どうすれば虹の根もとに行けるのか
 
 黒井千次


 誰も子どもの頃、虹の根元に行ってみたい、虹の根元がどんなふうになっているのか知りたいと思う。
 僕が、虹の根元がどんなふうになっているのか、それを自分の目で確かめる方法は何か、という幼い2つの質問を大人に投げかけなかったのは賢明であった。( その答えは、最後に出てくる。)
 大人が子どもの満足する答えを与えるのは難しい。根元などない、遠いので人間には行き着けないという答えでは満足できない。( なぜなら、子どもの疑問は、どこかに根元があることが前提で、その様子を知りたい、そこへ行く方法を知りたいからだ。)

 私は、子どもでなくなった頃、その答えを「偶然」手に入れた。
 それは、ハンス・カロットの『幼年時代』という小説の中であった。その小説は、作者が三〇代の半ばに幼い頃をふりかえって書いた、人間の本源的なものが生きて輝いているのを見いだそうとする美しい小説であった。主人公は、「ニジマス」と呼ばれる、猟師の娘で、そばかすが斑点となった顔で、年上で、意地の悪いところがあり、気味の悪い話をするのが得意で、子どもに人気があった。( なぜ、意地悪く、気味の悪い話をする娘が、子度にに人気があるのか。それは、子どもの好奇心を満たすからだ。)
 「ニジマス」の家が焼けたときに虹ができた。それを見て、「私は」は天変地異起こり世界が滅びると思って狂喜する。すると、「ニジマス」が、虹の根元に行けるかもしれない、虹は金の皿の上に立っている言う。しかし、金の皿をとって「ニジマス」の家を建て直そうとする「私」を、ニジマスは押しとどめる。なぜなら,ひょっこり偶然見つけたら自分のものになるが、わざわざ探すと罪になるからだ。
 これは、虹についての問いかけの答えとして美しく完璧なものである。
 僕は満足した。満足するしかなかった。
 僕が幸せだったのは、大人になって、何も知らずに読み始めた小説の中で偶然答えにぶつかったからである。この小説で「偶然」に答えを見つけたことは、虹を乗せた金の皿が「偶然」でなければ手に入らないという点で、同じ意味を持っていた。
 そこで僕は思う。子どもの頃に抱いた疑問や不思議への問いかけは、大人によって答えられてはいけない。子どもが何十年もかけて追い求め、自分が何を探していたのかも忘れた頃に、初めて謎を解く鍵が与えられるものである。その謎が、子どもの命であり、糧である。大人にできるは、それをそっと見守り続けるだけだ。

1【L4】虹を見てどんな疑問を考えるか。
2【指】教材を提示する。
 ・「虹の根元がどうなっているのか」ではなく、「どうすれば虹の根元に行けるか」であることに注意する。
3.【指】段落番号を付ける。
 ・1〜12 
4【指】音読する。.
5【作】4つの段落に分ける。
 ・第一 はじめ〜
 ・第二 5(ところが)〜
  ・逆接の接続詞「ところが」があれば段落が変わる事が多い。
 ・第三 8(虹について)〜
 ・第四 12(そこで) 
  ・「そこで、ほくは思うのだ」で筆者の結論が述べられている。

5.第一段落(1〜4)「筆者の疑問」

11)記憶(きおく 億 臆 噫 檍     )32)賢明(けんめい 監 覧 堅 臥 ) 3)諦め(あきらめ 締める啼ずる    )44)承服(しょうふく ) 5)到底(とうてい           )
41)承服(承知して従うこと
 2)到底(どうしても〜ない 下に打ち消し語を伴って
21)恐らく【推量 〜だろう
32)まさか【強い打ち消し推量 〜ないだろう
 
11)【L1】筆者の子供の時の夢や疑問は何か。
  ・虹の根もとに行ってみたい。
  ・根もとがどんなふうになっているのか。
 2)【L1】虹をどのように表現しているか。
  ・巨大な半円形の橋
23)【L1】それを解決するために、筆者はどうしたか。
  ・見通しのきくバス通りに出る。
  ・電車に乗っていく。
34)【L2】「幼い質問」とは何か。
  ・虹の根もとはどうなっているのか。
  ・どうしたら虹の根もとに行けるのか。
 5)【L3】なぜ「幼い」のか。
  ・幼稚な質問だからではなく
  ・子ども独自の感性から発せられる質問だから。
46)【L1】予想される大人の答えは。
  ・ 橋のように見えるが実際は根元などない。
  ・虹までと遠いので到底人間では行けない。
 7)【L3】なぜ、その答えに子どもが承服しないのか。
  ・虹の根元があるなしではない。
  ・子どもは、虹には根元があることを前提に考えている。
  ・どうしたら虹の根元に行けるのかが問題である。
38)【L3】作者がその質問を大人に問いかけなかったのはなぜか。
  ×どうせましな答えが返ってくるはずがないと諦めていたわけではない。
  ★答えは明確に示されていない。偶然か。
 9)【L3】なぜ、大人に質問しなかったことが賢明なのか。
  ★第四段落に答えがある。
  ・大人に答えを与えてもらうのでなく、子どもが自分の力で偶然見つけるものだから
板書
第一段落(1〜4)「筆者の疑問」
 
1)筆者の子供の時の疑問=幼い質問
             
子ども独自の感性
  
・虹の根もとに行ってみたい。
   
巨大な半円形の橋
  
・根もとがどんなふうになっているのか。
  

 
2)予想される大人の答え
  
・橋のように見えるだけで実際には根元などない。
  
・虹までは遠いので到底人間では行けない。
  

 
3)子どもは承服しない
  
・虹の根元があるなしではない。
  
・どうしたら虹の根元に行けるのか。
  

 
4)幼い質問を大人に問いかけなかった=賢明

6.第二段落(5〜7)「ハンス・カロッサの『幼年時代』」

61)幼い(おさない 送り仮名 幻   ) 2)類い(たぐい 送り仮名      ) 3)鮮やかな(あざやかな 送り仮名  ) 4)斑点(斑点 班          )
 5)猟師(猟師 漁師         ) 6)意地(いじ            ) 7)地震(じしん 地が震える     ) 8)地獄(じごく 地の獄       )
 9)気味(きみ            )710)襲い(おそい           )
 11)狂喜(きょうき 乱舞 凶器 狂気  驚喜 狭軌 俠気 強記)

61)折(そのとき 折を見る お会いした折 季節の折柄 折も折 
 2)本源的(ものごとのおおもと みなもと こんげん
 3)類いまれ(ならぶものがない 比べるものがない

71)夢にも(けっして〜ない
 2)ひょっこり(偶然おこる

61)【L2】『幼年時代』とは何か。
  ★どういう観点の順に整理するか。
  ・短編小説集(ジャンル)
  ・ドイツの作家、ハンス・カロッサによって書かれた。(作者)
  ・自らの幼い頃を振り返る。(内容)
  ・そこに人間の本源的なものが輝いているのを見いだそうとした。(内容)
  ・類いまれな美しい小説。(評価)
 2)【L2】「ニジマス」はどんな少女か。
  ★どういう観点の順に整理するか。
  ・年上の女の子。(年齢・性別)
  ・主人公の私の遊び友達。(関係)
  ・猟師の娘(身分)
  ・顔にそばかすが鮮やかな斑点となっている。(容貌)
  ・意地が悪いところがある。(性格)
  ・地震とか地獄とか気味の悪い話をするのが得意。(特技)
  ・子供たちに人気があった。(評価)
   ・子どもは君の悪い話が好きである。
 3)【L4】みんなも君の悪い話が好きか。
   ・ホラー映画や小説が好きか。
74)【L1】どんな事件が起こったか。
  ・ある夏の午後。(時)
  ・激しい雷雨で、猟師の家が落雷で燃え上がる。(内容)
  ・虹が出ていた。
 5)【L1】「私」はどんな反応をしたか。【L3】それはなぜか。
  ・驚き、狂喜して、世界が滅びると叫んだ。
  ・子どもは不思議なことが好きだから。
  ・興奮している。
 6)【L2】それに対して、「ニジマス」は虹をどのように説明したか。
  ・あれはただの虹よ。
  ・虹の所まで歩いて行けるかもしれない。
  ・虹は草の中の金のお皿の上に立っている。
  ・冷静な態度。
 7)【L1】なぜ、「私」は虹の根元へ行こうと言ったのか。
  ・金のお皿を手に入れたら「ニジマス」の新しい家が買えると思ったから。
 8)【L1】なぜ、「ニジマス」は「私」を押しとどめたのか。
  ・ひょっこり見つけたら自分の物になる。
  ・わざわざ探すと罪になる。
59)【L1】筆者がこの話を知ったのはいつか、知った理由は。
  ・子供でなくなってから。
  ・偶然。

板書
第二段落(5〜7)「ハンス・カロッサの『幼年時代』」
 
・『幼年時代』
  
・短編小説集(ジャンル)
  
・ドイツのハンス・カロッサによって書かれた。(作者)
  
・自らの幼い頃を振り返る。(内容)
  
・人間の本源的なものを見いだす。(内容)
  
・類いまれな美しい小説。(評価)
 
・「ニジマス」
  
・年上の女の子。(年齢・性別)
  
・遊び友達。(関係)
  
・猟師の娘(身分)
  
・顔にそばかすが鮮やかな斑点となっている。(容貌)
  
・意地が悪い。(性格)
  
・気味の悪い話をする。(特技)
  
・子供たちに人気。(評価)
   

 
・事件
  
・ある夏の午後。(時)
  
・激しい雷雨で、猟師の家が落雷で燃え上がる。(内容)
   
その後、虹が出ていた。(内容)
   

 
・「私」の反応=興奮
  
・狂喜して、世界が滅びると叫ぶ。
   

 
・「ニジマス」の対応
  
・あれはただの虹よ。
  
・虹の所まで歩いて行けるかもしれない。
  
・虹は草の中の金のお皿の上に立っている。
   

 
・「私」=虹の根元へ行こう。
  
・「ニジマス」の新しい家が買える。
   

 
・「ニジマス=「私」を押しとどめた。
  
・ひょっこり見つけたら自分の物になる。
  
・わざわざ探すと罪になる。
    

 
・筆者と『幼年時代』の出会い。
  
・子供でなくなってから。
  
・偶然。

7.第三段落(8〜11)「虹の答え」

81)完璧(かんぺき 壁        ) 2)例え(たとえ           )113)載せた(のせた 荷物や印刷物   )124)不思議(ふしぎ          )
 5)謎を解く(なぞをとく 溶く 説く ) 6)糧(かて 生きていくために必要な物 7)性急(せいきゅう         )

121)性急(気が短く、せっかちなこと。あわただしく先を急ぐこと。

121)決して(絶対に〜ない
 2)性急(

81)【L2】「虹についての問いかけ」とは何だったか。
  ・虹の根もとはどうなっているか。
  ・どうすれば虹の根もとへ行けるのか。
92)【L2】筆者が『幼年時代』で得た答えは何だったか。
  ・虹は求めれば遠ざかるものである。
  ・ただ偶然によってしか見つけることはできない。
  ・探すと罪になる。
103)【L3】なぜ、筆者はその答えに満足するより他にしかたがなかったのか。
  ・虹の根もとはある。
  ・しかし、探しようがない。
   ・探せば遠ざかる。
   ・偶然にしか見つけられない。
   ・探せば罪になる。
114)【L1】なぜ、筆者は幸せだったのか。
  ・偶然その答えにぶつかったから。
  ・答えを探し求めていたときに答えを与えられたのではなく。
 5)【L3】「小説との出会い」と「金の皿の発見」に共通する同じ意味とは何か。
  ・偶然答えを見つけたこと。

第四段落(12)「筆者の結論」

126)【L1】今までのことから、僕が思ったことは何か。
  ・子供の頃に抱いた疑問は大人によって答えられてはならない。
  ・大人はもともと答えられるはずがない。
 7)【L3】「というより」とあるが、8)の両者の違いは何か。
  ・前者は答えを持っていても答えてはいけない。禁止。
  ・後者は答えを持っていないので答えられない。不可能。
 8)【L1】子供はどのようにして答えを手に入れるのか。
  ・何十年もかけて追い求め、初めて謎を解く鍵を与えられる。
 9)【L3】なぜ、それが子供にとって命や糧になるのか。
  ・謎を解こうと考えながら生きる。
  ・自分で答えを探し求める主体性が身につく。
  ・答えを見つけたときの達成感を味わえる。
 10)【L1】大人にできることは何か。
  ・子どもの疑問に性急に答えることではない。
  ・子どもが自分で答えを見つけるのを見守り続けること。
板書
第三段落(8〜11)「虹の答え」
 
・問い 虹の根もとはどうなっているか。
  
↓  どうすれば虹の根もとへ行けるのか。
 
・答え ・求めれば遠ざかる。
     
・偶然によってしかみつけられない。
     
・探すと罪になる。
  

 
・満足するより他にしかたがなかった
  
・虹の根もとはある。
  
・しかし、探すことはできない。
  

 
・幸せ
  
・偶然その答えにぶつかったから。
  
・カロッサの小説との出会い
    
‖偶然
  
・虹を載せた金の皿の発見

第四段落(12)「筆者の結論」
 
・筆者の思い
  
・子供の頃の疑問は大人に答えられてはならない=禁止
  
・大人はもともと答えられるはずがない=不可能
   

  
・子供が、何十年もかけて追い求め、初めて謎を解く鍵を与えられる。
   

 
・謎=子どもの命・糧
   

 
・大人にできること
  
×子どもの疑問に性急に答えることではない。
  
○子どもが自分で答えを見つけるのを見守り続けること。
  




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