『である」ことと「する」こと
丸山真男
「権利の上に眠る者」
時効では、債権者であることに安住して請求しないと債権を喪失する。日本国憲法では、主権者であることに安住して権利の行使を怠っていると主権者でなくなる。自由も、自由であることを祝福していると自由でなくなる。つまり、自由になろうとすることによって、自由でありうる。
「である」に安住して「する」をしないと「である」は消失する。
近代社会における制度の考え方
自由人も、自由であると信じている人は、自分の思考や行動を点検したり吟味したりしないので偏見から自由でない。逆に、自分の偏向を見つめている人は、より自由に物事を認識し判断しようと努力するので、自由になる。民主主義は、制度の現実の働き方を監視し批判する不断の民主化することによって、民主主義でありうる。定義や結論より、プロセスを重視する。
プリンは、属性として味が内在しているのか、食べる行為によって美味が検証されるのか。先天的に通用していた権威から、現実的な機能と効用を問う近代的ダイナミックスへの移行は、「である」ことから「する」ことへの移行である。
もちろん「である」組織や価値判断はなくならないし、「する」原則があらゆる領域で通用するわけではない。しかし、この2つの図式を想定することによって、社会的領域での民主化の実質的な発展と、制度と思考習慣のギャップを測定する一つの基準になる。さらに、非近代的な面と過近代的な面が混在する現代日本を反省する手がかりになる。
「する」ことによって「である」。この2つの図式が現代日本を考察する基準になる。
「である」社会と「である」道徳
「である」ことと「する」ことの対照を明確にすために、江戸時代の社会について考える。
江戸時代の社会では、「である」ことが重要であり、いかに振る舞うかが決まってくる。したがってコミュニケーションも相手が何者であるかが第一要件になる。討議の手続やルールや会議の精神を作らなくても、「らしく」の道徳にしたがって話し合えば話し合いは成立する。
他人の間のモラル、公共道徳やパブリックな道徳は発達する必要がない。横の関係より縦の関係を重視する儒教道徳の社会である。
他人の間の関係が増大すると、組織や制度の性格や道徳が変わってくる。
江戸時代は「である」である。縦の関係が重視され公共道徳は発達しない。
業績本意という意味
生産力が高まり、交通機関が発達して、社会関係が複雑多様になるにしたがって、素性に基づく人間関係にかわって、何かをする目的の関係や制度の比重が増してくる。近代社会の特徴である機能集団(会社、政党、組合、教育団体)は「する」ことの原理に基づいている。リーダーの偉さも上役であることかは発するのでなく、業績が基準になる。
まるごとの人間関係ではなく、仕事という側面の「する」ことに基づく上下関係である。
「である」ことから「する」ことへの移行は、領域によって落差があり、自動的に変化するものでもない。同じ領域でも、組織の論理と人々のモラルにも食い違いがあり、バリエーションが生まれる。
生産力の向上と交通機関の発達で「である」から「する」に移行する。リーダーのあり方も変化する。しかし、「である」から「する」への移行は領域により差があり、同じ領域でも組織の論理と人々のモラルの間に食い違いが生じる。
日本の急激な「近代化」
福沢諭吉の「日々のおしへ」には、「である」ことから「する」ことへの価値基準の歴史的な変格の意味が書かれている。しかし、一方で「する」価値が急激に浸透しながら、他方では「である」価値が強靱に根を張り、そのうえ、「する」原理を建前とする組織が、「である」社会のモラルによってセメント化されている。
伝統的な身分が急激に崩壊しながら、自発的な集団形成と自主的なコミュニケーションの発達が妨げられ、会議と討議の社会的基礎が成熟しなければ、新たな近代組織や制度は閉鎖的な集団を形成し、「うち」意識と「うちらしく」の道徳が発達する。しかし、外では「である」社会の作法は通用しない。人々は「する」価値の浸潤の程度の様々な「うち」的集団に所属し、場所柄に応じて振る舞い方を使い分けなければならないいうノイローゼ状態にある。
「である」が崩壊しながら「する」が発達しない場合は、組織は「である」に閉鎖し、組織によって対応を変えなければならない。
「する」価値と「出ある」価値との倒錯
戦後になって「国体」の支柱が取り払われ「大衆社会」の諸相が蔓延すると、問題性があらわになる。
厄介なのは、「する」ことが不足している所には「する」ことが欠けているのに、「する」ことが過剰な所では「する」ことが進展している。
これは大都市の消費文化において甚だしい。住居が床の間付きの客間の衰退から台所や居間の進出や家具の機能化へと変化したことや、日本式宿屋からホテル化へ変化したことは意味がある。しかし、休日が静かな憩いと安息の日から多忙に「する」日と化したことや、レジャーが「する」ことからの解放でなくて有効に時間を組織化することになったり、学芸が論文の内容よりも業績へと移行したことは厄介な問題である。
戦後、「する」が急速に蔓延したが、「する」の不足と過剰に二分化している。休日やレジャーや学芸は「する」が過剰に蔓延している。
学問や芸術における価値の意味
芸術や教養や古典などの文化的な精神活動は、結果よりもそれ自体に価値があり、休止は怠惰ではなく生きた意味があり、不断に働いているより価値の蓄積が重要である。一方、政治や経済はそれ自体の価値はなくすべて結果という果実で評価される。無為は無能であり、怠けることは何物も意味しない。
文化は「である」に、政治や経済は「する」に価値がある。
価値倒錯を再転倒するために
政治化の時代では、深く内に蓄えられたものへの確信に支えられてこそ文化の立場からする政治への発言と行動が生きてくる。「である」価値の否定しがたい意味を持つ部面に「する」価値が蔓延し、「する」価値によって批判されるべき所に「出ある」価値が居座っているという倒錯を再転倒する道が開かれる。現代日本に必要なことは、ラディカルな精神的貴族主義がラディカルな民主主義と内面的に結びつくことである。
「である」が重要なところに「する」が蔓延し、「する」が必要なところに「である」が居座っている転倒した状況を、「である」文化と「する」政治の内面的な結合により再転倒する必要がある。
「である」ことと「する」こと(1) 1〜8 学習プリント
点検日 月 日
組 番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
不心得者 債権者 喪失 不断 若干 威嚇 空疎 掌握 血塗られた 擁護 惰性 荷厄介 吟味 偏見 辛うじて 内奥 謳歌
2.語句の意味を調べなさい。
時効
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債権
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ロジック |
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不断
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威嚇
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空疎
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血塗られた |
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荷厄介
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偏見
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相対的
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物神化
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属性
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ドグマ
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先天的
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謳歌
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学習のポイント
1.時効のロジックを理解する。
2.基本的人権における、「である」ことと「する」ことを理解する。
3.自由における、「である」ことと「する」ことを理解する。
4.自由人が却って不自由であること、またその逆の論理を理解する。
5.民主主義の本質的な性格を理解する。
6.「である」ことと「する」ことを想定する意義を理解する。
「である」ことと「する」こと(2) 13〜24 学習プリント
点検日 月 日
組 番 氏名
学習の準備
1.読み方を書きなさい。
素性 行住坐臥 貴き 賤しき 躍進 強靱 浸潤 倒錯 臣民 辛うじて 弥縫 蔓延 享受 閑暇 憩い
2.語句の意味を調べなさい。
行住坐臥 |
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事理
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ヴァリエーション |
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強靱
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浸潤
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倒錯 |
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周知
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弥縫
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蔓延
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享受
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ラディカル |
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学習のポイント
1.近代化によって組織や制度や人間関係がどのように変化するかを理解する。
2.「である」論理から「する」論理へ推移する原因と過程を理解する。
3.上役やリーダーの役割の変化を理解する。
4.「する」社会や倫理への移行の問題点を理解する。
5.福沢諭吉が言う「貴き人」「賤しき人」の違いを理解する。
6.近代日本の宿命的な混乱を理解する。
7.日本がかかえてきた文明開化以来の問題性を理解する。
8.大都市の消費文化の問題点を理解する。
9.「である」価値と「する」価値の倒錯の解決策を理解する。
学習プリント(1)
1.【指】学習プリントを配布し、漢字の読みと語句の意味を宿題にする。
2.【指】形式段落番号を1〜23まで打つ。
3.【指】学習プリントの点検をする。
4.【L1】読みを確認する。
不心得者 債権者 喪失 不断 若干 威嚇 空疎 掌握 血塗られた 擁護 惰性 荷厄介 吟味 偏見 辛うじて 内奥 謳歌
5.【説】語句の意味を確認する。
時効=一定期間が経過して効力のなくなること。
債権=ある行為を請求できる権利。
ロジック=論理。
不断=とだえないで続くこと。
威嚇=威力をもっておどすこと。
空疎=見せかけだけでしっかりした内容や実質がないこと。
血塗られた=呪われた。
荷厄介=面倒くさいこと。
偏見=かたよった見方・考え方。
相対的=他のものと比べること。
物神化=人間が作り出したものが、反対に人間を支配するようになること。
ドグマ=独断的な考え。
先天的=持って生まれたもの。
謳歌=恵まれた幸せを大いに楽しみむこと。
第一段落(1〜3)「権利の上に眠る者」
1.時効について(1)
1)【説】時効の意味を確認する。
・一定期間が経過して効力のなくなること。
2)【説】さまざまな時効について。
・1年 タクシー料金、飲食店の飲食料、ホテルの宿泊料金、娯楽施設の使用料金
2年 学習塾等の月謝、小売店の売掛金、給料
3年 病院の治療費、交通事故等による損害賠償請求権、工事等代金等
5年 消費者金融、サラ金等への返済
10年 友人からの借金、落とし物
20年 居住権
3)【L1】末広先生の講義を聞いて印象に残っている言葉は。
・「権利の上にねむる者」
4)【L1】「権利の上にねむる者」とは誰のことか。10字。
・気の弱い善人の貸し手。
5)【L2】なぜ「不人情な話」に思われるのか。
・金を借りて返さない不心得者がトクをして、気の弱い善人の貸し手が損をするから。
【説】ネコババの由来について
・猫が自分の糞に砂をかけて隠す。
6)【L1】なぜ、請求しないのか。
・債権者であるという位置に安住しているから。
7)【L1】【L2】「時効」のロジックは。16字。
・請求する行為によって債権者である
・「する」ことによって、「である」になる。
・する→である
8)【L1】「時効」の中の「である」と「する」は。
・である=債権者である
・する=請求する
2.基本的人権について(2)
1)【説】第十二条を確認する。
・国民に保障する自由や権利は、不断の努力によって保持しなければならない。
2)【L2】「基本的人権」を、時効のロジック(○○することによって□□であ る)に当てはめるとどうなるか。15字。
・権利の行使によって主権者である
3)【L1】「基本的人権」における「である」と「する」は。
・である=主権者である。
・する=権利の行使。
4)【説】ナポレオン三世のクーデター、ヒットラーの権力掌握について。
・大統領選挙に勝利し、秩序党と組んで共和派を抑えたあと、クーデターによって秩序党を弾圧し、君主となって帝政を開いた。
・ナチス党の党首として、国会第一党になり、首相になると左翼党や労働組合を弾圧し、大統領を兼ねて総統に就任し独裁政治をした。
・民主的に国民から選ばれた後、独裁者になった。
・ナポレオン三世やヒットラーも悪いが、国民が選び、独裁を許した。
3.自由について(3)
1)【L2】「自由」のロジックを、時効のロジックに当てはめると。20字
・自由になろうとすることによって自由である
2)【L3】「自由」を「祝福する」、「擁護する」、「行使する」の違いは。
・祝福する=自由であることに満足してただ喜ぶ。
・擁護する=自由であることを守る。
・行使する=自由を実際に使う。
3)【L3】なぜ「生活の惰性を好む者」などには、自由は荷厄介なしろ物なのか。
・自由になろうとしなければ自由でなくなるから。
板書
1)時効について
・金を借りて返さないものが得をして、気の弱い善意の貸し手が損をする。
権利の上に眠る者
債権者であることに安住
★請求することによって債権者である
する である
2)基本的人権について
★権利を行使することによって主権者である
する である
3)自由について
・祝福する=自由であることに満足する。
・擁護する=自由であることを守る。
・行使する=自由を使う。
★自由になろうとすることによって自由である
する である
↑荷厄介
・怠け者
第二段落(4〜8)近代社会における制度の考え方
4.自由人について(4)
1)【L4】自分は自由人であると思っている生徒に手を挙げさせる。
2)【L3】自由人とはどんな人か。
・公平にものごとを考えることができる人。
・偏見にとらわれない人。
3)【L2】「自由人」のロジック(○○することによって□□である)は。
・(自由になろうと努力すること)によって(自由人)である。
3)【L2】「自由人」のロジック(○○することによって□□である)は。23字。
・自由になろうと努力することによって自由人である
4)【L1】なぜ「自由であると信じている人」が偏見から自由でないのか。
・不断に自分の思考や行動を点検したり吟味したりすることを怠りがちになるため。
★「する」ことをしない。
5)【L1】なぜ「偏見に捉えられていると意識している人」が偏見から自由になれるのか。
・ヨリ自由に物事を認識し判断したいと努力することによって
★「する」ことをするから。
6)【L3】「相対的」とは、誰と誰を比べているのか。
・自分は自由だと信じている人と、自由でないと意識している人。
5.民主主義について(5)
1)【L4】民主主義とは何か。
・人民が主権を持ち、自らの手で自らのために政治を行う政治形態。
・リンカーン「人民の、人民による、人民のための政治」
・多数決。
2)【L2】「民主主義」のロジックは。17字。
・不断に民主化によって民主主義である
3)【L1】次のものは「である」か「する」か。
ア.制度の自己目的化−物神化−=である
イ.制度の現実の働き方を監視、批判する姿勢=する
ウ.不断の民主化=する
エ.民主主義であり得る=である
オ.定義や結論=である
カ.プロセス=する
【説】制度の自己目的化とは。
・制度の目的を実現する手段であることが忘れられ、制度の存続自体が目的になっていること。
【説】物神化とは。
・人間が作った物が、神のような存在になり、人間を支配すること。
6.近代精神について(6〜8)
1)【L1】次のものは「である」か「する」か。
ア.(プリンの)「属性」として味が内在している=である
イ.(プリンを)食べる行為を通じて検証する=する
ウ.「先天的」に通用していた権威=である
エ.現実的な機能と効用を「問う」=する
オ.to be or not to be=である
カ.to do or not to do=する
2)【説】プディングは英語の諺である。
・論より証拠。物は試し。
3)【L1】「近代精神」とは。2つ
・「先天的」に通用していた権威に対して、現実的な機能と効用を「問う」
・「である」論理・価値から「する」論理・価値への相対的な重点の移動。
・である→する
4)【L3】なぜ「相対的」な移動なのか。
・すべての領域で同じ速度で移動することはないから。
5)【説】「もちろんA、しかしB。」の表現に注意する。
・Aという留保条件をつけながらも、Bを強く肯定する。
・「もちろん、みんなの言うことはわかる。しかし、私はこうしたい。」
・「である」組織(血族関係や人種団体)や価値判断はなくならない。
・「する」原則が無差別で謳歌されてはいけない。
6)【L2】「二つの図式」とは何と何か。
・「である」ことと「する」こと。
7)【L1】二つの図式は、何を測定する時の基準になるか。
・「民主化」の実質的な進展の程度
・制度と思考習慣のギャップ
8)【L2】二つの図式は、何を反省する手がかりになるか。26字。
・非近代的でありながら、過近代的でもある現代日本の問題
9)【L3】非近代的とは。(「である」か「する」を使って)
・「である」ことが多く残っていること。
10)【L3】過近代的とは。(「である」か「する」を使って)
・「する」ことが進みすぎていること。
板書
4)自由人について
・自由であると信じている人
↓自分の思考を点検しない=である
偏見から自由でない
・偏見から自由でないと意識している人
↓自由に認識し判断したいと努力する=する
・偏見から自由である。
★自由になろうと努力することによって自由人である
5)民主主義について
★不断に民主化によって民主主義である
する である
制度の監視・批判 自己目的化・物神化
プロセス 定義や結論
↓
・近代精神
・「先天的」に通用していた権威=である
↑問う
現実的な機能と効用=する
・「である」論理・価値
↓相対的な重点の移動
「する」論理・価値
↑もちろん(補足)
・「である」組織や価値判断はなくならない。
・「する」原則が無差別にで謳歌されてはいけない。
↓基準
・「民主化」の進展の程度
・制度と思考習慣のギャップ
・現代日本の問題
・非近代的=「である」が残っている
・過近代的=「する」ことが進みすぎている
学習プリント(2)
1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.漢字の読みを確認する。
素性 行住坐臥 貴き 賤しき 躍進 強靱 浸潤 倒錯 臣民
辛うじて 弥縫 蔓延 享受 閑暇 憩い
3.語句の意味を確認する。
行住坐臥=日常の起居動作。
事理=事柄の生じた理由・原因。
バリエーション=変種。変化。
強靱=強く粘りのあること。
浸潤=水がしみ込むように、思想・勢力・雰囲気などが広がっていくこと。
倒錯=逆になること。
周知=知れ渡っていること。
弥縫=欠点などを取り繕うこと。
蔓延=はびこること。よくないものが広がること。
享受=受け納めて自分のものにすること。
ラディカル=根底的な
第三段落(9〜12)「である」社会と「である」道徳
1.【説】徳川時代について(9〜11)
1)【L4】徳川時代のイメージは。
・身分社会であることを抑える。
2)【説】徳川時代の社会は、身分によっていかにふるまうかという型が決まる。
3)【L1】コミュニケーションの第一要件は。
・相手が何者であるかが外部的に識別されること
・服装、身なり、言葉づかい。
4)【L1】外部的に識別できないとどうなるか。
・どういう作法で相手に接していいか見当がつかない。
★水戸黄門や遠山の金さんは、一見してわからないから悪人が間違った振る舞いをす る。
5)【L1】逆に、識別できると、何にしたがって話し合いが軌道に乗るか。
・「らしく」の道徳
★共通の仲間意識があるので安心感がある。
★東京で関西弁を話す人と出会うと安心する。
★暗黙の了解がある。世間の常識がある。以心伝心。阿吽の呼吸。
6)【L1】次のものは「である」か「する」か。
ア.アカの他人の間のモラル=する
イ.公共道徳=する
ウ.パブリックな道徳=する
エ.儒教道徳=である
オ.君臣、父子、夫婦、兄弟=である
カ.朋友=する
キ.縦の関係=である
ク.横の関係=する
板書
・徳川時代
・身分社会
・身分によってふるまい方が決まる
↓
・外部的な識別
服装、身なり、言葉づかい
・「らしく」の道徳=儒教道徳=である=縦の関係
↓↑ 君臣・父子・夫婦・兄弟・(朋友)
・アカの他人の間のモラル、公共道徳、パブリックな道徳=する=横の関係
第四段落(13〜15)業績本位という意味
1.近代化について(12〜14)
1)【L1】なぜ「である」論理から「する」論理への移行が起こるのか。
・生産力が高まり、交通が発展して社会関係が複雑多様になったから。
★昔はある地域で、すべての分野を生産し消費していたが、生産力が高まるとその地 域の消費ではおさまらなくなる。
また、交通が発達するので、余剰分を他の地域に売りにいくことができる。
従って、違う地域の人々との交流も増えてくる。
2)【L2】人間関係は、どのように変わるのか。
・素性に基づく関係から、何かをする目的でとり結ぶ関係へ変わる。
3)【L1】「素性に基づく人間関係の」の例は。
・家柄、同族。
4)「何かをする目的で取り結ぶ関係」を一言で言い換えると。
・機能集団。
5)【L1】「何かをする目的で取り結ぶ関係」の例は。
・会社、政党、組合、教育団体。
6)【L4】機能集団の目的とは。
・会社は、利益をあげること。
・政党は、政治をすること。
・組合は、組合員の利益を守ること。
・教育団体は、教育をすること。
7)【L1】機能集団は何に基づいているか。
・「すること」の原理。
8)【L1】会社の上役や団体のリーダーの「えらさ」を判断する基準は。
・業績。
×上役であること
★現在の成果主義。
9)【L2】武士と課長の下役との人間関係の違いは。
・武士はまるごとの人間関係で、課長は仕事という側面についての上下関係である。
10)【説】アメリカ映画の例を確認する。
・勤務時間は命令服従関係(である)だが,勤務時間が終わると市民関係(する)に一変する。
11)【説】もし日本でこういう関係が成り立っていないとすれば、仕事が身分的になって いる。
2.近代化の問題点について(15)
1)【L1】「する」社会や論理への移行の問題点は。2つ。
・すべての領域に同じテンポで進行するものではない。
・社会の変化が自動的に人々のものの考え方や価値意識を変えていくものでもない。
2)【説】領域の落差、組織の論理と人々のモラルの差から、さまざまなバリエーション が生まれる。
板書
・江戸時代
│生産力の高まり
│交通の発達
│ ↓
↓社会関係が複雑多様
・近代
江戸時代=「である」論理 |
近代=「する」論理 |
素性に基づく関係
・家柄、同族
上役=身分
まるごとの人間関係
|
何かをする目的でとり結ぶ関係=機能集団
・会社、政党、組合、教育団体
上役=業績
仕事だけの上下関係 |
↓↑
・同じテンポで進行しない
・人々の考え方や価値を自動的に変えない
↓
・さまざまなバリエーション
第五段落(16〜18) 日本の急激な「近代化」
1.福沢諭吉の「日々のおしえ」について(16)
1)【L1】貴き人と賤しき人を区別は何によるものか。
・その人のする仕事のむずかしきとやすきによるもの
・貴き人=むつかしきことする
・賤しき人=やすきことする。
2)【L1】「むづかしき仕事」とは何か。
・物事を考えて世間のために役に立つことをする。
3)【L1】大名や公卿や侍はどうか。
・賤しき人。
4)【L1】なぜ賤しいのか。
・先祖代々の財産が有るだけで、立派にしているだけだから。
2.近代日本の宿命について(17)
1)【L1】近代の「躍動」の背景に何が作用していたのか。
・「する」価値への転換
2)【L3】なぜ「躍進」に「 」がついているのか。
・本当の躍進ではないから。
3)【L2】近代日本に起こった宿命的な混乱は何に発しているか。
・「する」価値が浸透しながら、「である」価値が根を張っていること。
・「する」原理の組織が「である」社会のモラルによってセメント化されてきたこと。
4)【L3】「セメント化」の意味は。
・固定されること。
5)【L3】次の状態は、「である」と「する」のどちらが欠如した状態か。
・伝統的な「身分」(=である)が急激に崩壊【である】
・自発的な集団形成と自主的なコミュニケーションの発達が妨げられる【する】
・会議と討論の社会的基礎の未成熟【する】。
6)【L1】こうした混乱の結果、何が形成されるか。
・閉鎖的な「集団」。
7)【L1】5)a)その集団の内では何が通用し、b)外では何がまちかまえているか。22字・ 9字。
a)「うち」のメンバー意識と「うちらしく」の道徳。
b)あかの他人との接触。
7)【L3】その集団の内と外の違いは。
・内では、「うち」のメンバー意識と「うちらしく」の道徳が通用する。
・外では、あかの他人との接触が待ち構えている。
8)【L3】「『うち』のメンバー意識と『うちらしく』」の道徳、「あかの他人との接
触」を「である」と「する」に分けると。
・「『うち』のメンバー意識と『うちらしく』」の道徳【である】
・「あかの他人との接触」【する】
9)【説】人々は、大小さまざまな「うち」的集団に関係する。しかも、それぞれの集団によって「する」価値の程度が異なる。その結果、同じ人間が「場所柄」に応じて振る舞い方を使い分けなければならない。
10)【L1】こんな状況の中で生活するとどうなるか。
・ノイローゼになる。
11)【L1】それを見抜いていたのは誰か。
・漱石。
板書
1.福沢諭吉「日々のおしえ」
・貴き人=むつかしきことする
・物事を考えて世間のために役に立つことをする
・賤しき人=やすきことする。
・大名や公卿や侍
・先祖代々の財産
2.近代日本の宿命
・江戸時代
│・「する」価値が浸透
│ ↓↑
│ 「である」価値が根を張っている
│・「する」原理の組織
│ ↓「である」社会のモラル
│ セメント化(固定化)
│・伝統的な「身分」の急激な崩壊【×である】
↓・自発的な集団形成とコミュニケーションの未発達【×する】
・近代
↓
・閉鎖的な「集団」。
内=「うち」のメンバー意識と「うちらしく」の道徳
外=あかの他人との接触
↓
・大小さまざまな「うち」的集団に関係
+
・集団によって「する」価値の程度が異なる
↓
・「場所柄」に応じた振る舞い方の使い分け
↓
・ノイローゼ
第六段落(19〜21) 「する」価値と「である」価値との倒錯
1.戦前と戦後の変化について
1)【L3】「この矛盾」とは何か。
・「である」行動様式と「する」行動様式の混乱。
2)【L1】この矛盾は、戦前は何によって弥縫(取り繕い)されていたか。
・「臣民の道」という行動様式。
3)【説】「臣民の道」とは、明治憲法下で日本人民が模範にすべきとこれた行動様式。
国すなわち家で,個々の家は国を本とし,臣民は〈遊ぶ閑,眠る間と雖も国を離れた私はなく〉と説いた。このように臣民は片時も私人であることを許されないとされたが,他方家庭の和合だんらんが説かれ,その根底として〈親子の自然の情〉が強調された。
この考え方が,あらゆる場所で国家権力による強制をともなって広められ,実践に移された結果,兵士の生命を軽視した無謀な戦術や自決の強要などによって,戦争の犠牲者を増大させる大きな原因となった。〈天皇への帰一〉と〈滅私奉公〉に よる国家への奉仕を国民に要求した。
4)【L3】日本の文明開化以来かかえてきた問題性は何か。
・「である」行動様式と「する」行動様式の混乱。
5)【L1】なぜ戦後日本の文明開化以来抱えてきた問題性があらわになったのか。17字。
・「大衆社会」的諸相が急激に蔓延した(から)。
6)【L1】戦後の問題性で厄介なものは何か。10字。
・「前近代性」の根強さ
7)【L3】「前近代性」の根強さとは何か。
・「である」ことが残っている。
8)【L1】より厄介なことは、a)何に基づく検証が欠けているのか、11字。b)何の不必要、過剰な侵入が反省されている部面に、何が進展しているのか。11字・7字。
a)「『する』こと」の価値
b)「『する』こと」の価値/効用と能率原理
8)【L2】より厄介なことは何か。
a)「『する』こと」の価値の検証が必要なところでは欠けている。
b)「『する』こと」の価値が必要のない、侵入しすぎている面では進展していること。
9)【L1】a)b)を第二段落(8)の語で言い換えると。
・非近代化
・過近代化
10)【L1】大都市の消費文化の住居の変化はどうなっているか。
・床の間付きの客間の衰退から、台所・居間の進出や家具の機能化。
・日本式宿屋から、ホテル化。
11)【L2】「休日」や「休暇」の問題はどうなっているか。
・憩いや安息の日ではなく、多忙に「する」日と化した。
12)【L1】「学芸のあり方」の現状はどうなっているか。
・大衆的な効果と卑近な「実用」の規準が押し寄せている。
・「学芸のあり方」は「である」価値なのに、「する」価値が侵入している。
13)【説】アメリカの研究者は、論文の内容ではなく数で評価される。
板書
・戦前=臣民の道
↓
・戦後=「大衆社会」的諸相が急激に蔓延
・前近代性(「である」価値)の根強さ
・「する」価値の欠如=非近代化
・「する」価値の過剰=過近代化
↓
・住居…床の間付きの客間→台所・居間
日本式宿屋→ホテル化
・休日…憩いや安息の日→多忙に「する」日
・学芸…論文の内容→大衆的な効果と卑近な「実用」
第七段落(22〜23) 学問や芸術における価値の意味
1)【L1】アンドレ・ジーグフリートは、教養はどういうところに自覚を持つところに軸を置くべきだと強調したのか。
・彼のするところでなくて、彼のであるところ
2)【L1】芸術や教養の価値は何にあるか。
・果実よりは花
・結果よりそれ自体に価値がある。
3)【L3】「果実」「花」とは何か。
・果実=結果=する
・花=それ自体=である
4)【L3】なぜ、教養の価値は大衆の嗜好や多数決では決められないのか。
・それ自体が持っているものであり、他のものの意志で決まるものではないから。
5)【L1】それに対して、政治や経済の価値は「花」か「果実」か。
・果実。
6)【L1】「芸術や教養」にあって「政治や経済」にないものは。
・古典
7)【L1】「無為」や「休止」は、「芸術や教養」や「政治や経済」にとってどんな意味を持っているか。5字・2字。
・芸術や教養=価値の蓄積。
・政治や経済=無能。
6)【L3】「芸術や教養」と「政治や経済」の違いは。
・「芸術や教養」には「古典」があるが、「政治や経済」には「先例」や「過去の教訓」しかない。
【説】「古典」は、「創造活動の源泉」である。
「先例」や「過去の教訓」は、「する」ための参考になるもの。
・「芸術や教養」にとって「休止」は価値の蓄積であるが、「政治や経済」にとって「無為」は無能である。
板書
芸術・教養=である
|
政治・経済=する |
果実よりは花 それ自体 古典=創造活動の源泉 休止=価値の蓄積
|
果実によって判定
結果 先例・過去の教訓=することの参考
無為=無能
|
第八段落(24) 価値倒錯を再転倒するために
1)【L1】「政治化」の時代を支えるには、何の立場からの発言が必要か。
・文化
2)【L3】政治と文化の違いは。
・政治=する=革新。
・文化=である=保守。
・文化に支えられた政治とは、「である」ことに支えられた「する」こと。
3)【L1】「『である』価値と『する』価値の倒錯」とは。
・前者(「である」価値)の否定しがたい部分に後者(「する」価値)が蔓延し、後者(「する」価値)によって批判されるべきところに前者(「である」価値)が居すわっているという倒錯。
4)【L1】現代日本に不足し要求されるものは何か。
・ラディカルな(根底的な)精神的貴族主義がラディカルな民主主義と内面的に結びついていくこと。
5)【L1】トーマス・マンの言葉で言い換えると。
・カール・マルクスがフリードリヒ・ヘルダリンを読む。
6)【L3】ラディカルな精神的貴族主義、ラディカルな民主主義、カール・マルクス、フ リードリヒ・ヘルダリンは何を意味しているのか。
・ラディカルな精神的貴族主義(純粋な精神的価値を内に蓄え、それに確信を持って 生きる生き方)=である
・ラディカルな民主主義(不断の民主化による民主主義)=する
・カール・マルクス(経済学者、革命家。世の中を変える)=する
・フリードリヒ・ヘルダリン(小説家、詩人。理想主義的で高貴な作品)=である
7)【L3】5)7)を比喩を簡単に言うと。
・「である」価値と「する」価値を統合する。
板書
・「である」価値と「する」価値の倒錯
・「である」価値に「する」価値が蔓延
・「する」価値に「である」価値が居すわる
↓再転倒
・ラディカルな精神的貴族主義+ラディカルな民主主義
である する
・カール・マルクス+フリードリヒ・ヘルダリン
する である
・政治+文化
する である
‖
・「である」価値と「する」価値の統合
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