陶酔のコーヒーフロート 


 
  子供の頃の夏のお気に入り、背の高い大きなグラスに氷を浮かべ、その上にぽこんとまあるいバニラアイスクリームをのっけた、甘くて冷たいコーヒーフロート。
突っ込んだストローにアイスの固まりが詰まるのを、無理矢理コーヒーといっしょに吸い上げたり、ときどきアイスそのものをストローですくって食べたり、アイスが溶けてとろとろ甘くなったコーヒーをすすったり、氷の上に張ったコーヒー味の 薄い膜を削って食べたり。
大きな花柄プリントの袖無しワンピースを着て、コーヒーの芳りとバニラの香りに包まれて。南の島の姫君のような、それは至福の時間でした。
もっとも子供の当時は本物のコーヒーは余り飲ませて貰えなかったので、たいていはインスタントコーヒーと砂糖を牛乳に溶かしたものを子供用のコーヒーにしても らっていました。
 大人になってからはあまり砂糖を入れたコーヒーは飲まなくなりましたが、いれたての濃いコーヒーをクラッシュアイスを詰めたグラスに一気に注いで作った苦い アイスコーヒーに、時々はアイスクリームがすぐには溶けないようにキューブ型の 氷を浮かせて、その上にスプーンで斜めに削ったアイスクリームを載せ、大人のコ ーヒーフロートを作ります。
載っけるアイスはヴァニラの他にナッツ味も美味しいし、お好みの洋酒入りのものも素敵です。あまりフィリングの多いものや、香料の強すぎるものはコーヒーの味 が壊れるので吟味して。
 子供の時の熱中はもう味わえないかもしれないけれど、大人になって初めて楽しめる苦味と深みに陶酔しましょう。 (N)



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