三岳酒造

 

 世界遺産登録の島「屋久島」。
宮之浦港沖合いから 「ひと月に35日間雨が降る」と言われるくらい、水が豊富な土地柄だ。最高峰の宮之浦岳山系の水は日本名水百選にも選ばれている通り、原生林でろ過された水は清冽なものなのだろう。
 ここ8年近く、だいやめの友として愛飲してきた「三岳」。いったいどんな蔵でどんなこだわりを持って造られているのだろう-という思いと、原生林、秘境の地というイメージが交錯し、飲むたびにいつか是非とも行ってみたいという思いが膨らんでいたが、遂に目の当たりにできる機会がやってきた。
 とはいえ、屋久島は何年か前、台風急接近のために帰りの足がなくなり、イヤと言うほど孤立した”島”の厳しさを味わった苦い思い出のあるところ。今回も台風10号、11号と立て続けに来た後だっただけに慎重にならざるを得ず、出発日の前日になって「明日なんですけど‥」と三岳酒造にお願いをする”行き当たりばっ旅無理難題玉砕覚悟速攻勝手見学”という急な段取り。にも関わらず、快く了解していただいた。ただし、工事中のために、蔵の見学はできないという。今更予定を変える訳にもいかず「お話だけでも‥」とちょっと気落ちしながらもお願いする。

「まんてん」ラベル
 当日、屋久島に向かうフェリーの中から再度確認の電話を入れると、「夕方5時過ぎの方がいい」との返事。フェリーが宮之浦港に着くのは12時30分。それから4時間30分もの時間をどうやって過ごすか、地図とにらめっこしながら決めたのが「大川(おおこ)の滝」見学。宮之浦からちょうど島の反対側に位置するそこまで行き、三岳酒造のある安房に戻ってくるまでざっと計算して80q近い走行距離になる。1時間に20q弱のスピードで十分可能なペダリングだ。
 と、安易に考えたのがやはり間違いだった。今までの経験からしてアップダウンの道路はせいぜい16〜17qが限度の身。ちょっと厳しいかなとも思ったものの、そのときは途中で引き返せばいいや-と楽観的思考でいくことにしたのが‥。
 フェリー到着が遅れ、ペダルを漕ぎだしたのが1時。いきなり予定より30分ものロスタイムのスタートとなってしまったが、20q離れた安房には計算通り、1時間後に到着。気を良くして休憩を取った後、再び漕ぎだしたが、その後ダラダラと続くのぼり坂と猛暑がじわじわと体力と気力を蝕んでいくことになろうとは。

トローキの滝
トローキの滝を真上から撮る
 直接、海に落ちる「トローキの滝」を過ぎたあたりで、右足ふくらはぎが突然、けいれんを始めた。「ヤバイ! こんなときに‥」と、手でマッサージをしながら、なおも漕ぎつづけると、今度は左足もけいれんを起こす。筋肉が勝手にピクピク動いているのが見えた。入念な準備を怠ったツケが回ってきたようだ。やむなくマッサージタイムを取る。
 ここで引き返すにはまだ時間的に余裕があったために、気を取りなおしてさらに先へ進むことに。引き返すポイントとして次に考えたのは平内海中温泉。ところがちょうどそのあたりは緩やかな下り勾配が続いていた。風を切る心地いい爽快感とともに、さっきまでのけいれんによる一抹の不安はきれいさっぱり吹き飛んでいた…。ブレーキをかけるなんてことは思いもしなかった…。Uターン地点 しかし、大川の滝は予想以上に遠かった。漕げども漕げども時間ばかりが過ぎていく。帰りの所要時間を逆算しながら考えた揚げ句、遂に青少年旅行村近くの”大川の滝まで後4q”地点で無念のUターン!
 この時点で三岳酒造に戻れる時間は5時30分。すでに遅刻だ。消耗しきった体力で計算通りいく筈もない。おまけに今度はのぼり勾配がしばらく続く。「途中で引き返しておけばよかった」と思っても後の祭り。途中で何度も投げ出したくなったが、無理を言ってこちらからお願いした約束を反故にするわけにはいかない。黙々とペダルを漕ぎつづけた。
 三岳酒造に着いたのは5時50分だった。途中で電話をかけ「遅れそうなので‥」と見学をあきらめながらも、簡単に事情を説明すると「まだ1時間は居るから。ゆっくりでいいから。気をつけて」と言っていただき、本当にありがたかった。
 お話を伺ったのは経営者の佐々木睦雄さん。蔵の拡張工事をしているところだったが、「せっかくだから」と中を見学させてもらった。同じ棟の中にあった事務室を取り壊して、真新しいイモの蒸し器やタンクが設置されていた。拡張といっても一次仕込み用のかめ壷はそのままだし、また風味に影響する蔵付き酵母もそのままだ。
 200石の蔵元だった頃、呼び戻され焼酎造りの世界に身を置いたこと、PB銘柄「愛子」誕生のいきさつや製法などを伺う中で、同じ大学・学部の大先輩であることもわかり、一段と三岳に対する”親しみ”が込み上げてくることだった。
 「よく聞かれること」と前置きしながら、三岳のおいしさについて「水が一番。特別何もしていない」と話された。”特別”というのは、「〇〇の有機栽培のいも」とか「〇〇産の米」といった最近流行りのこだわり原料のことだ。悠久の自然の営みに育まれた”水の利”を生かしながら、あくまで自然体の焼酎造り-。逆にそれが”こだわり”になっているような気がした。
三岳35度
三岳35度
 お盆明けから仕込みに入るそうだ。お忙しい中、本当にありがとうございました。


 その日、お世話になった近くの民宿「杉の里」で地元の素材をふんだんに使った料理に舌鼓を打ち、三岳35度でダイヤメ! 疲れきった体に染み渡り、本当に旨かった。酔い覚ましに外に出る。明かりもほとんどない静寂な世界。見上げると”まんてん”の星。再訪を誓ったのは言うまでもない! (02年7月)

 三岳酒造株式会社
 熊毛郡屋久町安房2625-19
 電話:09974-6-2026

 

03夏再訪

 今回も、うだるような暑さの中、お邪魔することになった。”遅刻”だけは何とか避けられたものの、またまた慌しい見学となってしまったが、佐々木社長も覚えていて下さり、前回、工事中のため見て回れなかった蔵を一通り、案内して頂いた。
かめつぼ 見上げるような真新しい装置が並ぶ中で昔からのかめ壷が埋設されているコーナーを見ると天井の煤け具合同様にホッとする思い。製麹装置は洗米から蒸しまで自動で行う最新のものだが、麹菌のはぜ込みだけはやはり手作業という。こちらもなぜかホッとする思い。外が暑いせいでもなく・・^^
 別棟ではびん詰め作業が行われていた。回収された5合瓶を洗浄し、びん詰め、キャップを取りつける工程が自動化されていて、次々に三岳が出来あがっていた。

瓶詰めライン
 隣には何やらシートに覆われた機械が‥。「紙パック用の装置」という。「三岳の紙パックぅ・・・?!」 イメージが膨らまないでいるとすかさず「要望がある」と苦笑いしながら佐々木社長。一升瓶より幾分コンパクトになり、持ち運びに便利だし、割れない-のがその理由という。確かにそうかもしれない。ただ、紙パックはヴァージンパルプを使用するので、リサイクルの点で考えるとどうなんだろう、と余計なことを考えていると、「4合瓶(720ml)の要望もある」と続けられた。ちょっと洒落た店からのものとか。そういえば最近はいろんな形、色の瓶が出回っているが、昔ながらの一升瓶、5合瓶だからこそ存在感があるし、リサイクルの点からも”お洒落”だと思うのは時代錯誤の考えなんだろうか・・・。(尚、紙パック用装置の稼働はしばらくはないというお話でしたが‥)
 ところでさつまいもは”本土”から運んでいると伺った。アリモドキゾウムシによる影響に加えて猿や鹿の害も懸念されることから、さつまいもは栽培されていないという。話の真偽(?)の程はともかくとして、豊かな恵みの島というイメージからだけでは推し量れない部分もあるんだと改めて感じさせられた。

 今回も前回同様、直前になって決行した”行き当たりばっ旅りんこ”。
 民宿「杉の里」はもちろん予約で満室状態。やっと見つけた素泊まりの宿に投宿することにし、ダイヤメは安房にある小料理屋「ふるさと」へ足を運んだ。
 「屋久島の豊かな山や海を満喫しにやってきて、ついでに焼酎蔵の見学をする観光客はいても、焼酎蔵の見学がメインで屋久島にやってくる客はそういないのでは・・?」 去年、お世話になり、「杉の里」HPにお礼の書き込みをしたところ、ご主人に”変わった部類の客”として返事をして頂いたことがある。そのHPからリンクをたどって見つけたのが「ふるさと」だった。
 日曜日で休みの店もある中、開いていて助かった。。カウンターに座ると、若い板長さんが開口一番「鹿児島市から来られたのですか?」「ん・・?」「T-BONEのTシャツを着ているので・・」
 何年か前に行ったことがあるという。「真向かいのTシャツ屋はクローズしたんですよ」と答えると「えっ、T-BONEはやってるんですか?」「えぇ、T-BONEの方はさすがに・・。リニューアルしたばかりだし・・・」 生ビールを飲む前から話が弾んでしまった。まさか屋久島でT-BONEの話をすることになるなんて・・。
 水いかの刺し身やとびうお南蛮漬けもおいしかったが、日曜で市場が休みのためになかった首折れサバの刺し身の代わりにと勧められた”サバ寿司”。これがまた一段と旨かった。そして焼酎はもちろん三岳。水が”本場”のものだからそののど越しはまた極上この上なっしんぐ、のよか晩なぁ状態・・。
 この日、種子島の島間からフェリー太陽で屋久島・宮之浦港に着いたのが昼前。それから白谷雲水峡目指してペダルをひたすら漕ぐこと、1時間40分。け死ん思いで管理棟に着き、そこから更に担いで白谷の清流と弥生杉を見て回り、しばし涼を満喫。それから安房までの20kを漕いで来た。ハードな道程で体の軋みは最高潮だった。そう言えば、昼は食べていない・・・。「ふるさと」の料理と三岳が十分過ぎる”潤滑油”になったのは言うまでもない・・・! 

 

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