(Ora Orade Shitori egumo )がなぜローマ字になっているのか。方言だからとすると、(あめゆじゅとてちてけんじゃ)や(うまれでくるたて〜)も方言なのに平仮名書きである。しかも、方の方言は字下げしているのにしていない。
 前後の行を見ると、「もうけふおまへはわかれてしまふ」「ほんとうにけふおまへはわかれてしまふ」と同じような内容である。前の行は「ちゃわんのこの藍のもやう」との別れであるのに対して、後の行は私やこの世からの別れで、「ほんとうに」と実感している。すなわち、この行で妹とし子との別れを現実のものとして受け止めたことになる。
 それ以前の部分は、「とほくへいつてしまふ」と表現しているように、死ぬことを直視しようとしていない。とし子は死ぬ直前になって、(あめゆじゅとてちてけんじゃ)と兄賢治に雨雪をとってきてくれるように頼む。それは、とし子のために何かしてやりたいが何をしてやればいいのかわからず悶々としていた賢治にとって、たいへんな救いになったはずである。雨雪を取りに行く様子は「まがったてつぽうだまのように」と比喩されているように、大きな喜びと使命感と緊張に満ち満ちていた。そして、その気持ちを「わたしをいっしょうあかるくするために」「ありがとうわたしのけなげないもうとよ」という言葉で表し、さらに「わたくしもまつすぐにすすんでいくから」ととし子と共に歩まんばかりの心情を吐き出している。そして、一緒に育ってきた間見慣れた
「ちゃわんのこの藍のもやう」を見て懐古と共に一緒に行きたい気持ちが表れている。 ところが、とし子は「私は私で一人で行く」と言う。その言葉は賢治にとっては非常に意外であった。だからこそ、平仮名よりもさらに音だけを無機的に伝えるローマ字を使ったのであり、とし子の言葉としてでなく、状況の一部として字さげをしなかったのであろう。
 さらにとし子は「今度生まれてくる時は自分のためだけに苦しむのでなく、人のために苦しめるような人生を送りたい」と言う。それを受けて、とし子のために取った雪が「天上のアイスクリームとなって/おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに/わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」と、賢治もとし子の遺志を継いで、とし子だけでなくみんなに恵みがあるように、自分のすべての幸いを賭けて祈るのである。

 生徒が今まで読んだ詩の中ではかなり長いものであろう。「表現を選ぶ」の後に学習するのであるが、賢治は何度も何度も推敲するので、まさしく表現を選びに選んだ詩として、言葉一つ一つの重さを実感できるだろう。平仮名が多く旧仮名遣いで書かれているので少し読みにくいが、難しい言葉は使われていないので、意味はとれるだろう。ただし、方言と天文用語が多いのにはやや戸惑うだろう。
 題材が愛する妹の死という緊張感のあるものなので、生徒の反応は敏感だろう。生徒にとってこの世で最も愛するもの、かけがえのないものが今死んでいこうとしている、それを見届けている場面と重ね合わさせれば、その心情はさらに深く理解できるだろ
う。
 授業の中では、最初から一語一語について味わっていくという方法をとらず、全体を何度か読んで感想を確かめた上で、(Ora Orade Shitori egumo )を中心に展開し ていく中で、全体的に考えていきたい。


1.教師が感情を込めて音読する。
2.生徒と音読する。
3.感想や気になる表現を聞く。
4.状況を確認する。
 ・作者(賢治)が死んでいく妹とし子のためにみぞれを取っている。
 ・とし子は2歳年下で、肺結核のため、『永訣の朝』が書かれた日の午後8時半頃死去。  享年二十四歳。

5(Ora Orade Shitori egumo )について
 1)意味を確認する。
  ・私は私で一人で行きます。
 2)ローマ字で表記している理由を考える。
  ・方言だから
  ・しかし、他の方言は平仮名になっている
 3)他の違いを考える。
  ・字下げになっていない
 4)なぜローマ字で字下げになっていないかを考えていくことを確認する。
  ・他のとし子のことばは、ひらがなで字下げされている。
 5)まず、ここまで前半のを振り返ることを確認する。

6.前半を音読する。

7.「とおくへいってしまう」として「死んでしまう」としなかった理由を考える。
 ・とし子が死ぬということを認めたくなかった

8.「みぞれがびちょびちょふってくる」と「みぞれがびちょびちょ沈んでくる」の違いを考える。
 ・ふってくる=家の中からみぞれを見ている。
 ・沈んでくる=外で空を見上げている。

9.(あめゆじゅとてちてけんじゃ)について
 1)意味を確認する。
  ・雨雪を取ってきてください
 2)4回繰り返されている理由を考える。
  ・とし子が4回言ったのではない。
  ・私の耳から離れなくて、頭の中で何度も繰り返された。
 3)雨雪を頼んだ理由を読み取る。
  ・「はげしいはげしい熱やあえぎのあいだから」
  ・熱で苦しいから冷たいものが欲しかった。
 4)雨雪を取りにいく私の様子を読み取る。
  ・「まがったてっぽうだまのように」
 5)「まがつたてっぽうだまのように」の様子を考える。
    ・動きが直線的になり、物に当たっては進んでいく。
 6)その時の私の気持ちを考える。
  ・急いでいた。
  ・妹のためにしてやれることが嬉しい。
 7)とし子が雨雪を頼んだ他の理由について
  1)雨雪を取ることが「わたくしをいっしょうあかるくする」理由を考える。
     ・死んでいく妹のために何かしてやりたいという私の気持ちを察して、雨雪を頼んだから。
  2)「ありがとう」の気持ちを考える。
   ・死ぬ間際まで私のことを気づかってくれる妹に感謝している

10.「もうきょうおまえはわかれてしまう」は何と別れるのか読み取る。
 ・「みなれたちゃわんのこの藍のもよう」

11.再び(Ora Orade Shitori egumo )について
 1)もう一度意味を確認する。
  ・わたしはわたしで独りでいきます。
 2)どこにポイントがあるのかを考える。
  ・「独りで」
 3)私の気持ちを確認する。
  ・とし子のために何でもしてやりたい。
  ・いつまでもとし子と一緒にいたい。
  ・できれば、とし子と一緒に死んでしまいたい。
 4)そんな私の気持ちととし子の言葉とのギャップを確認する。
 5)ローマ字で、字下げをしていない理由を考える。
    ・私にとって意外な言葉だったので、意味がすぐにわからなかったので、表音文字であるローマ字で表記した。
  ・とし子のことばとは思えなかったので字下げもしていない。

12.後半を音読する。(1分)

13.「ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ」について
 1)2行前にも同じ表現があるが、違いを読み取る。
  ・「ほんたうに」があるかないか。
 2)別れる対象の違いを読み取る。
  ・「みなれたちゃわんのこの藍のもよう」
  ・(この世、私)
 3)「ほんたうに」の意味を考える。
  ・とし子が死んでしまうことを初めて確認した。

14.(うまれてくるたて/こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまなあよにうまれてくる)について。
 1)意味を確認する。
    ・生まれてくるとしても、今度はこんなに私のことばかりで苦しまないように生まれてくる。
  ・生まれ変わったら他人のために苦しみたい
 2)それに応える私の言葉を抜き出す。
    ・「おまえとみんなとに聖い資糧をもたらすように/わたくしのすべてのさいはいをかけてねがう」
 3)私の気持ちの変化を考える。
  ・とし子のことばかりを考えていたが、私もとし子だけでなく皆のために生きたい。
  ・宗教的な心境になっている。

15.「そら」と「雪」のイメージを表現を抜き出す。
  ・空=へんにあかるい
    うすあかくいつそう陰惨な
    蒼鉛いろの暗い
    おそろしいみだれた
  ・雪=さっぱりした
    銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいのそらからおちた
    さびしくたまっている
    まつしろな二相系
    すきとほるつめたい
    さいごのたべもの
    まっしろ、
    うつくしい
    天上のアイスクリーム
  ・空は、暗く恐ろしいイメージが強い。
  ・雪は、前半はイメージが曖昧だが、後半は清らかなイメージで、最後は天上のアイスクリームになる



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