9.アサーション・トレーニング2  6月21日(月)

〜アサーションとは〜

アサーションの2回目。今回の目的は、アサーションとは何かを講義して分かってもらうことです。
前回の『バスは待ってくれない』で自分の話し合いの場での自己主張の強さを確認してもらったと思います。今回は、8ページからなるテキスト『自己主張シート1』を配布して、ちょっと授業っぽく進めて行きます。
まず、「アサーティブチェックリスト」から入ります。これは、ロバート・E・アルベッルティ&マイケル・L・エモンズのものを少し改良したもので、エゴグラムと同じような形式で、集計すると「攻撃的」「受け身的」「アサーティブ」のどの傾向が強いかが分かるようになっています。
次に、「攻撃的」「受け身的」「アサーティブ」のパターンについて、ケースを使って具体的に説明します。また、非言語的な要素についても説明します。
その後、4つのケースについて、自分ならどうするか考えさせます。言語的な対応だけでなく、非言語的な対応もイメージさせます。また、そういう対応をした理由を考えさせたり、その後の気持ちも想像させます。そして、それをグルーブで交流し、どのようにすればアサーティブに慣れるのかを考えさせます。
最後に、宿題として、自己主張が必要な場面で、自分が言語的・非言語的にどのような対応をしたか、その理由、その後の気持ちについて、1日1つずつ1週間の記録を書かせます。

時間 学習項目      活 動 内 容(★留意点 ▼生徒の反応)     
35 組み合わせ要約 1)前回提出させたものを添削して返却。ポイントを説明する。
★どこがポイントになるかを説明するので、組み合わせ作文の解説よりもう少し時間がかかる
2)要約第4弾「赤ん坊から見た世界」を配布して、30分間で要約させ、回収する。
10 アサーティブチェックリストをする 1)『自己主張ワークシート1』を配布する。
★ワークシートはB4版8頁の冊子になっていて、そこに「アサーション・チェックリスト」とケース1・2も入っている。
2)「アサーション・チェックリスト」をさせる。
★ロバート・E・アルベッルティ&マイケル・L・エモンズのものを少し改良したもので、エゴグラムと同じような形式で、集計すると「攻撃的」「受け身的」「アサーション」のどの傾向が強いかが分かるようになっています。
▼例えば「〜は苦手ですか」という質問に対して、苦手なのを5にするのか、得意なのを5にするのかという質問が多かった。
▼人によって変わるという本質をついてくる質問もあった。
3)集計をさせる。
▼進み方に個人差があるので、このようなチェックリストを一斉にやらせるのは難しい。
▼自分の意外な答えに友達通し見せあっていた。アサーションが望ましいことを知ると一喜一憂する生徒が増えた。
15 アサーションの説明をする 1)ケース1、2を使って、「攻撃的」「受け身的」「アサーショ ン」のパターンについて具体的に説明する。
2)ワークシートを使って、3つのパターンの特徴について説明す る。
3)ワークシートを使って、非言語的な要素について説明する。
▼説明になると集中できなくて寝てしまう生徒も多くなる。教科書を使った授業と違い難しい面がある。
★ワークを中心にすると盛り上がるのだが、その反動で、理論的な説明になると集中力が切れてしまう。
30 ケース・スタディをする
1)センタリングをして気持ちを集中させる。
▼説明で集中力の切れていた生徒も、すこう雰囲気が変わったので目を覚ました。
2)ケース3〜6について、自分ならどうするか想像させ、シート に、言語的・非言語的な対応、その理由、その後の気持ちをシートに書かせる。
★ケース3は弁当屋の割り込みでオバハン・パージョン、ケース4はヤクザ風オッサン・バージョン、ケース5はノートを貸してくれと頼まれた場合、ケース6はノートを借りる立場。3と4は同じ状況で相手の違う場合を考えさせる。5と6は逆の立場で考えさせ る。
3)前回の4人グループで、まずどのケースを取り上げるのかを決めて、各自の書いたものを発表させ、望ましい対応について話し合わせる。
▼話し合った結果を報告させるという課題を課していないにもかかわらず、よく話し合っていた。ただし、持続するのは10分程度 で、その後は散漫になるグループが出てきた。
★話しあいに参加しない生徒には、リェックリストの結果やケースの対応などを見ながら話しかけ、話し合いに参加するようにうながす。
 3 課題を提示する
1)『アサーション記録シート』を配布する。
2)次の時間までに、1日に1つのケースを記録することを指示する。


資料

自己主張ワークシート1


1.自己主張とは

あなたが、ものを頼まれたり頼んだり、抗議をしたりされたりして、自己主張しなければならない場面になったとき、どのような表現の仕方をするでしょうか。自己主張するとはどういうことか、考えてみましょう。
まず、「アサーション・チェックリスト」をしてみましょう。
どうでしたか、「攻撃的」「受け身的」「アサーション」のどこが最も高かったですか。
どこが最も低かったですか。
自己主張の仕方には、次の3つのパターンがあります。

a.攻撃的    自分の事だけを考えて、相手を無視して自分を押し通す。
b.受け身的   自分を抑えて相手を優先し、自分の事を後回しにする。
c.アサーション 自分を大切にすると同時に、相手の事も配慮する。

次に、実際の場面で、その違いを具体的に考えてみましょう。

ケース1
 友だちと映画を観ようということになって待ち合わせをしました。約束通りに会うことはできたのですが、何を観るかという所で、二人の意見が割れました。友だちはホラー映画が観たいと言いだしたのですが、あなたはラブ・ストーリーがいいと思っていました。その時、あなたはどうしますか。
ケース2
 場所は本屋。朝男は「アサーション・トレーニング」という本を買いましたが、1週間後、途中から20ページも欠落している欠陥本であることを発見し、返品したいと思っています。ただ、何ヶ所か線を引いてしまいました。さて、朝男はどんな態度をとるでしょう。

ケース1
a.なんでホラーなの? あんなのどこが面白いのよ。趣味わるーい。絶対イヤッ。今日はせつなーくてあまーいラブ・ストーリーを観るって決めてきたの。ねぇ、一緒に泣こうよ。
b.えっ、そうなの、ホラー好きなんだ・・・(絶句)・・・ううん、何でもないよ。そ、そうね、ホラーも面白いかも・・・ね。きっと面白いよ・・・。
c.ごめん。私、ホラー苦手なの。ゴメンっ! あっちの映画館でさぁ、ちょっと泣けるラブ・ストーリーやってんだけど、よかったら、そっちはどうかなぁ。

ケース2
a.ふんぞりかえってカウンターにやって来て、店員をにらみつけ、握り拳を作って、店中に響きわたるような大声で、「この店はどうなってるんだ。20ページも足りない本を売りつけるつもりか。せっかく楽しみに途中まで読んだのに、どうしてくれるんだ。」と言います。
b.ゆっくりためらいながらカウンターに向かいます。目はうつむき加減で、床を見ています。おずおずとした顔で、胸の前で本を抱きしめながら、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、「あのー・・・。この本・・・。」と言います。店員が声が聞こえにくいので聞き返すと、「いえ、結構です。20ページぐらいなくてもストーリーわかりますから」と口早に言って小走りに立ち去る。
c.店員の方に顔を向けながら、カウンターにやって来ます。リラックスした姿勢で、少し微笑みながら、欠落している部分を指で指して、穏やかな声で、「先週この本を買ったのですが、20ページも欠落しています。少し書き込みをしてしまいましたが、取り替えるかお金を返してほしいのですが」と言います。


受け身的は、相手はいいのですが自分の中に後悔が残りストレスが溜まります。攻撃的は、自分はスッキリしますが相手にストレスを残し、やがてそれが自分にも跳ね返ってくることがあります。アサーションは、自分にとっても相手にとってもストレスの少ない円満な解決ができます。
ただし、アサーションがよいとなると、何でもアサーションしなければならないということではありません。アサーションしないことを選ぶこともできるのです。例えば、自分の主張を聞いてくれない相手で、かなり感情的になっている相手に対して、アサーションで話し手も却って相手の怒りが強まり、攻撃的になる可能性がある場合は、危険を避けるためにアサーションを避けてもいいのです。また、急いでいる場合や大して差し障りのない場合は、時間のロスを避けるためにアサーションしない自由もあるのです。この場合に大切なことは、その後で相手も恨まないことです。


2.それぞれのパターンの特徴

   攻撃的      受け身的   アサーション
★相手の気持ちを考えないで、自分の意見や気持ちをはっきり言う。
★暴力的に言動だけでな く、相手の気持ちを無視して自分勝手なことをした り、巧妙に自分の欲求を相手に押しつけたり、相手を操作して自分の思い通りに動かそうとすることも含まれる。
★つまり、相手の犠牲の上に立つ自己主張。
★堂々としているように見えながら、どこか防衛的 で、必要以上に威張ったり強がったりする。
▲自分の気持ちや考えを表現しなかったりし損なったりする。
▲あいまいな言い方をしたり、言い訳がましく言ったり、無視されやすい消極的な態度や小さい声で言うことも含まれる。
▲つまり、自ら自分の自由や権利を踏みにじっている▲相手に譲ってあげているように見えながら、自信がなく、不安が高く、卑屈な気持ちになる。
▲恩きせがましい気持ちや恨みがましい気持ちが残ります。
▲欲求不満や怒りが溜ま り、人とつき合うのがおっくうになったり、弱い相手に対しては八つ当たりをしたり意地悪をしたりすることにもなりかねない。  
●自分も相手も大切にした自己主張。自分の意見や気持ちが率直にその場にふさわしい方法で表現される。●相手も同じように主張することを奨励しようとする●ただし、率直に話をすれば、互いに同意できない場合も生じてくる。その時 も、すぐに譲ったり相手が同意してくれることを期待するのでなく、面倒くさがらずに互いに意見を出し合って、譲ったり譲られたりしながら、互いに納得のいく結論を出す。
●言動は、余裕と自信に満ちており、自分がすがすがしいだけでなく、相手にもさわやかな印象を与える。
強がり、尊大、無頓着、自己肯定・他者否定的、操作的、自己本位、相手に指示、優越を誇る、支配的、一方的に主張する、責任転嫁         引っ込み思案、卑屈、消極的、自己否定・他者肯定的、依存的、他人本位、相手任せ、承認を期待、服従的、黙る、弁解がましい
正直、率直、積極的、自他肯定的、自発的、自他調和、自他協力、自己選択で決める、歩み寄り、柔軟に対応する、自分の責任で行動


3.非言語的な要素

自己表現は言葉だけではありません。ケース2のように、言葉以外の非言語的な要素も方が多いのです。それどころか、90%ぐらいは非言語的な要素だという人もいます。
非言語的な要素には次のようなものがあります。

視線   視線をどこにやるか。
★じっと見つめ過ぎると、相手は自分の領域にまで踏み込まれたような気になり落ち着かなくなります。
▲下を向いたり、目をそらしたりしながら喋ると、自信の欠如や相手に対する過剰な敬意が伝わります。
●ときたま相手の目を見たり、話している口元に視線を移したりして、相手を目で確認しながら話すと、相手に関心を持ち、相手との関係を心地よいものにしようとする意志を表現していることになります。
姿勢   どんな姿勢で立ったり座ったりしているか。
★ふんぞりかえった姿勢は、相手に威圧感を与えます。
▲背中を丸めたり、首を前に出して下を向いた前かがみの姿勢は、自信のなさを表します。
●両足をしっかり地に着けて胸を張って真っ直ぐ立った姿勢話せば、アサーティブになります。
また、相手との心地よい距離も知っておくといいでしょう。      
身振り  話している内容を強調するためにどんな身振りをしているか。
★腕組みをしたり握り拳を作ったりすると、威圧的・攻撃的になります。▲手を胸や口元に当てていると受け身的なイメージを与えます。
●手や腕を自由に動かして身振りを交えれば、自信があり自由な感じを与えます。
表情   言っている内容にふさわしい表情をしているか。
 笑顔や微笑みは大切ですが、腹が立ったり、同意できない時に笑顔でいるのは、伝えたいことが伝わらなかったり、不自然な表情になります。
声の調子 ★荒々しく叫ぶと、相手が身構えることになり会話が妨げられます。
▲小さい一本調子の声では、聞いている人は本気だと納得しません。
●穏やかで抑揚のある会話調の主張は、威圧感を与えることなく説得力があります。


アサーション・チェックリスト

次の文章を読んで、自分に合っていると思う数字を入れなさい。
1は「全くしない」 2は「たまにする」 3は「半分ぐらいする」 4は「よくする」 5は「ほとんどいつもする」

誰かが非常にずるいことをした時、それをきちんと指摘しますか。
何かを決断するのは難しいと思いますか。           
他の人の考え、意見、行動などをその人の前で批判しますか。  
きまりが悪いために特定の人や状況を避けることがありますか。 
自分の判断に自信をもっていますか。             
人をほめる時に、どのようにほめようか迷いますか。
かっとなりやすいですか。                  
販売員が熱心に勧めた場合、欲しくない製品でも「いらない」と言うのが難しいですか。
自分より後に来た客が先にサービスされた場合、店員にそのことを言いますか。
10 議論で自分の意見を言い出すのを控える方ですか。       
11 人にお金を貸してなかなか返ってこない時、返してくれるよう頼みますか。
12 相手がわかったと言っても、なお議論を続けますか。      
13 仕事中、人から見られていると気になりますか。        
14 映画または講演で、あなたの椅子を蹴り続ける人がいます。やめてくれるように頼みますか。
15 人と話す時、視線を合わせるのが苦手ですか。         
16 購入した製品に欠陥があった場合、返品して修理・交換などしてもらいますか。
17 相手を馬鹿よばわりすることで怒りを表しますか。       
18 社交的な場ではできるだけめだたないように努めますか。    
19 しばしば人に取って代わって、決定しますか。
20 愛情や好意を表に出せますか。                
21 友達にちょっと何かを頼んだり、助言を求めたりできますか。  
22 自分の解答はいつも正しいと思いますか。           
23 あまり知らない人の会話に入っていくのは苦手ですか。     
24 友達の厚かましい要求を拒否できますか。           
25 近くの人がタバコを吸っていて迷惑な時、そのことを相手に伝えますか。
26 他の人を思い通りに動かすため、怒鳴ったり脅かしたりしますか。
27 人が言っていることを最後まで聞かずに、途中で相手の話を取って自分でまとめてしまいますか。
28 人から不当に強く批判された時、黙ってしまいますか。
29 食卓での会話をいつも独占しますか。
30 初対面の時、自分から進んで声をかけ、話を切り出しますか。  
50 50 50
攻撃的 受け身的 アサ
ーシ


ケース3

状況(誰に対して、どういう場面で)       
弁当を忘れたので、昼休み、ホカベンを買うために外出しました。ところが弁当屋は混んでいて、ようやく自分の番が回ってきました。休み時間はあと10分しかありません。ところが、オバハンが2人、横はいりして、カルピ丼を5つ注文しました。店員は、何も言わずに注文を受けました。あなたは、どうしますか。
言語的(何を言ったか、どうしたか)       


非言語的(視線・姿勢・距離・身振り・表情・声) 


理由(なぜそのような言動をしたのか)      


感想(そのような言動をした後の気持ち)     


ケース4

状況(誰に対して、どういう場面で)       
弁当を忘れたので、昼休み、ホカベンを買うために外出しました。ところが弁当屋は混んでいて、ようやく自分の番が回ってきました。休み時間はあと10分しかありません。ところが、アロハシャツでサングラスをかけて雪駄を履いたいかついオッサンが横はいりして、中華丼を5つ注文しました。店員は、何も言わずに注文を受けました。あなたは、どうしますか。

ケース5

状況(誰に対して、どういう場面で)       
まじめにとってきたノートを、試験の前日になって、授業中寝てばかりいる隣の席の人が貸してくれと言ってきました。中間試験の時も貸したことがあるのですが、その時はすぐには返してくれませんでした。自分で勉強もしたいし、前回の事もあるし、普段勉強していない人に貸してあげたくないし、貸したくありません。いったん断るのですが、しつこく頼んできます。どうしますか。

ケース6

状況(誰に対して、どういう場面で)       
今回こそは授業中ノートをとろうと思っていたのですが、やはり寝てばかりいて、気がついたら明日が試験です。今回、50点以上とらないと卒業も危ない。前にノートを借りた隣の席の人に貸してもらいました が、うっかりしてすぐに返しませんでした。しかし、今、ノートを借りることができそうなのはその人しかいません。一度頼んですがやはり貸してくれません。でも借りなければ、卒業できません。どうしますか。



教師の感想

今回からワークと理論学習のほどよい調和を目指して、少し気合を入れてワークシートを作りました。イロイロな本を参考にしながら、生徒集団を想定して作るのですが、実際にやってみるとうまくいかない部分が何カ所かありました。
ワークシートも読むだけでわかるものを作ろうとするのですが、生徒の語彙力や理解力の差があります。また、ワークから理論学習への切り替えが難しい。授業のヤマを作ってと考えるのですが、試行錯誤です。
話し合いもよくしてくれたと思いますが、難しい。そのあたりのノウハウを勉強したいなぁと思いました。
そのへんも、教師がアサーディブになって、生徒にどうすればいいのか問いかけてみるのもいいかもしれません。
自分のことをふり返ると、最近、生徒には攻撃的になっているし、(やたら攻撃的な言い方をする)教科の先生には受け身的になっているなぁと反省しました。また、自己主張すべき場面としなくてもいい場面の見極めも(と言うほど大層な問題ではないのだろうが)難しい。例えば、無謀な運転をするヤンキーの兄ちゃんを見て(自分に危害が加わったわけではない)腹が立ったけど何も言わなかった場合は、受け身的になるのだろうか、自己主張が必要でない場合なのか、細かなケースを考えればきりがない。完璧に網羅できるシステムはないのだから、まぁいいか。


参考文献

ロバート・E・アルベルティ/マイケル・L・エモンズ『自己主張トレーニング』東京図書平木典子『アサーション・トレーニング』日本精神技術研究所
河野貴代美『女性のためのグループ・トレーニング』学陽書房
諸富祥彦『学校現場で使えるカウンセリング・テクニック上』誠信書房
窪内節子『楽しく学ぶこころのワークブック』学術図書出版社
國分康孝『エンカウンターで学級が変わる中学校編2』図書文化



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