「子犬のピピン」

者:サトクリフ

社:岩崎書店

コメント:子犬のピピンが、生まれ変わってもとの家に戻ってくるまでを描いた絵本。 言葉のひとつひとつが深くあたたかく、サトクリフ作品の全体像を彷彿とさせ る。うちの猫が死んで子犬が私のもとへ来た時期に、ふと目に留まって読んだ。 戻って来る方も、大変なんだなぁ。

 

「ヴァーミリオン・サンズ」

者:J・G・バラード

社:ハヤカワ文庫(ハードカヴァーもあり)

コメント:バラード初期の代表作(短編集)。彼独特の「打ち捨てられた」世界が展開す る。後年、「太陽の帝国」を読んで、少年の頃の上海での捕虜体験が、いかに こうした世界のイメージのベースになったかがストレートにわかり、うれしいよ うな、ファンとしては残念なような気持ちになった。少女の頃のバラード体験は 今の私にも影響しているにちがいない。

 

「女には向かない職業」

者:P・D・ジェイムズ

社:ハヤカワ文庫

コメント:赤い背表紙がキュートな、女性探偵コーデリア・グレイの登場する第1作。 英国が舞台なので、紀行としても楽しめるけど、まぁ、ジェイムズの重厚な 描写に酔うのが本筋でしょう。濃厚です。これで殺人さえなければ、と思うのは 私だけでしょうか?

 

「夢みる人びと」

者:アイザック・ディネーセン

社:晶文社

コメント:アイザックという筆名ですが本当は女性。アフリカの農場を舞台にしたメリル・ ストリープ主演の映画「愛と哀しみの果て」のヒロインのモデルでもありました。 アフリカで挫折して、ドイツの親元に帰って書いた、滅びの美学とも言える幻想 短編集。その立場には同情するけど、こんな世界が築けるのなら苦労もしてみるもの?

 

「ふしぎなオルガン」

者:レアンダー

社:岩波少年文庫

コメント:珠玉の創作童話の短編集。レアンダーはドイツの外科医で詩人。 この童話はシィアルにすすめられて、大人になってから読みました。 思えば私たちの子どもの頃には、ヨーロッパを舞台にしたこうした「お話」が 学校の図書館にたくさんあったものでした。(ヒント:1970年代前半) ここに収録の「ガラスの心臓を持った三人の姉妹」のなかの引用− 「若い頃、ひびがはいっても、すぐその場で割れなければ、かえってその後、 いつまでも長もちすることが、よくあるものですよ」

 

「胡桃の中の世界」

者:澁澤龍彦

社:河出文庫

コメント:お気に入りの思想やオブジェやイメージを、言葉で結晶させて宝石にしてしまう魔力を持った城の主は、十年前、常世の国へ行ってしまいました。それでも城の中で宝石は、やっぱりきらきら輝いています。稀代の仏文学者のエッセイ集。

 

「父が消えた」

者:尾辻克彦

社:文芸春秋

コメント:赤瀬川原平氏にとって、パフォーマンスもオブジェ造りも文章を書く事も、「表現」という点で同じ事かもしれません。彼のエッセイはものの「感じ」が実によく表わされていてひとなつっこくて、大好きでした。そしたらその文章で“私小説”を書いていた。ペンネーム「尾辻克彦」、芥川賞もらいました。

 

「寺田寅彦随筆集」

者:寺田寅彦

社:岩波文庫

コメント:中学時代に読んで以来、地球物理学者・寺田寅彦先生を我が心の師と決めました。郷土の妖怪、都電の混雑、防災未来都市、なんでもかんでも科学者の目で見、文学者の心で語る。すっとぼけた寺田先生は漱石の「吾輩は猫である」の「寒月君」のモデルで、「帝都物語」(荒俣宏著)の正義の科学者です。南伸坊氏も「寺田先生と気が合うなあ」と言っている。みんなで寺田先生に会いに行こう。

 

「夜の魂〜天文学逍遥〜」

者:チェット・レイモ

社:工作舎

コメント:「ペルセウス座流星群」を見るのは天候の許す限りの楽しみ。でも、雨でも都会でも昼間でも、いつでも私達は星に囲まれた空間に居るのです。静かに静かに、夜の扉を開ける本。

 

「風の博物誌」

者:ライアル・ワトソン

社:河出書房・河出文庫

コメント:海辺、木陰、ビルの外階段、どこでもいいからたまには風に吹かれながら戸外で本を読みましょう。過去から現在まで、地上から成層圏まで、世界中に吹き渡る全ての風があなたに向けて、吹いて来るのが感じられます。

 

「サイレント・パルス」

者:ジョージ・レオナード

社:工作舎

コメント:ウエストコーストの精神的マスターが語る、“リアル”のすべて。世界観がアップロードされてしまうようなワンダーな内容もさる事ながら、もとLIFE誌の編集長ならではの、読者を引き込む独特の話術も秀逸。訳文もパルスに満ちている。

 

「空飛ぶ馬」

者:北村薫

社:創元推理文庫

コメント:円紫さんがいなくても、“私”の生活は静かに充実しているけれど、 円紫さんが小さな“謎”を解いてくれると、川底の小石が光るみたいに世の中の事が 少し解る。名探偵「円紫師匠」と「私」のシリーズ、最新作「朝霧」では“私”も社 会人になりました。

 

「ソフィーの世界」

者:ヨースタン・ゴルデル

社:NHK出版

コメント:一世を風靡しました、やさしい哲学解説小説。哲学を「わかるよう に」教えてくれるというだけでも凄いけど、ここは手を出さなかったミステリファン におすすめしましょう。「驚天動地のアンチ・ミステリ!これぞ“神”のトリック!! 哲学者アルベルトと少女ソフィーが“世界”の謎に挑む!!!」…読んでみる気になり ました?

 

「パンダの親指」

者:スティーブン・J・グール ド

社:早川書房・早川文庫

コメント:同じような名前の作家もいますが、グールド博士は進化論学者で一流 のエッセイストであります。メジャーリーグを応援しながら、コーヒーを飲みなが ら、数万年、数十億年の時を軽々ととびこえて生命の不思議を見るエキサイティング ・ツアーに参加しましょう。この名作エッセイシリーズは文庫化も始まっていますの で、お気軽に。

 

「冥途・旅順入城式」

者:内田百

社:岩波文庫

コメント:妙にユーモラスな名随筆家、百鬼園先生は、日本で一番“異界”に近 い文章を生み出す人でもありました。指先が冷たくなってくるほどの不安感と夢幻の リアリティ、憑かれた方は「サラサーテの盤」(福武文庫)もどうぞ。「山高帽子」 に出てくる「野口」は友人の芥川龍之介。エッセイにも同じ話があったから、どうも 実話です。こ、怖い…。

 

「ゴースト・ドラム〜北の魔法の物語」

者:スーザン・プライス

社:福武書店

コメント:何の前知識もなく読んで、その骨太い濃密な世界 の持つ迫力に打ちのめされてしまった。 決して甘くない、ファンタジーがここにあった。 荒涼とした北の国を舞台にした死と血と嫉妬と 復讐と愛の物語。

 

「ウォッチャーズ」

者:クーンツ

社:文春文庫

コメント:初めて読んだクーンツ。それまでのクーンツの印象は、面白いけれどただそれだけ。 あるいは、ちょっとホラーで怖い本をいっぱい書いてる、とにかく多作な作家。 もしかしたら、クーンツの本の中でも異色なものかもしれない。 怖くてはらはらもするけれど、全体に愛情があふれ、人と人、人と動物、 それだけでなく、異形のものへの愛情までが描かれている。スリル、サスペンス、愛情、 可愛く賢い犬、ラブストーリー、(これだけでも十分だけど、)それだけでない何かがある本。 映画化もされてるようですが、本とは全く別物のチープなホラーになってしまっていました。

 

「長いお別れ」

者:レイモンド・チャンドラー

社:早川文庫

コメント:クールで孤高な美しい文章。 マーロゥの決してマッチョではない強さに惹かれ、ハードボイルドなのに 繊細で美しい文章に魅了される。静かでドライな読後感。 Diana KingのShy Guyは、マーロゥのような人かもしれない。 訳の素晴らしさにも触れることができた。(訳:清水俊二)

 

「西の魔女が死んだ」

者:梨木香歩

社:小学館

コメント:祖母のいる風景がよみがえり、懐かしさとともに涙がこぼれる。 こういう幸せがいいなあと、追体験をする。 おばあちゃんや幼い頃の思い出と別れるのはつらいけれど、 人はこのつらさから生きることを学ぶのだ。

 

「ミサゴの森」

者:R・ホールドストック

社:角川書店

コメント:人の無意識と影響し合って、ミサゴ(神)を作り出す原生林。 その森にとり憑かれた父、その父に反発しながらもやがてミサゴ(女神) をめぐって森の伝説に取り込まれていく兄弟。 非常に幻想的で重厚かつ森の深層まで潜り込んでいくような世界。

 

「トゥシューズ」

者:ルーマ・ゴッデン

社:偕成社

コメント:バレエダンサーを目指す少女ロッテの成長物語。 数々の困難を乗り越えながら、ひたむきに頑張るロッテ。 人間としてバレリーナとして大きく成長して行く姿に 「なぜ私はバレリーナにならなかったんだろう」と 後悔すること請け合い。原題は”Listen to the Nightingale"、 私にとっても含蓄のある言葉でした。 シリーズではないですが、その他バレエものに、 「バレエダンサー」があります。これはバレエダンサーを目指す少年 デューンの決して平坦でない長い道程を描いた物語です。 どちらも読後の爽快な本です。

 

「青梅雨」

者:永井龍男

社:新潮文庫

コメント:簡潔でで完成された均衡のとれた文章で、 読むたびにこういう正確な文章が書けるようになりたいと思う。 少なくともそういうことを常に心がけたいと。 普通の人々の飾らない心の機微を正確に描き出す。 時代や生活のスタイルは変わっても、 変わらない、変わることのないものもある。 私たち人間のふとした心の動き、 思い続けついにいたる心の所在。 随分昔に書かれたものになるが、 感動は新鮮だ。

 

「ムギと王さま」

者:エリノア・ファージョン

社:岩波少年文庫

コメント:19世紀末のロンドンに生まれ、一度も学校に通わず、芸術や本に育てられた女の子、エリノア。私がファージョンの物語世界を知ったのは、なぜか大人になってからだった。ぶあつい全集や伝記も出ているので少しずつ読む楽しみがまだ残されてはいるし、一生知らないよりはいい。「ムギと王さま」は原題を「リトル・ブックルーム」といい、ファージョンのイマジネーションが初めての飛翔を覚えた子供時代の家にあった“本の小部屋”から取られている。この文庫にはハードカヴァー版の約半分が収められ、訳者は石井桃子。ファージョンはこの自選短編集でカーネギー賞・国際アンデルセン大賞を受賞している。