永訣の朝


教材観
 余りに悲しくて、妹とし子の死を「とおくへいく」としか表現できない兄賢治。不吉な前兆か外がみぞれが降っているにもかかわらず変に明るい。とし子はしきりに「雨雪をとってきてほしい」と方言で言う。私は居ても立ってもいられず一目散に使い慣れた茶碗を持って外に出ようとする。とし子の言葉が耳に響いてくる。
 外に出るとみぞれが上から落ちてくる。とし子は妹のために何かしてやりたいが何をしていいかわからない私を気づかってみぞれを頼んだのだ。私は妹に感謝してまっすぐに進んでいくことを決意する。私にとってみぞれは「銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいのそらからおちた」清らかなものである。
 私は妹の最後の食べ物をもらっていく。改めて別れが意識される。とし子は「私は一人で行く」という。いつも一緒にいたい、できれば一緒に死んでいきたい私には意外な言葉だった。「今度生まれてくる時は自分のためでなく人のために生きたい」と言う。
 そんなとし子の言葉を受けて、この雪が天上のアイスクリームになって、とし子だけでなくみんなにも聖なる糧になるように、自分も生きていくことを誓う。


1.【指】本文プリントを配布する。
2.【説】作者や、詩の状況説明をする。
 賢治
 ・1896年、明治29年、岩手県花巻に生まれる。家は質屋で裕福。
 ・18歳で、盛岡高等農林学校に首席に入学。
 ・農学校教師、宗教家、童話作家、詩人。
 ・「注文の多い料理店」「風の又三郎」「銀が鉄道の夜」「雨にも負けず」
 とし子
 ・2歳下の妹。
 ・女子大学でも首席。
 ・花巻高等女学校の英語教師。
 ・賢治と同じ宗教を信仰し、賢治の良き理解者。
 状況
 ・1922年、賢治26歳、とし子24歳の時に、とし子が肺結核のため死去する。
3.【指】教師が音読する。
 ・好きな行を一行選んで、波線を引く。
4.【指】チーム内で、選んだ箇所を交流する。(3分)
5.【指】各自で問題を作成する。(10分)
 1)前半(1〜27)、後半(28〜56)に分け、班に振り分ける。
 2)例示する。

  a)【L1】2)「とおくへ行ってしまう」とはどういう意味か、抜き出せ。
    【答】死んでしまう。
  b)【L3】「とおくへ行ってしまう」とは「死ぬ」と言う意味だが、なぜ、「死ぬ」と 表現しなかったのか。
    【答】とし子の死を信じられなかった。認めたくなかった。
 3)形式を説明する。
  1)上段の問題になる箇所に傍線を引く。
  2)下の段に、設問を書く。
   ・行番号、問題レベル、設問内容、解答方法。
   ・問題レベルは【L1】〜【L4】まで分類して付ける。
    【L1】単純に抜き出す。
    【L2】複数箇所抜き出す。複数箇所をつなぐ。
    【L3】自分の言葉で答える。
    【L4】答えが一つに定まらない。
  3)設問の横に【答】として答えを書く。
 4)一人4問以上考える。
5.【W】4人組で問題を作る。(30分)
 ・4で作成した問題を交流する。
 ・チームで検討して4つに絞る。
 ・チーム用の本文プリントを配布して、記入させて、提出させる。
6.提出された問題をまとめてプリントする。
7.【W】前半後半、2回に分けてチームで解答する。
 ・簡単に解説する。


前半
大問1)【L3】なぜ、妹の頼みが18「わたくしをいっしょうあかるくする」のか。
 ・とし子の病室にあって、賢治は何をして良いかわからぬままおろおろしている。とし子は賢治の一生を明るく過ごせるように気づかってあめゆきを頼んだ。
 ・賢治のための利他行為である。
 ・とし子がそう意識したかどうかわからないが、賢治にはそう感じられた。
 ・賢治は「まっすぐすすんでいく」覚悟をする。
 ・実際は、「はげしいはげしい熱やあえぎ」に苦しむとし子が、熱に乾いた喉を潤すために頼んだと考える方が自然である。
 ★頼んだものが、水や薬であっても「いっしょうあかるくする」ことになったのか。
 ・雪は「銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいのそらからおちた」ものである。
 ・さらに、後半では「天上のアイスクリーム」になる。
 ・聖なるもの。清らかなもの。神の世界のもの。
2)【L2】3「みぞれ」の言い換えは。
  ・あめゆじゅ。あめゆき。
3)【L1】4(あめゆじゅとてちてけんじゃ)の意味は。
  ・雨雪を取ってきてください。
4)【L3】4(あめゆじゅとてちてけんじゃ)が方言である理由は。
  ・とし子が実際喋っている言葉だから。
5)【L3】4(あめゆじゅとてちてけんじゃ)が方言である効果は。
  ・とし子の苦しさが表現されている。
6)【L3】471323(あめゆじゅとてちてけんじゃ)と繰り返されている理由は。
  ・とし子の言葉が耳から離れない。
7)【L3】9「陶椀」がかけている理由は。
  ・幼いころに二人で使った思い出の茶碗。
  ・だからふたつ。
  ・貧しいわけではない。
8)【L3】11「まがった鉄砲玉のように」とはどんな様子か。
  ・あわてて外に出ようとするのでまっすぐ進めない。
9)【L3】6「ふってくる」と15「沈んでくる」の違いは。
  ・6部屋の中から外を見ているのと、15外で下から見上げているのと。
10)【L2】とし子の病状を表す表現は。
  ・24はげしいはげしい熱やあえぎ
  ・34やさしい
  ・43やさしくあおじろく燃えている
11)【L3】24「はげしいはげしい熱やあえぎ」はどんな感じがするか。
  ・高熱で苦しんでいる。


1 きょうのうちに
2 とおくへいってしまうわたくしのいもうとよ
  
死ぬ
   ↑
  信じられない、認めたくない

3 みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
            
 不吉な朝
4    (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
      
とし子の言葉
      方言
      賢治の頭の中で繰り返されている。

5 うすあかくいっそう陰惨な雲から
6 みぞれはびちょびちょふってくる
           
 家の中から見ている
7    (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
8 青い蓴菜のもようのついた
9 これらふたつのかけた陶椀に
     
思い出の品
10 おまえがたべるあめゆきをとろうとして
11 わたくしはまがったてっぽうだまのように
      
慌てている様子
12 このくらいみぞれのなかに飛びだした
13    (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
14 蒼鉛いろの暗い雲から
15 みぞれはびちょびちょ沈んでくる
            
外で空を見上げている
16 ああとし子
17 死ぬといういまごろになって
18 わたくしをいっしょうあかるくするために
  
とし子のために何かしてやりたいが何をしていいかわからない賢治の気持ちを察して
  雪を取ってきてくれと頼んだ

19 こんなさっぱりした雪のひとわんを
20 おまえはわたくしにたのんだのだ
21 ありがとうわたくしのけなげないもうとよ
22 わたくしもまっすぐにすすんでいくから
       
とし子の気持ちを受けた賢治の第一決意
23    (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
24 はげしいはげしい熱やあえぎのあいだから
25 おまえはわたくしにたのんだのだ
26  銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
27 そらからおちた雪のさいごのひとわんを……


板書 前半(1〜27)
とし子                賢治
とおくへいってしまう=死ぬ     
はげしいはげしい熱やあえぎ    
 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)   
わたくしをいっしょうあかるくするため
けなげ               
認めたくない・信じたくない
とし子のために何かしてやりたい    頭の中で繰り返されている
ありがとう
まがったてっぽうだまのように
 ・あわてて外へ出て行く様子
まっすぐにすすんでいくから=決意1)
空                 
へんにあかるい           
うすあかくいっそう陰惨       
くらい               
蒼鉛いろの暗い           
ふってくる…家の中から外を見ている
沈んでくる…外で空を見上げている
さっぱりした
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいのそらからおちた=聖なるもの


後半
大問1)【L3】なぜ、39(Ora Orade Shitori egumo )だけが、ローマ字で表記されて
 いるのか。
 ・最初は、とし子のは言葉はすべてひらがなだった。
 ・この部分と(生まれてくるだてけ〜)がローマ字に直される。
 ・(生まれてくるだてけ〜)もひらがなに改められる。
 ・賢治は、とし子の死を信じられず、いっしょに行きたい感情で一杯であった。
 ・とし子は、正面から自分の死と向き合っていた。
 ・賢治にとっては、異界の言葉であったので、意味がすぐにわからなかった。
 ・その違和感を表現するため、ローマ字にした。
 ・この言葉で「ほんとうに」と再認識する。
 ★さらに、とし子は(わりやのごとばかりで/くるしまなあよにうまれてくる)と、み  んなのために苦しむような生き方がしたいと言う。
 ・賢治も、あめゆきが「おまえ」だけでなく「みんな」にとっても「天上のアイスクリ  ーム」になるように、「すべてのさいわい」をかけて願う。
2)【L3】3840「きょうおまえとわかれてしまう」の違いは。
  ・38とし子と一緒に死にたいと願っている。
  ・40とし子と別れなければならないと覚悟した。
3)【L1】39(Ora Orade Shitori egumo )の意味は。
  ・私は私で一人で行きます。
4)【L1】49〜51(うまれてくるたて/こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまな  あよにうまれてくる)の意味は。
    ・生まれてくるとしても、今度はこんなに私のことばかりで苦しまないように生まれ   てくる。
5)【L3】49〜51(うまれてくるたて/こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまな  あよにうまれてくる)の気持ちは。
  ・生まれ変わったら、自分のためでなく、他人のために苦しみたい
  ・人の役に立ちたい。
6)【L1】54「天上のアイスクリーム」とは何か。
  ・あめゆき
7)【L3】55「おまえとみんなとに」と言っている私の気持ちは。
  ・とし子のことばかりを考えていたが、私もとし子だけでなく皆のために生きたい。
  ・宗教的な心境になっている。

28 ……ふたきれのみかげせきざいに
29 みぞれはさびしくたまっている
30 わたくしはそのうえにあぶなくたち
31 雪と水とのまっしろな二相系をたもち
32 すきとおるつめたい雫にみちた
33 このつややかな松のえだから
34 わたくしのやさしいいもうとの
35 さいごのたべものをもらっていこう
36 わたしたちがいっしょにそだってきたあいだ
37 みなれたちゃわんのこの藍のもようにも
38 もうきょうおまえはわかれてしまう
39 (Ora Orade Shitori egumo )
   
・とし子は、一人で死んでいく。
   ・賢治はとし子との別れに未練を残している
   ・意外な言葉=ローマ字

40 ほんとうにきょうおまえはわかれてしまう
  
・賢治はとし子の死を受け入れた
41 あああのとざされた病室の
42 くらいびょうぶやかやのなかに
43 やさしくあおじろく燃えている
44 わたくしのけなげないもうとよ
45 この雪はどこをえらぼうにも
46 あんまりどこもまっしろなのだ
47 あんなおそろしいみだれたそらから
48 このうつくしい雪がきたのだ
49    (うまれでくるたて
50     こんどはこたにわりゃのごとばかりで
51     くるしまなあよにうまれてくる)
      
・生まれ変わったら、人のために生きたい
52 おまえがたべるこのふたわんのゆきに
53 わたくしはいまこころからいのる
54 どうかこれが天上のアイスクリームになって
        
聖なる食べ物
55 おまえとみんなとに聖い資糧をもたらすように
  ・とし子だけでなく他の人にも
56 わたくしのすべてのさいわいをかけてねがう


板書 後半(28〜57)

A【L3】なぜ、(Ora Orade Shitori egumo )はローマ字で書かれているのか。
 ・とし子=私は一人で遠くへ行きます(=死にます)
 ・賢治 =いつまでも一緒にいたい
   ↓
 ・意外な言葉→一瞬意味がわからない=ローマ字
   ↓
 ・もうきょうおまえはわかれてしまう
   ↓
  ほんとうにきょうおまえはわかれてしまう

B【L3】(わりゃのごとばかりで/くるしまなあよに)で賢治はどう変わったか。   
  ・とし子=自分のことだけで苦しまないように=人のために苦しむように
   ↓
  ・賢治 =おまえとみんなとに/すべてのさいわいをかけてねがう
  ・雪 さいごのたべもの
      ↓
     天上のアイスクリーム=聖なるもの



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