15.繰り返し技法 9月20日(月)
〜カウンセリング実習3〜
作文の時間は、意見文3で、「携帯電話」という題で、書き始めと書き終わりを指示しておいて、第二段の携帯電話の長所、第三段の携帯電話の短所の材料は自分で探して書かせます。材料収集が課題です。
前回のワークの時間はいろいろな問題を提起してくれました。1つは、カウンセラーになるつもりはないのに、なぜカウンセリングを勉強するのか。その奥には、自分の問題なんか人に簡単に話せないという気持ちがありました。もう1つは、名前の順で決めたペアが仲の悪い相手だったので、やる気がしないということでした。
まず、この問題を解決しないと、今日のワークは始まりません。「カウンセリング実習」としたのは興味づけのためで、目的は、人の話をうまく聴く力をつけて、人間関係を円滑にすることです。そのことをまず伝えましょう。クライエント役になった時も、自分のことを話さなくてすむ選択肢も設定した方がいいでしょう。ペアの問題は、全体に承認を得て組替えをすることです。それで、他のペアも変わるならそれもいいでしょう。
で、今回は、「繰り返し技法」です。こういうネーミングはないのですが、分かりやすいのでそうします。相手の話を正確に聴いて、焦点づけをして、キーワードを探してそれをそのまま繰り返す技法です。細かく指導するなら、繰り返すキーワードを内容(事実)と感情に区別するべきなのですが、実際に人が話をする時も人の話を聴く時も、渾然一体になっていることが普通です。はじめから内容と感情に分けて聴くことはまどろっこしい感じがするし、現実的でもないと思います。キーワードを探した後で、それが内容と感情に分けられて、どちらを多くキーワードとしているかを振り返った方が分かりやすいと思います。
方法は、事例を用意して、まずは自分で回答し、次にグループで検討させるという実習です。その後、できれば繰り返し技法のロールプレイをします。これも、自分のことを話してもいいし、用意した事例をしてもいいという選択肢を設けます。
最後に、ふりかえりシートを配布して書いてもらいます。
時間 | 学習項目 | 活 動 内 容(★留意点 ▼生徒の反応) |
50 | 意見文を書く3 | 1)「意見文を書く3『携帯電話』」を配布する。 2)書き方を説明して、40分で書かせる。 ・小論文を書く手順のメモを作ることを段階的に進めていく。第3回は、書き出し(第一段)と書き終わり(第四段)の文章と、第二段は携帯電話の長所、第三段は携帯電話の短所という構成を与えておいて、第二、三段の材料を自分で考えて書かせる。 |
10 | 正確な理解 |
1)「ワークシート3繰り返し技法」を配布する。 2)「1.正確な理解」の[事例3]を個人で回答させる。 ・事例を読んで、15の選択肢の中から、事実として正しいものを選ばせる問題。 3)この前の4人組で、検討させ、グループの回答を出させる。 4)正解と解説をする。 ・14)だけが正解。 ・後は、予断、偏見、独断に基づく意見です。 ・例えば、「1)父親はギャンブル関係の仕事に反対している」は、「今は公営競馬関係の事務をしている。その仕事に反対で」という部分からの類推ですが、反対の理由は、自分の志望を貫いていないから、給料や待遇に問題があるからかもしれません。 ・○の数が多いだけ、予断、偏見、独断が強いことになります。 ・5つ以上○をつけた人は、一般論に頼り過ぎで、日常生活で人を誤解しやすい傾向があります。 5)カウンセリングで、必要なことの1つに、相手の話を正確に聴くことがあるが、その難しさを認識させる。 |
10 | 焦点づけ | 1)「2.焦点づけ」の[事例4]を個人で回答させる。 ・事例を読んで、11の選択肢の中から、焦点だと思うものを5番まで順位づけする。 2)4人組で交流させる。 3)解説をする。 ・正解はない。 ・自分の焦点づけの特徴に気づく。 ・内容(事実)に焦点づけする方か(1)5)6))、感情に焦点づけする方か(その他)。 ・ともかく目標をたてさせ、意欲をひきだそうということに関心をもつ人は7)11)あたりが優位になるかもしれません, ・両親との関係、親への配慮を意欲につなげることが重要だと思う人は5)6)8)10)あたりが優位になるかもしれません。 ・クライエントのおちこんでいる今の気持をうけとめようとする人は2)3)4)9)あたりが高順位になるかもしれません。 ・自分の序列を見直してみると、クライエントとの関わりの中で自分がクライエントに何を望んでいるのかがわかってきます。 |
5 |
繰り返し技法の説 明 |
1)「3.繰り返し技法」で、繰り返し技法について説明する。 ・例を参考にする。 ・クライエントに対する効果を説明する。 ・カウンセラーに必要な力について説明する。 ・オウム返しの危険性について説明する。 |
10 | 繰り返し技法の練習 | 1)「4.繰り返し技法の練習」の[事例5]を個人で回答させる。・説明の例を参考にして回答させます。 ・すべてに繰り返すのでなく、焦点だと思う箇所だけにさせます。2)4人組でどこでどのように繰り返したかを交流させる。 3)グループ内で実演してみる。 |
5 | 振り返り | 1)4人でロールプレイを振り返る。 2)「振り返りシート」を書かせる。 |
資料
カウンセリング実習ワークシート3 繰り返し技法 1.正確な理解 まず、カウンセラーはクライエントの話を正確に聴き取らなければなりません。 次の事例を読んで、事例の1〜15から事実として正しいものに○印をつけてください。
□ 2)母親は本人と話し合おうとしても拒否されている □ 3)課長さんは男同士の話し合いを求めていた □ 4)いとこは一人息子として期待されていた □ 5)いとこはマスコミ関係でなければどこでもよいと思っていた □ 6)本人が暴力をふるったのはタバコ泥棒の疑いをかけられたからである □ 7)母親も暴力を受けるようになって助けを求めている □ 8)この人はいとこと会って相談にのるように頼まれている □ 9)いとこは会社を辞めたがっている □ 10)いとこは男として人生につまずいた □ 11)いとこはすっかりノイ口―ゼになって、誰とも会わない状態である □ 12)いとこは夜に気晴らしをしたり買い物をしたりしている □ 13)いとこは父親との関係は悪いが母親とはそれほどでもない □ 14)いとこは父親に対して強い反発をもっている □ 15)いとこはもうすぐクビになりそうである 2.焦点づけ 次に、カウンセラーは、クライエントの話の中でどこに焦点を当てるかを考えなければなりません。 次のクライエントの話の中で、焦点はどこだと思いますか。下記の箇条書きの各項目の( )の中に、重要と思われる順に5番まで記入して下さい。
( )1) 3ヶ月間、学校を休んでいる。 そして、事実として何を聴き取ったかをクライエントに伝えます。 その技法の一つに、「繰り返し技法」があります。
「繰り返し技法」のクライエントに与える効果は、 「繰り返し技法」に必要なカウンセラーの力は、 これらの力は、国語で必要な力でもあります。 ただし、なんでもかんでも「オウム返し」すると、クライエントは自分の話を真剣に聴いてもらっていない、馬鹿にされているような気になります。だから、ここが焦点だと思う所で、効果的に繰り返し技法を使うようにします。 次のクライエントの話の中で、焦点だと思う所で、繰り返し技法を使った言葉を書き なさい。
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生徒の感想
理解度 5−5 4−4 3−13 2−1 1−2
興味度 5−5 4−5 3−12 2−2 1−1
▼繰り返し技法は意味があるのかないのかもう一つわからなかった。なにか「おちょくってる」って感じがした。何が目的なのか分からない。▼意味がよく分からなかった。▼繰り返されると笑ってしまう。▼正確な理解がなかなか難しかった。▼今回のカウンセリングはあんまりだった。心理テストっぽいのがやりたい。▼繰り返し技法で焦点を見極めていく繰り返すのは難しいけど、実践は楽しかった。正確な理解で5つも〇がついた。そのなかに事実も入っていたけど、推測し過ぎやなと思った。焦点も難しかったし、カウンセラーって大変なんやと思った。▼エーッと思うような事がたくさんあった。だけど、この考えが間違っているとは思わない。繰り返すよりもっと違う言葉で言ってほしい。▼このごろワークはカウンセリングのことが多いので他のこともやりたいです。▼繰り返すことがそんなに大事だとは思えなかった。最近ワークがカウンセリングばっかりで少し飽きてきた。▼繰り返しはそんなに必要ないと思った。うなずくとかの方がいい様に思う。▼あまり面白くなかった。▼相変わらず難しいと思いました。話の焦点や本当の事実を見抜くことがこんなに難しいとは思いませんでした。▼ペアが変わって楽しくできた。▼人の心は難しい。奥が深い。▼繰り返し技法は私が相談者だったらこんな技法でカウンセリングされたくないと思った。▼先週より分かりやすく興味が持てた。▼今日の授業は楽しかったです。カウンセリングは誰でもできると思っていた。難しいんですねぇ。
教師の感想
前回の宿題はうまく解決しました。すぐに生徒に返して説明すると理解してくれるという確信を得ました。
一問去ってまた一問。話しやすいようにグルーピングしたのはいいのですが、授業に関係のない話をするグループがあった。机間巡視をしながら「やってるか」と声をかけて回ります。生徒話を上回る、やらずにいられないような教材を用意できればいいのですが。夢ですね。また、カウンセリングに飽きていたとの声。計画では、あと4回あるのですが。このあたりが動機付けが希薄で国語表現を流用した報いでしょうか。
で、今回ですが、「正確な理解」の事実は一つと言うとどよめきが起こったので手応えがあったのでしょう。「焦点づけ」は「答えがない」と言ってやると安心してやっていました。「繰り返し技法」は説明してやり、練習問題を記入させ、グループで相手を見つけて実演させました。時間の都合でロールプレイまではできなかったので、それで実習に代えました。やっているグループは笑い声が漏れたり楽しそうでした。
しかし、感想を見ると「繰り返し技法」自体は評判がよくないようです。本当に困っているクライエントなら藁をもすがる気持ちで来るので、ポイントを繰り返してもらうと話を聞いてもらっているような気持ちになるかもしれませんが、日常会話に近い中では「おちょくられている」気がするというのも分かる気がします。まぁ、うまくポイントを返せてないから余計に感じるのかもしれませんが、オウム返しがよくないこととつながるかもしれません。
次回は「言い換え技法」、次は「質問技法」と考えているのですが、マイクロカウンセリングのように、段階ごとに学習していくことにもいろいろ課題がありそうです。やはり、カウンセリングは総合的なもので、「いきなりやってみなさい方式」がいいのでしょうか。(いや、そんなはずは・・・・・。)
参考文献
・福山清蔵「独習入門カウンセリングワークブック」日本・精神技術研究所
・福山清蔵「独習実践カウンセリングワークブック」日本・精神技術研究所
・アレン.E.アイビィ著/福原真知子他訳「マイクロカウンセリング」川島書店
・玉瀬耕治「カウンセリング技法入門」教育出版
・D.エバンス、M.ハーン、M.ウルマン、A.アイビー著/援助技術研究会訳「面接のプログラム学習」相川書房
・國分康孝「カウンセリング教授法」誠信書房
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