナイゼーションというより、無国籍だから世界に広がったことを確認する。
 5)アメリカナイゼーションとは何か。
  ・一つのイメージに過ぎない。
5.ファーストフードの経験について
 1)意識されない感覚的な影響とは。
  ・貧困としか言いようのないメニューに慣れること。
  ・都市の遊民になっていくこと。
  ・我々自身を世界化していくこと。
 2)都市の遊民とは。
  ・自分が所属する都市固有の食文化を見失っている。
  ・食文化における国籍を失っている。
 3)世界化とは。
  ・世界的な規模まで広がった同一の網目に組み込むこと。
  ・世界的なチェーンになったハンバーガーを好んで食べること。
6ファーストフードの意味について
 1)ファーストフードとは何か。
  ・巨大なネットワーク。
  ・巨大な帝国。
  ・巨大なメディア。
 2)巨大なネットワークとは。
 ・店舗は一二一カ国にあり、店舗数は約三一,〇〇〇 店舗。
 3)巨大な帝国とは。
  ・飽くことない勢力拡大を図り、自国の領土や支配の及ぶ範囲を拡大していこうとする侵略的な傾向。
  ・日本中の至る所にマクドナルドがあり、他のハンバーガーショップと競い合っている。
 4)巨大なメディアとは。
  ・新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネット。
  ・文化的に強い影響力を持つ。



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世界中がハンバーガー  学習プリント

  番 氏名         点検日  月  日
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
 31 林立 席巻 浸透 32 波及 露骨 携える 均質化 33 憧憬 作用 絆 緩み
 普及 簡便 拡散 示唆 豪奢 34 饗宴 希薄 様相 推し量る 団欒 煩わしい
 35 至上 屋台 画一化 厨房 端末 増殖 36 叢生 兆候 
2.語句の意味を調べなさい。
 31席巻 アメリカナイゼーション 32ネーション ネーション・ステート 33憧憬 一概 普及 示唆 豪奢 34饗宴 希薄 様相 35至上  画一  厨房  増殖  36叢生 ローカル 遊民 37帝国 メディア くまない 

学習のポイント
1.アメリカナイゼーションされたものを理解する。
2.ハンバーガー・チェーン店の特徴を理解する。
3.アメリカナイゼーションの特徴を理解する。
4.ファースト・フードが流行した理由を理解する。
5.食習慣の簡便化の過程と影響を理解する。
6.文化や人間の集合状態の変化を理解する。
7.アメリカナイゼーションの実体を理解する。