児のそら寝 10
インストラクショナル・デザイン
I 準備段階(誰に、何を、どこまで教えるか)
1.学び手分析
中学でも少しは古文を勉強してきている。選抜試験にも古文が出題され、歴史的仮名遣いや内容把握の問題を解答している。I類なので、あまりできていないことは予想される。したがって、一度学習したことはあるが、ほとんど習得していないことを前提にする。ただ、年度当初なので、学習に対する意欲はなくはないと考えられる。
2.目標分析
これから古文を読解する上で、どんな事柄が必要になるかを、文章を読解しながら把握できることを目標とする。
1)言葉の単位を把握し、古文になれる。
2)話の概略を把握する。
3)歴史的仮名遣いについて、発見的理解をする。
4)古語について、古文特有の語、古今異義語について理解する。
5)辞書がひけるようにする。特に用言の場合、基本形に直すことを理解する。
6)文の構成、特に主語について把握する。
7)助動詞や敬語の働きと意味について理解する。
8)古文常識を理解する。
3.課題分析
1)中学校で学習したことを引き出し確認する。不十分な事項については、整理して理解する。
2)時間制限をした作業を通じて、ゲーム感覚で古文にふれる。
3)細かな解釈をする前に、概略を把握する感覚を体験させる。
4)文中から事例を摘出しながら、法則を発見する。
5)実際に古語辞書を引きながら、古語辞典を使う際の留意点を理解する。
6)本文の文脈を追いながら訳に必要な要素を理解する。
7)付属語の持つ細かなニュアンス重要性を理解する。
8)古文独特の世界観を理解し、古文に対する興味を持たせる。
4.成功基準
1)基本的な事項をアンケート形式で発問し、挙手させ、指名質問する。
2)ノートを机間巡視して確認する。
3)講義や作業しながら、ペアで確認作業をさせる。
4)小テストをして理解度を確認する。
5)定期試験で、基本的な事柄、応用的な事柄を問う。
II 開発段階(何を使って、どのように教え、どのように評価するのか)
1)目標行動を、興味を喚起しながら、論理的に習得できるように、順序を考える。
2)実際の作業を多く取り入れる。その際、時間制限をして、ゲーム性を持たせながら、集中して学習する習慣を身につける。
3)板書事項を予定し、ノートしやすいようにする。
4)ノートを効率的に取るために、枠などを必要なものはプリントとして与える。
5)技能の必要な事項は、何度も書いて練習する。
III 実施段階
・授業をする。
IV 改善段階
・成果を測定、評価する。
・教材や指導法を改善する。 入門教材である。一から教えるつもりで授業する。とはいいながら、形式的に押さえていくのでなく、本質をとらえた展開にしたい。
古文は初心者も熟練者も、まずはどれだけ早く正確に全体把握できるかがポイントになる。時と場所、登場人物、僧たちが何をしていて、児の気持ちの変化を追う。
ここから、初心者モードに入る。読みでは、歴史的仮名遣いをチェックして説明する。
読解では、書写から入る。書写のスピードは、どれだけの長さのまとまりのある塊を一度に認識できるかにかかっている。
次に、本文の横に訳を写させる。
1.本文をノートに書写させる。
《目的》文の単位を把握させる。
1)【指】教科書とノートを開けさせる。
2)【指】読める字で、できるだけ速くノートに書写させる。
3)【指】完成した生徒は挙手させ、時間を告げる。
4)【L4】上位者に、速く書けた秘訣を聞く。
5)【説】速く書写するコツを説明する。
・ある程度の意味のまとまりを覚えて書く。心理学用語で、チャンクという。
・意味のまとまりを意識することが、古文を理解できる早道である。
2.ノートを作り方を説明し、作らせる。
《目的》ノートの作り方を教える。
1)【説】ページの上3分の2に本文、下3分の1に板書事項などを書く。
2)【説】本文の横は4行ずつ空け、右に文法事項、左に訳と訂正訳を書く。
3)【W】時間を制限して、本文を写させる。
3.ノートを見ながら(教科書の訳を見ないで)質問に答えさせる。
《目的》詳細に訳す前に、概要を把握する。
1)【L1】いつ、どこでの話か。
・今は昔、比叡の山
2)【L2】登場人物は。
・僧たち、児
3)【L2】僧たちは何をしようと言ったか。
・ぼた餅を作ろうとしていた。
4)【L2】児はどうしたか。
・寝たふりをして、ぼた餅ができるのを待った。
・しかし、我慢ができずに返事をしてしまう。
5)【説】その児の気持ちの変化と行動が話の中心になっている。
4.歴史的仮名遣いを確認する。
1)【指】音読と表記の違いをチェックする。
2)【説】教師が音読する。
3)【W】文字と読みが違う文字、現在使われていない文字を○で囲ませる。
4)【W】ペアで確認する。
5)【L1】確認し、板書する。
・かいもちひ、言ひ、思ひ、合ひ、ゐ、さぶらは、たまへ、思へ、いらへ、思ふ、
をさなき、たまひ、言ふ、食ひ、食ふ、笑ふ
6)【L3】隠れた歴史的仮名遣いを指摘させる。
・宵(よゐ)、声(こゑ)
7)【L3】法則性を発見させる。
・ハ行(は、ひ、ふ、へ、ほ)は、ワ行(ワ、イ、ウ、エ、オ)と読む。
・「ゐ、ゑ、を」は現在使われていない表記。
8)【L4】現在残っている歴史的仮名遣いは。
・こんにちは(ワ)、学校へ(エ)
9)【L3】法則に当てはまらない部分を探し、法則性を発見させる。
・ひえ、ひしめき、ひしひし
・語頭のハ行は、ハ行で読む。
10)【説】歴史的仮名遣いをまとめる。
1)語中語末のハ行表記は、ワ行で発音する。
2)ワ行には、「ゐ・ゑ・を」という表記があり、「イ・エ・オ」と発音する。
・「う」はない。
3)現代仮名遣いのザ行「じ・ず」が、ダ行「ぢ・づ」で表記されることがある。
4)母音が重なる場合は、長音で発音する。
5)助動詞「む」助詞「なむ」などの「む」は「ン」と発音する。
11)【W】ペアで1文ずつ交代で音読させ、チェックさせる。
5.「今は昔、〜心よせに聞きけり」の横に、対応するように訳を写させる。
《目的》短い部分で、古文を訳す時の留意点に気づかせ、説明する。
1)【W】気づいたことを、ペアで話し合う。
2)【指】発表させる。
3)【説】古文を訳す時の留意点と、対策を整理する。
・ほとんどの単語が現代語と同じである。
1)現代語にはない単語がある。
・つれづれ、かいもちひ、心よせ
→線を引く。
→古語辞典で調べる。
2)主語や目的語の助詞が省略されている。
・児、僧たち、かいもちひ、この児
→( )付で助詞を補う。
3)細かな意味を添える単語がある。
・助動詞
・「けり、ける、けり」は形は違うが同じ助動詞で、過去の意味を表す。
・「む」は意志の意味を表す。
→二重線を引く。
→今は、どんな意味が添えられるかに注意する。
→詳しくは、二学期に学習する。
4)古典常識が必要になる。
・「比叡の山」=延暦寺。
・山=延暦寺、川=加茂川、祭=葵祭、寺=三井寺、花=桜
→教科書に出てくるものや、便覧で覚える。
6.留意点に注意して、「さりとて〜ひしめき合ひたり」の横に対応するように訳を書く。
1)【W】1)〜4)の留意点をチェックし、ペアで話し合う。
2)【説】留意点を整理する。
1)現代語にはない単語がある。
・さりとて、わろかり、ひしめき
2)主語や目的語の助詞が省略されている。
・助詞だけではなく、主語自体が省略されている。
・(僧たちが)し出さむを
・(児が)待ちて
・(かいもちひが)出で来る
・(児が)待ちける
・(僧たちが)すでにし出だしたる
→文脈を考えて補う。
→登場人物が誰かわかっている。
3)細かな意味を添える単語がある。
・寝ざら(打消)、わろかりなむ(強意+推量)、待ちける(過去)、し出だした る(完了)、合ひたり(存続)
7.ここまでの現代語にない古語を古語辞書で調べる。
《目的》古語辞典の使い方を知る。活用のある語の調べ方に注意する。
1)【W】「つれづれ、かいもちひ、心よせ、さりとて」を辞書で調べる。
・そのまま調べられる。
2)【説】辞書の表記を説明する。
3)【W】「わろかり、ひしめき」を辞書で調べる。
・活用があるので、終止形に直す。
・形容詞は「し」で終わる、動詞はウ段で終わる。
・わろし(形容詞)、ひしめく(動詞)
4)【説】「わろし」の意味の微妙な違いを説明する。
・「悪い」ではなく、「よくない」。
・「悪い」は「あし」という古語がある。
8.【W】続きの部分を、1)現代語にない古語に線を引き、2)省略されている助詞や主語を補い、3)助動詞に二重線を引きながら、本文の横に訳を書かせる。
《目的》今までの学習内容が理解できているか練習する。
1)【説】古語の確認をする。
・さだめて、おどろかさ、おどろか、いらへ、念じ、わびし、ひしひし、ずちなく
2)【L1】活用のある語は終止形に直させる。
・おどろかす、おどろく、いらふ、念ず、わびし、ずちなし
3)【W】「おどろかす、おどろく、念ず」を辞書で調べる。
・現代語にもあるが、意味が違う。
・「おどろかす」は他動詞、「おどろく」は自動詞で、微妙に意味が違う。
4)【説】古語の留意点を説明する。
a)現代語と全く同じ古語
b)現代語にもあるが意味の違う古語
c)現代語にはない古語
5)【L2】主語を確認していく。
・この児(が)→待ちゐたるに
・(僧たちが)→おどろかさむずらむ
・僧の→言ふを
・(児は)うれしとは思へども
・(僧が)→と言ふ声のしければ
・(児は)→思ひ寝に聞けば
・食ふ音の→しければ
・(児は)→いらへたりければ
・僧たち(は)→笑ふこと限りなし
6)【説】助動詞や敬語を説明する。
・おどろかさむず(推量)らむ(推量)、おどろかせ(尊敬)たまへ(尊敬)、呼ば れ(受身)、起こしたてまつり(謙譲)そ(禁止)、寝入りたまひ(尊敬)に(完 了)けり(過去)、起こせかし(念押し)
9.単語に分ける。
《目的》古語を調べたり、助動詞の役割を確認するには、まず単語単位に分解しなけれ ばならない。
1)【説】辞書を引いたり、助動詞を識別するには、単語に分けることが必要であること を説明する。
2)【説】文章の単位を説明する。
・文章=一つのまとまった意見や感情を述べたもの。
・文 =一つの判断や感情を述べるために、句点で区切ったもの。
・文節=主語や術語や目的語などの成分で区切ったもの。
・単語=一定の意味を持った品詞で区切ったもの。
3)【説】第一段落を、教師が単語に分けて読み、ノートに写した文に区切りの線を入れ させる。
3)【W】第二段落を、生徒に単語に分けさせ、ペアで確認する。
4)【説】教師が正解を区切って読む。
・この段階での単語分けは、理屈ではなく、勘を磨くことを説明する。
10.内容を深く理解する。
《目的》ここまでは、内容読解の基礎的な手順の学習であったが、ここからは古文の内 容の面白さを知らせ、興味を持たせる。
1)【L1】児の心理の変化を追う。
1)僧がかいもちひを作ると聞いて、どう思ったか。
・期待して聞いていたが、出来上がるのを待って寝ないのもみっともない。
★子供らしさとプライド
2)一度起こされた時にどう思ったか。
・うれしいと思ったが、一度で返事すると待っていたように思われて困る。
★子供らしさとプライド
3)二度と起こされないのでどうしたか。
・長い時間の後に、返事をした。
★子供らしさ。
2)【L3】児のプライドが高い理由を考える。
・身分の高い人の子供だから。
・当時は、貴族の子弟が寺で教育を受けていた。今の学校。
・従って、僧が敬語を使っている。
★古典常識を知っていると、古典がおもしろくなる。
3)【L3】僧たちは児のそら寝にいつから気づいていたか、なぜ意地悪をしたのか。
・「や、な起こしたてまつりそ」から。
・プライドの高い児をからかってやろうと思ったから。
★このあたりは、現代にも通じる心理である。古典と現代文の接点。
11.意味を確認しながら、生徒と音読する。
12.古文の勉強の仕方をまとめる。
1)音読しながら歴史的仮名遣いをチェックする。
2)単語に区切る。
3)わからない古語を調べる。
a)現在使われなくなった古語
b)現在も使われるが意味が違う古語。
4)あらすじを把握する。
・登場人物
・出来事
5)現代語訳する。
・主語や目的語を示す助詞を補う。
・省略されている主語や目的語を補う。
6)内容を深く理解する。
・登場人物の心理。
・出来事の原因や影響。
・古典常識。
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