◆ 旧・シャム猫亭 ◆


とてもつらかったアイス・ティの話

「すさまじきもの。
ミルク・ティの中に、レモンの入りたる。
アイス・ティであれば、さらに(いとすさまじき)。 」


私が清少納言であったなら、こう記すであらう。
清少納言でなくても、こう記すけど。どんなまずい紅茶でも、紅茶であれば、まず残すことなく、出されたものすべてを飲み干す私であっても、これは飲めなかった。
旅行先で、ガイドブックに載ったその店のチーズケーキに心奪われた連れの、たっての頼みで、私たちはラビリンスに迷い込んだように同じ場所を車でくるくる廻り続け、やっと、その店にたどり着いたのだった。小さくて、カントリー調で、信楽焼の焼き物を素朴に飾ったお店だった。

ここなら、紅茶も美味しいかもしれない。期待に胸を膨らませ、暑い日だったので、「アイスですか?」お店の人に問われるままに、一度頼んだホットのミルク・ティを「じゃあ、アイスで。」と訂正してしまった。そういった瞬間、確かに、胸の中で、かすかな音ではあったが、「それでいいの?」と警報が鳴った。優柔不断で状況に流されやすいという弱点を持つ私は、些細なことから大きな事までこういうパターンで失敗するのだ。
もちろん、この時も失敗という自覚はなかった。でも、本能的に不安はあったのかもしれない。出てきたおいしそうな色のアイスティにミルクを入れる前に、一口味見をした。
「これはだめだ。」砂糖が入っていた。ああ、インスタントの紙パック入りの出来合いの紅茶だ。失望はアイスティに入れたミルクのように、静かに広がっていった。
そして、何だか溶けにくいなと、ミルク・ティをストローでむきになってかき混ぜ、もう一口。「もうだめだ。」甘く、すっぱく、ミルク味の変な飲み物になってしまっていた。そのインスタントの紅茶は無糖でなかったばかりでなく、最初からレモン・ティだった。コーヒーを飲んだ連れたちは、結構美味しい部類だったという。あのお店の人は「紅茶を飲まない人」なんだということで、しょうがなく納得をした。

その後もう一回、別の喫茶店で、TeaBreakをした。「アイスですか?」と、また確認されたが、今度はきっぱり「ホットです。」と、あったかい紅茶を飲んだ。
もう、喫茶店では流されまじ。そうきっぱりと思った。

後日。
ある喫茶店で発見してしまった。
夏の限定メニュー「アイス・レモン・ミルク・ティ」。
特別メニューのせいか、通常のアイス・ティより、50円くらい割高であった。
アイス・レモン・ミルク・ティ。
もしかしたら、この夏のトレンドだったのかもしれない。 (シィアル)

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