顕宗といふ笛吹き(十訓抄)


 顕宗は笛の名手であったが、上がり性で、身分の高い人の前では実力を発揮できなかった。堀河院は顕宗の笛が聞きたいと呼んで吹かせたが、緊張してしまい、うまく演奏できなかった。
 そこで、院は顕宗の実力を見たいと思うと同時に、イタズラをしてやろうと思い、顕宗と親しくしている女房に、顕宗に女房の部屋で笛を吹かせて、院は近くで聞こうと計画した。顕宗はプレッシャーもなく、また思いを寄せている女房を良い所を見せようと、素晴らしい演奏をした。
 それを近くで聞いていた院は、思わず「ブラボー」と叫んだ。すると、顕宗に院が聞いていることを知り、急に緊張して、あたふたとして、縁側から庭に落ちてしまった。その話を聞いた世間の人々は、「落縁」を「安楽塩」という楽曲に引っかけて、あだ名にしてしまった。

I 準備段階(誰に、何を、どこまで教えるか)
 1.課題分析
 古典教材の2つ目で、訳が付いていない。話の内容は平易で、上がり症の主人公の滑稽話である。物語ではないが、ストーリーのある話で、登場人物も3人登場し、それぞれのキャラクターも明確である。古語も難しくなく、辞書で引けば訳せる。文法的にも難しい助動詞は出て来ない。少し助言すれば、生徒が自分で訳せる。全文を訳した上で、説話としての面白さである、主人公の失敗や、院の遊び心、女房の役割などを考えていく。
 2.学び手分析
 古典の面白さを少しは感じてくれたはずである。また、学習するには、1)音読、2)単語、3)助動詞、4)古典常識が必要なことも理解してくれているはずである。辞書の引き方もできるはずである。それらを活用しながら、生徒が自分で訳すようにする。その上で、適切な問い掛けによってこの説話の仕掛けを考えさせる。
 3.目標行動
1)歴史的仮名遣いに注意してしっかり音読する。
2)登場人物や、だいたいのストーリーを押さえる。
3)古今異義語や多義語を古語辞典で調べる。
4)助動詞の意味を理解する。
5)古語の意味と助動詞の意味を合わせて、自分で訳す。
6)顕宗の性格や行動を考える。
7)「安楽塩」というあだ名の意味を考える。
8)堀河院の行動の意図を考える。
 4.成功基準
1)しっかり声を出して音読できる。
2)古語辞典が引ける。
3)自分で訳そうと努力する。
4)古文に少しでも興味を持つ。


1.【指】学習プリントとノートの点検をする。
2.【指】教師が範読する。
3.【W】立たせて、句点で交代して、ペアリーディングを2回させる。
4.概略を押さえる。
 1)【L2】登場人物は。
  ・顕宗、堀河院、女房。
 2)【L1】顕宗はどんな人だったか。
  ・笛の名手。
  ・上がり性。
 3)【L3】堀河院は何をしたか。
  ・女房の前で笛を吹かせようとした。

5.【指】注意すべき助動詞を指摘する。
 ・けり、ける=過去。〜た。
 ・聞こしめさむ=意志。〜しよう。
 ・たり=完了。〜た。
 ・ざり、ず[ず]=打消。〜ず。
 ・られ[らる]=尊敬。〜れる。
 ・せよ、せ[す]=使役。〜させる。
 ・させたまは[さす]=尊敬。〜れる。
 ・つれ[つ]=完了。〜た。
 ・にけり[ぬ]=完了。〜た。

6.【W】各自で訳させる。

7.堀河院の御時、勘解由次官顕宗とて、いみじき笛吹きありけり。ゆゆしき心おくれの人にてぞありける。
 1)【語】
  ・いみじ=1)並々でない。2)すばらしい。3)ひどい。
  ・ゆゆし=1)恐れ多い。2)不吉である。3)恐ろしい。4)並々でない。
 2)【訳】
  ・堀河天皇の御代、勘解由次官の顕宗といって、すばらしい笛吹きがいた。並々でない臆病者であった。

8.院、笛聞こしめさむとて、召したりければ、帝の御前と思ふに、臆して、わななきて、え吹かざりけり。
 1)【語】
  ・聞こしめす=1)お聞きになる。2)お聞き入れになる。3)召し上がる。4)お治めになる。
  ・召す=1)お呼びになる。2)任命なさる。3)お取り寄せになる。4)召し上がる。
 2)【訳】
  ・院(は)、笛をお聞きになろうとして、(顕宗を)お呼びになったところ、(顕宗は)帝の前だと思って、臆病になって、震えて、吹くことができなかった。
  1)【L1】「召したりければ」の目的語は。
  2)【L1】「思ふ」の主語は。

9.本意なしとて、相知る女房に仰せられて、「わたくしに、局のほとりに呼びて、吹かせよ。」と仰せられければ、月の夜、かたらひ契りて、吹かせけり。
 1)【語】
  ・本意なし=1)残念だ。2)気に入らない。
  ・仰す=1)命じる。2)おっしゃる。
  ・契る=1)固く約束する。2)変わらぬ愛を誓う。
 2)【説】古典常識。
  ・女房=朝廷や貴族に仕えた女性使用人。名は、彼女らにあてがわれた専用の部屋に由来する。
 3)【訳】
  ・(院は)残念だと思って、(顕宗と)親しい女房におっしゃって、「個人的に、女房の私室の近くに(顕宗を)呼んで、吹かせなさい」とおっしゃったので、(女房は)月の明るい夜、親しく語らい約束して、吹かせた。
  1)【L1】「本意なし」「かたらひ契りて」の主語は。
  2)【L1】「呼びて」の目的語は。
  3)【L2】なぜ、院は顕宗を女房の私室に呼んで笛を吹かせるのか。
   ・女房の前では緊張しないだろうと思ったから。

10.女房の聞くと思ふに、はばかる方なく、思ふさまに吹きける、世にたぐひなく、めでたかりけり。
 1)【語】
  ・はばかる=1)行き悩む。2)いっぱいになる。3)遠慮する。
  ・めでたし=1)すばらしい。2)喜ばしい。3)愚かだ。
 2)【訳】
  ・(顕宗は)女房が聞くと思うと、遠慮することもなく、思い通りに吹いた。世にたとえるものもなく、素晴らしかった。
  1)【L1】「思ふ」の主語は。

11.帝、感に堪へさせたまはず。日ごろも上手とは聞こしめしつれど、かばかりはおぼしめさず。
 1)【訳】
  ・帝(は)、感動を抑えることがおできにならない。日ごろも上手だとお聞きになっていたが、これほどすぐれているとはお思いにならなかった。
 2)【L3】なぜ、顕宗は上手く吹けたのか。
  ・女房の前で緊張しなかったから。
  ・女房に気があって、良い所を見せようとしたから。

12.「いとこそめでたけれ。」と仰せられたるに、「さは、帝の聞こしめしけるよ。」と、たちまちに臆して、さわぎけるほどに、縁より落ちにけり。さて、「安楽塩」といふ異 名をばつきにけり。
 1)【語】
  ・いと=1)とても。2)(下に打消語があって)たいして。3)まったく。
 2)【訳】
  ・「とても素晴らしいなぁ」とおっしゃったので、(顕宗は)「さては、帝がお聞きになったいたのだ」と思って、たちまち臆病になって、騒いでいた間に、縁から落ちてしまった。そこで、「安楽塩」というあだ名が付いてしまった。
1)【L1】「臆して」の主語は。
3)【L1】なぜ、顕宗は縁側から落ちたのか。
 ・帝が聞いているとわかったから。
4)【L4】「いとこそめでたけれ」を意訳すると。
 ・ブラボー。
5)【L3】なぜ、院は感嘆の声を上げたのか。
 ・感動を抑えきれなかったから。
 ・顕宗に自分がいることを知らせて、反応を楽しみたかった。
 ・院のイタズラである。
6)【L2】「安楽塩」の意味は。
・「楽塩」(ラクエン)と「落縁」を掛けた。                 



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顕宗といふ笛吹き 学習プリント
                               点検日  月  日
学習の準備
1.歴史的仮名遣いに注意して、3回音読しなさい。
2.本文をノートに、4行ずつ空けて写しなさい。
3.読み方を現代仮名遣いで書きなさい。

御時  召したり  帝  御前  臆して  本意なし  女房  仰せ  局  契り  堪へ  縁  異名
4.次の語句の意味を古語辞典で調べなさい。[動詞」は「ウ段」、[形容詞]は「し」。
 いみじき[形容詞] ゆゆしき[形容詞] 聞こしめさ [動詞] 召し[動詞] え 本意なし[形容詞] 女房 仰(おほ)せ[動詞] 契り[動詞] はばかる[動詞] めでたかり[形容詞] いと

学習のポイント
1.歴史的仮名遣いに注意して音読する。
2.古語辞典を引く。
3.登場人物や、だいたいのストーリーを考える。
4.自分で訳す。
5.顕宗の性格や行動を考える。
6.「安楽塩」というあだ名の意味を考える。
7.堀河院の行動の意図を考える。