17.言い換え技法 10月4日(月)

〜カウンセリング実習4〜

前回は野外に出でネイチャーゲームで気分一新。また、カウンセリング実習を始めるぞ。
ワークの時間は、「言い換え技法」です。前々回の「繰り返し技法」は健全な生徒には不評でした。あれは本当に話を聴いて欲しい人には効果的かもしれませんが、日常はなんかヘンですね。「言い換え技法」はカウンセラーの主観がより鮮明に出ます。クライエントを正確に理解するのみならず、それを的確に表現できる力量が問われます。これぞまさしく、国語の力です。
ウォーミングアップとして、生徒の好きな心理テストから入ってご機嫌をうかがいます。
そして、1つの行動に対してどれだけ多くの感情が潜んでいるかを考えるために、グループでカード式BS(ブレーン・ストーミング)法をします。そして、おもむろに「言い換え技法」を提示して、練習に入って行きます。練習は3種類用意しましたが、時間の都合で臨機応変に使います。練習1は、クライエントの言葉の背景にある感情を後の語群から選ぶという国語の試験のような問題。練習2は、クライエントの話に対してカウンセラーの適切な言い換えを3択で選ぶ問題。練習3は、クライエントの話に対して、自分で「繰り返し技法」を使った対応を書く問題。練習3はそのままロールプレイにもっていけます。

時間 学習項目      活 動 内 容(★留意点 ▼生徒の反応)     
50 意見文を書く5  1)前回の作文を返却する。高得点の作品は裏面に印刷してある。
2)「意見文を書く5『AかBか』」を配布する。
3)書き方を説明して、40分で書かせる。
・小論文を書く手順のメモを作ることを段階的に進めていく。第5回は、対照的な2つのものを選び、一方を支持する理由を書くこ と。いわば、ディベートの作文版である。題から自分で探すところに難しさがある。
10 共感度チェック  1)「ワークシート4言い換え技法」を配布する。
2)「1.共感度チェック」をさせる。
3)採点させ、結果を見させる。
15 感情と行動のカード式BS(ブレンストーミング)法 1)1人に10枚のカードを配布する。
2)「泣く」という行動の背景にある感情を、5分間でできるだけ多く書かせる。
・1枚のカードに1つの感情を書く。
3)グループ毎に机を合わさせ、A3の紙を配布する。
4)順番を決め、自分の書いたカードを読みながら、机の真ん中に出していく。
・前の人が言ったカードは出せない。
・すべてのカードが出尽くしたら終わり。
5)出たカードの中で似た感情をひとまとめにして、A3の紙に糊で貼る。
 5

言い換え技法の説

1)「3.言い換え技法」を説明する。
・例を参考にする。
・クライエントに対する効果を説明する。
・カウンセラーに必要な力について説明する。
 5 言い換え技法の練習1
1)「4.言い換え技法の練習1」をさせる。
2)解答と解説をする。
・1=エ、2=キ、3=イ、4=ク、5=オ、6=ア、7=カ、8=ウ
 5
言い換え技法の練
習2

1)「5.言い換え技法の練習2」をさせる。
2)解答と解説をする。
1.b 人に笑われたら自分ならどう思うかと置き換えてみるとよく分かります。aは開かれた質問であり、cは推測のしすぎで解釈になっています。                      2.c 生徒の情動的な言葉に注目します。aは過度です。強すぎる反映は生徒を脅かしたりイライラさせたりします。bは表面的すぎて話が深まっていきません。
3.c 生徒の話は現在から過去や未来に及ぶことがありますが、できるだけ現在の感情に対して反映することが効果的です。
4.c 複合した感情が述べられている時はすべてを反映しない と、問題の一面にしか注意を示せないことになり、他に重要な面があっても見落とすことになります。
5.a 生徒が言葉で表現しようとしたことと行動で伝えようとしていることが一致していないこともあります。両方の感情を反映します。
6.c 沈黙が長く続いた時、感情の反映が効果的であることもあります。
10 言い換え技法の練習3
1)「6.言い換え技法の練習3」を個人で回答させる。
・説明の例を参考にして回答させる。
・すべて言い換えるのでなく、焦点だと思う箇所だけにさせる。
2)4人組でどこでどのように言い換えたかを交流させる。
3)グループ内で実演してみる。
 5 振り返り
1)4人でロールプレイを振り返る。
2)「振り返りシート」を書かせる。



資料

カウンセリング実習ワークシート4

言い換え技法

1.共感度チェック

カウンセリングでは、まず、相手の気持ちに共感することが必要です。あなたの共感度をチェックしてみましょう。次の質問について、「とてもあてはまる」6点、「あてはまる」が5点、以下4点、3点、2点、1点で、「まったくあてはまらない」を0点としなさい。

1.腹を立てている人の気持ちを感じとろうとし、自分もその人の怒ったことがある。
2.悲しんでいる相手の気持ちを感じとろうとして、自分もその人の悲しさを経験したことがある。
3.何かに苦しんでいる相手の気持ちを感じとろうとし、自分も同じような気持ちになったことがある。
4.不快な気分でいる相手からその内容を聞いて、その人の気持ちを感じとったことがある。
5.相手が何か恐がっているときに、その人の体験している恐さを感じとったことがある。
6.相手があることに驚いたと語るとき、その人の驚きを自分も感じとったことがある。
7.相手が何か期待しているときに、そのわくわくした気持ちを感じとったことがある。
8.相手が楽しい気分になっている場合に、その楽しさを感じとろうと、その人の気持ちを味わったことがある。
9.相手が「こんなことがあって、とてもびっくりした」と話すのを聞いて、その人の気持ちを感じとろうとし、自分も驚いた気持ちになったことがある。
10.相手が喜んでいるときに、その気持ちを感じとって一緒にうれしくなったことがある。
11.相手が何か腹を立てていても、自分はその人の怒りがピンとこなかったことがある。
12.悲しんでいる相手といても、自分はその人のように悲しくならなかったことがある。
13.相手が何か苦しんでいても、自分はその苦しさを感じなかったことがある。
14.不快な気分でいる相手からその内容を聞いても、自分は同じように不快にならなかったことがある。
15.相手が何か恐がっていても、自分はその恐さを感じなかったことがある。
16.相手があることに驚いたと語っても、どうしてそんなに驚くのかわからなかったことがある。
17.相手が何か期待していても、同じようにわくわくしなかったことがある。
18.相手が楽しい気分でいても、自分はその人のように楽しく感じなかったことがある。
19.相手が「こんなことがあって、とてもびっくりした」と話すのを聞いても、自分は驚いた気持ちにならなかったことがある。
20.相手が何か喜んでいても、自分はうれしい気持ちにならなかったことがある。

A 1〜10の合計=(  
B 11〜20の合計=(  )

       A>40               A<39       
 40 両向型
自分や他人を独立した存在として捉えることができており、共感性が最も高い。他人に対して信頼感を持ちなが ら、時としては動揺することがあり、自己の感情体験をじっくり見つめる力を持っている。          
共有型
他人との共感は得にくい。自分と他人の間に越えがたい壁があり、孤独感を持ち、他人に対して信頼感が低い。自意識は低いが、共感性が低いことを意識しているので、潜在的には他人との関わりを持とうとしながらも、他方でそれを阻む面をあわせて持っている。
 39 不全型
自分と他人の壁が低く、すぐに自分のことのように思ってしまう未熟な共感である。自分では自分の感情がよく分かっているつもりだが、自分を独立した存在と見ることができず、本当の意味での自己理解や他者理解ができない。しかし、対人関係には楽観的な態度を持ち、安定している。     
両貧型
対人関係そのものが弱く、共感性は最も低い。他人に対する信頼感が低く、他者の眼を気にするだけの自己が形成されていない。あるいは無気力、無関心といった傾向を持ち、対人関係ではすぐに引きこもってしまう。    




2.感情と行動のブレーンストーミング

ある一つの行動でも、その背景にある感情は人によって違うし、同じ人でも状況によって違います。一つの行動の背景に多くの感情を予想できることによって、予断や偏見や独断から解放され、クライエントの話の背景にある感情を正確に聴くことができます。




3.言い換え技法

カウンセリングでは、クライエントの訴えは多くは感情です。その感情をクライエントに返すことによって、クライエントは、耳を傾け理解してもらえているという感じがもてるようになり、ますます自分の感情を語り、解放していけるようになります。クライエントの用いた表現をそのまま使う技法が「繰り返し技法」でした。さらに、踏み込んだ技法に「言い換え技法」があります。

言い換え クライエントの話を聴いて、カウンセラーが共感した感情を、カウンセラー自身の言葉に置き換えて、言い換えます。
 次のような表現をします。
  「……のかなぁ」
  「……という感じ?」
  「……と言い換えてもいい?」
  「私には……のように感じられるんだけど」
〔事例4〕
Cl もうずい分休んじゃったから、皆んなから取り残されていくような気がして。
Co あせっているのかなぁ
Cl でも、―方で、どうにでもなれって思ってしまうんです。
Co 私にはイライラしているように感じられるんだけど。
Cl そりゃ大学に行きたいけど、もうだめでしょうね。
Co もうあきらめたって感じ?
Cl 僕はもうおちこぼれたんだ。ひとりで生活する力もないし、人間失格なんです。
Co 絶望的な気持ちと言い換えていいのかなぁ。

「言い換え技法」のクライエントに与える効果は、
1)自分の感情に気づくのを助ける。
2)自分の感情を受け入れるのを助ける。
3)カウンセラーが自分の話をどう受けとったかがわかる。
4)自分のことを本当に分かってくれる人がいるという思いが強くなる。
「言い換え技法」でカウンセラーに必要な力は、
1)クライエントの話の中の感情に焦点を当てる。
2)クライエントの言葉だけでなく、行動(姿勢、声の調子、話す速度、その他の癖)にも注意する。
3)クライエントの話の中に潜んでいる感情をできるだけ多く予想する。但し、いたずらに詮索しない。
4)クライエントの感情を言い換える言葉を多く持つ。
これらの力は、国語で必要な力でもあります。言い換え技法は、カウンセラーの人間性が反映されていると見ることができます。4.言い換え



技法の練習1

次のクライエントの話の背景にある感情を後の中から選びなさい。
1.わたしの父にはうんざりしています。いつも私に命令します。(  )
2.見通しはとても明るいのです。それを楽しみにしています。(  )
3.私は、銀行であんな長い列に並ぶことはできません。(  )
4.歯医者へ行くと、いつも身体が震えるのです。(  )
5.凄いことが起こりそうで、待てません。(  )
6.将来に希望がありません。それなのに、なぜ、何かをしなければならないのでしょう。(   )
7.彼が家に帰るまで、私はとても心配です。(  )
8.政治家の経済施策ミスのため、私は職を失いました。(  )
ア.落ち込み・落胆  イ.うんざり・いらだち  ウ.憤慨している、失望している エ.怒り・敵意  オ.興奮・熱心  カ.緊張・張りつめている  キ.幸福・楽天的ク.心配・混乱  




4.言い換え技法の練習2

次のクライエントの言葉や行動に対するカウンセラーの言い換えの中で、適切なものを選びなさい。

[事例6]                                 
クライエント        カウンセラー                
(自分の進路希望に対する父の態度について話しながら)父は笑うのです。僕を馬鹿にしたように……。      abc どうして笑わないでほしいと言わなかったの軽蔑された感じ?            腹が立ったんだね。           
私は真剣に努力しています。でも、なかなか効果が上がらないのです。一生懸命やることがよい結果をもたらすとは思えません。幾ら努力しても他の人についていけません。 abc 絶望的な感じですね。
一生懸命やっても仕方がないと感じているんですね。
ずいぶん気落ちしているようですね。
(1か月前に彼氏と別れた)彼が別れようと言われた時、とても腹が立ちました。でも今は少し落ちつきました。  abc もう少したてばまた新しい彼氏ができるよ。はじめはとても腹が立ったんですね。
今はようやく落ち着きを取り戻したんだね。
試験が終わってホッとしています。でも、出来は最悪でした。通知表を親に見せられません。           abc 試験が終わって嬉しそうですね。
悪い成績を親に見られるのが嫌なんですね。
試験が終わったのは嬉しいけれど、悪い成績を親に見られるのが嫌なんですね。。
(椅子に腰掛けてモジモジして手を握りしめながら)久しぶりに学校に来たけどみんな温かく迎えてくれたよ。   abc みんな温かく迎えてくれてよかったね。でも何か心配があるようだが。
学校にこれてよかったね。
ずいぶん落ちつかないようだね。     
(数分間、モジモジしてい る)            ab

(生徒が話し続ける用意ができるまで黙って待っている)
そんなに話しにくいこと?話してくれないと援助できないよ。
話そうと思うことに何か不安があるようだね

4.言い換え技法の練習3

次のクライエントの話の中で、焦点だと思う所で、言い換え技法を使った言葉を書き なさい。

〔事例7〕 女性 19才 学生

 ヌ私がいまいちばん悩んでいるのは、人前に出ると、何も言えないことなんです。

 ネ顔が赤くなって、言いたいと思うことの100分の1も言えなくなってしまうんです。

 ノそれで、いろんな機会に出ていってしゃべりたいと思うんです。

 ハでも、さて言わなければならないときになると、気持ばかり焦って、どうしてもうまく言えないんです。

 ヒほんとうに、自分で自分に腹が立っちゃうんです。

 フ友だちがうまく話しているのをみると、うらやましいやら、ねたましいやらで、そのひとにケンカを吹っかけたくなってしまうんです。



生徒の感想

理解度  5−6 4−6 3−13 2−2 1−0
興味度  5−5 4−10 3−8 2−2 1−2
▼結局、何がやりたいか分からなかった。▼最近、何をしているのか分からないです。▼カウンセラーのポイントになる点を見つけるのは難しいと思った。▼いろいろな「泣く」があるなぁと改めて感じた。▼人の気持ちを理解することの難しさを改めて実感しました。▼言い換え技法は繰り返し技法と似ていると思った。▼「泣く」という行動には、いくつもの理由が考えられることを知った。こんなにあるとは思わなかった。どれも一度は体験していることだ。▼楽しかった。▼やはりカウンセリングは難しく感じる。▼泣くについて色々な体験が出て、みんなで出し合って結構面白かった。▼あまりよく理解できなかった。カウンセラーのワークはあまり好きではありません。▼一つの言葉でいろんなことが想像できるんやと思った。共感するんはやっぱり難しい。人の気持ちはよく分からない。▼「泣く」と聞くと、うれしいやつらいことをまず思い浮かべるけど、よくよく考えるとたくさんあった。▼結構わかりずらかった。もう少しゆっくりやりたかった。▼人の気持ちを考えながらしないといけないのがあって、悩んだ所もあった。▼自分が泣きたい時っていっぱいあるんだなぁと思いました。▼面白かった。▼一つの質問に対する答え方が色々あって、その一つ一つに深い意味があると言うことがわかった。



教師の感想

授業のヤマを「言い換え練習3」のロールプレイにもってこようと思っていたのですが、なりゆきで、カード式BS法にもってきました。それも、授業の直前まで「嘘を言う」でしようと思っていたのですが、廊下で自分ならどんな感情を思いつくだろうかと考えていると、あまり浮かんでこなかったので、急遽「泣く」に変更した。これは正解だった。みんな一生懸命していた。分類もできるかなと思っていたけど、面白がってやってくれた。ただ、グループによって遅速の差が大きく、次の「言い換え技法」の説明に入るタイミングが難しかった。実際、説明は曖昧で、「練習1」からようやくほとんどが注目してくれたぐらいだった。このへんのプログラムの順序は難しい。でも、カード式BS法は使える学習法でした。「練習3」についても、速いグループは自分たちで楽しんでいました。
ただ、カウンセリング実習も長丁場でやると、途中で興味をなくす生徒が出てくる。積み重ねや思い込みの部分もあるので、一度興味を失って生徒をもう一度こっちを向かせるのは難しいものを感じる。あと2回、「質問技法」と「ロールプレイ実習」なんとか乗り切りたいものです。相手の気持ちに添うというのがカウンセリングの基本であるのに、無理に引っ張っていくのは非カウンセリング的ではないかと悩んでしまう。



参考文献

・福山清蔵「独習入門カウンセリングワークブック」日本・精神技術研究所
・福山清蔵「独習実践カウンセリングワークブック」日本・精神技術研究所
・窪内節子『楽しく学ぶこころのワークブック』学術図書出版社
・アレン.E.アイビィ著/福原真知子他訳「マイクロカウンセリング」川島書店
・玉瀬耕治「カウンセリング技法入門」教育出版
・D.エバンス、M.ハーン、M.ウルマン、A.アイビー著/援助技術研究会訳「面接のプログラム学習」相川書房
・星野匡「発想法入門」日経文庫
・高橋誠「問題解決手法の知識<新版>」日経文庫



コメント

ホーム